弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

家族宛ての帰宅メールに基づいた労働時間立証が認められた例

1.労働時間の立証手段 労働時間の立証手段となる証拠には、 機械的正確性があり、成立に使用者が関与していて業務関連性も明白な証拠 成立に使用者が関与していて業務関連性は明白であるが、機械的正確性のない証拠、 機械的正確性はあるが業務関連性が明…

不向きな業務への片道切符-無理なら戻ってもいいという約束を反故にして逃げ道を塞いでしまうことの持つ心理的負荷

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

人材不足を背景とする適材適所ではない異動後に発症した精神障害に労災が認められた例

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

事業場外労働のみなし労働時間制の適用に雇用契約書や就業規則での定めは必要ないのか?

1.事業場外労働のみなし労働時間制 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するために…

残業代請求の可能性-システム導入によって、事業場外労働のみなし労働時間制が適用できなくなった例

1.導入時に適法だったら、その後もOK? 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行する…

タイムカードの文書提出命令-信用性の欠如は必要性を否定するか?

1.時間外勤務手当等の請求(残業代請求)における文書提出命令 実体的真実を解明するために必要な文書(書証)がある場合、民事訴訟の当事者は、裁判所を通じ、所持者に文書の提出を求めることができます。所持者が任意に文書を提出してくれない場合、当事…

中退共の中抜き合意の効力

1.中退共(中小企業退職金共済) 中退共(中小企業退職金共済)という仕組みがあります。 これは、中小企業退職金共済法に根拠があり、 事業主が独立行政法人勤労者退職金共済機構(機構)と退職金共済契約を結ぶ、 事業主が毎月の掛金を金融機関を通じて…

合意退職・解雇の効力を争っているうちに労働者の就労を前提としない組織運営が定着したことを理由に配転できるのか?

1.退職の効力を争うための時間に起因する問題 合意退職の効力を争うにしても、解雇の効力を争うにしても、訴訟で一定の判断を得るためにはかなりの時間がかかります。 最高裁判所が令和3年7月10日に公表した 裁判の迅速化に係る検証結果の公表(第9回…

民族的出自等に関わる差別的思想が放置されることがない職場において就労する人格的利益

1.増える外国人労働者 外国人労働者は、近年、爆発的に増えています。 厚生労働省の資料によると、平成20年(2008年)に486,398人であった外国人労働者は、年々増加の一途を辿り、令和4年(2022年)10月末日時点では、1,822,7…

在職中の係争-使用者が優越的地位を利用して労働者の訴訟提起や訴訟追行を抑圧することは許されない

1.請求行為、訴訟提起に対する当てつけ ハラスメントの被害に遭った労働者が、在職中に、勤務先に対して損害賠償を請求すると、有形・無形の嫌がらせを受けることがあります。 こうした嫌がらせは、通常、権利行使とは関係のない体を装ってなされます。例…

代表者によるセクハラに組織として不十分な対応しかしなくて、直接の加害者より法人の責任が重いとされた事件

1.セクシュアルハラスメント(セクハラ)に対応する義務 平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年6月1日適用)は、 事業主に対し、 セクハラに関…

オープンスペースでのセクハラの立証-目撃証人がいない・目撃者がいないという指摘への反論

1.セクシュアルハラスメントの特徴 一般論として言うと、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、第三者の目に触れない場所・態様で行われる傾向にあります。 しかし、オープンスペースなど、第三者が視認可能な場所で行われることもないわけではありま…

客観的な証拠が多くない中、セクハラを受けたとする被害者供述の信用性が認められた例

1.セクハラの立証-供述の信用性評価に係る裁判例を検討する意義 一般論として言うと、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、第三者の目に触れない場所・態様で行われる傾向にあります。そのため、セクハラに関しては、主要な証拠が被害者の供述しかな…

通常の労働時間の賃金として支払われるべき金額を固定残業代に含ませるのは脱法的事態である

1.固定残業代 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残業代は…

通常の労働時間の賃金を割増賃金に置き換えて固定残業代とすることが否定された例

1.固定残業代 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。残業代の支払い…

雇止め法理は二段階審査か?相関関係か?

