弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2021-10-01から1ヶ月間の記事一覧

元々更新上限が5年と定められていた有期労働契約の更新限度回数に関する規定の有効性

1.無期転換権に関する法規制 労働契約法18条1項本文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日…

雇止めにおける合理的期待と正社員登用制度

1.雇止めにおける合理的期待と正社員登用制度 有期労働契約社員と無期労働契約社員との間で不合理な労働条件格差を設けることは、法律によって禁止されています(旧労働契約法20条、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律8条、…

係争中にインターネット上で相手方や事件関係者を非難することの危険性

1.係争相手をネットで非難することの危険性 事件進行中、依頼者から、相手方をインターネット上で非難してもいいかと相談を受けることがあります。 心情的に理解できる場合は少なくありません。しかし、裁判での勝敗を第一に考える法専門家としては、 「控…

アカデミックハラスメント-17か月もの講義禁止・大学敷地内への立入禁止を指示する業務命令が有効とされた例

1.出勤停止と自宅待機命令 多くの会社では、懲戒処分として出勤停止処分を受けた場合、出勤停止期間中の賃金が支給されることはありません。しかし、制裁であるという性質上、非違行為に見合ったものでなければならないため、通常、その期間が極端に長くな…

アカデミックハラスメント-大学教員は学生を激詰めしてはいけない?

1.アカデミックハラスメント 大学等の養育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、アカデミックハラスメントは、法令上…

なし崩し的に社会保険の加入資格を喪失させようとしたことが不法行為に該当するとされた例

1.強引な退職処理 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。 この条文があるため、使用者の労働者に対する解雇権の行使…

セクハラを受けたとする被害者供述の信用性が否定された例

1.セクハラを受けたとする被害者供述の信用性判断 衆人環視のもとでの罵倒などのように、パワーハラスメント(パワハラ)は、必ずしも人目を気にして行われません。しかし、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、しばしば同僚の目に触れない場所で行わ…

小規模事業体で管理監督者はありえるか?-管理監督者を置く「必要性」

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

病気療養休暇中に連絡がつかなかったことを理由とする雇止めが否定された例

1.病気療養・休職中の労働者に対する使用者の視線 残念ながら、私傷病等で休職している労働者に対しては、温かな視線を向ける使用者ばかりではありません。形のうえでは復職に向けた仕組みが整えられていたとしても、休職中に使用者から退職を示唆される労…

65歳を超える高齢者であっても、契約更新の合理的期待が認められるとされた例

1.雇止めと契約更新の合理的期待 有期労働契約は、期間の満了により消滅するのが原則です。 しかし、労働契約法19条は2号は、労働者において、 「有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由…

公務員の懲戒処分-2万円に満たない公務外窃盗で880万円以上の退職手当が全部不支給とされた例

1.退職手当の支給制限処分 国家公務員退職手当法12条1項は、 「退職をした者が次の各号のいずれかに該当するときは、当該退職に係る退職手当管理機関は、当該退職をした者(当該退職をした者が死亡したときは、当該退職に係る一般の退職手当等の額の支…

公務員の懲戒処分-窃盗:被害額が少なくても免職になりえる

1.懲戒処分の量定基準 平成12年3月31日職職-68(懲戒処分の指針について)は、公務外での窃盗について、 「他人の財物を窃取した職員は、免職又は停職とする。」 と規定されています。 こうした規定ぶりをみると、比較的被害額の少ない軽微な窃盗…

自由な意思の法理の適用例-謝罪のメール・始末書の存在は必ずしも「自由な意思」の根拠にならない

1.自由な意思の法理 平成28年2月19日、最高裁は、賃金や退職金を不利益に変更する合意の効力について、次のとおり判示しました(最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件)。 「労働契約の内容である労働条件は、労働者と…

機密保持の合意と不正競争防止法上の営業秘密-使用者側からの反訴請求に対する防御方法

1.労働時間立証に用いる資料の持ち出しへの攻撃 使用者には、労働時間を適正に把握するなど、労働時間を適切に管理する責務があります(厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」参照)。また、労働安全衛生…

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分を争うことの難しさが分かる例

1.公務員の懲戒処分 国家公務員の懲戒処分について、人事院は、 平成12年3月31日職職-68「懲戒処分の指針について」 という文書を発出しています。 懲戒処分の指針について これは、非違行為の類型毎に、目安となる懲戒処分を示したものです。 「…

