弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2022-10-01から1ヶ月間の記事一覧

固定残業代の効力の否定類型-対象者の定義が不明確

1.固定残業代の効力を争うための切り口 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができる…

複合要因型の解雇であるとの使用者側の主張に対し、なお整理解雇の判断枠組によると判断された例

1.整理解雇の判断枠組と複合要因型解雇 整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をいいます。整理解雇は、労働者に帰責事由がないにもかかわらず、使用者の経営上の理由により労働者を解雇するところに特徴があり、労働者に帰責性…

業務命令に従わないリスク

1.業務命令への不服従 配転命令の効力を争う場合、異議を留保したうえ、配転先で働きながら争うのが原則です。配転命令に従わないと、正当な理由のない欠勤であるとして解雇されるからです。 もちろん、解雇の効力を争う地位確認請求訴訟の中で、配転命令…

労働者からの弁護士同席のもとでの協議の要望に対応しなかったことが消極的に評価された例

1.弁護士同席のもとでの協議の要望 在職中に勤務先(使用者)と対立的な関係になってしまった時、勤務先との協議に際して、代理人弁護士を同席させたいというニーズがあります。 勤務先が応じれば、労働者から依頼を受けた代理人弁護士が協議の場に立ち会…

休職者給付は給与なのか?

1.公務員に支給される求職者給付 国家公務員が公務上の負傷・疾病で休職を命じられた場合、休職期間中の給与は全額が支給されます(一般職の職員の給与に関する法律23条1項)。 他方、公務外の負傷・疾病により休職命令を受けたときは、1年を限度とし…

相当性に疑問があるとされながらも別室隔離の不法行為該当性が否定された例

1.不相当(不適当)だけれども違法性が認められないゾーン 民法709条は、 「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 本条に言う 「他人の権利又は…

無期転換権を放棄するには、無期転換権の発生を認識していることが必要か?

1.無期転換ルール 労働契約法18条1項1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に…

固定残業代の合意-提訴から8年以上前に導入されたものでも争えた例

1.古い事件は難しい 一般論として、年単位の既成事実が積み重なってしまうと、相手方から一方的に言い渡された法律関係であったとしても、その効力を覆すことは非常に困難です。 長年に渡って法的措置をとることなく、放置してきたこと自体が、納得してい…

基本給は減るものの賃金総額を増やす形での固定残業代の導入は労働条件の「不利益」変更か?

1.就業規則による労働条件の不利益変更 就業規則の変更による労働条件の不利益変更は、原則的には認められません(労働契約法9条)。 しかし、これには例外があり、 「使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労…

労務提供の受領拒否の撤回が認められなかった例(その解雇撤回は、本当に撤回としての効力を持つか?)

1.解雇・雇止めの撤回にどのように対抗するか 解雇や雇止めが無効であると主張して、地位確認等を求める通知を出すと、使用者側から、解雇や雇止めを撤回するので働きに来るようにと言われることがあります。 これが、真摯に判断を誤ったことを認め、労務…

研究不正に対する調査協力義務

1.研究不正に対する調査確認義務 弁明の機会が付与されることは、 「就業規則等にその旨の規定がない場合でも、事実関係が明白で疑いの余地がないなどの特段の事情がない限り、懲戒処分の有効要件である」 と解されています(水町勇一郎『詳解 労働法』〔…

研究活動の不正、論文不正を理由とする懲戒解雇-立証責任の所在はどのように理解されるのか

1.懲戒事由に該当する事実は誰が立証責任を負うのか 一般論として言うと、懲戒事由に該当する事実の存在は、懲戒権を行使する使用者の側で立証する責任があります(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕367頁参…

訪問看護ステーション管理者の管理監督者性-管理監督者性を争う上での着眼点

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

緊急看護対応業務のための待機時間の労働時間性

1.不活動時間の労働時間性 不活動仮眠時間の労働時間性について、最一小判平14.2.28労働判例822-5大星ビル管理事件は、 「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そ…

累計アクセス数が100万件を超えました

このブログを開始して約3年半が経ちましたが、累計アクセス数が100万件を超えました。ブログ記事をきっかけとしたご相談も多数頂いております。 多くの方の関心に応えられていることを、大変嬉しく思っています。 引き続き、有益な情報発信に努めて行き…

医者でありながら健康保持に努めなかったことは過失相殺にあたり考慮されるのか?

