弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

降任(降格)に先立つ学内規程上の弁明の機会の省略が許されないとされた例

1.大学に関連する紛争 このブログで大学関連の裁判例に言及することも多いためか、定期的に大学教員・大学職員の方からの労働相談を受けています。 大学関係の労働相談に触れていて思うことの一つに、諸規程類が細かく整備されている割に、規程の遵守に意…

病気休職期間中に勤務できなかったことをもって勤務実績を不良とし、降任(降格)することが許されるか?

1.役職・職位の降格 使用者は「就業規則に根拠規定がなくても、人事権に基づき、役職・職位の降格を行い、例えば、営業所の成績不振を理由として営業所長を営業社員に降格することや、成績不良を理由として部長を一般職へ降格することが可能である」と理解…

有期労働契約者への雇止めの場面での整理解雇法理の適用にあたり、人員削減の必要性が厳格に解された例

1.整理解雇法理 整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます。整理解雇は、労働者に帰責性がないにもかかわらず、使用者の経営上の理由により労働者を解雇するところに特徴があり、労働者に帰責性のあるその他の解雇より…

弁護の落とし穴-雇止めを争っている時は、無期転換権の行使時期に注意

1.無期転換ルール 労働契約法18条1項1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に…

連続して低評価を受けていた労働者の雇止め-多義的な事実を評価するポイントをどう考えるか?

1.多義的な事実 契約の更新に合理的期待を有する有期雇用労働者を雇止めにするためには、客観的合理的理由、社会通念上の相当性が必要とされています。客観的合理的理由、社会通念上の相当性が認められない場合、使用者は労働者からの契約更新の申込みを拒…

不更新条項に基づく雇止めが認められなかった例

1.雇止めと不更新条項 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められ…

同一の上司に対する日時を異にする暴言は、複数の「異なる」非違行為か?

1.上司への暴言を理由とする懲戒処分 職場で特定の上司との折り合いが悪く、暴言を吐いたとして懲戒処分を受ける方がいます。こうしたケースの多くでは、異なる日時の複数回の暴言が問題にされ、頻回の暴言に及んだことが処分の加重事由として考慮されてい…

抽象的な懲戒事由に反論は必要か?

1.使用者側の抽象的な主張 懲戒処分や解雇の効力を争う時、使用者側から抽象的な懲戒事由・解雇事由を主張されることがあります。例えば、 暴言を繰り返した、 勤務態度が悪い、 コミュニケーション能力が不足している、 といったようにです。 労働者の方…

公務員の懲戒処分-弁明の機会の日の通知から弁明手続の開催までには、どれくらいの日数が必要か?

1.防御活動に必要な期間 行政手続法15条1項は、次のとおり規定しています。 第十五条 行政庁は、聴聞を行うに当たっては、聴聞を行うべき期日までに相当な期間をおいて、不利益処分の名あて人となるべき者に対し、次に掲げる事項を書面により通知しなけ…

「国家公務員退職手当法の運用方針」に盲従することが否定された例

1.国家公務員退職手当法の運用方針 国家公務員の退職手当は、「国家公務員退職手当法」という法律に基づいて支給されます。 懲戒免職処分を受けた国家公務員に退職手当が支給されないというのも、この法律に基づく取扱いです。具体的に言うと、国家公務員…

職種限定合意は万能か?

1.職種限定合意 職種限定合意とは「労働契約において、労働者を一定の職種に限定して配置する(したがって、当該職種以外の職種には一切就かせない)旨の使用者と労働者との合意」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院…

大学准教授に職種限定合意が認められた例

1.職種限定合意 職種限定合意とは「労働契約において、労働者を一定の職種に限定して配置する(したがって、当該職種以外の職種には一切就かせない)旨の使用者と労働者との合意」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院…

公務員-懲戒免職処分を受けながら退職手当の全部不支給処分が取り消された例

1.懲戒免職処分と退職手当の全部不支給処分との関係 国家公務員の退職手当は、「国家公務員退職手当法」という法律に基づいて支給されます。 懲戒免職処分を受けた国家公務員に退職手当が支給されないというのも、この法律に基づく取扱いです。具体的に言…

公務員-残業の付替処理で懲戒免職された例

1.諸給与の違法支払・不適正受給 国家公務員には、非違行為の類型に応じた懲戒処分の標準例が定められています(懲戒処分の指針について(平成12年3月31日職職―68)参照)。 懲戒処分の指針について 標準例は「諸給与の違法支払・不適正受給」とい…

総合職への職種転換の機会を一般職女性から奪ったことが違法とされた例

1.職種変更からの排除 男女雇用機会均等法6条3号は、「労働者の職種及び雇用形態の変更」について、「労働者の性別を理由として、差別的取扱い」をすることを禁止しています。 同号に規定されている「職種」とは、「職務や職責の類似性に着目して分類さ…

