弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-05-01から1ヶ月間の記事一覧

部活動時間の業務性-部活動の目標は教師が生徒と話し合って決めていたものであり、学校側が強いたわけではないとの主張が排斥された例

1.部活動顧問業務の位置付け 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法6条1項は、 「教育職員・・・を正規の勤務時間・・・を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。」 と規定しています…

どの程度の休憩時間があったかについて使用者から具体的な主張がないとして休憩時間が認定されなかった例

1.休憩時間 労働基準法34条は、 1項で、 「使用者は、労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」と、 2項で、 「前項の休憩時間は、…

作業服様の制服の着用が義務付けられていても、通勤時の服装に関する指示がなければ着替え時間は労働時間ではなくなるのか?

1.着替え時間の労働時間性 着替え時間が労働時間に該当するかに関しては、 「労働者が就業を命じられた業務を行う前段階の、入門から作業場到着までの歩行や、作業服・作業靴への着替え・履替えなどの業務の準備行為は、労務提供そのものではなく、労務提…

残業代請求-社外持出禁止の記載のある業務日誌の証拠能力が認められた事案

1.労務提供していたことを立証するための資料 時間外勤務手当等(いわゆる残業代)を請求するにあたっては、大抵の場合、タイムカード等、始業時刻と終業時刻が特定できる資料で事足ります。 しかし、労働時間管理がされておらずタイムカード等の資料が存…

1か月単位の変形労働時間制-就業規則上に完全なシフトを記載することは困難・シフトパターンを変更する都度就業規則を変更するのは非現実的との主張が排斥された例

1.1か月単位の変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書…

ビル施設管理業務従事者の仮眠時間の労働時間性が肯定された例

1.不活動仮眠時間の労働時間性 不活動仮眠時間の労働時間性について、最一小判平14.2.28労働判例822-5大星ビル管理事件は、 「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである…

定年後再雇用拒否で地位確認を請求できる場合(労働契約の特定性)

1.定年後再雇用拒否の争い方 事業主には65歳までの高年齢者雇用確保措置をとることが義務付けられています(高年齢者雇用安定法9条1項)。 雇用確保措置には、①定年の引上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の定めの廃止の三項目が掲げられていますが、多…

身体障害と安全配慮義務(積極的な申告がなくても業務負担軽減措置をとらなければならないのは精神障害の場合に限られない)

1.障害と安全配慮義務 精神障害者に対する安全配慮義務について、最二小判平26.3.24労働判例1094-22 東芝(うつ病・解雇)事件は、 「上告人が被上告人に申告しなかった自らの精神的健康(いわゆるメンタルヘルス)に関する情報は、神経科の…

セクシュアルハラスメントの成立が否定された例-女性従業員と妻子ある男性従業員との関係のもつれが被害申告に発展したケース

1.セクシュアルハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係…

「嫌なら辞めろ」型の圧迫を加えて給与規程の不利益変更に同意させる手法が否定された例

1.賃金減額の方法 労働者の同意があれば、使用者は賃金を減額することができます。 ただ、最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件が、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を…

9日後の退職届(雇用契約の合意解約の申込みの撤回)が認められた例

1.退職届の撤回 退職届の提出には、二通りの理解の仕方があります。 一つは、雇用契約の解約申入れ(辞職)です。 民法627条1項は、 「当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合におい…

食事会の場で他の従業員の面前で1年以上過去の出来事を蒸し返して叱責することが違法とされた例

1.パワーハラスメント パワーハラスメントの類型の一つに 「精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)」 があります。 この類型に関しては、 「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」 が該当例として挙げられている…

3コール以内に電話に出なかったことへの叱責、在宅勤務等の抑制言動、会社規程にない宿泊費の実費精算の要求についてパワハラの成否が問題となった事例

1.非典型化するパワーハラスメント 令和2年1月15日、 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」 が告示されました。 この告示に基づいて…

係争中のSNSの使用は要注意(フェイスブックだからといって油断するのは危険)

1.係争中のSNSの使用 近時、労使紛争の進行中、経営者や労働者がSNSで相手方の姿勢・態度・言動を非難する書き込みをして紛争になる例が増えているように思います。 SNSへの書き込みは、書き込んだ直後は溜飲が下がるかも知れません。しかし、そ…

過半数代表者の選出選挙に係る選挙活動に不当な関与をすることが不法行為に該当するとされた例

1.過半数代表者 労働基準法上、重要な概念の一つに「過半数代表者」があります。なぜ重要なのかというと、労働基準法の例外を設定するという意義があるからです。 例えば、労働基準法36条1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労…

大学教授の労働問題-学部長の管理監督者性(否定)

