弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

マッサージは、させるのもセクハラ-指示された側が肩等を揉んでも同意があったことにはならない

1.セクシュアルハラスメント

 職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、

「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」

をいいます(平成18年厚生労働省告示第615号『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』参照)。

 ここで言う「性的な言動」とは、

「性的な内容の発言及び性的な行動を指し、この『性的な内容の発言』には、性的な事実関係を尋ねること、性的な内容の情報を意図的に流布すること等が、『性的な行動』には、性的な関係を強要すること、必要なく身体に触ること、わいせつな図画を配布すること等が、それぞれ含まれる」

と理解されています(同指針)。

 身体的接触はセクハラ行為の典型とされており、現在では職場で異性に対してマッサージをする(マッサージに藉口して身体に触る)といったような露骨なセクハラは、あまり見られなくなっているように思います。

 それでは、異性にマッサージをさせることはどうでしょうか?

 肩や腰を揉ませることなどを考えると、必ずしも性的な意味合いがあるとは限られないようにも思われますが、どのように理解されるのでしょうか?

 また、指示された側がマッサージをした場合、それは「同意」とは理解されないのでしょうか?

 一昨日、昨日とご紹介させて頂いている、宮崎地判令5.3.22労働判例ジャーナル136-22 慰謝料等請求事件は、この問題についても参考になる判断を示しています。

2.慰謝料等請求事件

 本件で被告になったのは、宮崎県議会議員の男性です(昭和43年生まれ、既婚で妻子あり)。

 原告になったのは、昭和55年生まれの当時独身の女性で、被告の事務所に事務員として雇用されていた方です。被告から様々なセクシュアルハラスメント(セクハラ)を受け、精神的苦痛を受けるとともに就労不能になったとして、不法行為に基づき損害賠償金の支払いを求める訴えを提起したのが本件です。 

 本件で原告が主張したセクハラ行為の一つに、

「マッサージの指示等」

がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、セクハラの成立を認めました。

(裁判所の判断)

・認定事実等

「被告は、令和元年5月28日、被告の事務所で、原告に対し、肩のマッサージを求め、これを行わせるとともに、令和3年2月上旬にも、被告の事務所で、原告に対し、腰を揉むことを求め、5分間程度、腰を揉ませるなど、複数回、原告に被告の身体のマッサージを行わせた。」

「(被告は、原告に腰を揉んでもらったことが一度だけある旨陳述する・・・が、令和元年5月28日に原告に対する感謝の言葉とともに肩の痛みがなくなった旨のメッセージを送っていること・・・と齟齬しており、宮崎観光ホテルでの所為・・・等も踏まえると、その陳述は、採用することができない。)」

・評価

「被告の前記・・・の各所為は、雇用主である被告の求めを断りにくい立場にある原告に対し、複数回、身体的接触を伴うマッサージを行わせるという、一般的に性的不快感を与える所為で、原告の同意もない以上、原告の人格権を侵害する違法なセクハラに該当する。

3.普通にセクハラに該当する

 上述のとおり、マッサージはさせることもセクハラに該当すると判示されました。また、明示的に争点化されていないことは割り引いて考えなければなりませんが、指示された側がマッサージに応じたとしても、同意があるとは理解されなかったようです。

 腰痛を抱えた方が腰をマッサージさせたり、肩の凝りのひどい方が肩揉みをさせたりすることは時折散見されますが、法的責任を問われる可能性がありますので注意が必要です。

 また、裁判所の判断も出たので、マッサージを指示された側の方は、嫌な場合、本判決を根拠に断ることが考えられます。過去指示に従った事実があったとしても、そう簡単には同意があったことにはならないのではないかと思います。