弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2023-07-01から1ヶ月間の記事一覧

民事調停と並行して交わされた互譲型の合意にも、自由な意思の法理が適用された例

1.自由な意思の法理 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用さ…

カウンセラーの労働者性-諾否の自由・時間的場所的拘束性をどう考えるか?

1.労働者性が争われる事件 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形式…

カウンセラーの労働者性-専門的業務における指揮監督関係をどう考えるのか?

1.労働者性が争われる事件 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形式…

ハラスメントの直接の行為者とその監督者、懲戒処分の量定は同じでいいのか?

1.懲戒処分の処分量定をどう考えるのか? 一般論として言うと、直接非違行為をした人と、それを傍観していただけの人とであれば、直接非違行為をした人の方が、責任は重いと理解されています。 また、同じ非違行為をした場合であったとしても、上位の職位…

部下の威圧的姿勢・人格否定的発言を制止できなかったことが懲戒処分の対象となるとされた例

1.パワーハラスメントへの対応 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)を防止するため、事業主…

管理職として部下の長時間労働を是正すべき職務義務を果たさなかったことが懲戒処分の対象となるとされた例

1.長時間労働の是正 法は長時間労働を是正し、労働時間管理義務を強める方向で改正が重ねられてきました。長時間労働に対する社会的意識の変化もあり、昨今では、長時間労働を防ぐことにかなり意を払っている使用者も少なくありません。 そのためか、近時…

セクハラは被害申告者からの明示的な要望がない限り、調査したうえ、具体的措置の要否を検討すべきとされた例

1.セクシュアルハラスメントに対する事後措置義務 平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」【令和2年6月1日適用】は、 事業主に対し、セクシュアルハラス…

飲み会で部長に抱き付かれた部下の女性に対する課長代理の言動(会社はあんなことくらいじゃ動かない等)がパワハラとされた例

1.上役のセクハラだからといって被害者を突き放してはダメ 平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」【令和2年6月1日適用】は、 事業主に対し、セクシュア…

労働者がミスにより生じた追加費用を負担すると申し出ていても、これを容認することがパワハラに該当するとされた例

1.非典型的なパワーハラスメント 職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるもの を言います。 そし…

大学における授業等に係る担当外しは、一般企業における配置転換の場合にも増してその当否を厳重に検討する余地があるとされた例

1.大学教員にとっての授業 大学教員にとって、授業は特別な意味を持ちます。労働契約上の義務であるとともに、研究発表の自由、教授の自由といった価値との関係から、権利としての性質もあります。こうした特殊性は、多くの裁判例でも承認されています。例…

大学助教への言動がハラスメントとして違法性を有するのかが問題になった例

1.パワーハラスメント 職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)は、 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの要素を…

マタハラの高額慰謝料事案-200万円の慰謝料が認定された例

1.高額化しにくいハラスメント慰謝料 一般論として言うと、ハラスメントを理由として損害賠償を請求しても、高額の慰謝料が認められる例は、それほどありません。加害行為が極端に悪質かつ長期間に渡っているだとか、重篤な精神疾患を発症しているだとか、…

人事評価を低くされたことが、マタハラであると立証できた例

1.マタニティハラスメント(マタハラ)からの保護は厚い? 男女雇用機会均等法9条3項は、 「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、・・・その他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当…

妊娠前まで実績を積み重ねてきた女性のキャリア形成に配慮しない人事上の措置が違法とされた例(部下をいなくさせるのはダメ)

1.妊娠等を理由とする不利益取扱の禁止 男女雇用機会均等法9条3項は、 「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、・・・その他の妊娠又は出産に関する事由であつて厚生労働省令で定めるものを理由として、当該女性労働者に対し…

マッサージは、させるのもセクハラ-指示された側が肩等を揉んでも同意があったことにはならない

1.セクシュアルハラスメント 職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、 「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業…

身内(姉)に対するメッセージの送信でも、セクハラの裏付け証拠になるとされた例

1.セクシュアル・ハラスメントを立証するための証拠 パワーハラスメント(パワハラ)は、必ずしも人目を気にして行われません。衆人環視の中での罵倒が典型ですが、むしろ、見せしめのように行われることさえあります。 しかし、セクシュアルハラスメント…

