1.ラノベ作家に届いた「迷惑DM」
ネット上に、
「クリエイターは要注意! ラノベ作家に届いた『迷惑DM』とは」
という記事が掲載されていました。
https://news.livedoor.com/article/detail/17205989/
記事によると、
「10月8日、ライトノベル作家の不確定ワオン(@waonwaon1012)さんが、自身のTwitterアカウント宛てに不可解なDM(ダイレクトメッセージ)が届いたことを報告。その内容がTwitter上で注目を浴びています。」
「今回ワオンさんは、TwitterのDMで見ず知らずの人物から『自作のプロット(物語などの筋立て・構成)』なるものが送られてきたことを報告。」
「さらに『それを元に小説書いて、書籍化したら印税折半してください!』という提案までされたことを明かしました。」
という出来事があったとのことです。
これに対し、ツイッターのユーザーから、
「そして全く関係のない小説を販売したら 『私のネタを奪った!』で押し掛けて来るんですね。」
「その昔有名な二次創作サイトで『自分のアイディアを盗作した。謝罪しろ。』といって作者さんに粘着して脅したため作者さんが警察に相談する事件がありました。
面白いのは盗作された側は自分の頭の中のアイディアを盗まれたと主張したことです。」
といったメッセージが寄せられたようです。
ツイッターのユーザーからは注意喚起されているようですが、記事にあるように作家・クリエイターの方に一方的にアイディアを送り付け、後で作品に対する権利を主張するといったことは法的に可能なのでしょうか?
送り付けられた側は、何等かの注意をすることが必要になるのでしょうか?
2.基本的には注意は要らない
ネット記事の表題は「要注意」とありますが、結論から言うと、別に注意は要らないかと思います。クリエイターの方は、基本的には、送られてきたメールは無視して創作活動に励んで頂いて問題ありません。
なぜなら、アイディアは著作権の対象にはならないからです。
著作権法上、著作権は
「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」
と定義されています(著作権法2条1項1号)。
著作権の対象になるのは「思想又は感情を創作的に表現したもの」であり、思想(idea)・感情それ自体ではありません。
中山信弘『著作権法』〔有斐閣、第2版、2014〕56-57頁には次のとおり記載されています。
「著作物であるためには『表現したもの』でなければならない。これを裏から見ると、思想(idea)それ自体は著作権法では保護されず、著作物として保護を受けるためには、思想が具体的に表現されたものとなっている必要がある。これは思想・表現二分論と呼ばれ、伝統的かつ普遍的な考え方となっている。」
・・・
「二分論は表現の自由や学問の自由等の近代社会が有している基本的な価値を護る、という点を挙げることができる。具体的には、学説、画風、書風あるいは手法や着想等々のアイディアまで保護されてしまうと、例えばある学説が発表されると、それ以後の者は同じあるいは類似の学説を発表できなくなるおそれもあり、表現の自由や学問の自由等と抵触することにもなりかねない。著作権法は表現や報道の自由を侵しかねない危険性を孕んではいるが、著作権の権利制限規定や有限な保護期間と並んで、思想・表現二分論を採用することにより思想までは保護しないということが保障され、著作権法の存在が正当化できるのである。新しい画風・学説等は、その表現より数段価値のある場合も少なくないが、著作権法ではそれらは保護されず、それが著作権法の限界でもあると言えよう。」
以上の文献の引用からも分かるとおり、アイディアは著作権による保護の対象にはなりません。一例を挙げると、保護の対象になるのは、飽くまでも「時をかける少女」「クロノス・ジョウンターの伝説」といった表現物であって「タイムトラベル」というアイディアではありません。
記事に言う「自作のプロット」がどのようなものなのかを見てみなければ断定的な見解までは出せませんが、単なるアイディアの指摘に留まっている場合、既に着想していたアイディアと被っていたにすぎない場合はもちろん、仮にこれを利用して小説を書いたとしても、著作権法には問題ならない可能性が高いと思います。
『私のネタを奪った!』と押しかけられたり、『自分のアイディアを盗作した。謝罪しろ。』と難癖をつけられたりしても、基本、相手にする必要もありません。
3.弁護士に相談すると、やっていいこと、抑制しなくていいことが分かる
法律には
「守らなければならない」
という側面と
「守っていれば、後は基本何をやっても自由」
という側面とがあります。
ネット上には、弁護士的な観点で見て、
「別に、そんなことは気にしなくてもいいのにな。」
という部分を過剰に気にしている方も見受けられます。
そうした言説を真に受けて、事業活動・創作活動を自己抑制するのはもったいないと思います。
機動的な事業活動・創作活動を行うため、フリーランスの方にとって、何をやってはいけなくて、何なら自由にやってもいいのかを気軽に聞ける弁護士を確保しておくことには、大きな意味があるだろうと思います。