弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

部活動時間の業務性-部活動の目標は教師が生徒と話し合って決めていたものであり、学校側が強いたわけではないとの主張が排斥された例

1.部活動顧問業務の位置付け

 公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法6条1項は、

「教育職員・・・を正規の勤務時間・・・を超えて勤務させる場合は、政令で定める基準に従い条例で定める場合に限るものとする。」

と規定しています。

 この法律を受けた公立の義務教育諸学校等の教育職員を正規の勤務時間を超えて勤務させる場合等の基準を定める政令は、時間外勤務について、

一 教育職員・・・については、正規の勤務時間・・・の割振りを適正に行い、原則として時間外勤務・・・を命じないものとすること。

二 教育職員に対し時間外勤務を命ずる場合は、次に掲げる業務に従事する場合であって臨時又は緊急のやむを得ない必要があるときに限るものとすること。

イ 校外実習その他生徒の実習に関する業務

ロ 修学旅行その他学校の行事に関する業務

ハ 職員会議・・・に関する業務

ニ 非常災害の場合、児童又は生徒の指導に関し緊急の措置を必要とする場合その他やむを得ない場合に必要な業務

という定めを置いています。

 要するに、公立学校の教師は、基本、時間外勤務を命じられることはなく、時間外勤務を命じられる場合は、郊外実習等の業務に従事する場合に限られています。部活動顧問としての活動は、上記政令の定める業務には含まれておらず、仕事として行うことは想定されていません。

 しかし、実際問題、公立学校の教師の方にとって、部活動顧問は「仕事」としての意味を持っています。

 ここに法文と現実との間の捻れがあり、このことは、しばしば難しい法律問題を生じさせています。

 そうした問題の中に、働きすぎによる自殺事案・自死事案において部活動顧問業務に従事していた事案が労働時間としてカウントされるのかという論点があります。

 学校側は部活動顧問としての活動は業務(仕事)ではないと主張しますし、遺族側は業務(仕事)であったと主張します。近時公刊された判例集にも、こうした争点が生じた裁判例が掲載されていました。水戸地判令6.2.14労働判例ジャーナル146-30 古河市事件です。

2.古河市事件

 本件で被告になったのは、普通地方公共団体である古河市です。

 原告になったのは、被告が設置する市立中学校で教員として勤務していた方(亡C)の遺族(妻)です。

 亡Cは平成29年2月に自動車内で一酸化炭素中毒により自殺を図り、死亡しました。原告の方は、亡Cが自殺したのは、本件中学校の校長の注意義務違反により極度の長時間労働や連続勤務に従事すること等を余儀なくされた結果、うつ病エピソードを発症したからであると主張し、被告に対して損害賠償を求める訴えを提起しました。

 この事件でも部活動顧問業務が仕事といえるのかが問題になりましたが、裁判所は、次のとおり述べて、校長による黙示の業務命令を認めました。なお、結論としても、原告の請求の大部分を認容しています。

(裁判所の判断)

被告は、亡cの勤務時間が長時間に及んでいる大きな要因は、本件吹奏楽部において全国大会での金賞受賞という高い目標を設定していたことにあるが、かかる目標は学校側が課したものではなく、亡c自らが生徒らと話し合って決めていたものであって、学校側が長時間の活動を強いていたものではないと主張する。

「確かに、亡cは本件吹奏楽部の顧問であり、一般に、部活動において何を行うかについては顧問にある程度の裁量が与えられていることからすれば、本件吹奏楽部の目指すべき目標や練習量を定めること等については、亡cにも一定程度の裁量があったといえる。もっとも、本件吹奏楽部は、亡cが顧問を務める平成25年4月よりも前から、後援会によって本件吹奏楽部の活動を援助する体制が確立しているところ、本件吹奏楽部における活動は後援会の意向を無視することはできなかった(後援会は規約を定め、また出納管理を行うなど・・・、本件中学校から一定程度独立した団体であった。)。また、本件吹奏楽部の年間の活動内容は全国大会出場を目指す吹奏楽コンクール以外にも多く企画され・・・、外部講師を招いた部員へのレッスンも行われるなど・・・、高いレベルを目指して活動するための仕組みが既に事実上存在し、これが恒例行事化していたのであって、本件吹奏楽部の部員である生徒たちもこのような仕組みに反した活動目標を決めることは極めて困難であったものといえる(このことは亡cが作成した保護者向け書面の記載にも表れている。)。そして、本件中学校の管理職においても、本件吹奏楽部のかかる状況を認識することができる状況であり、e校長自身、本件吹奏楽部の高松遠征に自ら同行し・・・、Aの退部問題の際には亡cとの話合いの中で『全国行ってればこの問題起きなかったよね』、『茨城県を代表する部活動は、まあそれはしょうがないと思う。』、『僕としては全国目指してもらいたい。』、『今のやつを進めていってもらいたい。』などと発言している・・・。これらの事情を併せ考慮すると、本件吹奏楽部については、亡cが顧問となる以前から、後援会の意向や活動と相まって、高いレベルを目指した組織として機能しており、吹奏楽コンクールの全国大会に出場し金賞を獲得するという目標は、単に亡cと部員との間で設定した目標というにとどまらず、e校長をはじめとする管理職も含めた本件中学校全体で掲げる方針であったものであって、顧問である亡cや当時の部員において覆すことは極めて困難であったものと認めるのが相当である。そうすると、全国大会出場を目指した高いレベルの活動、ひいてはそのような活動にふさわしいレベルにまで部員のレベルを上げるため練習等を行うよう部員に指示し指導するという業務は、本件吹奏楽部においては事実上顧問として行わなければならない業務の一環として組み込まれており、これをe校長も容認していたのであるから、もはやe校長において黙示の業務命令があったというべき事態にまで至っていたというべきである。

3.黙示の業務命令

 以上のとおり、裁判所は、部活動顧問としての活動の業務性を認めました。

 この問題は立法的な解決が図られることが適切だと思いますが、現行法下で、部活動顧問に業務性が認められた事案として、実務上参考になります。