コロナ禍のもとでの拙速な整理解雇が否定された例

1.新型コロナウイルスの影響下での解雇事件 訴訟提起等の法的な措置をとってから裁判所の判断が得られるまでには、一定の時間がかかります。裁判所の判断が示されてから、それが公刊物に掲載されるまでの間には、更に時間がかかります。 新型コロナウイル…

有期労働契約者が解雇事件の係争中に他社就労するにあたり、就労意思を否定されないための訴訟技術

1.他社就労による就労意思の喪失 解雇が無効とされた場合に労働者が労務を提供していなくても賃金を支払ってもらえるのは、 「債権者(使用者)の責めに帰すべき事由によって債務(労務提供義務)を履行することができなくなった」 と理解されるからです。…

配転における「業務上の必要性」の争い方-裏付け資料の不存在を追及することの重要性

1.配転の有効性の判断枠組 日系企業では、しばしば従業員のキャリアプランや私生活を無視した配転が行われています。こうした配転の効力を争いたいと思う方は、決して少なくありません。 しかし、裁判で配転の効力が争われることは、あまりありません。そ…

一部免職の不利益処分への該当性

1.水平異動 公務員の法律問題を扱っていると、水平異動という言葉を目にすることがあります。 この言葉は、異動や配転の不服申立の利益を否定する脈絡で使われます。 公務員の人事上の措置は、不服申立の対象が限定されています。 例えば、地方公務員法は…

就業規則の変更による賃金減額-財政上、極めて危機的な状況に瀕していたとはいえないとの理由で必要性を否定した例

1.就業規則の変更による賃金減額 労働契約法10条本文は、 「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後…

自殺により詳細を明らかにできないクレームの心理的負荷をどう評価するのか

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

精神障害の悪化類型の労災認定-行政上の認定基準にとらわれず、柔軟に業務起因性を認めた例

1.精神障害の悪化の業務起因性 労災認定を受けるためには、疾病や障害が「業務上」のものでなければなりません(労働者災害補償保険法7条1項1号)。 「業務上」といえるためには、 「当該労働者の業務と負傷等との結果との間に、当該業務に内在または随…

具体的日時を明らかにできない無断欠勤・遅刻・早退などの勤務不良等で従業員に懲戒処分を行えるのか?

1.解雇の場面では今まで不問に付されていたことが掘り起こされる 解雇の効力を争うにあたっては、先ず、使用者側に解雇理由証明書の交付を求めることになります(労働基準法22条1項)。これによって、労働者側は、自分がどのようなことを理由に解雇され…

経緯・態様の不分明な暴行(喧嘩闘争)で従業員に懲戒処分を行えるのか?

1.暴行と懲戒処分 上司や他の従業員に対して暴力を振るうことは、概ねの会社において懲戒処分の対象とされています。 この暴力行為が、一方的なものであったり、衆人環視のもとで行われていたりする時には、懲戒対象行為の認定に苦慮することはあまりあり…

無期・フルタイムの労働者間での労働条件格差の問題にどう取り組むかⅡ-旧労契法20条と均衡待遇の理念

1.労働条件格差に対する法規制 短時間労働者と無期正社員との間での労働条件格差、有期契約労働者と無期正社員との間での労働条件格差に関しては、 「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」 という名前の法律で、その是正が図られています(同法8…

2名以上の医師の診断に基づかない分限休職処分

1.分限休職と複数名の医師による診断 地方公務員法28条3項は、 「職員の意に反する降任、免職、休職及び降給の手続及び効果は、法律に特別の定めがある場合を除くほか、条例で定めなければならない。」 と規定しています。 この規定を受け、各地方公共…

職場復帰訓練を実施するための安易な休職期間の延長が重大明白な違法性を有するとされた例

1.無効確認の訴え 公務員に対する懲戒処分や分限処分などを司法的に争う場合、処分の取消の訴え(行政事件訴訟法8条)という手続をとるのが普通です。 しかし、例外的な場面では、無効確認の訴え(行政事件訴訟法36条参照)という手続をとることもあり…

宿直勤務-行政官庁の許可は得られている?

1.労働時間規制の適用除外者 管理監督者には労働時間規制の適用が除外されています(労働基準法41条2号参照)。俗に管理職に残業代が支払われないといわれているのは、この規定があるからです。 時間外勤務手当等の支払義務が発生するのかどうかの分水…

安全配慮義務-口頭注意だけではダメ、守らせるための対応が必要

1.安全配慮義務 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 と規定しています。 しかし、法文からは、どこまでの配慮が必要なのかを、一義的…

その言葉を使う必要はあるのか?-叱咤激励を行うにも上司は言葉を選ばなければならない

1.叱咤激励 労災民訴でも、労災の取消訴訟でも、上司の乱暴な言動によって精神疾患を発症したと主張すると、「あれは、激励するための言動であって、いじめではないのだから、与えた心理的負荷は大きくない。」という趣旨の反論が返ってくることがあります…