1.解雇無効を勝ち取ったその後
労働契約法16条は、
「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」
と規定しています。この条文により、濫用的な解雇権の行使は、その効力を否定されることになります。
解雇された労働者が、解雇無効を主張して地位確認請求訴訟を提起し、請求を認容する判決が確定した場合、労働契約上の権利を有する地位が当初から継続していたことになり、職場復帰を果たすことになります。
この場合、復帰直後に多少の軋轢はあっても、労働者は職場に馴染んで行くという経過を辿るのが普通です。しかし、復職した労働者に対し、嫌がらせと受け取られかねないような人事上の処遇をする例も散見されます。近時公刊された判例集に掲載されていた東京地判令5.4.28労働判例ジャーナル141-28 埼玉県森林組合連合会事件もそうした事案の一つです。
2.埼玉県森林組合連合会事件
本件で被告になったのは、
森林組合法に基づく森林組合連合会(被告連合会)、
被告連合会の事務所で参事兼事務局長として勤務していた方(被告C)、
被告連合会の理事・副会長の方(被告D)
の三名です。
原告になったのは、被告連合会の職員の方です。
平成27年5月29日、原告は被告連合会から解雇されました。
原告は、この解雇を無効であると主張し、被告連合会に対して地位確認請求訴訟を提起しました(前件訴訟)。
平成30年4月20日、前件訴訟の一審は、解雇が無効であるとして、地位確認請求を認容する判決を言い渡しました。ただ、一審判決は慰謝料請求を棄却する内容であったため、原告は一審判決に控訴しました。
一審判決控訴中の平成30年5月7日、被告連合会は前件訴訟で問題となった解雇を撤回し、同日9日から事務所に出勤することを命じました。しかし、原告が控訴したことを理由に、控訴審が終結するまで自宅待機することを命じました。
前件訴訟の控訴審判決は平成31年1月31日に言い渡され、被告連合会は、同年4月12日付け内容証明郵便、同年4月15日付け内容証明郵便により出勤を命じ、原告が同月19日に出頭すると、
他の職員らが執務する隣の部屋で一人で執務することを命じられる、
控訴審終了後から平成31年4月18日まで10日間以上に渡り無断欠勤したことなどを理由に懲戒処分(停職3か月)を受ける、
などの処遇を受けました。
これに対し、原告の方が、懲戒処分の無効確認や、ハラスメントを理由とする損害賠償請求を求める訴えを提起したのが本件です。
本件では、他の職員らが執務する隣の部屋で一人で執務することを命じたことの不法行為該当性が争点の一つになりました。
この争点について、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為該当性を認めました。
(裁判所の判断)
「原告は、平成31年4月19日以降、復職して被告連合会の事務所に出勤したが、他の職員らが執務する部屋の隣の部屋で一人で執務することを命じられた。」
「原告の執務室は、他の職員が執務する部屋とは壁とドアで隔てられており、原告の机があるほか、打合せ用の机や書棚が置かれていた。他の職員が執務する部屋は、同年4月18日まで被告Dが週1日程度使用し(同日から同月末までは被告Dの荷物は置いてあったが使用していない。)、同年5月から週2回勤務する職員が使用していた机があった。」
「原告に渡されたパソコンはローカルネットワーク上の被告連合会のハードディスクに接続できない設定になっていた。原告の机には電話が置かれていなかった。」
「被告Cは、同日、原告に対し、『(被告連合会が裁判に)負けちゃったということで。だからこんな感じになっちゃってんだと思うんだよね。申し訳ないけど。この机の位置なんかがね。』『あり得ないじゃないですか、一緒に仕事をしていく上でこんな感じっていうのは。』等と述べた。」
(中略)
「原告が復職後に執務を命じられた部屋は、他の職員が執務する部屋とは壁とドアで隔てられており、原告の机があるほか、打合せ用の机や書棚が存在していたこと、原告に渡されたパソコンはローカルネットワーク上の被告連合会のハードディスクに接続できない設定になっていたこと、原告の机には電話が置かれていなかったことが認められる。」
「他の職員が執務する部屋は、同年4月18日まで被告Dが週1日程度使用し(同日から同年4月末までは被告Dの荷物は置いてあったが使用していない。)、同年5月から職員が週数日使用していた机があったことから、利用回数の少ない机を原告の執務室に設置するなどして、原告の机を他の職員が執務する部屋に置くことも可能であったというべきであるのに、原告のみ、別室で執務させ、被告連合会のローカルネットワークにも接続できないようにし、電話で他の職員と連絡を取ることもできない環境に置いたのは、原告を人間関係から切り離したものと評価することができ、パワーハラスメントとして不法行為を構成する。」
3.当たり前のことながら隔離は許されない
違法・不当解雇について相談を受けていると、裁判で勝ったとしても、酷い目に遭うのではないかと気にする方が少なくありません。
多数派とは思いませんが、本件のように露骨な隔離がなされるなど、不当な処遇がなされる事案はないわけではありません。
しかし、当たり前のことながら、このような不当な処遇は許容されません。迂遠であるかも知れませんが、再び法的措置をとれば、裁判所は、処遇が違法であることを認めてくれます。道理は通るようにできているため、解雇の効力を争うことに、それほど悲観的になる必要はありません。