弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

グループ企業内の他社への出向については実質的には配転命令権の行使と考えるべきであるとの主張が否定された例

1.配転と出向

 配転とは「同一企業内における労働者の職種、職務内容、勤務場所のいずれかを長期間にわたって変更する企業内人事異動の一つである」とされています

 これに対し、出向とは「労働者が雇用先の企業(出向元)における従業員たる地位を保持したまま他の企業(出向先)において相当期間にわたって当該企業の業務に従事すること」をいいます。

 出向の場合、労務提供の相手方が変更されるため、労働者の個別同意があるか、個別同意に代わる労働契約上の根拠が必要であると理解されています。ただ、「企業グループ内における出向の根拠については、緩やかに解される傾向」にあるとされています(以上について、第二東京弁護士会労働問題検討委員会『労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、改訂版、令5〕218頁、236-238頁参照)。

 それでは、企業グループ間における出向の根拠は、どの程度まで緩やかに理解することが可能なのでしょうか? この問題との関係で、近時公刊された判例集に、グループ企業内への出向については実質的には配転命令権の行使であるから配転の根拠があれば足りるとの主張が否定された裁判例が掲載されていました。東京地判令7.10.29労働判例ジャーナル166-18 CLOVER事件です。

2.CLOVER事件

 本件で被告になったのは、介護保険法による指定居宅介護支援事業等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、清掃業務に従事していた方です。原告の方は、

令和5年9月22日に業務時間中の私語等を理由に7日間の出勤停止処分を受けた後、

令和5年10月2日に、同月5日付けで合同会社Aが運営するBへの異動を命じられ、

これを拒否したところ、

令和5年11月15日付で、異動命令に従わずに無断欠勤を続けていることを理由に懲戒解雇されました。

 これを受けて、

出勤停止が無効であることを理由に出勤停止期間中の賃金の支払を求めるとともに、

懲戒解雇が無効であることを理由に地位確認等を請求する

訴えを提起しました。

 冒頭に掲げたテーマとの関係で注目したいのは、異動命令の効力に関する判断です。

 本件の被告は、次のとおり述べて、異動(出向)は有効だと主張しました。

(被告の主張)

「被告とAは、CLOVERグループ内のグループ企業として対内的・対外的に密接不可分の関係にあり、実態としては同一企業といってもよい関係で経営されていた。」

「グループ企業内の他社への出向については、出向元と出向先企業が実質的に同一法人と評価できる場合には、当該命令は実質的には配転命令権の行使と考えるべきである。原告は、配転に関する合意をしている以上、本件異動命令は有効である。」

「また、仮に本件異動命令が出向と評価されるとしても、実質的に同一グループと評価できるほどのグループ企業間における出向の場合、当該労働者に対する不利益の程度は、配転の場合と異なることがないから、当該労働者の同意については包括的な同意で足りるというべきである。」

「そして、原告が、これまでグループ内の他企業が運営する事業所での就労を受け入れていたことや、異動先の業務内容に照らせば、出向についての原告の包括的な同意があったと評価することができる。」

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥しました。結論としても、出勤停止処分、懲戒解雇はいずれも無効だと判示しています。

(裁判所の判断)

「原告は、被告より別会社(A)への出向を内容とする本件異動命令を拒否しており・・・、原告の個別の同意がないことは明らかである。また、被告の就業規則・・・にも出向義務を明確に定めた規定はなく(出向先での労働条件等に関する規定もない。)、その他、被告の主張及び立証を見ても、被告において原告に対し出向を命ずる根拠ないし権限はないというべきであるから、そもそも本件異動命令は無効である。」

この点、被告は、グループ企業内の他社への出向は実質的に同一法人と評価できる場合には実質的に配転命令権の行使と考えるべきと主張する。しかし、出向先が被告とは法人格が異なる企業である以上、配転命令権の行使と考える余地はなく、被告の主張は採用できない。

「また、被告は、原告が、これまでグループ内の他の企業が運営する事業所での就労を受け入れていたため包括的な同意があったとも主張する。しかし、そもそも原告は、他の事業所において勤務した際に他企業が運営していたということを知らされておらず、同意があったともいい得ないし・・・、仮にその際には同意があったとしても、包括的な同意であったと評価することもできないため、被告の主張は採用できない。」

「そうすると、その余の点について判断するまでもなく、本件異動命令は無効であるから,原告による本件異動命令の拒否については『正当な理由』(就業規則72条(5))がある。」

3.出向規定が整備されていない会社による典型的な主張

 本件で被告が展開しているような主張は、出向規定が整備されていない会社において、従業員を厄介払い的にグループ企業に出向させた時に、しばしば行われる主張です。

 これに対し、裁判所は、法人格が異なるのだから配転命令と考える余地はないと述べ、被告の主張を排斥しました。法人格を分離して人格を別々にするメリットを享受しておきながら、都合の悪い時だけ組織としての一体性を主張するのは便宜的というほかありません。裁判所の判断は正当かつ論理的なものです。

 本件の被告と似たような主張がされる例は一定数あります。こうした主張に反駁して行くにあたり、裁判所の判断は実務上参考になります。