弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

20歳代の女性部下から「これからも仲良くしよーねー!」と言われたり腹部をつつかれたりした50歳代男性管理職はどうあるべきか?

1.女性部下からのスキンシップがある場合とセクシュアルハラスメント

 セクシュアルハラスメントというと、嫌がる異性に対して、無理矢理性的な関係を強要するといったイメージを持たれる方もいると思います。

 しかし、現代では、こうした古典的なセクハラを目にすることは、それほど多くなくなってきているように思います。代わりに多くなっているのが、被害者の迎合的言動等がある事案です。被害者の迎合的言動、あるいは被害者側から親しげな態度をとられたことを受け、同意があるものと勘違いしてセクハラに及ぶケースです。

 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件が、

「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等を懸念して、加害者に対する抗議や抵抗ないし会社に対する被害の申告を差し控えたりちゅうちょしたりすることが少なくないと考えられる」

との経験則を示して以来、迎合的言動等があったとしても、性的自由、性的自己決定権の侵害は生じていると判断する裁判例が増えつつある中、被害者側の行動が、

迎合的言動なのか、

性的同意を基礎づけるものなのか、

を区別する必要に迫られる事件が注目を集めるようになっています。

 この区別は決して容易ではないため、予防法務的には、

職場には一切恋愛的な要素は持ち込まない、

年の離れた異性の側から何等かのアプローチ的な行為があったとしても、危険だから関係は一切持たない、

という行動が正解になります。そのことは、近時公刊された判例集に掲載されていた裁判例からもうかがうことができます。昨日もご紹介した、東京地判令5.12.15労働判例ジャーナル149-64 大東建託事件です。

2.大東建託事件

 本件で被告になったのは、建築工事及び土木工事の企画、設計、監理、施工などを行う株式会社です。

 原告になったのは、本件当時50歳代の男性であり、被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結し、c支店で課長職として勤務していた方です。本件当時20歳代であった訴外dに対するセクシュアルハラスメントを理由に降格処分(本件懲戒処分)を受けた後、処分の無効等を主張し、降格処分前の職位にあることの確認等を請求したのが本件です。

 本件のセクシュアルハラスメントで特徴的なのは、訴外dの側からも、一定の接触行為があったところにあります。具体的に言うと、裁判所において、次の事実が認定されています。

(裁判所の事実認定)

「原告は、令和3年4月当時、被告のc支店の業務課課長として勤務しており、訴外dは同月に同支店の業務課に配属された。同支店の業務課には、原告、訴外dともう1名の従業員が所属していた。」

原告と訴外dは、LINEのやり取りをしており、訴外dはその中で、自身の袴姿の写真を投稿したり、原告のことを『aかちょ』と呼んだり、『これからも仲良くしよーねー!』と記載したことがあった・・・。

(中略)

「令和3年4月から5月、原告は、訴外dが、免許証の写真と自分の顔が違うと言って免許証を示してきた際に、これに応じる趣旨で「全然違うじゃん」と発言をした。また、原告は、訴外dが自分はニキビが多くて気にしていると言った際に、ニキビが多くても気にしないでよいと述べた。」

「令和3年6月、原告は、訴外dを連れて飲食店に夕食に出かけたところ、その駐車場で、訴外dの手を繋ごうとして手を差出したが、訴外dは止めて下さいと言って手を引き、原告と手を繋ぐことを拒否した。」

訴外dは、勤務中に、原告の腹部をつつくなどして原告にちょっかいを出すことがしばしばあったところ、これに応じて原告は、訴外dの大腿部を手で叩くように触っており、このようなことが少なくとも10回以上はあった。こうした行為は、c支店のもう一人の従業員が不在の時に行われていた。

「令和3年7月2日、原告は、訴外dとエレベーターに乗り、訴外dがエレベーターから降りる際に立ち止まったので、訴外dの臀部を手の平で2回叩き、その後原告が訴外dの前へ行き、後ろにいる訴外dに手を伸ばした際、原告の手が訴外dの胸に当たった。」

