弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働組合の活動は非弁行為にあたらないとされた例

1.非弁行為の禁止

 弁護士法72条本文は、

「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」

と規定しています。これを「非弁行為の禁止」といいます。弁護士法72条によって非弁行為が禁止されているため、弁護士以外の者は、報酬を得て法律事務を処理することを業務として行うことができません。

 それでは、労働組合が、組合員のために労働問題の解決にあたり、組合員から拠出金を受け取ることは、弁護士法72条に抵触しないのでしょうか?

 組合に対する悪感情の強い企業や、組合と対立的な関係にある組合員から、稀に、こうした問題を指摘されることがあります。

 近時公刊された判例集に、この問題を取り扱った裁判例が掲載されていました。東京地判令4.5.24労働判例1268-13 プレカリアートユニオン(拠出金返還等請求)事件です。

2.プレカリアートユニオン(拠出金返還請求)事件

 本件で被告になったのは、いわゆる合同労働組合です。

 原告になったのは、被告の組合員として活動していた方です。被告が元雇用主(A社及びB社)と意に沿わない和解を成立させたとして、解決金の中から拠出金名目で徴収された金銭の返還等を求めて訴えを提起した事件です。

 本件では、拠出金の受領が非弁行為にあたるのではないかとの疑義が出されましたが、裁判所は、次のとおり述べて、これを否定しました。結論としても、原告の請求を棄却しています。

(裁判所の判断)

「原告は、被告による本件拠出金の受領及び被告規約22条1項3号の規定は弁護士法72条に違反すると主張する。」

「しかしながら、弁護士法72条制定の趣旨は、弁護士は、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、広く法律事務を行なうことをその職務とするものであって、そのために弁護士法には厳格な資格要件が設けられ、かつ、その職務の誠実適正な遂行のため必要な規律に服すべきものとされるなど、諸般の措置が講ぜられているのであるが、世上には、このような資格もなく、何らの規律にも服しない者が、自らの利益のため、みだりに他人の法律事件に介入することを業とするような例もないではなく、これを放置するときは、当事者その他の関係人らの利益を損ね、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げ、ひいては法律秩序を害することになるので、かかる行為を禁圧するというものと解される(最高裁昭和44年(あ)第1124号同46年7月14日大法廷判決・刑集25巻5号690頁参照)。」

「しかるに、労働組合である被告が組合員のために組合員の雇用主と団体交渉等を行って和解を成立させることは、みだりに他人の法律事務に介入する行為ということはできないし、これによって組合員その他の関係者らの利益を損ねたり、法律生活の公正かつ円滑な営みを妨げるものとはいえないから、弁護士法72条所定の『法律事務を取り扱』うことには当たらないものというべきであり、原告の上記主張は採用することができない。

3.非弁行為に該当しないとの判断が明確に示された

 拠出金と非弁行為の関係は、嫌味っぽく揶揄されることはあっても、それが本気で争われることは稀でした。労働組合が組合員のために団体交渉等を行うことは、組合本来の業務であり、他人間の紛争に介入することを念頭に置いている弁護士法72条が想定している場面とは異なることが、認識として共有されていたからだと思います。

 争点にならないため、労働組合と非弁行為との関係は、裁判所で明確に判断されることなく、長らく揶揄の対象になってきました。しかし、この裁判例は、労働組合の活動が非弁行為には該当しないと明確に判示しました。

 今回、労働組合の活動が非弁行為に該当しないとの判断が裁判所で明確に示されたことは画期的あものです。揶揄に対抗して行くにあたり、覚えておくと便利な裁判例だといえます。