1.雇止め法理 有期労働契約は期間の満了により終了するのが原則です。 しかし、①有期労働契約が反復更新されて期間の定めのない労働契約と同視できるような場合や、②有期労働契約の満了時に当該有期労働契約が更新されると期待することに合理的な理由があ…

自由な意思の法理と更新上限条項(更新限度条項・不更新条項)

1.自由な意思の法理 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用さ…

暴行や暴言があることを伝えられながら、上司が何らの対応もとらなかったこと等が会社の安全配慮義務違反にあたるとされた例

1.事後措置義務 令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」は、職場におけるパワーハラスメントに係る相談の申出を受けた事業主に対し、 事案に係…

労働者性の論証の方法や着眼点Ⅱ

1.業務委託契約か労働契約か 業務委託契約の法的性質は、準委任契約と理解されることが多いです。準委任契約は基本的に各当事者がいつでも解除をすることが可能です(民法656条、民法651条1項)。 他方、労働契約の場合、そうは行きません。労働者…

始末書を根拠とする非違行為の認定が否定された例

1.始末書を出してしまったらもう終わり? 懲戒処分に先立って始末書を徴求されることがあります。 この始末書の徴求に対し、どのような姿勢をとるのかは、難しい問題の一つです。 なぜなら、 無視をすると、反省の機会を与えたのに、これを省みなかったと…

取締役退任登記後、雇用保険に加入し、基本給の支払いを受けながら働いていても、労働者性が否定された例

1.使用人兼務取締役 一部例外はありますが、使用人(従業員)と取締役を兼務することは、禁止されているわけではありません。この場合、労働契約と委任契約とが併存することになります。 併存している契約は、どちらが一方の終了により、他方も当然に終了…

労働者性の論証の方法や着眼点

1.労働者性を争点とする事件 フリーランスに関する事件を取り扱っていると、労働者性が争点になることが少なくありません。フリーランスと労働者とでは、法的に保護されている度合いが全く異なるからです。 フリーランスは契約自由の原則が支配する世界で…

社会保険加入を希望せず委託契約が締結された経緯があっても、労働者性を争うことに躊躇する必要はない

1.労働者災害補償保険法の強行法規性 労働者災害補償保険法6条は、 「保険関係の成立及び消滅については、徴収法の定めるところによる。」 と規定しています。 ここでいう「徴収法」とは「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」を意味します。 徴収法3…

パワハラや機密情報漏洩をして懲戒処分を受けた人物であるというメールの送信が名誉毀損等を構成するとされた例

1.メールによる不名誉な事実の伝達 現代では、噂話がメールを使って行われることがあります。職場内の誰がハラスメントをしただとか、誰が不祥事で懲戒処分になっただとか、そういった不名誉な事実が本人の知らないところでやりとりされていることは少なく…

「懲戒処分相当」って何だ?

1.労働者の退職と懲戒権の行使 懲戒権の理論的根拠については「就業規則などの労働契約」に求める見解(契約説)が有力です。判例が契約説に依拠しているのかには、なお議論がありますが、水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕550…

病識がなく、精神面が大丈夫であると言っていた労働者に対しても、安全配慮義務が認め荒れた例

1.メンタルヘルスに関する情報の不申告と安全配慮義務 最二小判平26.3.24労働判例1094-22 東芝(うつ病・解雇)事件と言う判例があります。 この判例は、 「上告人が被上告人に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に…

停職にした理由と同一の理由で欠格事由に該当することになった公務員に対し、退職手当の全額を不支給とすることが許されるのか?

1.公務員の欠格条項 公務員には欠格条項があります。国家公務員の場合、国家公務員法38条が、 禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者(1号) 懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しな…

普通に割増賃金を計算すると面接時に説明した給与額と矛盾することをもって特定の手当が固定残業代だと主張できるか?

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

業務委託先である個人事業主(弁護士)に対するハラスメント行為に違法性が認められた例

1.個人事業主に対するパワーハラスメント 少し前に、取引先である個人事業主に対するセクシュアルハラスメント(セクハラ)の成立が認められた裁判例を紹介しました(東京地判令4.5.25労働判例ジャーナル125-22 アムール事件)。 会社は業務委…

弁護士の労働者性が問題になった例(否定)

1.労働者性が問題になる事件 フリーランスの方からの相談を受けていると、業務委託契約や請負契約が締結されていても、労働者と大差ない働き方をしている人を目にすることがあります。こうした方々は、労働者と大差ない働き方をしているのにもかかわらず、…