弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

フリーランスの労働事件

同意を表すように見えても実はそうでない-被害を受けている被害者は、笑っていることがあるとされた例

1.セクシュアル・ハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関…

メンズコンカフェ(コンセプトカフェ)店員の労働者性

1.メンズコンカフェとは? 「執事や王子様、天使や悪魔、アイドルなど特定の世界観のキャラクターにふんした男性たちが、それぞれのコンセプトにあわせてデザインされた店内で、接客を行うこと」を特徴とする店を、メンズコンカフェ(コンセプトカフェ)と…

一人請負型偽装請負の労働者性(派遣元に対する賃金請求が認められた例)

1.偽装請負と一人請負型 労働者性が問題になる事件というと、請負や業務委託の法形式を使いながら、注文者や業務委託者が、請負人や業務受託者に対し、その指揮監督下で働かせて行くといったように、二者間での法律関係を想像する方が多いのではないかと思…

業務委託契約が実は労働契約であった場合、受け取った消費税は返さないといけないか?

1.業務委託契約・労働契約と消費税 消費税は 「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」 に課税されます(消費税法4条)。 ここで言う 「資産の譲渡等」 とは、 「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供・・・をいう」 と…

債務の履行が代表者の労務の提供以外に想定し難いとして、法人ではなく代表者との労働契約が認められるとされた例

1.一人会社に対する業務委託 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形…

スポーツ指導者によるセクハラ

1.労働契約が存在しなくても性的言動は不法行為を構成する? 「事業主が職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること…

店舗閉鎖を理由とする整理解雇-取引先からの業務委託契約の解約申入れを争わなかったことが人員削減の必要性を低減させた例

1.部門閉鎖(工場・支店等の閉鎖)に伴う整理解雇 整理解雇が解雇権濫用にあたるのか否かについては、①人員削減の必要性、②解雇回避措置、③被解雇者選定の合理性、④手続の妥当性という4つの基準により判断されます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会…

労働者性の論証の方法や着眼点Ⅱ

1.業務委託契約か労働契約か 業務委託契約の法的性質は、準委任契約と理解されることが多いです。準委任契約は基本的に各当事者がいつでも解除をすることが可能です(民法656条、民法651条1項)。 他方、労働契約の場合、そうは行きません。労働者…

労働者性の論証の方法や着眼点

1.労働者性を争点とする事件 フリーランスに関する事件を取り扱っていると、労働者性が争点になることが少なくありません。フリーランスと労働者とでは、法的に保護されている度合いが全く異なるからです。 フリーランスは契約自由の原則が支配する世界で…

社会保険加入を希望せず委託契約が締結された経緯があっても、労働者性を争うことに躊躇する必要はない

1.労働者災害補償保険法の強行法規性 労働者災害補償保険法6条は、 「保険関係の成立及び消滅については、徴収法の定めるところによる。」 と規定しています。 ここでいう「徴収法」とは「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」を意味します。 徴収法3…

業務委託先である個人事業主(弁護士)に対するハラスメント行為に違法性が認められた例

1.個人事業主に対するパワーハラスメント 少し前に、取引先である個人事業主に対するセクシュアルハラスメント(セクハラ)の成立が認められた裁判例を紹介しました(東京地判令4.5.25労働判例ジャーナル125-22 アムール事件)。 会社は業務委…

フリーランスの競業禁止契約(競業避止契約)の効力をどう考えるのか(退職後の従業員との競業禁止契約を効力を素材として)

1.労働者の競業禁止契約とフリーランスの競業禁止契約 使用者と労働者との間で交わされる競業禁止契約(同業他社に転職したり、同業を自ら営まないとする契約)は、そう簡単には有効になりません。「多くの裁判例は、①退職時の労働者の地位・役職、②禁止さ…

契約書の交付に関する否定的な言動がハラスメントとされた例

1.契約書が作成されない問題 企業とフリーラスとの間での契約のように、当事者間の力関係に格差がある場合、敢えて契約書が作られないことがあります。契約書が作られないのは、大抵、力の強い側、企業側の意向でそうなります。 なぜ、力の強い側が契約書…

業務委託契約扱いされていた労働者からの国民健康保険料の半分に相当する額の損害賠償請求が認められた例

1.労働者性が争われる事件 労働者かどうか(労働基準法、労働契約法をはじめとする労働法の適用があるか)は契約の名称によって決まるわけではありません。就労の実体で決まります。したがって、業務委託契約(準委任契約)という表題のついた契約書のもと…

業務委託契約に変更されていても、なお労働者であると認められた例(自由な意思の法理の適用?)

