弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

無断欠勤の意義-所定の手続に準拠しない欠勤? 無連絡欠勤?

1.無断欠勤

 多くの企業では、無断欠勤を懲戒事由として規定しています。

 例えば、

「正当な理由なく無断欠勤が  日以上に及ぶとき。」

「正当な理由なく無断欠勤が  日以上に及び、出勤の督促に応じなかったとき。」

といったようにです。

モデル就業規則について |厚生労働省

 しかし、私の実務経験の範囲内でいうと、この「無断欠勤」の意義が定義されていない就業規則は意外と少なくありません。定義されていないと、どうなるかというと、「無断欠勤」の意義をめぐって労使間で争いが生じます。

 基本的に、使用者側は「無断欠勤」を「所定の手続に準拠しない欠勤」という意味で認識していいます。

 他方、労働者側は「無断欠勤」を文字通り「無連絡での欠勤」という意味で理解していることが多くみられます。

 このような認識の齟齬があると「欠勤するという連絡自体はあったものの、所定の手続には準拠する連絡方法ではなかった」という場合、それを理由に懲戒処分を科せるのかが問題になります。

 それでは、「無断欠勤」が定義されていない場合、その意義は、どのように理解されるのでしょうか?

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令2.3.25労働判例1247-76 東菱薬品工業事件です。

2.東菱薬品工業事件

 本件で被告になったのは、主にジェネリック医薬品等の開発・製造を業とする株式会社です。

 原告になったのは、被告において正社員として入社し、研究所において、製剤設計等に従事していた方です。無断欠勤を理由に、平成29年6月11日付けで、職位を中級職Ⅱから中級職Ⅰに降格する処分を受けました(本件懲戒処分)。本件懲戒処分により賃金が減少したため、その無効を理由とする差額賃金の支払等を求めて提訴したのが本件です。

 被告の就業規則には、

「正当な理由なく無断欠勤3日以上におよび出社督促に応じないとき」

「正当な事由なく無断欠勤6日以上におよび出社督促に応じないとき」

といった懲戒事由が規定されいてたほか、

「止むを得ずに休暇、欠勤、遅刻、早退、外出するときは事前に所定の手続または連絡をすること」

「遅刻、欠勤、早退、休暇等を請求する場合は、事前に所属長に連絡(やむを得ない場合は事後速やかに)し、所定の届出書を所属長に提出すること。連続7日以上欠勤する場合は、必ずその理由を証する書類を添付すること。」

という規定があったことが認定されています。しかし、無断欠勤の定義規定が存在したとは認定されていません。

 このような就業規則のもと、被告は、懲戒事由について、

原告は、平成28年8月12日に交通事故に遭遇したことを理由として、被告に対し、①同月29日から同年9月13日まで、欠勤理由や復職見通しを含めて一切連絡せず、16日間の無連絡欠勤をし、②その後も、平成29年2月17日までの間、長期欠勤に関する被告の指示に違反して、休職等に関する手続を取らず、同年5月7日まで欠勤を続けた。

「原告が被告に対して初めて連絡を入れたのは、平成28年8月22日に本社の総務課長であるA(以下『A』という。)に対する電話であり、そのときの説明も、交通事故に関するものではなく、父親の介護を欠勤の理由とするものであった。また、交通事故については、同年9月14日に、上長のB(以下『B』という。)から原告に対する連絡を入れた際に、初めて説明を受けたものであって、原告から欠勤期間についての文書・・・が届いたのは同月15日になってからであった。原告は、その後も欠勤理由について不十分な説明を続け、所定の様式による手続も行わなかった。」

と主張しました。

 しかし、本件では、所定の手続こそ行われていないものの、原告から被告への連絡が完全に途絶していたわけではありませんでした。

 こうした主張、事実関係のもと、裁判所は、次のとおり述べて、懲戒事由の存在が認められないとして、本件懲戒処分の効力を否定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、原告が、①被告に対し、平成28年8月29日から同年9月13日まで、欠勤理由や復職見通しを含めて一切連絡せず、16日間の無連絡欠勤をし、②その後も、平成29年2月17日までの間、長期欠勤に関する被告の指示に違反して、休職等に関する手続を取らず、同年5月7日まで欠勤を続けたと主張する。」

