弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2022-01-01から1年間の記事一覧

長期間かつ多数に及ぶパワーハラスメントを理由とする懲戒免職処分が取り消された例

1.パワーハラスメントによる懲戒処分 人事院総長発 平成12年3月31日職職-68「懲戒処分の指針について」(最終改正:令和2年4月1日職審-131)は、パワーハラスメントに関する懲戒処分の標準例を、次のとおり定めています。 「パワー・ハラス…

外国人労働者の解雇事件-文化的背景の差異は解雇権行使を制限する理由になるか?

1.文化的背景の差 当たり前のことですが、人種・民族は、それぞれ異なる文化的背景を持っています。 日本人が外国に行って働くにあたり、当該国の雇用慣行への適応に苦労する話はよく聞きます。外国人労働者が日本の雇用慣行に馴染めずに苦労している話も…

裁判に勝つための方策-反省すべきか、反省しないべきかⅡ

1.無謬性をとるか、改善可能性をとるか 解雇事件で使用者から解雇事由を主張された時、大雑把に言って二通りの戦略があります。 一つは、何ら問題のない行為だと押し切ることです。 もう一つは、確かに非がないとは言わないが、解雇されるほどの事由ではな…

休業手当の崩し方-他の従業員には在宅でも処理可能な業務が割り振られていないか?

1.休業手当分しか賃金を払わないと言われたら・・・ 労働基準法26条は、 「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」 と規定しています…

解雇されるかも知れないというプレッシャーの中で行った賃金減額同意の効力が否定された例

1.勤務成績不良等を理由に賃金減額の提案を受けた労働者の立場 勤務成績不良等を理由に賃金減額の提案を受けた労働者は、難しい判断を迫られます。断ると賃金と提供された労務の水準が見合っていないとして解雇される危険があるからです。裁判所は、賃金減…

安全配慮義務違反を問う上での予見可能性-同種事故の認識は現場責任者レベルの認識で足りるのか?

1.安全配慮義務と予見可能性 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 と規定しています。この義務は一般に「安全配慮義務」と呼ばれていま…

安全配慮義務違反を追及するポイント-過去に同種の事故が起きていないか?

1.安全配慮義務違反か? 単なる労働者の不注意か? 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 と規定しています。この義務は一般に「安全配…

公務起因認定を受けた日、自殺未遂をした日がパワハラ・セクハラ慰謝料請求権の消滅時効起算点とされた例

1.不法行為による損害賠償請求権の起算点 不法行為による損害賠償の請求権は、 「被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき」 は時効によって消滅するとされています(民法724条1項)。 「損害・・・を知った時」…

ハラスメント被害者に対する配転・配置換えが安全配慮義務(職場環境整備義務)違反とされた例

1.ハラスメント被害者は踏んだり蹴ったり(被害者側の配転) ハラスメント被害を申告すると、しばしば被害者と行為者とを引き離すための配転が行われます。この引き離しのための配転自体は違法・不当なものではありません。 令和2年厚生労働省告示第5号…

交際していたわけでもない上司から誘われて行った忘年会二次会は職務関連性あり

1.忘年会とセクシュアルハラスメント セクシュアルハラスメント(セクハラ)は忘年会の場など、社屋の外で行われることも珍しくありません。 そのため、平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管…

新人指導とパワハラ

1.新人に対して行われるパワーハラスメント 職場のパワーハラスメントに関して相談を寄せられる方は、一定の社会人経験、業界経験を積んだ方が多いように思います。個人的経験の範疇で言うと、新人の方からパワーハラスメントの相談を受けることも、なくは…

残業代請求-「能率が悪いから残業していた」という主張に対する反論例、反論の分量

1.能率が悪いから残業をしていた 残業代を請求する訴訟の中で、使用者側から「能率が悪いから残業をしていたのだから、残業代は払わない」と主張されることがあります。 残業代(時間外勤務手当)を請求するために必要なのは、時間外労働を行った具体的事…

賃金から一方的に控除された交通事故の損害賠償金-退職時に控除された賃金の支払を求めることはできないか?

1.労働者が社用車の運転中に起こした交通事故 労働問題に関する相談の中で比較的多い類型の一つに、社用車を運転中に交通事故を起こしてしまったというものがあります。使用者から車両の修理費等の賠償を求められているけれども、応じなければならないのか…

事業場外みなし労働時間制の適用の否定例-タイムカードで労働時間が計測されている場合

1.事業場外みなし労働時間性 労働基準法38条の2は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労…

明示の命令がなくても早出残業の立証が認められた例-看護師&電子カルテ

1.早出残業の認定は厳しい タイムカードで労働時間が記録されている場合、終業時刻は基本的にはタイムカードの打刻時間によって認定されます。しかし、始業時刻の場合、所定の始業時刻前にタイムカードが打刻されていた場合であっても、打刻時刻から労働時…

配転と介護・育児

1.介護・育児の負担を抱えている労働者への配転命令 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定する…

過半数代表者の選出手続-各候補者の得票数の開示は必要か?

