1.正確性に強い疑義のある記事
ネット上に、
連休明けに毎回有休を取得して「3連休」にする社員がいます。業務が滞るのですが、有休は「権利」と主張されると何も言えません……。(ファイナンシャルフィールド) - Yahoo!ニュース
という記事が掲載されています。
この記事では、表題のような疑問に答える形で、
「業務が滞るとはいえ、有給休暇の取得を制限することが難しいのであれば、間接的に制限をかけることは可能な場合もあります。具体的には『評価制度に有給休暇の使い方を組み入れる』といったことが考えられます。」
「例えば、『繁忙期は多くの人が有休の取得を控えているにもかかわらず、一人だけ自由気ままにして、周りがその分の負担を強いられている』という場合を考えてみましょう。そういった場合、人事評価において『協調性や積極性が高くない』という評価をくだすことが考えられます。」
「これらの評価は、有給休暇を取得したことを、直接的に処分の対象としているわけではないため、不利益扱いとはなりません。それによって、本来なら30万円の賞与を、査定によって29万円に減らすなどして、間接的な抑止力とすることが可能になります。」
などと書かれています。
しかし、上述のようなアドバイスには、その内容に極めて強い疑義があります。
2.有給休暇と不利益取扱について
労働基準法136条は、
「使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。」
と規定しています。
この規定の理解の仕方について、最二小判平5.6.25労働判例636-11沼津交通事件は、
「労働基準法一三四条(現136条 括弧内筆者)が、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないと規定していることからすれば、使用者が、従業員の出勤率の低下を防止する等の観点から、年次有給休暇の取得を何らかの経済的不利益と結び付ける措置を採ることは、その経営上の合理性を是認できる場合であつても、できるだけ避けるべきであることはいうまでもないが、右の規定は、それ自体としては、使用者の努力義務を定めたものであつて、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を有するものとは解されない。また、右のような措置は、年次有給休暇を保障した労働基準法三九条の精神に沿わない面を有することは否定できないものではあるが、その効力については、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、年次有給休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、年次有給休暇を取得する権利の行使を抑制し、ひいては同法が労働者に右権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められるものでない限り、公序に反して無効となるとすることはできないと解するのが相当である」
と判示しています。要するに、権利行使を抑制し、権利行使の趣旨が実質的に失われるような場合、そのような措置をとることは公序良俗に反して許されないとするものです。これは、具体的な事案の特性に言及しつつ、年次有給休暇の取得を理由に皆勤手当を控除する措置を「望ましいものではない」としながらも、「公序に反する無効なものとまではいえない」と判示した事案です。
このように皆勤手当との関係での事例判断はありますが、賞与の計算との関係でいうと、最三小判平4.2.18労働判例609-12エス・ウント・エー事件が、
「使用者に対し年次有給休暇の期間について一定の賃金の支払を義務付けている労働基準法三九条四項の規定の趣旨からすれば、使用者は、年次休暇の取得日の属する期間に対応する賞与の計算上この日を欠勤として扱うことはできないものと解するのが相当である。」
と判示しています。
また、代表的な学術書には、
「年休取得を昇給・昇格において不利益に取り扱うこと、年休取得日を賞与や皆勤手当の計算において欠勤日扱いすることについては、例外なく(権利行使への抑制力の強弱を問うことなく)公序に違反するものと解すべきであろう」
との記述もみられます(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第2版、令3〕767頁参照)。
3.有給休暇の取得を賞与の査定上不利益に扱ってよいか?
問題の記事に関しては、有給休暇の取得を欠勤と評価するものではありません。しかし、『協調性や積極性が高くない』とネガティブな評価に敢えて踏み込んで行くわけですから、フラットに「欠勤」と判断するよりも、なお問題が大きいという見方ができるのではないかと思います。
問題の記事の執筆者がしているような回答をすることには、かなり強い疑義があります。個人的には、この記事を鵜呑みにすることは危険だと思います。少なくとも、私が会社から同様の質問を受けた場合には、エス・ウント・エー事件の最高裁の判示を踏まえ、異なった回答をします。