「就業規則28条は、従業員が、止むを得ず休暇、欠勤、遅刻、早退、外出するときは事前に所定の手続または連絡をすること、同40条は、遅刻、欠勤、早退、休暇等を請求する場合は、事前に所属長に連絡し、所定の届出書を所属長に提出すること、連続7日以上欠勤する場合は、その理由を証する書類を添付することを定めているところ・・・、原告が、就業規則40条に規定されている欠勤等に関する所定の届出書(勤怠届・・・)を提出しないまま、平成28年8月29日以降、被告から欠勤扱いとされたことが認められる・・・。

「この点、原告は、被告に対し、同年9月15日到着の文書・・・で、具体的な理由の説明はないものの、『8月17日から9月20日まで欠勤で休む』旨の通知をしているところ・・・、同文書が被告に到着する前である同年8月19日から同年9月14日までの間に、原告の携帯電話からC所長に対するSMSメッセージが5回送信されていること、原告の広島の自宅から青梅研究所の電話番号の上6桁と一致する番号に対し8回架電されていること、原告の広島の自宅から被告本社の電話番号の上6桁と一致する番号に対し1回架電されていること等、原告の主張に沿う客観的証拠が存在すること・・・を踏まえると、原告が上記文書での報告以前にも、C所長、被告本社及び青梅研究所関係者らに対し、本件事故について一応の報告をしていたことがうかがわれるのであって、被告が主張するように、同年9月14日より前には、原告から欠勤に関する連絡が一切なかったとの事実が十分に立証されているということはできないから、同期間について、少なくとも『無連絡欠勤』であったと評価することはできない。

「そして、同年9月15日到着の文書・・・を送付した後にも、原告が、同月16日に診断書・・・を取得して、同月中旬頃被告に提出したこと・・・、最終的に、欠勤等に関する正式な書式である勤怠届の提出手続が取られていない理由は不明であるものの、原告が、必ずしも十分とはいえないとしても、同年10月以降、欠勤理由について、書面等により具体的な説明をしていたこと・・・、被告が、正式な書面を提出することによる手続がされていないとしながらも、同年11月10日の時点では、同月末までの原告の欠勤について、当面は了承していたとみられること・・・等の事情を考慮すると、少なくとも、被告が原告に対して休職を命じる平成29年2月17日までの間は、これらの実質的な連絡・報告の状況に鑑み、懲戒事由に該当するような、無連絡欠勤や指示違反行為があったとまではいうことができない。

「さらに、平成29年2月17日以降については、被告は原告に対し、休職を命じており・・・、被告の休職命令により原告の労働義務は免除されているのであるから、同日以降について、労働義務が前提となる『欠勤』として扱う根拠はないというべきである。」

以上によれば、被告の上記主張は採用できず、本件懲戒処分は、前提となる懲戒事由の存在を認めることができないから、その余の点を検討するまでもなく、無効である。

3.「所定の様式による手続」が行われなかったことが強調された事案ではないが

 本件の被告は連絡の欠缺を主張していて、「所定の様式による手続」が踏まれていないから「無断欠勤」といえるのだという主張を展開していたわけではありません。

 その点は割り引いて考える必要はあるにせよ、裁判所は、「無断欠勤」の意義を、「所定の手続に準拠しない欠勤」とは捉えず「無連絡欠勤」として捉え、無連絡欠勤の立証が不十分であることなどを理由に、懲戒事由の存在が認められないと判示しました。

 本件は降格処分に留められていましたが、無断欠勤は解雇に直結していることが多く、その意義が争われることは、意外と少なくありません。本件は、所定の手続には準拠していなかったものの連絡自体は入れていたという事案において、懲戒処分の効力を争うにあたり、活用できる可能性があります。