弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

長年慣れ親しんだ業務からのキャリアを無視した配転

1.キャリアを無視した配転命令 長年同系統の業務に従事していたにもかかわらず、突然畑違いの部署への配転を命じられたと相談を受けることがあります。その仕事でキャリアを築き上げてきたという誇りを傷つけられたという気持ちや、新たな仕事を一から覚え…

アカデミックハラスメント-論文の共著者からの除外

1.アカデミックハラスメント(アカハラ) 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメントに関しては、平成18年10月11日 厚生労働省告示第615号「事業主が職場におけ…

配送業務従事者の労働者性が問題になった事案

1.フリーランスの法律問題 第二東京弁護士会では、フリーランス・トラブル110番という事業を行い、フリーランスの方からの法律相談に応じています。 フリーランス・トラブル110番 法律相談は多数の弁護士が持ち回りで担当しています。私も相談担当弁護…

運転手の労働時間:待機時間は労働時間か?

1.運転手の労働時間のカウント 昨日、運転手の方の車庫(駐車場)~送迎先の移動時間が労働時間に該当するのかという話をしました。 運転手の労働時間:車庫~送迎先への移動時間は労働時間か? - 弁護士 師子角允彬のブログ しかし、運転手の労働時間のカ…

運転手の労働時間:車庫~送迎先への移動時間は労働時間か?

1.通勤時間か労働時間か 通勤時間は原則として労働時間に該当しません。しかし、勤務先営業所と用務先の移動時間は「通常は移動に努めることが求められているのであり、業務から離脱し、自由利用することが認められていないから、自由利用が可能であったと…

シフト制労働者-シフトに入れろと要求できるか?

1.シフトに入れてもらえない問題 シフト制の労働者の脆弱性の一つに、使用者からシフトに入れてもらえなくなることがあります。 現行法制上、稼働しなかった日に対応する賃金は、支払われないのが原則です。例外として、使用者の「責めに帰すべき事由」(…

教師の生徒に対するわいせつ行為に対する処分量定-退職手当全部不支給処分が適法とされた例

1.教師のわいせつ行為に対する処分量定 教師のわいせつ行為に対する処分量定は、かなり厳しいものになっています。 例えば、東京都教育委員会の 「教職員の主な非行に対する標準的な処分量定」 では、 「同意の有無を問わず、直接陰部、乳房、でん部等を触…

公務員の懲戒処分は審査請求期間に注意-病気でも救済はない

1.審査請求前置 公務員が懲戒処分の効力を争う場合、裁判所に訴訟を提起するに先立って、審査請求という行政不服申立をしておく必要があります。 これについては、国家公務員に関しては、国家公務員法92条の2が、 「第八十九条第一項に規定する処分であ…

専門的業務における指揮監督関係

1.労働者性の判断基準 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形式的な…

他社就労して解雇前と同水準以上の給与を得ても就労意思(労務提供の意思)が否定されなかった例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

「区切りのよいところで身を引くことを考えます」等の発言がありながら合意退職が否定された例

1.退職を承諾したかのような言動 以前、退職勧奨を受けた時に、本当は退職したくないのに、その場の雰囲気にのまれて「分かりました。」などと回答してしまう方がいることを、お話しました。 退職勧奨を受けての「分かりました」という発言・転職活動があ…

セクハラ被害者から席替えを求められたら真摯な対応が必要

1.セクハラ被害者による席替えの要請 厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(最終改正:令和2年1月15日第6号)は、職場におけるセクシュアルハラスメントが生じ…

組織改編によるポジション(地位)の消滅を理由とする解雇が否定された例

1.ポジション(地位)の消滅を理由とする解雇 特定の地位に就くことを前提として、高待遇で採用されてきた労働者に対し、組織改編に伴う地位の消滅を理由に解雇することが許容されるのかという問題があります。 特定の地位が念頭に置かれていようが、待遇…

退職勧奨を受けての「分かりました」という発言・転職活動があっても合意退職が否定された例

1.退職勧奨を受けた時の対応 退職勧奨を受けたとしても、会社を辞める意思がないのであれば、応じる必要はありません。 しかし、自分が退職勧奨を受けたという事実に衝撃を受け、不本意ながらも、これに応じるかのような回答をしてしまったり、転職活動な…

混ぜ物入りの手当を固定残業代とする合意の効力

1.固定残業代の有効要件 固定残業代の有効性について、最高裁は主に二つの要件を定立しています。 一つは判別要件です。固定残業代が有効といえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とが判別できる必要があります…

不妊治療を考えて会社を辞めるのは給料泥棒なのか?