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

大学教授の労働問題-過半数代表者が無投票を有効投票による決定に委ねたものとみなしたうえで選出されているとして、専門業務型裁量労働制が違法とされた例

1.専門業務型裁量労働制 専門業務型裁量労働制とは、 「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定…

競業避止義務違反に基づく退職金減額の効力を判断するにあたり二段階審査が行われた例

1.競業避止義務/退職金減額措置 一般論として、使用者と労働者との間で交わされる競業避止契約・競業禁止契約(同業他社に転職したり、同業を自ら営まないとする契約)は、そう簡単には有効になりません。 東京地裁労働部の裁判官らによる著作にも、「多…

代償措置が不十分(十分であるとまでは直ちにいえない)とされながらも競業避止義務が認められた例

1.競業避止(競業禁止) 一般論として、使用者と労働者との間で交わされる競業避止契約・競業禁止契約(同業他社に転職したり、同業を自ら営まないとする契約)は、そう簡単には有効になりません。 東京地裁労働部の裁判官らによる著作にも、「多くの裁判…

不正行為の調査を受ける時、どのように対応すべきか(公務員の場合を題材に)

1.不正行為の調査への対応 以前、 会社から不正行為の調査を受ける時、どのように対応すべきか - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事は、実際に不正行為をしている場合に、事実関係を調査、解明しようとする会社に対し、どのよ…

「くそはげ」「水商売やってた人間が」等の部下である従業員に対する侮辱・罵倒を理由とする普通解雇が否定された例

1.パワーハラスメント等を理由とする普通解雇 解雇される理由には幾つかのパターンがありますが、その中の一つに「規律違反行為」があります。 規律違反行為を理由とする解雇は、 「その態様、程度や回数、改善の余地の有無等から、労働契約の継続が困難な…

降格や配転可能性が十分検討されていないとして、パワーハラスメントを理由とするプロダンサー(ダンスホール支配人)の普通解雇が無効とされた例

1.専門性の高い職務内容の労働者に対する解雇 適格性欠如等を理由とする普通解雇を行うにあたり、 「専門性の高い職務・職位を特定しそれに見合った能力の発揮を期待して中途採用等で雇用された労働者の場合、当該職務を遂行する能力に欠けるときには、他…

大学教員に対する懲戒処分-成績評価資料の提出を求められ、架空の課題を作出することの問題点

1.大学教員に認められる成績評価を行う権限 大学当局から成績評価資料の提出を求められ、架空の課題を作出し、虚偽の内容の資料を提出したというと、不適切だと考える方は少なくないのではないかと思います。 しかし、学生の成績評価を行う権限は、基本的…

入試の合否判定に係る評価点の改ざん行為等を理由とする懲戒解雇-個人的利益を図る目的がなくても解雇有効とされた例

1.入試不正等に関する大学教員の労働事件 大学教員の方が懲戒処分を受ける類型の一つとして、入学試験や単位認定、成績評価に係る不正行為が挙げられます。 ただ、個人的な経験や観測の範囲で言うと、私的な利益を図るために不正行為を行うといった事例は…

グーグルマップのタイムライン機能による労働時間立証が成功した例

1.労働時間の立証 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたっては、 「日ごとに、始業時刻、終業時刻を特定し、休憩時間を控除することにより、(時間外労働等の時間が-括弧内筆者)何時間分となるかを特定して主張立証する必要」 があるとされていま…

労働者性の立証のポイント-似たようなことをしている労働者との比較

1.労働者性が争われる事件 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形式…

取締役に対し退職慰労金を支給しない株主総会決議を強引に成立させたことが違法だとされた例

1.取締役の報酬に関する問題 労働事件の近縁種として取締役等の会社役員からの相談があります。 同じく働くことに関する相談とはいっても、労働者と取締役とでは立場が相当に異なっています。 労働者と会社との関係は労働契約で規律されるのに対し、取締役…

特定の仕事を割り振らないこと(配車差別)に違法性が認められた事例(平均値による損害の推計)

1.仕事が割り振られないことによる逸失利益の立証 昨日、 特定の仕事を割り振らないこと(配車差別)に違法性が認められた事例 として、牽引運転手に手当の付く配車を殆どしないという取扱に違法性が認められた裁判例を紹介しました(横浜地判令5.3.3…

特定の仕事を割り振らないこと(配車差別)に違法性が認められた事例

1.特定の仕事の割り振りを受けられないことを問題にできるか? 自分にだけ時間外勤務手当等が発生する残業をさせてくれない、特定の手当と紐付いた仕事を割り振ってくれない、といった相談を寄せられることがあります。 しかし、多くの場合、これを法的に…

店舗店長の管理監督者性が否定された例

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…