弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-11-01から1ヶ月間の記事一覧

文言自体は侮辱的ではなくても、嫌がっていることを言い続ければハラスメント・不法行為になるとされた例

1.パワーハラスメント パワーハラスメントの類型の一つに、 「精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言) 」 があります。 令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇…

即戦力中途採用の場合でも、能力不足解雇にあたり指導改善の機会付与を要するとされた例

1.能力不足を理由とする解雇 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。 能力不足(勤務成績不良)を理由とする解雇につ…

業務委託契約で働いているエステシャン等の労働者性

1.エステシャン等の労働者性 このブログでも何度か言及したことがありますが、私の所属している第二東京弁護士会では、厚生労働省からの委託を受けて、フリーランス・トラブル110番という相談事業を実施しています。 フリーランス・トラブル110番【厚生…

就活セクハラ・入学セクハラへの対抗手段-同意していたという加害者の弁解を排斥するためには

1.就活セクハラ・入学セクハラ 厚生労働省告示第615号 平成18年10月11日 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(最終改正:令和2年1月15日 厚生労働省告示第6号)は、 「職場におけ…

期間途中で業務委託契約を解除された業務受託者は、残期間に得られたはずの報酬を請求できるのか?

1.期間途中での業務委託契約の解除 業務委託契約に基づいて働いているフリーランスの方からよく寄せられる相談類型の一つに、取引先から契約を切られたというものがあります。 業務委託契約の多くは、準委任契約という契約類型に該当します(民法656条…

労働契約上の権利を有する地位にあることを主張するにあたり、雇用契約か委任契約かという争点設定はとらないこと

1.雇用契約と委任契約 雇用契約は、 「当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」 契約です(民法623条)。 他方、委任契約は、 「当事者の一方が法律…

雇止め-合理的期待は雇い主の変更と共に引き継がれるか?

1.雇止め法理(合理的期待) 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる) …

代表取締役に労働者性が認められた例

1.労働者と代表取締役 労働基準法上、「労働者」とは「職業の種類を問わず、事業又は事務所・・・に使用される者で、賃金を支払われる者をいう」と定義されています(労働基準法9条)。 これに対し、株式会社の「代表取締役」とは「株式会社の業務に関す…

アサイン制の労働者-仕事がないのは誰のせい?

1.アサイン制 特定の上司が特定の部下に対して一方的に業務を付与するという形をとらず、個別のプロジェクトや業務毎に上級職員が部下を選んで業務を依頼するという仕組みをアサイン制といいます。 アサイン制のもとで働いている労働者は、上級職員から業…

ストーカー行為を理由とする諭旨免職処分の有効性-二次被害を与えるような態度は悪手

1.諭旨免職処分の有効性 労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場…

子どもが小さく夜勤の難しい労働者に対する配転に「不当な動機・目的」が認められた例

1.配転命令の濫用 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきである…

追い出し部屋への配転の慰謝料

1.追い出し部屋への配転 従業員に退職を促すことを目的として設けられたとみられる部署を称して「追い出し部屋」と言われることがあります。社会問題化すると共に、従業員を一人別室に離隔するといった極端なケースは、あまり見られなくなってきたように思…

同一の労働条件による契約更新を期待できない場合の更新拒絶事由の判断方法

1.雇止め法理 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる) 場合、有期労働…

合理的期待の内容-同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないのか?

1.雇止め法理-合理的期待 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる) 場…

ハラスメント防止委員会の決定に対する名誉回復措置請求の可否

1.名誉回復措置請求 民法730条は、 「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」 と規定しています。 これは名誉毀損に特有の…

アカデミックハラスメント-外国人(帰化人)同僚に対する国籍の揶揄

1.アカデミックハラスメント 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、アカデミックハラスメントは、法令上…

名誉回復措置請求の必要性の認定・掲載文言についての参考例

1.名誉回復措置請求 労働者に懲戒処分を行ったことが、社内で公示されることがあります。こうした場合、懲戒処分の効力を争うにあたり、名誉回復のための措置を講じることまで求めて行きたいという気持ちを持つ方は少なくありません。 こうした必要に応え…

