弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-08-01から1ヶ月間の記事一覧

身の回りの世話をする契約(多様な業務に従事する契約)の労働契約性

1.身の回りの世話をする契約 業務委託契約を交わして働いている業務受託者(個人事業主)と労働契約を交わして働いている労働者とでは、法的な立場が全く異なります。より具体的に言うと、労働者は業務受託者よりも、遥かに手厚い保護を受けています。 例…

均等法で定められているもの以外の間接差別でも問題にできる?-間接差別の対象が均等法の定めよりも拡張された例

1.間接差別と均等法 間接差別とは、 ①性別以外の事由を要件とする措置であって ②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを ③合理的な理由がないときに講ずること を言います(平成18年厚生労働省告示第614号『労…

一般職に社宅制度の利用を認めていないことが間接差別に該当するとされた例

1.間接差別 日常生活であまり耳にすることのない用語ではありますが、「間接差別」という言葉があります。 これは、 ①性別以外の事由を要件とする措置であって ②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを ③合理的な理…

公務員のセクハラで「性的な関心や欲求」の認定が落ちた例(認定落ちしても結局セクハラに準じる行為であるとされた例)

1.公務員のセクハラと「性的な関心や欲求」 人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)第2条1号は、セクシュアル・ハラスメントの概念を、 「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外にお…

公務員のセクハラと「性的な関心や欲求」

1.公務員のセクハラの特殊性-主観的要件の存在 人事院規則10-10(セクシュアル・ハラスメントの防止等)第2条1号は、セクシュアル・ハラスメントの概念を、 「他の者を不快にさせる職場における性的な言動及び職員が他の職員を不快にさせる職場外…

内定辞退受入通知とは何か?

1.解雇規制を潜脱しようとして失敗するケース 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。 採用内定が解約留保権付労働契…

解雇撤回をめぐる攻防-内定辞退扱い後の出勤命令と賃金請求

1.解雇撤回をめぐる攻防 使用者から解雇された労働者が、解雇の無効を主張して地位確認を求めると、使用者の側から解雇を撤回するから、働くようにと指示されることがあります。 しかし、特に解雇が違法である場合、一方的に解雇を撤回すると言われても、…

20歳代の女性部下から「これからも仲良くしよーねー!」と言われたり腹部をつつかれたりした50歳代男性管理職はどうあるべきか?

1.女性部下からのスキンシップがある場合とセクシュアルハラスメント セクシュアルハラスメントというと、嫌がる異性に対して、無理矢理性的な関係を強要するといったイメージを持たれる方もいると思います。 しかし、現代では、こうした古典的なセクハラ…

セクハラ行為者がしない方がいい弁解(被害者が性的に奔放な女性であるとの印象を与えようとする弁解)

1.セクシュアルハラスメント 「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を「職場におけるセクシュアルハラスメ…

従業員は家族(疑似家族)か?

1.従業員は家族・社員は家族 「従業員は家族」「社員は家族」という言葉が経営者から語られることがあります。 これが「家族に対するように暖かな対応をしなければならない」という意味で使われているのであれば、それほどの問題はありません。しかし、法…

退職の意思表示が心裡留保で無効とされた例

1.心裡留保 民法93条は、 「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、…

芸能人の労働者性-名ばかり歩合制報酬に労務対償性が認められた例

1.芸能人の報酬 昨日の記事で、芸能人の方が「マネージメント契約」(マネジメント契約)のもとで働いていることをお話しました。 これは、芸能人の方「が」所属事務所「に」自分のマネージメント(営業を含む)を委託する契約です。この契約のもとでは、…

芸能人の労働者性-違約金条項が「諾否の自由」の否定要素とされた例

1.芸能人の労働者性 労働事件の隣接領域として、フリーランス関係の業務も受任しています。その関係で芸能関係の方から相談、事件を受けることがあります。 フリーランス関係の事件を処理するにあたっては、労働法に関する知見が重要な意味を持ちます。労…

分限回避義務-新規採用職員に対する勤務実績不良を理由とする免職処分との関係

1.分限回避義務 一般の方には少し聞きなれない言葉だと思いますが、「分限処分」という法律用語があります。これは、公務の能率の維持や適正な運営の確保という目的から、職員の意に反する不利益な身分上の変動をもたらす処分をいいます。分限処分には、降…

好成績で採用された新規採用職員へのメンターの萎縮・困惑させる指導、恣意的な厳しい評価が否定された例

1.条件付採用 地方公務員法22条本文は、 「職員の採用は、全て条件付のものとし、当該職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。」 と規定しています。 国家公務員法にも 「職員の採用及…

退職日までの労働日を有給休暇で埋めることが許容されなかった例

1.時季変更権を行使できない場合 ハラスメント被害を受けている労働者を代理して退職の交渉を行う場面などにおいて、しばしば、 退職の意思表示を行うと共に 退職日までの労働日を有給休暇で埋めてしまう という手法が使われています。 こういう手法が可能…