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分は適法とされたものの、退職手当全部不支給処分は違法とされた例

1.懲戒免職処分と退職手当全部不支給処分との関連性 公務員の場合、懲戒免職処分と退職金不支給処分とが連動する仕組みがとられています。 国家公務員の場合、退職金の支給/不支給の判断は、国家公務員退職手当法という法律に基づいて行われます。 国家公…

自己判断での通院の中断が労災認定に与える影響

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

古い事実を懲戒事由として構成するのは無理がある

1.古い事実が持ち出される 解雇の効力を争うため、使用者に解雇理由証明書を請求すると、解雇事由をたくさん書きたいためなのか、かなり古い事実まで書かれた証明書が送られてくることがあります。 何年も前のことまで含め、たくさんの事実を突き付けられ…

懲戒解雇の場面における解雇理由証明書の活用方法

1.解雇理由証明書 解雇の効力を争う事件において最初に行うのは、使用者に対する解雇理由証明書の交付請求です。 労働基準法21条1項は、 「労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由…

体調不良を抱えた労働者が労務提供の意思表示をする時の留意点

1.労務提供の意思表示 退職勧奨や解雇、ハラスメント、配転など、心理的な負荷のかかる出来事に直面した時、体調を崩してしまう方は少なくありません。 こうした方が、勤務先からの就業命令を体調不良を理由に拒否した場合、労働契約の本旨に従った労務提…

雇止め-更新1回、契約期間通算2か月でも合理的期待が認められた例

1.雇止め法理と更新回数 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる) 場合…

習慣化していた遅刻と懲戒処分-出勤停止14日の懲戒処分を行うにあたり事前警告を要するとされた例

1.懲戒処分の効力 労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、…

繰り返し注意を行ったとの主張の崩し方-より軽微な事由についての注意・指導文書の活用等

1.普通解雇と指導・改善の機会付与 勤務成績・態度が不良で、職務を行う能力や適格性を欠いていることを理由とする普通解雇の可否は、①使用者と当該労働者との労働契約上、その労働者に要求される職務の能力・勤務態度がどの程度のものか、②勤務成績、勤務…

中小事業主の労災の特別加入制度での留意点-事業主の立場で行われる業務は対象外

1.特別加入制度 労働者災害補償保険法には「特別加入」という制度があります。 これは、 「労働者以外の方のうち、業務の実態や、災害の発生状況からみて、労働者に準じて保護することがふさわしいと見なされる人に、一定の要件の下に労災保険に特別に加入…

内部通報された従業員が名誉毀損を理由に内部通報をした従業員を訴えた場合の法律関係

1.内部通報された従業員からの対抗措置 公益通報(内部通報)をした労働者と、事業者との関係は、公益通報者保護法によって規律されています。この法律により、事業主は、公益通報をしたことを理由に、労働者を解雇したり、労働者に降格・減給などの不利益…

労働者安全衛生法の保護範囲に労働者以外の者まで含められた例

1.労働安全衛生法 労働安全衛生法という法律があります。これは、 「労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)と相まつて、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画…

復職の可否について、産業医に意見・助言を求めずに行った休職命令の違法性

1.復職の可否の判断 休職している方が復職するためには、傷病が「治癒」したといえる必要がありま。 ここでいう「治癒」とは「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復したこと」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青…

無断欠勤の意義-所定の手続に準拠しない欠勤? 無連絡欠勤?

1.無断欠勤 多くの企業では、無断欠勤を懲戒事由として規定しています。 例えば、 「正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及ぶとき。」 「正当な理由なく無断欠勤が 日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。」 といったようにです。 モデル就業規則に…

懲戒処分に先立つ自宅待機命令(出勤停止命令)と賃金支払の要否-就業規則の定めのある場合

1.懲戒処分に先立つ自宅待機命令 実務上、懲戒処分の前段階として、事実調査等を行う際に、処分予定者が職場内に存在することにより調査に支障が生じること等を回避するため、処分確定までの一定期間、自宅待機を命じられることがあります。 その法的性質…

諭旨解雇から懲戒解雇までの予告期間をどう考えるか

1.諭旨解雇 一定の予告期間を置いて自発的な退職を促し、予告期間内に退職しなかった場合に懲戒解雇とすることを諭旨解雇といいます。「2週間以内に辞表を提出しなかったら、懲戒解雇に処する」といったようにです。 諭旨解雇は法令用語ではないため、厳…