閉じられた組織内における処分の公示・掲示と、名誉毀損における公然性の関係

1.処分の社内公表 労働者に懲戒処分等を行った場合に、使用者がこれを社内公表することがあります。 一般論として、懲戒処分を受けたことやその内容は、社会的評価を下げる事実に該当します。そのため、労働者が処分の効力を争って法的措置をとる場合、し…

転職先の会社であれば従前と同条件で取引への対応が可能である旨の記載の手紙の証拠力が低く評価された例

1.取引先奪取に関係する問題 取引先を奪取したとのことで、旧勤務先と退職した労働者とが紛争状態に陥ることは少なくありません。こうした事案では、取引先が旧勤務先を見限って自発的に他業者と取引するに至ったのか、それとも、労働者の側で何等かの加害…

労災の不支給決定は何度でも争えるのか?

1.再度の労災申請 確定した判決には、「既判力」という効力が発生します(民事訴訟法114条1項)。これは紛争の蒸し返しを防ぐための効力です。当事者は既判力の生じた判断と矛盾する主張をすることができなくなりますし、裁判所は既判力の生じた判断と…

早期に代理人弁護士に依頼するメリット-供述の変遷を指摘されるリスクの低減

1.事実認定における「供述の変遷」 事実を立証する方法は、録音・録画といった客観的な証拠に限られるわけではありません。人の供述も証拠の一つです。話していることが信用できると判断される場合、その人の供述が根拠となって事実が認定されます。 客観…

診断書や主治医意見書があっても「会社のせいで(精神的な)病気になった」という主張が通りにくい理由

1.診断書や主治医意見があれば「会社のせい」といえるか? 労働問題に関連して「会社のせいで(精神的な)病気になった。」という相談を寄せられることは、少なくありません。相談者は、往々にして「診断書がある。」「主治医が意見書を作ってくれると言っ…

承認のない残業も黙認・放任されていれば労働時間にカウントされる

1.承認制のもとで黙認・放任されていた残業 時間外労働に従事するにあたり、所属長の承認を要件としている会社は、少なくありません。こうした会社において、業務量が多いにも関わらず、承認が得られない・承認を申請すると渋い顔をされるといった理由から…

不正行為に係る事実調査のための自宅待機命令と休業手当

1.不正行為に係る事実調査のための自宅待機命令 実務上、懲戒処分の前段階として、事実調査等を行う際に、処分予定者が職場内に存在することにより調査に支障が生じること等を回避するため、処分確定までの一定期間、自宅待機を命じることがあります(自宅…

労災-精神障害等専門部会意見の判断の信用性が否定された例

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

相手方に送付した記者会見の発表文が訴訟活動の足枷となった例

1.記者会見の危険性 提訴記者会見は、問題を広く拡散し、社会全体で共有して行くにあたり必要な行為です。そこに社会的意義があることは、確かだと思います。 しかし、個別具体的な裁判との関係で、記者会見が良い結果に繋がったという話は、あまり聞いた…

過半数代表者の使い回しは許されるのか?

1.過半数代表者との協定 労働者と使用者との間での法律関係の形成に際しては、過半数代表者(事業場の労働者の過半数を代表する者)との協定が求められている場面が少なくありません。 例えば、使用者が労働者に残業や休日労働を命じるにあたっては、過半…

身体的接触を理由とする懲戒処分が否定された例

1.広範な「暴行」の定義 刑法208条は、 「暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。」 と規定しています。 ここで規定されている「暴行」とは「人の身体に対する不…

単独では不法行為に該当しなくても、継続すれば不法行為になるという理屈

1.ハラスメントを理由とする損害賠償請求 ハラスメントが問題となる事案では、一つ一つのエピソードとしては大したインパクトを持たないものの、全体としてみると被害者に強い精神的苦痛を生じさせているといったことが少なくありません。こうした事案では…

ハラスメント事案の業務起因性の判断の特殊性-心理的負荷「強」の出来事がなくても、発症6か月以上前の出来事が考慮され、業務起因性が認められた例

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…