弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2019-10-01から1ヶ月間の記事一覧

背信性の強さは競業避止義務を定める合意の効力に影響を与えるか

1.競業禁止特約 従業員が退職するにあたり、勤務先から同業他社に雇用されないこと(競業禁止特約)を求められる場合があります。 この種の契約の有効性に関しては、横地大輔『大阪民事実務研究会 従業員等の競業避止義務等に関する諸論点について』判例タ…

手当型の固定残業代の有効性の検討のポイント-契約書等に記載がない・明確な説明がなかった・想定残業時間数と実際との乖離

1.手当型の固定残業代の有効要件 平成30年7月19日に手当型の固定残業代の有効性についての最高裁判決が言い渡されました(最一小判平30.7.19労働判例1186-5日本ケミカル事件)。 日本ケミカル事件の最高裁判決は、 「使用者は、労働者に…

訴訟活動の一環として行う弁護士の発言等の違法性阻却基準

1.訴訟活動の中で相手方の名誉や信用を損なうこと 訴訟活動を行う中では、相手方の名誉や信用を損なう主張に踏み込まざるを得ないことがあります。 例えば、セクハラやパワハラの被害を受けたとして損害賠償を請求する場合、どういうひどいことをされたの…

人員不足で一般従業員と同様の業務に従事することが多い管理職/変形労働時間制の適用対象になっている管理職の残業代

1.管理監督者 管理監督者(労働基準法41条2号)には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません。結果、時間外勤務をしても、残業代が支払われることはありません。 行政解釈上、管理監督者とは「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立…

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分は適法でも退職手当の全部不支給処分は違法とされた例

1.飲酒運転に対する処分の厳格化とその反動 飲酒運転による凄惨な事故が相次いだ影響で、国も自治体も、公務員による飲酒運転に対しては、かなり厳しい姿勢をとっています。 自治体によっては、人身事故などの具体的被害が生じていなくても、酒気を帯びて…

親には成人した子の疾患(てんかん)を勤務先に伝える義務があるのか/家族から労働者の疾患を伝えられた勤務先はどうすればよいのか

1.親は成人した子に対してどこまで責任を持つのか 民法712条は、 「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」 と規定しています。 こ…

係争中の事件を一般に公表するうえでの留意点

1.ブログで訴訟の相手方である女性を侮辱 ネット上に、 「ブログで訴訟相手の女性侮辱 弁護士に『懲戒審査相当』 『正当防衛』と反論」 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191023-00000628-san-soci 記事には、 「元…

管理監督者性と賃金上の待遇-賃金の多寡は関係ない場合もある?

1.管理監督者 労働基準法41条2号は、 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者) には 「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定」 は適用されないと規定しています。 時間外勤務に割…

セクハラ行為を記載したメモ(手帳)の信用性が否定された事例

1.セクハラの立証活動は当事者の供述に依拠することも多い セクハラに関しては、明確な証拠、客観的な証拠がないことが珍しくありません。 明確な証拠、客観的な証拠が存在しない場合、セクハラ被害を受けたとして上司や勤務先を訴える場合も、あらぬ疑い…

不慣れな業務への配置転換-どれくらいの間であれば大目に見てもらえるのか?(降格までの猶予期間)

1.配置転換による不慣れな業務への配属 配置転換には使用者に広範な裁量権が認められています。 業務上の必要性があれば、他に不当な動機・目的をもってなされたものであるとか、労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるといった例外的…

パワハラ上司個人を訴えられるか?(公務員の場合)Ⅱ-私的制裁に対しては責任追及の余地はあるかもしれない

1.公務員の個人責任の追及は極めて難しい 以前、パワハラを受けた公務員の方が、上司個人を訴えることができるかに関する記事を書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/04/15/161700 結論から申し上げると、上司である公務員個人を訴…

ただ「辞めろ」と罵倒するのは、指導でも叱責でもない。単なるパワハラである。

1.「先はない。」「辞めろ。」「身の振り方を考えろ。」 上司・先輩から部下・後輩に対し、「先はない。」「辞めろ。」「身の振り方を考えろ。」といった罵倒が浴びせられる例があります。 部下・後輩が病んで問題になった時、罵倒した側からは、奮起や発…

「裁判すれば、ここには居れなくなる」その言動は逆に裁判を容易にする

1.裁判をためらわせる言動 法律相談をしていると「裁判をすれば、どうなるか分かっているだろうな。」という趣旨の脅しを受けている人を、定期的に目にします。 今時このような稚拙な脅かし方をする人が本当にいるのかと疑問に思う方もいるかも知れません…

専門職の勉強時間は労働時間か?

1.専門職の勉強時間の労働時間性 弁護士の場合、勉強を継続しなければ、まともな仕事はできません。法律は改正されるし、新しい裁判例も次々と出されるため、すぐに知識が陳腐化するからです。また、課題に直面してから調査したのでは事件処理・依頼人から…

保育園児を抱える親の配転命令への対抗手段-信義則上の説明義務

1.業務提供誘引販売取引に対する労働法からのアプローチ 特定商取引法に業務提供誘引販売取引という類型があります。 これは簡単に言えば、 「『仕事を提供するので収入が得られる』という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金…

ハラスメント対策と働き方改革の板挟み?