1.過失相殺 民法723条2項は、 「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」 と規定しています。 被害者の過失を考慮して損害賠償の額を定めることを、講学上、「過失相殺」といいます。判決の中で…

自殺の予見可能性-どこまでの認識が必要か?

1.自殺の予見可能性 不法行為であれ債務不履行であれ、損害賠償を請求するためには、故意や過失、因果関係といった要素が必要になります。 ここでいう「過失」とは結果予見義務を前提としたうえでの結果回避義務違反をいいます。また、相当因果関係とは、…

解雇後の他社就労-国外で従前以上の年収(約13万ドル/年)を得ていても就労意思が否定されなかった例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

労働時間管理を行っていない使用者による欠勤控除が否定された例

1.ノーワーク・ノーペイの原則と欠勤控除 民法624条1項は、 「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」 と規定しています。 簡単に言えば、働かなければ賃金が発生しないということです。このことは講学上…

大学教員の残業代請求-労働時間管理を懈怠していた使用者による反証が一蹴された例

1.労働時間の立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 があるとされていま…

大学教授に授業を担当させなかったことが違法とされた例

1.大学教授の特殊性 一般論として、労働者には特定の仕事をさせるように請求する権利(就労請求権)までが認められているわけではありません(東京高決昭33.8.2判例タイムズ83-74参照)。 しかし、これには幾つかの例外があります。その一つが…

ハラスメントの申告に対する合理的理由のない回答遅延が債務不履行に該当するとされた例

1.パワーハラスメントを防止するために雇用管理上必要な措置 労働施策総合推進法32条の2第1項は、 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境…

人事上の最終権限がなくても管理監督者性は認められる?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

合意退職(退職の意思表示)の錯誤主張が認められた例

1.合意退職の争い方 労働者と使用者とで退職を合意することを合意退職といいます。 合意退職は契約であって解雇ではありません。したがって、解雇権の行使を厳しく制限する労働契約法16条の適用を受けることはありせん。契約として民法上の意思表示理論…

定年後再雇用-定年退職時の60%を下回る基本給を設定することが労契法旧20条違反とされた例(続)

1.不合理な待遇の禁止・差別的取扱いの禁止 労働契約法20条に、 「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である…

残業を許可しないことがハラスメント(安全配慮義務違反)とされた例(続)

1.残業させてもらえない問題 典型的な労働問題の一つに長時間の残業があることは、一般の方にも良く知られていいるのではないかと思います。しかし、残業に関する問題は、長時間労働だけではありません。あまり知られていないかも知れませんが、残業をさせ…

自由な意思の法理により未払賃金(最低賃金との差額賃金)の清算が否定された例

1.自由な意思の法理 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用さ…

公務員-義務違反(懲戒事由)の認定について懲戒権者に裁量権は認められるのか?

1.懲戒処分の判断枠組 公務員に対する懲戒処分の有効・無効の判断枠組についてのリーディングケースである最三小判昭52.12.20労働判例288-22 神戸税関事件は、 「公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかど…

労働組合の活動は非弁行為にあたらないとされた例

1.非弁行為の禁止 弁護士法72条本文は、 「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他…

転勤を拒んだ場合に地域限定総合職との給与差額の返還を求めることは許されるのか?

1.転勤への拒否感 働き方が多様化すると共に、転勤を望まない人が増えています。こうした世相を反映してか、勤務地を限定した社員という雇用管理区分を設ける企業も、珍しくなくなりつつあります。 それでは、このように地域を限定した社員という雇用管理…