食事を受け入れられても、抱きしめて良いかと尋ねてうなずかれても、真の性的同意があったとは認められないとされた例

1.セクシュアルハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係…

事前に明示された労働条件と、出社初日に見せられた雇用契約書が齟齬している場合の対処法-採用内定法理の活用

1.事前に聞いていた労働条件と話が違う 求人をめぐる古典的なトラブルの一つに求人詐欺があります。 求人詐欺とは、実際の労働条件よりも良い条件で求人を出しておいて、労働契約の成立の直前にそれまで見せていたよりも低い労働条件を提示し、今更入社を…

パワハラの慰謝料-半年程度に渡って、叩いたり、「馬鹿野郎」などの暴言を吐いたりした場合

1.パワー・ハラスメントにより生じる民事的責任 パワー・ハラスメント(パワハラ)が成立する範囲と、民事上の損害賠償責任が生じる場面とは、必ずしも一致しているわけではありません。しかし、重なり合う領域は広く、パワハラの被害者から、加害者や、加…

協定限度時間(月45時間)を超えているだけではダメ-月60時間分の固定残業代合意の効力が認められた例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

一日の行動予定をメールで送信していたうえ、出社-所外業務-帰社していた労働者への事業場外みなし労働時間制の適用が否定された例

1.事業場外労働のみなし労働時間制(事業場外みなし労働時間制) 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただ…

定年後再雇用の労働条件-勤務場所変更・定年退職時の給与の6割程度から更に減額することが許容されないとされた例

1.定年後再雇用に対する労働条件の変更・切り下げ 昨日、定年後再雇用を拒否された労働者による地位確認請求をブロックするため、継続雇用制度の多くが、定年後再雇用者の賃金や労働時間等の労働条件を個別に決め直すような建付けになっていることをお話し…

定年後再雇用にあたり、給与額について暫定的合意が成立していたことを根拠に地位確認請求・賃金請求が認められるか?

1.定年後再雇用を拒否された労働者の地位確認請求 高年齢者雇用安定法9条1項は、事業主に対し、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、①定年年齢の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年制の廃止のいずれかの措置をとることを求めています…

セクシュアル・ハラスメント-胸を触られるなどの慰謝料

1.セクシュアル・ハラスメントの慰謝料 セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)に関する法律相談を受けていて回答が難しい質問の一つに、裁判所に認容してもらえるであろう慰謝料の額があります。 セクハラの慰謝料は、 「事案により千差万別であるが、行…

大学教員の雇止め-更新拒絶に一定の合理性を認めながらも、社会通念上の相当性が認められないとされた例

1.雇止め法理 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められる場合)…

不更新条項付きの労働契約を重ねながら、契約更新に向けた合理的期待が認められた例

1.合理的期待と不更新条項 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認め…

学校におけるセクシュアル・ハラスメントに対する事前措置義務違反の否定例

1.セクシュアル・ハラスメントに対する事前措置義務 昨日、平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針【令和2年6月1日適用】」が、 職場におけるセクシュアル…

学校におけるセクシュアル・ハラスメントに対する事後措置義務違反の否定例

1.セクシュアル・ハラスメントに対する事後措置義務 平成18年厚生労働省告示第615号「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針【令和2年6月1日適用】」は、 職場におけるセクシュアルハラス…

教諭の小学生女児に対する顎・肩・脇等への身体的接触-励ます目的・親しみを示す目的との主張が排斥された例

1.教師の児童、生徒に対する身体的接触 教師の児童、生徒に対する身体的接触は、それ自体が厳しく制限されています。 例えば、東京都の懲戒処分の標準的な処分量定は、児童、生徒に対し、 「指導上必要のない、直接又は着衣の上から身体に接れる行為(マッ…

会社の損害賠償責任は認めらたけれども、取締役個人の損害賠償責任は認められなかった例

1.会社への責任追及/取締役個人への責任追及 労災事故などの被災者・被害者が受けた損害は、労働者災害補償保険による補償がなされます。 しかし、保険給付は被った損害の全てを対象としているわけではありません。未填補の損害について、被災者・被害者…