「令和3年7月2日、訴外dは、原告に対し、LINEで『お疲れ様です。次セクハラしてきたら本当にコンプラに通報しますからね』と投稿した。これに対し原告は、『良く言いますね。こちらが被害者ですよ。やめてくださいね。』と返信すると、訴外dは、『胸を触ってきたことに関しても謝罪はしないということでよろしいですね。』『ちょっと色々かんがえてみます。』と返信し、原告は『はい。考えてくださいね。ぽよん、ぽよんの件も一緒に考えてください。』と投稿した・・・。」

「同月4日、訴外dは、原告に電話をして、原告にはこれまで世話になっているが、徐々にセクハラがエスカレートしており、一緒に居ることが怖くなったこと、それまでにお尻や足を触られたことについては、自分も原告の腹部を触っていたからしょうがないとしても、胸を触られたことが衝撃的であった、原告が勘違いしているのであれば、自分は上司として以外は何とも思っていないので今後は止めてほしい旨を述べた。これに対し原告は、そもそも勘違いはしていない、コミュニケーションの一環で、訴外dは原告を触る際に喜んでいたので、自分が触られることも別によいと思っていた、原告はその際に止めるように叩いたのがほとんどであり、変な気持ちで触りに行ったことはないと述べた。その際に原告は、車の中で手を繋ごうとしたことは本当に覚えていないが、ショッピングモールで歩いている時に手を繋ごうとしたことは冗談でやった旨述べた。その上で訴外dは、自分が懐いていたことは確かであって謝罪するから、原告にも謝罪して欲しい旨求め、原告も色々悪かった旨述べた・・・。」

 このような事実認定のもと、裁判所は、次のとおり述べて、本件懲戒処分の効力を認めました。

(裁判所の判断)

・本件懲戒処分の客観的合理性及び社会通念上相当性について

「原告の前記行為は、c支店の業務課課長という地位にある原告が、同課の女性新入社員に対し、故意に身体を触るセクハラを継続的に行っていたというものであって、悪質な行為といわざるを得ない。確かに本件では、訴外dの側から親密な内容のLINEが投稿されたり・・・、原告の腹部を頻繁に触ることがあったとはいえ、原告の職位や立場からすれば、訴外dに従業員同士の適切なコミュニケーションの取り方を指導すべきところ、そのような指導をすることなく、自分からも繰り返し訴外dの身体を触り、最終的には原告の行為がエスカレートしたと感じた訴外dから抗議を受けるに至ったものであるから、本件懲戒処分の量定を検討するに際し、訴外dと原告とのやり取りや訴外dが原告の腹部を触っていたこと等を重視すべきではない。

「そして、被告においては、従業員に対し、身体的接触等の具体例を示してセクハラ行為に対する注意喚起がされており、その上原告は、前件処分において、女性従業員の身体に触ったことを主な理由として譴責処分を受けたにもかかわらず、訴外dの身体を繰り返し触ったものである。そして原告は、訴外dから抗議の電話を受けた際も、訴外dが自分の身体を触ってきたことが理由であると述べ、被告に提出した顛末書においても、反省の弁を記載する一方で、訴外dが性的に奔放な女性であるとの印象を与える事柄を記載しており・・・、自らの行為の問題点を十分に理解し反省しているとは言い難い。」

「また、前記認定のとおり訴外dにも注意書が交付されていることに加え、原告と訴外dの年齢や被告における立場の違い、懲戒処分歴の有無等に照らせば、本件懲戒処分が訴外dとの関係で平等性を欠くとは評価できない。」

3.上司は適切なコミュニケーションの取り方を指導すべき

 以上のとおり、原告が、

「原告の職位や立場からすれば、訴外dに従業員同士の適切なコミュニケーションの取り方を指導すべき」

であったとしたうえ、裁判所は訴外d側の言動を懲戒処分の処分量定を考えるにあたり重視しないとの判断を示しました。

 このように異性の部下の側からの言動に乗ったとしても、そのことを裁判所が有利に斟酌してくれるとは限りません。やはり、守るべき立場のある方は、経緯を問わず、とにかく職場に性的要素を持ち込まないようにすることが推奨されます。