1.ハラスメント対策と働き方改革の板挟み? ネット上に、 「ハラスメント対策と働き方改革の板挟み…管理職3人の嘆き」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191014-00013860-toushin-bus_all&p=1 記事は、 「セクハラ、…

業界慣行に従っておきさえすれば労働者に対する安全配慮義務が尽くされたことになる時代ではない

1.あるべき安全対策 医療紛争の領域で、過失が認められるか否かの判断に関連し、「医療慣行」という言葉が使われることがあります。 医療慣行とは「医師の間で一般的に行われている診療行為等」(大島眞一『医療訴訟の現状と将来-最高裁判例の到達点-』…

マネジメント契約とは何だろうか?

1.ピンハネされる契約 ネット上に、 「自分で営業したのに『ピンハネ』される契約、有効なのか? フリー『放送作家』の悩み」 という記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_23/n_10231/ 記事は、 「都内在住のAさんは、あるマネジメント会…

自殺遺族と受任弁護士が行った記者会見等が共同不法行為(名誉毀損)を構成するとされた例

1.農業アイドル自殺-元所属事務所からの反訴 ネット上に、 「農業アイドル自殺『遺族側が会見やネットで事実無根の悪評を拡散した』元所属事務所が反訴」 との記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_5/c_1234/c_1720/n_10237/ 記事には、 …

障害雇用政策の転換期・重度知的障害者の死亡逸失利益が一般就労を前提とする平均賃金に依拠すべきとされた例(障害特性は優れた稼働能力となる可能性がある)

1.逸失利益の計算方法 不法行為で生命を侵害された方には、生きていれば得られたであろう利益(逸失利益)の損害賠償を請求する権利が発生します。 これが相続人に承継されるため、相続人は相続分の割合に従って、死者の逸失利益を請求する権利を持つこと…

作家のもとに一方的に送られてきたアイディア、注意が必要?

1.ラノベ作家に届いた「迷惑DM」 ネット上に、 「クリエイターは要注意! ラノベ作家に届いた『迷惑DM』とは」 という記事が掲載されていました。 https://news.livedoor.com/article/detail/17205989/ 記事によると、 「10月8日、ライトノベル作家の不確…

見たくもないイジメ・パワハラを目の当たりにさせられないことに、権利性は認められるだろうか?

1.同僚がパワハラを受けていたら 職場で同僚がいじめや嫌がらせを受けている場面を目の当たりにすることは、決して気分の良いことではないだろうと思います。 それでは、自分がターゲットになっているわけではないとしても、こうした嫌がらせを見せつけら…

働き方改革(残業規制)への批判-矛先を間違えていないだろうか

1.残業規制への批判 ネット上に、 「市民も大迷惑…『働き方改革』で警察大パニックのヤバすぎる事態」 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191007-00067615-gendaibiz-soci&p=1 記事では、 「2019年4月から順次…

専門職が独立前に掴んだ顧客から、仕事を受けることの可否

1.専門性の高い業務受託者の独立 楽器の販売等を業とする事業者から、ピアノの調律等の業務を受託していた調律師の方が訴えられた事件が公刊物に掲載されていました(青森地判平31.2.25判例時報2415-54)。 原告事業者は、被告となった調律…

企業イベントでもらう「お土産」、個人に対する贈与なら法的に問題ない?

1.個人に贈与する意思だったら「お土産」をもらって問題ない? ネット上に、 「仕事で行った企業イベントの『お土産』を私物化、法的には誰のもの?」 という記事が掲載されています。 https://www.bengo4.com/c_23/n_10195/ 記事は、 「企業の発表会やPR…

不慣れな業務への異動直後のミス・成績不良と業績の査定

1.不慣れな業務への配置転換 ネット上に、 「50代への“退職勧奨”…真綿で首を絞めるリストラ手法とは?」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190930-01604095-sspa-soci 記事には、 「今年6月、損保ジャパン日本興…

戒告・譴責の効力を争う場合の留意点(不適法却下されないために)

1.戒告・譴責 懲戒処分の一つに戒告・譴責といった処分類型があります。 厚生労働省のモデル就業規則において、 「けん責」(譴責)は「始末書を提出させて将来を戒める」処分として規定されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/…

配転命令にあたり、ワークライフバランスに配慮すべき義務

1.配転命令は、そう簡単には違法・無効にならない 配転とは、 「従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務地が相当の長期間にわたって変更されるもの」 をいいます。 https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/06/50.html 近時も育休明けの配置転換が報…

弁護権の濫用?

1.弁護権の濫用? ネット上に、 「弁護士の弁護権の濫用による一層の混迷 ― 千葉ゴルフ場鉄塔崩壊事件 ―」 なる記事が掲載されていました。 https://www.data-max.co.jp/article/31690 記事が指摘する「千葉ゴルフ場鉄塔崩壊事件」とは、おそらく、 「関東…

退職する際に請求された制服のクリーニング代、払わなければならないのか?

1.制服のクリーニング代の請求 ネット上に、 「バイト退職、制服のクリーニング代『2万円』を請求された これって自己負担なの?」 という記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_5/n_10184/ 記事は、 「ある相談者は、アルバイトを始めた際…