弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧

違法解雇で慰謝料請求が認められる場面-懲戒解雇辞令の社内掲示

1.違法解雇と慰謝料請求 地位確認訴訟で解雇が違法無効であることが認定された場合、解雇されて以降の未払賃金の支払を請求することができます。 しかし、これに加えて、当然に慰謝料の請求までが認められるわけではありません。慰謝料を請求するためには…

主治医に診断書を求めるときには、就業制限を要するかどうかを明確に

1.診断書の曖昧な記載 医師に診断書の作成を求めると、「〇日間の安静加療を要す」といった記載をされることがあります。こうした曖昧な記載は、結局、(肉体労働でなければ)働いていいのか/働いてはいけないのかが判断できず、労使間でトラブルを発生さ…

権利行使(残業代請求)の報復としての整理解雇が否定された例

1.訴訟提起したことへの報復 憲法32条は、 「何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。」 と規定しています。裁判を受ける権利は基本的人権の一つであり、訴訟提起したことを理由に不利益な処分を科することは許されません。これが認められ…

整理解雇に仮託した能力不足解雇であること看破された例

1.解雇の違い 同じく解雇とはいっても、能力不足を理由とする解雇と整理解雇とでは、ポイントとなる事実が大きく異なります。 能力不足(勤務成績不良)を理由とする解雇の有効性は、 「①使用者と当該労働者との労働契約上、その労働者に要求される職務の…

労使紛争と名誉毀損-対抗言論をとることは許されるのか?

1.労使紛争と名誉毀損 労使紛争の場面で、一方当事者が第三者に対して自分の正当性を説明して回っていることがあります。 紛争に勝つには裁判所の理解を得ることが重要です。裁判外の第三者の理解を得たところで、訴訟の勝敗には何の関係もありません。ま…

違法な退職勧奨の諸類型(法的に誤っていることの告知・退職処理の強行・第三者への退職したことの周知)

1.退職勧奨 退職勧奨とは、 「辞職を求める使用者の行為、あるいは、使用者による合意解約の申込みに対する承諾を勧める行為」 をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕540頁参照)。 退職勧奨を行う…

労働者側で「退職合意がなされたにもかかわらず・・・」という文書を発出しても、合意退職を否定できた例

1.退職意思の慎重な認定 以前、 合意退職の争い方-退職の意思表示の慎重な認定 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この中で、東京地裁労働部に、退職の意思表示を厳格に認定する傾向があることを、お話させて頂きました。 そうした観…

顧客奪取を防ぐための使用者側の過剰反応が藪蛇となった例

1.使用者側による必要以上に厳しい対応 労働者の方から法律相談を受けていると、使用者側が労働者側に対して必要以上に厳しい対応をとっている場面を目にすることがあります。 しかし、自社の従業員を殊更に貶めることは、往々にして良い結果には繋がって…

配転命令と抑うつ状態(急性ストレス性反応)による就労不能との間に相当因果関係が認められた事例

1.配転命令による心理的負荷 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 …

要介護状態・病気にない高齢で独居の母の様子を見られなくなることを理由に配転を断れるか?

1.配転と「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定す…

合意退職の争い方-就労意思の表示(労務提供の意思表示)は忘れずに

1.未払賃金請求が認められるのは 解雇や合意退職の無効を理由とする労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求が認められた場合、普通は、解雇・合意退職の時点に遡った未払賃金の請求も認められます。 しかし、地位確認と未払賃金請求の勝訴要件…

合意退職の争い方-退職の意思表示の慎重な認定

1.合意退職の争い方 労働契約法上、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定されています(労働契約法16条) しかし、合意退職には、労働契約法上、特…

医師の配転-専門医としてのキャリアの断絶は著しい不利益ではないのか?

1.配転のルール 配転命令の適法性について、最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであるが、転勤、特に転居を伴う転勤は…

医師の配転-内科間の配転(循環器内科部長→健診部長)は許されるのか?

1.職種限定合意 職種限定合意とは「労働契約において、労働者を一定の職種に限定して配置する(したがって、当該職種以外の職種には一切就かせない)旨の使用者と労働者との合意」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院…

謝罪・反省が欠けている労働者への懲戒解雇が否定された例

1.改善可能性 解雇の可否を論じる場面で、しばしば改善可能性という概念が問題になります。この概念は、 改善可能性があるのに解雇することは不当だ/改善可能性がない以上解雇もやむを得ない といった使われ方をします。 改善可能性は、規律違反行為を理…

犯人かと問われて名乗り出なかったことを理由に懲戒解雇できるか?

