弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

情報漏洩(スロットの当たり台に関する情報の漏洩)は、なぜ発覚したのか?

1.情報漏洩は、なぜ発覚したのか

 昨日、情報漏洩を理由とする懲戒解雇の効力が問題になった事例として、東京地判令3.3.10労働判例ジャーナル113-58 遊楽事件という裁判例をご紹介させて頂きました。この事案では、パチンコホールの経営を主要な業務とする株式会社で店長として勤務していた労働者が、当たりが出る確率が高い設定のスロット台に関する情報を外部に漏洩したのかどうかが問題になりました。

 原告労働者は否認しましたが、裁判所は情報漏洩の事実を認定したうえ、被告会社の行った懲戒解雇の効力を認めました。

 しかし、店のどこに当たり台が設定されているのかは、極めて単純な情報です。外部に漏洩するにしても、記録媒体に保存する必要はありませんし、メモを作ったり、プリントアウトしたりする必要もありません。単純に記憶して口頭で伝えれば目的を達成することができます。

 一見すると、こうした情報の漏洩行為が発覚したり、使用者側から立証されたりすることは、なさそうにも思われます。

 それでは、本件の裁判所は、どのような根拠のもとで、情報漏洩の事実を認定したのでしょうか?

 この問題について、裁判所は、次のとおり判示しています。

2.裁判所の判断

「本件店舗には、平成29年12月頃から、開店直後より設定6の台で遊技する不審な客がみられるようになり、Eらによる本格的な調査が開始された平成30年7月15日以降は、連日のように開店後まもなく設定6の台に着席して長時間遊技する特定の客がみられたこと、上記客の中には、開店前の整理券配布人数が数名(うち20円スロットで遊技する者の割合は統計的に約33%)であるのに、開店後まもなく218台ある20円スロット台のうち1台しかない設定6の台を選択して遊技する例や、Eらが島図と異なる設定を入れたにもかかわらず、開店後まもなく島図上設定6とされている台で遊技を開始し、その後も長時間遊技する例があったことが認められるところ、上記のような事態が偶然生じることは確率的に見て通常考え難く、本件店舗の設定情報が、何らかの方法で上記特定の客らに漏えいしていたことが推認される。

「さらに、前記認定のとおり、上記不審な客のうちの一人であるHは、清永弁護士に架電した際、Jが設定情報を入手して、自分とKがそれに基づいて遊技したことを認める発言をしている。これに対し、Hは、当法廷において、上記発言が真実でなかった旨証言しているが、仮に設定情報を入手して遊技した事実がないのであれば、自身が法的責任を負うリスクを冒してまで上記のような作り話をする理由はないことや、同人が翌日に清永弁護士に送信した前記認定にかかるメッセージの内容に照らして、採用することができない。」

「以上の事実に照らせば、少なくとも平成30年7月15日以降、本件店舗の設定情報がHらに漏えいしていたと認めるのが相当である。」

(中略)

「本件当時、本件店舗の設定情報を知り得たのは、原告、E、D、F及びGの5名のみであったところ、少なくとも平成30年7月15日以降、E、D、F及びGについては、それぞれ前日の遅番調整者ないし当日の早番調整者でなく設定情報を知り得ない日にも上記不審な客らが来店しており、情報漏えいに関与していないことがうかがわれる。これに対し、原告は、上記不審な客らが来店した全ての日に設定情報を知り得たところ、原告は、社内通達で開店直後に設定6の台に直行する者がいないかを確認し、これを発見した場合には本部に連絡するなど適切に対処することとされていたにもかかわらず、少なくとも平成30年7月15日以降、度々上記のような不審な客が現れていたのに対し、具体的な調査をするなどしておらず、逆にEらが島図上設定6の台に設定1や2を入れるようになると、島図通り設定を入れているか確認するようになり、不自然である。また、前記認定のとおり、打ち子とされる客のうちH、J及びKは、原告と同じ群馬県邑楽郡の出身ないし居住歴を有し、原告と年齢も近いことから、原告とHらとの間に個人的なつながりがあった可能性が認められるところ、同地から70km程度離れた本件店舗を度々訪れていたというのも、単なる偶然とは考え難い。さらに、前記認定のとおり、Hは、清永弁護士に架電した際、Jから『店長が容認しているので、捕まることはない。』と誘われた旨述べているところ、同事実も情報漏えいと原告との結びつきを示す事情ということができる。

「以上に照らせば、本件店舗の設定情報をHらに漏えいしたのが原告であることが推認される。」

3.非違行為に発覚はつきもの

 本件では、

会社のルールに反して不審な台の選び方をする客を放置していたこと、

ダミーの島図に食いついてしまったこと、

打ち子から使用者側の弁護士に対して情報提供がされてしまったこと、

などから原告の犯人性が認定されることになりました。

 不審なことが続けば会社は目星をつけて証拠固めをしてきます。

 また、複数人での非違行為では、常に裏切りの危険もつきまといます。刑事事件で共犯者供述の信用性を慎重に検討しなければならないのと同じく、非違行為の共同者には、自分の責任を軽くしたいとの思いから、使用者側に情報提供したり迎合したりするようになってしまうことがままみられみられます。

 そうそう白は切りとおせるものでもありません。やはり、故意による外部への情報漏洩など、しないに越したことはありません。