弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

コロナ禍での整理解雇がアルバイト従業員の新規採用を行っていること等から否定された例

1.整理解雇

 整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕397頁)。

 整理解雇の可否は、①人員削減の必要性があること、②使用者が解雇回避努力をしたこと、③被解雇者の選定に妥当性があること、④手続の妥当性の四要素を総合することで判断されます(前掲『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』397頁参照)。

 新型コロナウイルスの流行のもと、飲食店等が整理解雇を行う例は少なくありません。近時公刊された判例集にも、新型コロナコロナウイルスの感染拡大の影響を理由とする整理解雇の可否が問題になった裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介させて頂いた、東京高判令4.7.7労働判例1276-21 リバーサイド事件です。

2.リバーサイド事件

 本件で被告(被控訴人)になったのは、飲食店、コンビニエンスストア、スーパーマーケット等の経営を目的とする特例有限会社です。

 原告(控訴人)になったのは、平成20年8月ころ被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、シフト制のもと、被告の経営する寿司店(本件寿司店)で働いていた方です。

 原告の方は、平成30年12月頃までは遅番を中心に週6日程度勤務していましたが、平成30年1月以降、勤務希望日を激減させ、同年3月13日以降はシフトを提出せず、出勤しなくなりました。

 その後、被告は会計事務所からの助言を受け、平成31年4月下旬ころ、原告に対し、社会保険及び雇用保険の資格喪失の手続を開始を通告し、実際に社会保険の資格喪失の手続を行いました。

 これに対し、退職の意思表示をしていないにもかかわらず合意退職扱いして労務の受領を拒絶しているのは違法だと主張して、原告は被告を相手取って地位確認等を求める訴えを提起しました。

 一審は地位確認請求を認めましたが、未払賃金請求は棄却しました。これを受けて、原告側が控訴したのが本件です(原告側の控訴を受けて、本件は被告側でも附帯控訴されています)。

 本件の被告は一審地位確認で敗訴したことを踏まえ、附帯控訴状で原告を解雇する旨の意思表示をしました(本件解雇④)。

 本件解雇④は、無断欠勤等、手続・届出義務違反等、業務命令違反等、協調性欠如等のほか、新型コロナウイルス感染症の拡大による事業の縮小を理由とするものでした。

 この本件解雇④の効力について、裁判所は次のとおり述べて、解雇権の濫用に当たると判示しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人は、控訴人には、無断欠勤、手続・届出義務違反、業務命令違反、職場秩序妨害、退職要求、就業状況不良、協調性欠如等の解雇事由があり、本件の附帯控訴状をもって控訴人を解雇する旨の意思表示(本件解雇④)をしたと主張する。」

「しかしながら、控訴人に、無断欠勤、手続・届出義務違反、業務命令違反、職場秩序妨害、退職要求、就業状況不良、協調性欠如等の事由があったことを認めるに足りる客観的な証拠は存在しない(なお、乙44、49から控訴人が無断欠勤を繰り返していたとまでは認め難い。)。むしろ、控訴人は、平成20年8月頃から平成30年12月頃まで、本件寿司店において、アルバイト従業員でありながら、遅番を中心に週6日程度、正社員並みに勤務していたのであって・・・、その間、被控訴人が上記事由を問題としたり、控訴人に注意処分等をしたともうかがえず、控訴人に上記解雇事由は認めるに足りない。」

また、被控訴人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により、本件寿司店の営業を縮小し、アルバイト従業員のシフトを減らしているとして、事業の縮小を理由に控訴人を解雇した旨主張する。

しかしながら、被控訴人は、新型コロナウイルス感染症の感染拡大後も、本件寿司店や、その系列店においてアルバイト従業員の新規採用を行っていること・・・、令和3年8月6日に池袋東武百貨店レストラン街に新店舗を開店していること・・・などからして、人員削減の必要性が認められない。

「以上によれば、本件解雇④は解雇権の濫用に当たり無効である。」

3.矛盾行動がある場合に整理解雇が認められにくいのはコロナ禍でも同じ

 人員削減の必要性に関しては、新規採用等、人員削減の必要性と矛盾する行動があった場合には否定される傾向にあります(前掲『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』398頁参照)。

 このことはコロナ禍での整理解雇の局面でも変わりません。

 コロナ禍で整理解雇された方が、その効力を争うかどうかを判断するにあたっては、職場が新規採用などを行っていないのかを調べてみても良いかも知れません。

 また、本件の原告はアルバイトではありますが、正社員並みに勤務していたことが認定されています。業種や担当業務の問題はあるにせよ、アルバイトを採用しているのにアルバイトを解雇するのは背理だというだけではなく、アルバイトを採用しながら正社員を解雇するのも背理だという趣旨まで読み込める可能性もあり、このような意味でも本裁判例は注目に値します。