弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-07-01から1ヶ月間の記事一覧

精神障害の媒介が明確ではなくても、ハラスメントと自殺との間に相当因果関係が認められた例

1.自殺案件の特殊性 意外に思われるかも知れませんが、歴史的に言うと、ハラスメントによる自殺は、当然に業務起因性がある(相当因果関係が認められる)と理解されてきたわけではありません。 それは、故意行為が介在すると考えられてきたからです。 労働…

パワーハラスメントを理由として被害者が自殺するに至ることは常識に属すると判示された例

1.自殺の予見可能性 不法行為であれ債務不履行であれ、損害賠償を請求するためには、故意や過失、因果関係といった要素が必要になります。 ここでいう「過失」とは結果予見義務を前提としたうえでの結果回避義務違反をいいます。また、相当因果関係とは、…

ハラスメントに起因する精神疾患により休業期間が長期化しても、4割の限度では休業損害が認められるとされた例

1.精神疾患による休業期間の長期化 ハラスメントの被害者が精神疾患を発症し、回復するまでの間、働けなくなることは少なくありません。 働けなくなったことにより減少した収入は、損害(休業損害)として、加害者に賠償請求することができます。 しかし、…

ハラスメントを理由とする損害賠償請求訴訟で行為の一連一体性を主張する意義-事業執行性(業務関連性)を架橋する

1.単体の不法行為か、一連一体の継続的不法行為か? セクシュアルハラスメント(セクハラ)でも、パワーハラスメント(パワハラ)でも基本的に行為が単発であることは稀です。大体の事案では、多数のハラスメント行為が積み重なったうえで事件になります。…

性的に奔放であることは、セクハラによる心理的負荷を希薄する理由にはならないとされた例

1.加害者側からなされる反論パターン-性的に奔放であった 昨日、セクシュアルハラスメントの存否、成否が問題になる事案では、しばしば加害者側から「心にダメージを負っているような様子はなかった」という反論がなされることをお話しました。 これの亜…

セクハラ後、会社に出勤していたり懇親会で歓談していたりしていたことは、強い心理的負荷を受けていたことと矛盾しないとされた例

1.加害者側からなされる反論-普通に出勤していた セクシュアルハラスメントの存否、成否が問題になる事案では、しばしば加害者側から「心にダメージを負っているような様子はなかった」という反論がなされます。迎合的言動に関する指摘と並ぶ典型的な反論…

冗談でも人事権を振りかざすことは許されない-誕生会に際しての「〇〇支店はどうやら俺の人事権の恐ろしさを知らんみたいやな」との言動が心理的負荷の補強要素とされた例

1.一般従業員が受ける恐怖 普段、労働者側からの相談を受けていての実感ですが、一般労働者は上長の持っている人事権に強く委縮しています。しかし、上長は、自分の持っている人事権の強さに無自覚であることが少なくありません。 部下は冗談で人事権に言…

「昇給又は降給することがある」との就業規則(給与規程)+非公開(非周知)の賃金テーブルによる基本給減額が否定された例

1.基本給減額の有効性 就業規則や給与規定に基づく賃金減額に関して、東京地判平16.3.31労働判例873-33 エーシーニールセン・コーポレーション事件は、次のような判断を示しています。 「原告らは、成果主義による給与制度を実施することを一…

裁判所は素人による逸脱した行為(弁護士の頭越しに行う直接交渉)に甘すぎではないだろうかⅡ

1.弁護士を排除して行う直接交渉 弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規70号)52条は、 「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。…

多人数によるセクハラ被害者に対する復職面談について、状況設定自体が強い精神的圧迫を受けざるを得ないものであったと判断された例

1.多人数による面談 多人数による面談は、労働者に精神的な圧迫を与えることがあります。これは、従来、退職勧奨の場面で論じられることが多かった問題です。 「退職勧奨 人数」などと入力してインターネット検索をかけると多くの法曹関係者のサイトがヒッ…

復職面談の場でのセクハラ被害者に対する発言の不法行為該当性-「酷いことを言われても大丈夫だという診断書をもらってきてほしい」「魅力的だからまた誘われてしまうことがあるかも知れない」

1.復職面談による二次被害 セクシュアルハラスメントの被害者が、心身への負担から職場に通えなくなり、休職を余儀なくされることは少なくありません。 こうした場合、療養を経て復職を試みて行くことになるわけですが、復職手続の過程で二次被害に遭うこ…

明確な拒否がない限りは性的行為をしても許容されるとの考えを持っていたことは不法行為責任を阻却するか?