1.尋ねられて名乗り出ないリスク 犯罪の場合、犯人かと問われても、名乗り出る義務があるわけではありません。 例えば、刑事訴訟法198条2項は、被疑者に 「自己の意思に反して供述をする必要がない」 権利を認めています。 また、刑事訴訟法311条は…

内部告発と懲戒処分の有効性-告発目的の公益性と「不正の目的でないこと」

1.内部告発者の保護 公益通報者保護法は、公益通報を行ったことによる解雇を禁止しています(公益通報者保護法3条)。 しかし、マスコミ等の外部機関への通報が、解雇禁止の対象となる公益通報に該当するためには、 通報対象事実が生じ、又はまさに生じよ…

公務員の懲戒処分-情報漏洩で懲戒免職された公務員について、退職手当も全額不支給とされた例

1.退職手当支給制限処分 懲戒免職を受けて退職した国家公務員に対しては、退職手当の全部又は一部を支給しない処分をするこことが認められています(国家公務員退職手当法12条1項) この条文の運用は、非違の発生を抑止するという制度目的に留意し、全…

公務員の懲戒処分-弁明手続は重要な情状事実の発覚以前のもので足りるか?

1.公務員の懲戒処分 国家公務員法にしても、地方公務員法にしても、懲戒処分を行うにあたっての手続を法定しているわけではありません。処分に際して処分事由を記載した説明書の交付が必要とされているだけです(国家公務員法89条1項、49条1項参照)…

情報漏洩で懲戒免職になった例

1.情報漏洩の処分量定 公務員の懲戒処分の効力を争う事件で、情報漏洩についての処分量定が問題になることは少なくありません。しかし、対象となる情報の性質や量、実際に外部への漏洩が生じたのかなどの事実関係が多岐に渡っているため、何を・どこまでや…

定期昇給に関する労使慣行の成立が認められた例

1.労使慣行の主張 長年に渡って維持されてきた労働者にとって好ましい事実状態が使用者から変更されそうになったとき、労使慣行が成立しているという反論を提示することがあります。 これは、 「法令中の公の秩序に関しない規定と異なる慣習がある場合にお…

雇止め-労働契約法19条1号類型(期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できる類型)への該当性が認められた例

1.雇止めについての法規制 有期労働契約において、契約期間満了に際し、使用者から次期の契約更新を拒絶することを「雇止め」といいます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会『2018年 労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、第1版、平30〕38…

事業譲渡に伴う労働条件の不利益変更に対抗するための法律構成

1.事業譲渡と労働契約 一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む)を譲渡することを、事業譲渡といいます。 ある会社が別の会社に対して事業譲渡をすることは、日常的に行われていま…

指導改善研修期間の約半分を残して改善の見込みがないと意見を述べることが許されるのか?

1.期間途中での見切り 公立学校の教員は、地方公務員ではあるものの、「教育公務員特例法」という特殊なルールが適用されます。 その中の一つに、「指導改善研修」という仕組みがあります。 これは、児童等に対する指導が不適切であると認定された教諭等に…

安全配慮義務違反の前提となる予見可能性-抽象的な危惧があれば足りるとされた例(じん肺・石綿関連疾患以外)

1.予見可能性 不法行為構成であれ、安全配慮義務違反の構成であれ、損害賠償を請求するにあたっては、 加害行為が故意や過失に基づいていること、 加害行為と損害との間に相当因果関係があること、 が必要とされています。 この「過失」や「相当因果関係」…

精神障害の業務起因性を判断するにあたり、6か月以上前の出来事まで考慮された例

1.精神障害の労災認定基準 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精…

情報漏洩(スロットの当たり台に関する情報の漏洩)は、なぜ発覚したのか?

1.情報漏洩は、なぜ発覚したのか 昨日、情報漏洩を理由とする懲戒解雇の効力が問題になった事例として、東京地判令3.3.10労働判例ジャーナル113-58 遊楽事件という裁判例をご紹介させて頂きました。この事案では、パチンコホールの経営を主要…

情報漏洩での懲戒解雇の有効例-スロットの設定に関する情報の外部への漏洩

1.情報漏洩と懲戒の処分量定 企業秘密の漏洩は、大抵の就業規則で懲戒事由として規定されています。しかし、漏洩される情報の内容や漏洩行為の態様が多岐に渡ることから、その処分量定は軽微なものから重大なものまで幅広く分布しています。この処分量定の…

顧客・利用者から理不尽に絡まれても、やり返さない方がいい?

1.カスタマーハラスメント(顧客等からの著しい迷惑行為) 近時、カスタマーハラスメントという言葉が社会全体で認識されるようになりつつあります。これは顧客等からの著しい迷惑行為を意味する言葉です。 令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号「事業…