弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「給料泥棒」「役立たず」「無能」「会社の寄生虫」などと言いながら退職を勧告された場合の慰謝料

1.退職勧奨の適法/違法の分水嶺 退職勧奨については、 「基本的に労働者の自由な意思を尊重する態様で行われる必要があり、この点が守られている限り、使用者はこれを自由に行うことができる。・・・これに対し、使用者が労働者に対し執拗に辞職を求める…

僧侶・修行僧の労働者性(肯定)

1.僧侶・修行僧の労働者性 一般論としていうと、住職たる地位の確認を求める訴えの提起は認められません。具体的な法律関係に関する問題でなく、法規の適用によって終局的に解決すべき法律上の争訟に当たらないと理解されているからです(芦部信喜 著 , 高…

感情を荒らげることなく淡々とした口調で話していても、アカデミックハラスメントが成立するとされた例

1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 多くの大学はアカデミックハラスメントをハラスメント防止規程等で禁止しています。しかし、セクシュアルハラスメントやパ…

派遣社員として短期の派遣を繰り返しても、就労意思は失われないとされた例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

ベーカリーで販売期限の切れたパンを持ち帰ったり、害虫を発見して咄嗟に殺虫剤を散布したりすることが解雇理由になるか?

1.食料品店の販売期限切れ商品の持ち帰り 食品を扱う店では、従業員に期限切れの商品の持ち帰りが認められていることがあります。しかし、関係性が悪くなってくると、こうした持ち帰りが非違行為にあたるとして、トラブルになる例が少なくありません。 し…

シフト制の労働者に勤務させないと告げて交わされた退職合意の錯誤取消が認められた例

1.シフト制 「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を定めず、一定期間ごとに作成される勤務表や勤務シフトなどにおいて初めて具体的な労働日や労働時間が確定する形態」を「シフト制」といいます。シフト制の労働者の方からは、しばしば、 想定よりも…

セクハラ発言は公務ではない-セクハラをした公務員個人の責任を追及することが認められた例

1.ハラスメントを行った公務員個人の責任 民間の場合、従業員が事業に関連して不法行為をした場合、不法行為をした従業員個人とその使用者とが連帯して損害賠償責任を負います。したがって、職場でハラスメントを受けた被害者は、加害者となった上司・同僚…

「可愛いところあるやんか」「女性はかわいいとか、やさしさとかあるやん」-性別役割分担意識に基づく女性を持ち上げる言動がセクハラとされた例

1.セクシュアルハラスメントと性別役割分担意識 セクシュアルハラスメントというと「ハラスメント」という言葉の響きからか、相手が嫌がっていることを知ったうえで、敢えて嫌がらせを行うことをイメージされる方が少なくありません。 この捉え方は、あな…

歓迎会二次会のカラオケで行われた男性の脱ぎ芸が、女性参加者に対するセクハラ(不法行為)を構成するとされた例

1.セクシュアルハラスメント 「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を「職場におけるセクシュアルハラスメ…

障害ではなくても履歴書で求めていた身体的不具合への配慮について、障害者雇用促進法の求める合理的配慮に準じる扱いが相当とされた例

1.障害者雇用促進法と合理的配慮 障害者雇用促進法に次のような条文があります。 (第三十六条の二) 「事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用…

労災の不支給処分に不服がある場合、処分庁に資料の開示を請求したりせず、速やかに審査請求を

1.労働者災害補償保険法の審査請求の期間制限 労働者災害補償保険法38条1項は、 「保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることがで…

精神障害等級の認定を受け、通院して服薬治療を受けていることのみを理由とした退職勧奨は違法-自由な意思を阻害しなくてもダメ

1.退職勧奨の適法/違法の分水嶺-自由な意思 退職勧奨については、 「基本的に労働者の自由な意思を尊重する態様で行われる必要があり、この点が守られている限り、使用者はこれを自由に行うことができる。・・・これに対し、使用者が労働者に対し執拗に…

労災に被災したら、自宅療養せず速やかに病院へ

1.精神障害と労災 業務に起因して精神障害に罹患した場合、被災者は労働者災害補償保険法に基づいて療養補償給付、休業補償給付などの各種保険給付を受給することができます。 近時公刊された判例集に、この保険給付との関係で、実務的に注意しておかなけ…

職場で行われる陰口が、労働者に対するハラスメント(不法行為)にあたるとされた例

1.労働者本人がいないところで言われる揶揄・侮辱 労働者本人がいないところで言われる揶揄や侮辱は、ハラスメント(不法行為)を構成することがあり得るのでしょうか? 当人が知らないのであれば、揶揄や侮辱があったとしても、精神的な苦痛(損害)は発…

スポーツ指導者によるセクハラ

1.労働契約が存在しなくても性的言動は不法行為を構成する? 「事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること…

