1.解雇の効力を争う地位確認請求訴訟の提起は早めに行うこと
過去にも何度も言及していますが、実務上、古い事件を掘り起こすことは簡単ではありません。
在職中の労働条件の不利益変更の効力は、時間が経過しても争える場合がありますが、解雇のように従属的な関係を解消させてしまう行為の効力を争おうとする場合、法的措置をとれなかったことについて、何等かの説明が必要になります。ここで何の説明もできないと、
解雇の効力を承認していた、
就労意思がない、
などと、不利益な判断を受ける危険があります。過去には、自然退職の効力が争われた事案で、1年以上に渡って法的措置がとられてこなかったことを理由に就労意思が否定された判決が言い渡された例もあります。
地位確認は早く-1年以上は放置しすぎ - 弁護士 師子角允彬のブログ
個人的な実務感覚としていうと、基本的に、納得のいかない解雇をされたら、直ちに解雇の効力を争うことを通知し、労務提供意思があることの表明を行うことが必要です。何か月も放置されていると解雇理由が無茶なものであっても争いにくくなります。
しかし、近時公刊された判例集に、約5か月間、連絡や交渉をしていなかったとしても、解雇を受け入れていたと認めることはできないと判示された裁判例が掲載されていました。東京地判令7.3.13労働判例ジャーナル162-30 コロナワークス事件です。
2.コロナワークス事件
本件で被告になったのは、コンピュータソフトウェアの企画、開発、販売、保守等を目的とする株式会社です。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、ソフトウェア開発業務に従事していた方です。懲戒解雇とする旨の記載のある通知書を送付されたことを受け、地位の確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
本件の特徴は、解雇通知が令和4年9月28日付けで送付されているのに対し、令和5年2月24日と約5か月が経過した後に訴訟提起されていることです。
この点を捉え、被告は、
「原告は、被告から本件解雇の通知を受けた後、本件訴訟を提起するに至るまでの約5箇月間、被告に対する連絡や交渉をしていないこと等からみて、本件解雇を受入れていたというべきであるから、本件労働契約は、令和4年10月末をもって、合意解除により終了したというべきである」
と主張しました。
しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥しました。なお、結論としても、裁判所は本件解雇は無効であるとして、地位確認や賃金請求を認めています。
(裁判所の判断)
「被告は、原告が本件解雇通知を受けた後、本件訴訟を提起するに至るまでの約5箇月間、被告に対する連絡や交渉をしていないこと等からみて、本件解雇を受入れていた旨主張する。しかしながら、一般に、使用者から懲戒解雇を一方的に通告された労働者が、直ちにその法的効果を争い、原職復帰に向けた交渉を開始しなかったからといって、懲戒解雇を受け入れていたということはできない上、原告は、本件訴訟において、被告の主張する解雇事由をいずれも争っていること、原告が訴訟代理人を選任することなく本件訴訟を提起し、遂行していることを考慮すると、本件訴訟を提起するのに5箇月間を要したとしても、原告が本件解雇を受け入れていたと認めることはできない。」
「したがって、原告と被告との間で本件労働契約が合意解除により終了したということはできない。」
3.本人訴訟であることが考慮された
本件は訴訟代理人を選任することなく提起された本人訴訟であることなどが理由とされ、合意解除の主張が排斥されました。
本人からでも異議が述べられていればともかく、解雇後5か月に渡って何の連絡や交渉もされていなかった場合、法的措置を開始することに躊躇する弁護士は、少なくないように思います。こうした場合に事件化する技術として、
取り敢えず、本人から訴訟提起させる、
その後、途中から代理人として関与する、
ということも考えられるのかも知れません。