1.明確に拒否されない限り性的行為に及んでも良い? 性的行為に及ぶにあたり、一々相手方の意思を確認することは非現実的であると言われることがあります。 法的な主張として翻訳すると、要するに、 相手方が明示的に性的行為を拒否していなければ、仮に、…

敬意を払って接していたことは認められるものの、異性としての関心を抱いていたとは認められないとして、性的同意が否定された例

1.上司に対する敬意と異性としての関心 上司として敬意を払われているだけであるのに、異性である部下が自分に関心を持っていると誤解し、セクシュアルハラスメントに及ぶケースは相当数あります。 この類型で不法行為が成立するのか否かを判断するにあた…

奨学金・貸与金による負債がセクシュアルハラスメントを回避できなかった一因とされた例

1.奨学金、貸与金の問題 奨学金を利用していた学生が、社会に出て働き始めるまでの間に多額の負債を抱え込むことは少なくありません。 このように負債を抱え込んでいることが、ハラスメントを受けてもなお、仕事を辞められないと思う一因となりえるとした…

暴行・脅迫がなければ性的同意があったものとみなされるという俗説が誤りであることを示す一例

1.セクシュアルハラスメントを受けた女性弁護士の自死事件 このブログでは、以前から、セクシュアルハラスメントを受けた女性弁護士が自死した事件を紹介させて頂いています。この事件は様々な法律上の論点を含んでおり、裁判所によって意義のある判断が示…

名ばかり取締役の労働者性(肯定例)

1.名ばかり取締役 名ばかり管理職という言葉があります。これは、管理監督者としての実体を備えていないにもかかわらず、残業代の支払などの労働基準法の規制を潜脱するため、名目上管理職として扱われているポストを指す言葉です。 この名ばかり管理職の…

代表者の年収が極端に低い場合、代表者の年収よりも高い報酬を受け取っていることは管理監督者性を基礎付ける事情にはあたらない

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

グループチャットにおいて、特定の部下の悪口で盛り上がることのハラスメント該当性

1.部下の悪口を言う上司 特定の部下の悪口を、同僚に吹聴して回るタイプの上司がいます。 比較的力のある上司だと、周囲が迎合するため、悪口を言われた人は、いじめに遭うなどの辛い思いをしがちです。 それでは、こうした行為はパワーハラスメントに該当…

事業場外みなし労働時間制の適用が認められた最高裁判例

1.事業場外みなし労働時間制 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常…

地方自治体は指定管理者に労働法令を遵守させる義務を負うか?

1.指定管理者制度 地方自治法244条の2第3項は、 「普通地方公共団体は、公の施設の設置の目的を効果的に達成するため必要があると認めるときは、条例の定めるところにより、法人その他の団体であつて当該普通地方公共団体が指定するもの(以下・・・…

不適切なガイドラインに従ってスズメバチに刺された労働者の損害賠償請求が認められた例

1.動物、虫による被害 外仕事をしていると、動物や虫による被害を受けることがあります。この場合、過失を要件としない労働者災害補償保険法上の保険給付を受けることは、それほど難しくはありません。 しかし、動物や虫による攻撃を免れるための知見は必…

生徒のいじめ自殺に関連し、適切な対応を怠ったこと等を理由とする教師への懲戒処分(停職1か月)が取り消された例

1.学校教師の労働問題 いじめにより児童生徒が自殺する事件は、マスコミによって大々的に報道されます。この報道は世論の怒りを喚起し、しばしば苛烈な犯人捜しが行われます。 ここで行われる犯人捜しには、いじめの加害者の特定だけではなく、いじめを認…

「人間関係からの切り離し」類型のハラスメントに不法行為該当性が認められた例

1.パワーハラスメントの類型 職場におけるパワーハラスメントとは、 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの要素を全て…

大学教授(医学部)の解雇係争中の他社就労-元々の賃金の3倍以上(月額180万円)の職を得ていても就労意思が否定されなかった例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

懲戒解雇でなくても弁明の機会付与は必要?-能力不足を理由とする普通解雇の可否を判断するにあたり、手続的相当性(弁明の機会の欠如等)が問題視された例

1.普通解雇と懲戒解雇における手続の位置付けの違い 普通解雇と懲戒解雇とでは、解雇に至るまでの手続的相当性の持つ意味合いに差があります。 例えば、職務を行う能力や適格性を欠いていることを理由とする普通解雇の可否は、 「①使用者と労働者との労働…

専門職(医師)の能力不足解雇の可否を判断するにあたり、鑑定が用いられた例

1.専門職の能力不足解雇 職務を行う能力や適格性を欠いていることを理由とする解雇の可否は、 「①使用者と労働者との労働契約上、その労働者に要求される職務の能力・勤務態度がどの程度のものか、②勤務成績、勤務態度の不良はどの程度か、③指導による改善…

賞与にあたっての人事評価に不法行為該当性が認められ、基準額との差額が損害として把握された例

1.賞与の不当減額・不支給にどのように対抗するか 賞与は、 「(就業規則に)『会社の業績等を勘案して定める。』旨の定めがされているのみである場合には、賞与請求権は、労働契約上、金額が保障されているわけではなく、各時期の賞与ごとに、使用者が会…

就業規則にない勤務時間区分を使って1か月単位変形労働時間制の効力が否定された例

1.1か月単位の変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書…

全国社会保険労務士会連合会から紛争解決手続代理業務試験委員の委嘱を受けました

令和6年7月1日付けで全国社会保険労務士会連合会から紛争解決手続代理業務試験委員の委嘱を受けました。 社会保険労務士が紛争解決手続代理業務を行うためには特定社会保険労務士になる必要があります。特定社会保険労務士になるためには、紛争解決手続代…

看護師の夜勤時休憩時間に労働時間性が肯定された例

1.医師や看護師の「休憩時間」 残業代請求訴訟で争点化しやすい問題の一つに、医師や看護師といった医療従事者の休憩時間の労働時間性があります。 読者の中には、 休憩時間は休憩時間ではないのか? と「休憩時間の労働時間性」という概念的に矛盾するよ…