1.労働契約から業務委託契約への切替え 少し前に、ある企業が社員を個人事業主化することを発表して話題に上ったことがありました。 その影響か、近時、労働契約(雇用契約)を業務委託契約(準委任契約)に切り替えられたという相談が増えているように感…

業務委託先個人事業主によるセクハラ被害を訴える供述の信用性評価

1.セクハラの立証-供述の信用性評価に係る裁判例を検討する意義 一般論として言うと、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、第三者の目に触れない場所・態様で行われる傾向にあります。そのため、セクハラに関しては、主要な証拠が被害者の供述しかな…

会社は業務委託先である個人事業主に対するセクハラを許さない義務を負う

1.雇用管理上の措置 男女雇用機会均等法11条1項は、 「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることの…

なしくずし的に業務に従事していた場合に雇用契約の成否を考えるうえでの着眼点

1.労働契約の成否は必ずしも明確ではない 民法623条は、 「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。」 と規定しています。つまり、労働契約…

労働契約と業務委託契約の差-事実認定論を意識して契約の法的性質を議論することの重要性

1.労働契約と業務委託契約 労働契約なのか業務委託契約なのかで、働く人の立場は大きく異なってきます。労働契約であれば、労働基準法や労働契約法をはじめ、各種労働関係法令の保護を受けることができます。他方、業務委託契約であれば、契約自由の原則の…

芸能人養成スクールの退学等によりスクール側に発生する平均的損害

1.消費者契約における損害賠償額の制限 消費者契約では、同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超える損害賠償額を予定しても、そのような条項の効力は否定されます(消費者契約法9条1号)。 この条項の適用ができれば、…

芸能人養成スクールの受講契約が消費者契約と認められた例

1.フリーランス(個人事業主)と消費者保護法 フリーランス(個人事業主)が企業から仕事を受注するにあたっては、交渉力の格差から不公平な取引条件を押し付けられがちです。こうした不公平な状況を是正するため、消費者契約法などの各種消費者保護法を適…

業務委託契約の更新拒絶-雇止め法理の類推はありえるか?

1.業務委託契約と労働契約 有期労働契約は、期間の満了により終了するのが原則です。しかし、契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があると認められる場合、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認め…

芸能人の労働者性-出演機会への諾否の自由をどうみるか?

1.労働者性の判断基準 契約当事者の一方が労働者はでない場合、立場の強い側が立場の弱い側に一方的な契約条件を押し付けたとしても、両者間の法律関係は、基本的に契約書に書かれているとおりに規律されます。 立場の弱い側が、こうした状況を打開する方…

業務委託契約で働いているエステシャン等の労働者性

1.エステシャン等の労働者性 このブログでも何度か言及したことがありますが、私の所属している第二東京弁護士会では、厚生労働省からの委託を受けて、フリーランス・トラブル110番という相談事業を実施しています。 フリーランス・トラブル110番【厚生…

期間途中で業務委託契約を解除された業務受託者は、残期間に得られたはずの報酬を請求できるのか?

1.期間途中での業務委託契約の解除 業務委託契約に基づいて働いているフリーランスの方からよく寄せられる相談類型の一つに、取引先から契約を切られたというものがあります。 業務委託契約の多くは、準委任契約という契約類型に該当します(民法656条…

中小事業主の労災の特別加入制度での留意点-事業主の立場で行われる業務は対象外

1.特別加入制度 労働者災害補償保険法には「特別加入」という制度があります。 これは、 「労働者以外の方のうち、業務の実態や、災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人に、一定の要件の下に労災保険に特別に加入…

労働者安全衛生法の保護範囲に労働者以外の者まで含められた例

1.労働安全衛生法 労働安全衛生法という法律があります。これは、 「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画…

配送業務従事者の労働者性が問題になった事案

1.フリーランスの法律問題 第二東京弁護士会では、フリーランス・トラブル110番という事業を行い、フリーランスの方からの法律相談に応じています。 フリーランス・トラブル110番 法律相談は多数の弁護士が持ち回りで担当しています。私も相談担当弁護…

専門的業務における指揮監督関係

1.労働者性の判断基準 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形式的な…

フリーランスの法的保護:業務提供誘引販売取引であることを理由とするクーリングオフの可能性

1.業務提供誘引販売取引 特定商取引法に「業務提供誘引販売取引」という取引類型が規定されています。 これは、 物品の販売・・・又は有償で行う役務の提供・・・の事業であつて、 業務提供利益を収受し得ることをもって相手方を誘引し、 その者と特定負担…