1.過半数代表者 事業場の労働者の過半数を代表する者を「過半数代表者」といいます。 過半数代表者は、労働基準法上、様々な役割を与えられています。 例えば、労働基準法36条1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があ…

反省文の提出を命じられた場合に、反省の対象事実を明らかにするように求めることはできるのか?

1.対象事実の特定 懲戒処分を行うにあたり、 「被処分者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることは、就業規則等にその旨の規定がない場合でも、事実関係が明白で疑いの余地がないなど特段の事情がない限り、懲戒処分の有効要件である」 と解されていま…

業務の拒否が解雇理由にならないとされた例

1.業務命令違反・業務拒否 解雇理由には様々な類型がありますが、解雇に関する相談を受けていて「危ないな」と思う類型の一つに業務拒否があります。 なぜ危ないのかというと、解雇の効力を判断して行くにあたっては、「改善の可能性」という概念が重要に…

解雇の違法無効で慰謝料が認められやすい類型-大学教授のケース

1.解雇の違法無効-地位確認請求に併合して損害賠償(慰謝料)を請求できる場合 解雇が違法無効であるとして、労働契約上の地位の確認を求めるにあたり、 違法無効な解雇権の行使を受けて、精神的な苦痛を被った、 と主張し、不法行為(民法709条)に基…

解雇無効の理由として、改めなければ解雇を検討するという具体的な指摘・指導の欠如が指摘された例

1.改善の機会の付与 勤務成績・態度の不良を理由とする解雇の効力を判断するにあたっては、 「①使用者と当該労働者との労働契約上、その労働者に要求される職務の能力・勤務態度がどの程度のものか、②勤務成績、勤務態度の不良はどの程度か、③指導による改…

行政措置要求申立書を起案する上での留意点-断定調で書くこと

1.行政措置要求 公務員特有の制度として「行政措置要求」という仕組みがあります。 これは、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われ…

労働時間管理をしていなかった会社による欠勤控除の主張が否定された例

1.残業代請求に対するカウンターとしての欠勤控除 タイムカード等によって適切に労働時間が管理できていない会社に対して残業代を請求するにあたり、時間外労働を行ったことは、パソコンのログイン・ログオフの時刻や、メールの送信記録、カードキーによる…

有期契約労働者の無期契約に移行してもらうことに向けられた期待と雇止め法理(続)

1.「更新限度条項付き有期契約⇒無期契約」型の人材登用の仕組み 大学教員が典型ですが、更新限度条項付きの有期契約を何回か更新し、更新限度内に適性や能力を評価されると無期契約を結んでもらえるという人材登用の仕組みがあります。 昨日の記事でも書い…

有期契約の大学講師の無期契約に移行してもらうことに向けられた期待を雇止め法理で救済できるか?

1.大学講師の特殊性と雇止め法理 大学講師の方は、任期制のもと、有期の労働契約を交わして働いている方が少なくありません。こうした方の多くは、好んで有期契約を結んでいるというよりも、無期契約に移行してもらうことを期待しながら働いています。 こ…

大学非常勤講師の労働者性が否定された例

1.大学非常勤講師 大学非常勤講師の方は、不安定な働き方を強いられている例が少なくありません。 大学との間で交わされている労働契約は、雇用期間が細分化されていたり、賃金が極端に低かったりすることが多くみられます。 それでも、労働契約が結ばれて…

部下の多さでは管理監督者かどうかは決まらない-従業員数20名の会社で8名の部下を有する地位にあっても管理監督者性が否定された例

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

管理監督者に相応しい賃金-各手当の性質の分析が重要(賃金月額72万円・従業員中2位でも待遇が否定された例)

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

会社経営者が解雇と辞職の区別さえ知らないのは不合理であるとされた例

1.解雇か辞職か 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。一般に解雇権濫用法理と言われるもので、この条文により、解雇…

形だけ労働契約書があっても労働者ではないとされた例

1.家族経営の法人・給与名目での金銭の交付 家族経営の法人や会社では、身内を役員や従業員にして、役員報酬や賃金の名目で金銭を支給している例が、しばしば見受けられます。家族関係が円満なときはいいのですが、ひとたび関係が険悪になると、法人や会社…