弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

運転手の労働時間:待機時間は労働時間か?

1.運転手の労働時間のカウント

 昨日、運転手の方の車庫(駐車場)~送迎先の移動時間が労働時間に該当するのかという話をしました。

運転手の労働時間:車庫~送迎先への移動時間は労働時間か? - 弁護士 師子角允彬のブログ

 しかし、運転手の労働時間のカウントで揉めやすいのは、これだけではありません。対象者を送って行って次の場所に移動するまでの待機時間も、しばしば労働時間への該当性が争われます。

 昨日ご紹介した、東京地判令2.11.6労働判例ジャーナル110-44 ラッキー事件は、この論点との関係でも、有益な判示をしています。

2.ラッキー事件

 本件は、いわゆる残業代請求事件です。

 本件で被告になったのは、不動産売買及び仲介等を目的とする株式会社らです(被告会社)。

 原告になったのは、被告C(被告会社において会長と称されていた者)の専属運転手として稼働していた方です。被告を退職した後、時間外勤務手当等の支払いを求める訴えを提起しました。

 本件の争点は多岐に渡りますが、その中の一つに労働時間の問題があります。

 被告Cを送り先から次の送り先に送っていくまでの待機時間について、原告は、

「待機時間中に被告Cからの指示があれば、その指示に従って直ちに被告Cが指定する場所に向かわなければならなかった。しかも、被告Cは、迎えの時刻を具体的に指定することはなかったから、原告は、本件車両を離れることができず、常にスマートフォンで被告Cからの指示があったかどうかを確認しなければならない状態にあった。」

と主張し、待機時間も労働時間に該当すると主張しました。

 これに対し、被告会社は、

「原告は、通常、午前10時までには被告Cを被告会社に送り届けており、午前10時から午後1時までは、被告Cから特段の指示がない限り、原告の休憩時間とされ、原告は、原告の居宅(以下『原告宅』という。)で自由に過ごしていた。したがって、午前10時から午後1時までの3時間は、被告Cから特段の指示があった場合を除いて被告会社の指揮命令下にはなかった。」

「また、被告Cは、夜間(夕刻以降)は、原告の送迎によって目的地へ到着した際には、次の予定が不明であるといった事情がない限り、原告に対し、次に被告Cの送迎に来るべき時刻と場所を告げた上で、それまでの間は休憩するよう指示していた。そして、原告は、実際に、被告Cから同指示を受けたときは、次の送迎までの時刻は自由に過ごしていた。被告Cが同指示をした場合は、原告は、被告会社の指揮命令下にはなかった。」

と主張し、待機時間の労働時間性を争いました。

 しかし、裁判所は、次のとおり判示し、待機時間の大部分について、労働時間性を認めました。

(裁判所の判断)

「まず、原告が本件車両内で待機していた場合については、被告Cから各送迎先での迎えの時刻について指示されることはほとんどなく、また、その指示があったとしても、指示の内容が前倒しに変更されることもそれなりにあり・・・、原告としてはいつ被告Cから迎えの指示がされるか明らかではないことが常態化したといえる。そして、原告は、このような被告Cの指示に対応するために、本件車両を駐車場に駐車することなく、路上等に駐停車して本件車両内で待機せざるを得なかった・・・。このような状況であったことからすれば、原告が本件車両内で待機していた場合については、待機時間の長短にかかわらず、また、被告Cから迎えの時刻について指示があったときも含めて、原告について待機時間の自由な利用が保障されていたとはいい難く、原告は被告会社の指揮命令下にあったというべきである。

「よって、原告が本件車両内で待機していた時間については全て労働時間に当たるといえる。」

「次に、原告が本件車両外で待機していた場合については、原告は、被告Cを被告事務所に送った後、本件駐車場に本件車両を駐車し、その後は、被告事務所に被告Cを迎えに行くまでは、本件居宅等で待機するなどしていたところ・・・、被告Cから事前又は待機開始後速やかに迎えの時刻について指示があり、その時刻に被告Cを迎えに行けば足りることが多かったといえる・・・。もっとも、事前又は待機開始後速やかに同指示がないことも相当程度あったほか、同指示があったとしても、指示の内容が前倒しに変更されることもそれなりにあり、いつ被告Cから迎え時刻についての指示がされるか明らかではないことも一定程度あったといえる・・・。」

「そうすると、原告が本件車両外で待機していた時間については、その一部について、待機時間の自由な利用が保障され、被告会社の指揮命令下から離れていたというべきであり、原告が本件車両外で待機していた時間の長さ・・・も勘案すると、各稼働日ごとに1時間は労働時間に当たらない時間があったと認めるのが相当である。

3.運転手の方の残業代は跳ねやすい

 運転手の方で、車庫~送迎先への移動時間や待機時間を、労働時間としてカウントしてもらえていない方は、割と良く目にします。

 こうした場合、移動時間や待機時間の労働時間性が認められると、残業代は跳ねあがる傾向にあります。本件でも、割増賃金部分だけで896万3920円もの金額が認められています。同額の付加金請求も認められているため、遅延損害金を合わせると、認容額は2000万円近くにまで及びます。

 移動時間や待機時間を労働時間としてカウントしない扱いがとられていることに疑問をお感じの運転手の方は、これらを労働時間としてカウントすると、どれくらいの時間外勤務手当等を請求できるのかを、調べてみても良いのではないかと思います。