競輪の師匠によるセクハラ発言「彼氏と遊んでセックスばかりしやがって」の慰謝料が僅か10万円とされた例

1.慰謝料に冷淡なのはセクハラも同じ 一昨日、 従業員を何度となくバカと罵ることが業務の範囲を超えないとされたうえ、多数回頭を小突く・足を蹴とばすなどの身体的暴力の慰謝料が僅か5万円とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きまし…

「残業時の休憩時間」なる時間の労働時間性

1.残業時の休憩時間 時間外勤務手当等を請求する事件で就業規則を見ていると、時折「残業時の休憩時間」といった言葉を目にすることがあります。「残業する時は、○時~○時を休憩時間とする」といったようにです。 しかし、労働者は可能な限り早く家に帰り…

従業員を何度となくバカと罵ることが業務の範囲を超えないとされたうえ、多数回頭を小突く・足を蹴とばすなどの身体的暴力の慰謝料が僅か5万円とされた例

1.ハラスメントに冷淡な裁判所 労働者側の代理人弁護士として常日頃問題だと思っていることの一つに、裁判所のハラスメントに対する冷淡さがあります。 裁判所はなかなかハラスメントの成立を認めません。かなり不穏当な言動がとられていても、「業務の範…

位置付けや金額が便宜的に変えられている固定残業代の効力が否定された例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

公務員-違法な懲戒処分に引き続いて行われた配転命令の国家賠償法上の違法性

1.懲戒処分に引き続いて行われる配転命令 公務員に限ったことではありませんが、懲戒処分に引き続いて配転を命じられることがあります。国側・地方公共団体側・使用者側からすれば引き続き同じ業務を担当することが好ましくないということなのだと思われま…

公務員の懲戒処分-違法な懲戒処分の取消訴訟に要した弁護士費用実額の損害賠償請求が認められた例

1.弁護士費用を相手方に請求できるか? 弁護士費用は自弁するのが原則です。裁判に勝っても、相手方に弁護士費用を転嫁することはできません。その代わり、裁判に負けても、相手方から弁護士費用を転嫁される心配はありません。 しかし、一定の類型の損害…

停職処分(出勤停止処分)の無効確認を求める訴えの利益が認められた例

1.懲戒処分の無効確認請求と訴えの利益 戒告処分や譴責処分の無効確認を求める訴えについては、処分が具体的な不利益と結びついていないためか、訴えの利益を否定されることが少なくありません。 「訴えの利益」とは、裁判所に事件として取り扱ってもらう…

在職中に訴訟提起してきた労働者に対し、自宅待機命令を出したことが不法行為に該当するとされた例

1.在職中の訴訟提起 解雇の効力を争う事件が思い浮かぶのか、一般の方の中には、労働関係訴訟について、職場から排除された後に争うものというイメージを持つ方がいます。 しかし、職場から排除された後、あるいは、職場を去った後で行うというのは、労働…

解雇の効力を争う地位確認訴訟で勝ったその後-出向先でトイレ掃除等をするように命じる出向命令が不法行為を構成するとされた例

1.解雇無効を勝ち取ったその後 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。この条文により、濫用的な解雇権の行使は、その…

内容に強い疑義のあるネット上の記事について-評価制度に有給休暇の使い方を組み入れることは許されるのか?

1.正確性に強い疑義のある記事 ネット上に、 連休明けに毎回有休を取得して「3連休」にする社員がいます。業務が滞るのですが、有休は「権利」と主張されると何も言えません……。(ファイナンシャルフィールド) - Yahoo!ニュース という記事が掲載されてい…

解雇の効力を争う地位確認訴訟で勝ったその後-隔離された部屋での勤務を命じたことが不法行為を構成するとされた例

1.解雇無効を勝ち取ったその後 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。この条文により、濫用的な解雇権の行使は、その…

労働安全衛生法上の労働者死傷病報告をしていなかったことが不法行為に該当するとされた例

1.労働者私傷病報告書 労働安全衛生規則97条は、 1項で、 「事業者は、労働者が労働災害その他就業中又は事業場内若しくはその附属建設物内における負傷、窒息又は急性中毒により死亡し、又は休業したときは、遅滞なく、様式第二十三号による報告書を所…

医師に対する解雇・雇止め-患者からクレームを受けること自体は、大した問題ではない

1.顧客からのクレーム 解雇や雇止めの理由として、顧客からクレームを受けていたことを主張されることがあります。この時、使用者(特に、代理人弁護士が選任される前の段階にある使用者)の中には、 どちらに非があるかは問題ではない、 クレームを受ける…

更新回数1回で合理的期待が肯定された例

1.雇止めの二段階審査 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められ…

退職勧奨や不更新通知によって契約更新に向けた合理的期待を一方的に奪うことは許されるのか?

1.雇止めの二段階審査 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められ…