1.退職妨害 昨今、人口が減少傾向にあるとともに、生産年齢人口が減少していることにより、人手不足が深刻化していると言われています。 中小企業庁:2020年版「小規模企業白書」 第1部第1章第3節 人手不足の状況と雇用環境 こうした世相を反映してか、会…

趣旨から考える固定残業代の有効性-法定労働時間を超過した所定労働時間と対価型固定残業代の組み合わせは問題あり

1.趣旨から考える固定残業代の有効要件 固定残業代の有効性について、最高裁は主に二つの要件を定立しています。 一つは判別要件です。固定残業代が有効といえるためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外の割増賃金に当たる部分とが判別できる…

表見代理の適用のハードルは高い-雇用契約締結の場面での表見代理の否定例

1.表見代理 民法109条1項は、 「第三者に対して他人に代理権を与えた旨を表示した者は、その代理権の範囲内においてその他人が第三者との間でした行為について、その責任を負う。ただし、第三者が、その他人が代理権を与えられていないことを知り、又…

フリーランスの法的保護:業務提供誘引販売取引であることを理由とするクーリングオフの可能性

1.業務提供誘引販売取引 特定商取引法に「業務提供誘引販売取引」という取引類型が規定されています。 これは、 物品の販売・・・又は有償で行う役務の提供・・・の事業であつて、 業務提供利益を収受し得ることをもって相手方を誘引し、 その者と特定負担…

違法解雇の争い方-再就職が困難でも不法行為構成は金額が伸びない

1.違法解雇の争い方 違法解雇には二通りの争い方があります。 一つは、地位確認請求と未払賃金請求を併合する方法です。解雇が違法無効である場合、労働契約上の地位は依然として存続していることになります。契約が存続しているにも関わらず労務の提供が…

身に覚えのない非違行為で責められることは大きな心理的負荷を生じさせる

1.心理的負荷による精神障害の認定基準 精神障害の発症が労働災害(労災)に該当するのかを判断する基準として、平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4…

60時間以上の残業に留まっていても時間外労働が有意な心理的負荷として認定された例

1.心理的負荷による精神障害の認定基準 精神障害の発症が労働災害に該当するのか(業務に起因するのか)を判断する基準として、平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について(最終改正:令和2年8月21日 基…

市民感覚を理由に、特定の属性を有する職員を、市民との接触の少ない職場に配置することは許されるか?

1.差別と区別 憲法14条1項は、 「すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」 と規定しています。 この条文に基づいて、人は国から差別されないことを…

ハラスメントが与える心理的負荷は、なかなか強にはならない

1.心理的負荷による精神障害の認定基準 精神障害の発症が労働災害(労災)に該当するのかを判断する基準として、平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4…

運転代行業に従事するドライバーの労働者性

1.労働者か個人事業主かが微妙な事案 第二東京弁護士会では、フリーランス・トラブル110番という事業を行い、フリーランスの方からの法律相談に応じています。 フリーランス・トラブル110番 法律相談は多数の弁護士が持ち回りで担当しています。私も相…

いじめを隠蔽し、校長の命令に反して柔道部加害生徒を近畿大会に出場させた教師に対する懲戒処分の量定

1.最高裁と高裁で判断が分かれた事案 実務上、最高裁と高裁で判断が分かれることは、殆どありません。 司法統計の一部である「民事・行政編 令和元年度 55 上告審訴訟既済事件数 事件の種類及び終局区分別 最高裁判所」という資料によると、令和元年度に…

死亡事案は直後の供述の保全が大事(死亡直後は感謝していても、人は手のひらを返す)

1.当事者が死亡している事件処理の困難性 仕事をしている中で精神的負荷がかかり、メンタルを病んで自殺してしまう人がいます。こうした事件で勤務先の責任を問うことは、必ずしも容易ではありません。 最大の理由は、事情を最も良く知っている本人から事…

インセンティブを加算しなければ最低賃金を上回らない賃金体系の適法性

1.最低賃金 最低賃金法4条1項は、 「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。」 と規定しています。 この規定との関係で、基本給のみでは最低賃金を下回るものの、インセンティブを考慮すれ…

固定残業代-調整手当では何のことか分からない

1.さまざまな名称の固定残業代 賃金額を多く見せかけようとするためか、固定残業代に、一見そうとは分からない名称が付けられていることがあります。このように名称から趣旨を読み取りにくい手当が残業代として扱われている場合、後々、労使間でトラブルに…

雇止め-指導・注意されていなかった事実はそれほど恐れるに足りない

1.問題視されていなかった事実の蒸し返し 労働者側に立って解雇や雇止めの効力を争うと、大抵の場合、使用者側から延々と「過去にこういう問題があった」と数多くの事実を列挙されます。 しかし、解雇・雇止めの意思決定に本質的な影響を与えている事実は…