公務員(教諭)の懲戒処分-体罰より暴言が重いのは不均衡

1.公務員の懲戒処分の処分量定 国家公務員に対する懲戒処分の根拠法である国家公務員法82条1項は、次のとおり規定しています。 第八十二条 職員が次の各号のいずれかに該当する場合には、当該職員に対し、懲戒処分として、免職、停職、減給又は戒告の処…

公務員の懲戒処分-処分理由説明書に記載のない発言(暴言)であっても懲戒処分の理由たり得る場合があるとされた例

1.処分理由説明書 国家公務員法89条1項は、 「職員に対し、その意に反して、降給・・・、降任・・・、休職若しくは免職をし、その他職員に対し著しく不利益な処分を行い、又は懲戒処分を行おうとするときは、当該処分を行う者は、当該職員に対し、当該…

分限休職中の通勤試行の指示(通勤訓練)は業務命令か?

1.慣らし出勤中の事故 休職中の労働者が慣らし出勤やリハビリ勤務を行うことは、労働契約上の債務の本旨に従った労務提供とはいえないため、原則として賃金の支給を受けることはできません。 しかし、慣らし出勤やリハビリ勤務は、復職するために必要なプ…

他の従業員とは異なる差別的態度をとること(「指示はまたメールでします」と述べたこと)がパワーハラスメントに該当し得るとされた例

1.人間関係からの切り離し(無視類型) 職場におけるパワーハラスメントの代表的な類型の一つに、 「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」 があります。 これには、 「自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に…

定例ミーティングの廃止が不当な目的のもとで行われた仕事外しに当たり得るとされた例

1.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視) 職場におけるパワーハラスメントの代表的な類型の一つに、 「人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)」 があります。 具体的には、 「自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間に…

レベルが低すぎるハラスメントは安全配慮義務違反の対象から除かれるのか?-公務員が加害者の個人責任を問う上での注意点

1.公務員の個人責任を問うことの副作用 民間の場合、ハラスメントの被害者は、会社を訴えるとともに、加害者個人を訴えることもできます。 これに対し、公務員の場合、ハラスメントの被害者が加害者個人を訴えることは、基本的に認められていません。国家…

ハラスメントの慰謝料が低すぎる問題-性器でかき混ぜた焼酎を飲まされて25万、小便をかけられて20万円

1.ハラスメントの慰謝料に冷淡な裁判所 このブログでも何度か取り上げていますが、現在の裁判所の問題点の一つに、慰謝料に対する過度に謙抑的な姿勢があります。 ハラスメントで認められる慰謝料は極めて低額です。 以下の記事で紹介したとおり、身体的な…

自衛隊内での常軌を逸したハラスメント-レモンの汁を目に入れさせるのは職務関連性あり、性器でかき混ぜた焼酎を飲ませたり、小便をかけるのは職務関連性なし

1.パワハラ上司個人を訴えられるか?(公務員の場合) このブログでは、過去、何回か、パワハラ被害を受けた公務員の方が、上司個人を訴えることができるのか? というテーマを扱ったことがあります。 パワハラ上司個人を訴えられるか?(公務員の場合) -…

パワーハラスメントの事実を否定したり知らないと述べたりする同僚職員が多数いることは、どのように評価されるのか?

1.パワーハラスメントの立証-ハラッサ―は怖い? 訴訟でパワーハラスメントの存在を主張すると、使用者側から 「ハラスメントなんか受けていなかった。」 「ハラスメントを受けている場面を見たことはない。」 といった内容の書かれた同僚の陳述書が多数提…

労働時間の立証-パソコンのログオフ記録が存在しない日については、存在する期間の終業時刻の平均をもって算出するのが相当とされた例

1.労働時間の立証 労働事件では、労働時間の立証が必要になるケースが少なくありません。 典型的には残業代を請求する場合ですが、それ以外にも、長時間労働により疾病に罹患したとして労災を申請したり労災民訴を提起したりする場合にも、労働時間の立証…

始業時間、終業時間が一律「9:00~18:00」と記載された勤務表を漫然と受け取り続けていた使用者に安全配慮義務違反が認められた例

1.労働時間管理義務 労働時間の管理について、厚生労働省は、 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン(平成29年1月20日策定)」 という文書を作成しています。 この文書の中に、 「労働基準法においては、労働時間…

職場にはセクハラ加害者に対して直接注意を行った後、被害者か加害者かを元の職場から離す必要があったとされた例

1.セクシュアルハラスメントの事後措置 平成18年厚生労働省告示第615号『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』【令和2年6月1日適用】は、セクシュアルハラスメント(セクハラ)が認めら…

セクハラ被害を受けた事実は、同居している父親に対する場合であっても、本人に断りなく伝えることは許されないと判示された例

1.セクシュアルハラスメント被害を受けたことのプライバシー性 セクシュアルハラスメント被害を受けたことが明らかになったところで、別段、被害者の社会的評価が低下するわけではありません。しかし、被害を受けたことは、一般に他者に知られたくない事実…

身体的接触や卑猥な言動がなくても人格権侵害が成立するとされた例

1.セクシュアルハラスメントと人格権侵害 「職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されること」を「職場におけるセクシュ…