1.偽装請負と一人請負型
労働者性が問題になる事件というと、請負や業務委託の法形式を使いながら、注文者や業務委託者が、請負人や業務受託者に対し、その指揮監督下で働かせて行くといったように、二者間での法律関係を想像する方が多いのではないかと思います。
しかし、労働者性が問題になる事件類型は、これに限られるわけではありません。偽装請負のような三者関係でも問題になります。
偽装請負とは、
「書類上、形式的には請負(委任(準委任)、委託等を含む)契約ですが、実態としては労働者派遣であるもの」
をいいます。
偽装請負の中には幾つか類型がありますが、その中の一つに
一人請負型
というパターンがあります。
これは、
「発注者と受託者の関係を請負契約と偽装した上、更に受託者と労働者の雇用契約も個人事業主という請負契約で偽装し、実態としては、発注者の指示を受けて働いているというパターン」
をいいます。
あなたの使用者はだれですか?偽装請負ってナニ? | 東京労働局
こうした場合、個人事業主は、発注者から指揮監督を受けていたことを立証すれば、労働者性を主張することができます。近時公刊された判例集にも、一人請負型の偽装請負で労働者性が認められた裁判例が掲載されていました。東京地判令5.7.26労働判例ジャーナル144-44電気校ほか1名事件です。
2.電気校ほか1名事件
本件で被告になったのは、
電気工事の請負、設計、施工、工事監理等を目的とする株式会社(被告電気校)
被告電気校からの業務受託者(被告c)
の二名です。
原告になったのは、被告cがハローワークに出していた求人票を見てこれに応募し、「業務委託基本契約書」を取り交わし、現場で被告電気校のfの指示に従い、結線作業などソフトバンク株式会社を発注者とする基地局の保守作業(本件作業)に従事しました。
このような事実関係のもと、原告は、労働力を搾取されたなどと主張し、
主位的に被告らに対して共同不法行為に基づく損害賠償を請求したうえ、
予備的に被告cに対する賃金や残業代やを請求しました。
本件では原告の労働者性が問題になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、これを肯定しました(共同不法行為の成立は否定、賃金請求は一部認容)。
(裁判所の判断)
「原告は、本件契約は労働契約であると主張するので、原告の労働者性について検討する。」
「労基法9条及び労働契約法2条1項によれば、労働者とは、使用者との使用従属関係の下に労務を提供し、その対価として使用者から賃金の支払を受ける者をいうと解されるから、労働者に当たるか否かは、雇用、請負、委任といった法形式のいかんにかかわらず、その実態が使用従属関係の下における労務提供と評価するにふさわしい者であるかどうかによって判断すべきである。」
「そして、実際の使用従属関係の有無については、指揮監督下の労働であるか否か(具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督関係の存否・内容、時間的場所的拘束性の有無・程度、業務提供の代替性の有無)、報酬の労務対償性に加え、事業者性の有無(業務用機材等の機械・器具の負担関係、専属性の程度)、その他諸般の事情を総合的に考慮して判断するのが相当である。」
「本件についてみると、本件契約書の表題は『業務委託契基本約書』とされており、本件契約が委任契約のような形式となっているが、原告は、現場において、被告cとの間で業務委託契約を締結している被告電気校のfから指示を受けて本件作業に従事しており、具体的な仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由はなく、業務遂行上の指揮監督関係があり、時間的場所的拘束性があるといえるから、指揮監督下の労働であると認められる。また、原告の労務の提供に対する対価が払われており、報酬の労務対償性が認められる。これらに加え、本件求人票は労働契約を前提としており、被告cがハローワークとの関係においても本件契約が労働契約であることを前提とする対応をしていることに照らすと、原告は労働者であり、本件契約は労働契約と認められる。」
「本件契約は、上記のとおり労働契約と認められるが、原告と被告cとの間では賃金に関して明示の合意をしたとは認められない。しかしながら、本件求人票には賃金が月額25万円~30万円と記載されており、これと抵触するような合意もされたとは認められないことに照らすと、本件契約における原告の賃金は少なくとも月額25万円と黙示に合意されたと認めるのが相当である。」
「以上によれば,本件契約は賃金月額25万円とする労働契約と認められるから、被告cの未払賃金は26万4050円(=25万円×2-23万5950円)である。」
3.一人請負型偽装請負と派遣元に対する賃金請求
以上のとおり、三者間の法律関係が問題になる局面でも、労働者性の主張は可能です。この場合、この場合、個人事業主は、業務受託者ではなく発注者との関係で指揮監督下に置かれていたことを主張、立証することになります、。
偽装請負というと、派遣先の責任を追及することに目が奪われがちですが、派遣先からの指揮監督を立証することで、派遣元に対して賃金請求が可能になることも、法律構成として意識しておくと良いのではないかと思います。