弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

係争中のSNSの使用は要注意(フェイスブックだからといって油断するのは危険)

1.係争中のSNSの使用

 近時、労使紛争の進行中、経営者や労働者がSNSで相手方の姿勢・態度・言動を非難する書き込みをして紛争になる例が増えているように思います。

 SNSへの書き込みは、書き込んだ直後は溜飲が下がるかも知れません。しかし、それが紛争の解決に寄与した例は、あまり目にしたことがありません。むしろ、侮辱や名誉毀損を理由とする損害賠償請求といった二次紛争が発生し、紛争が拡大するとともに、書き込んだ側が本来負わなくてもいいリスクに晒されることが多いように思います。

 一昨々日、一昨日、昨日とご紹介している、松山地判令5.12.20労働経済判例速報2544-3 学校法人松山大学事件も、SNSのによって労働者側が足元を掬われてしまった事例の一つです。

2.学校法人松山大学事件

 本件で被告になったのは、

松山大学等(被告大学)を運営する学校と、

被告大学の法学部法学科に所属し、常務理事の職にある方(被告Y1)

の二名です。

 原告になったのは、被告大学の法学部教授職にある方3名です。内1名は法学部長職を務めていました。本件の請求は多岐に渡りますが、原告らは、

専門業務型裁量労働制を導入した就業規則の変更は無効であるところ、時間外勤務手当等(いわゆる残業代)が支払われていないとして未払賃金を請求したり、

被告らがr同社の過半数代表者の選出に当たって不当に介入したことにより精神的苦痛を受けたとして慰謝料を請求したり、

する訴えを提起しました。

 これに対し、被告Y1は、原告の一人(原告X1)からSNS(フェイスブック)で名誉を毀損されたとして、投稿の削除や慰謝料等の支払いを求める反訴を提起しました。

 この反訴請求で前提とされたのは、次の事実です。

(裁判所が認定した事実)

「原告X1は、平成30年12月20日、フェイスブックの自身のアカウント上に、原告X1が『友達』と設定した者が閲覧できる状態で下記の投稿をした(・・・以下、この投稿内容を『本件投稿①』という。)。

         記

『情けない話です...。別件への対応についても、労基署も労働局も呆れ果ててますし。。。法律の知識皆無の英語の先生が法務担当理事をやっていて、アホな顧問弁護士の言いなりになってこのざまです。何度も警告したんですけどねぇ・・・。』」

「原告X1は、平成31年2月20日、フェイスブックの自身のアカウント上に、被告大学に関する各種新聞記事の画像・・・と、同記事の内容を報道する報道番組の動画を添付した上で、閲覧制限のない状態で下記の投稿をした(・・・以下、この投稿内容を『2月20日投稿』、下記の投稿の1及び2のうち、2の『ありがとうございます。』『今や法学部対理事会という様相で、□□大法学部は本当に真っ当な学部です。』の部分を除いたものを『本件投稿②』といい、本件投稿①と併せて『本件各投稿』という。)。

         記

1 『それにしても、労働組合の威力を実感しますね。江戸の仇を長崎でがモットーのハラスメント体質の常務理事会が、組合員になったからと、いつものように嫌がらせをしたら、その瞬間に労働組合法違反でアウトというw。法的な素養が皆無の人たちなので、オウンゴールで次々に墓穴を掘ってます。法務担当理事が英語の教員という...。早くもレームダックの様相を呈していますw』

2 『ありがとうございます。法学部長も一緒に会見していますし、法学部の先生方はほぼ全員が支援してくれてます。件の法務担当常務理事の英語教員約1名(法的素養は皆無ですが、所属は法学部)を除いてw。今や法学部対理事会という様相で、□□大法学部は本当に真っ当な学部です。』

3 『疑問なのは、経営学部の教授でもある現理事長が、こんな経営をしておいて、経営学の何を教えるのだろうかという点です。そして、卒業式や入学式で「校訓三実」と称して、真理に対するまこととか、人に対するまこととか、偉そうに講釈を垂れているわけで、どういう精神構造をしているのかが謎です。こんな経営をしている人に「まこと」とか言われても、単なるお題目で学生には全く響かないと思います。大学のためにも、一刻も早く辞めてい...もっと見る』」

 こうした事実関係を前提に、裁判所は、次のとおり述べて、名誉毀損の成立を認めました。

(裁判所の判断)

・本件投稿①

「被告大学の常務理事のうち、教員の地位を有する者は被告Y1を含めて2名であり、そのうち英語の学問に関わる者は被告Y1のみであるから、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、本件投稿①における『英語の先生』の『法務担当理事』は、被告Y1であると特定できる。」

また、本件投稿①は、原告X1のフェイスブックにおいて、原告X1が『友達』と設定した者が閲覧できる状態で投稿されているところ、フェイスブックの原告X1の友達が、令和2年9月24日当時387名であることに鑑みると、その表現内容が不特定又は多数人に認識されるか、認識可能な状態に置かれていると認められる。

「本件投稿①は、原告X1が、被告大学が労働基準監督署から是正勧告を受けたことを知らせるホームページの記事を投稿したこと関する第三者と思われる人物からのコメントに対し、『法律の知識皆無の英語の先生が法務担当理事をやっていて、アホな顧問弁護士の言いなりになってこのざまです。』などと投稿したものであり、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告Y1が法律の知識を全く有していないこと、能力のない顧問弁護士の言いなりになっていることという事実を摘示するものであり、被告Y1が社会から受ける客観的な評価を低下させるものであると認められる。」

「したがって、本件投稿①は名誉毀損に当たる。」

・本件投稿②

「本件投稿①と同様に、本件投稿②における『法務担当常務理事の英語の教員約1名(法的素養は皆無ですが、所属は法学部)』は、被告Y1であると特定できる。」

「また、本件投稿②は、原告X1のフェイスブックにおいて、公開範囲の制限のない状態で投稿されていることから、その表現内容が不特定又は多数人に認識されるか、認識可能な状態に置かれていると認められる。」

「本件投稿②は、原告X1が、被告大学について、労働基準法違反に加え、労働組合法違反、労働者の過半数代表者選出手続への不当介入、パワハラが行われていることから、行政機関に救済申立てをしたという内容の文章を被告大学に関する各種新聞記事の画像及び同記事の内容を報道する報道番組の動画を添付して投稿したことに関する第三者と思われる人物からのコメントに対し、『法学部長も一緒に会見していますし、法学部の先生方はほぼ全員が支援してくれてます。件の法務担当常務理事の英語教員約1名(法的素養は皆無ですが、所属は法学部)を除いてw』と投稿したものであり、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、被告Y1が法的な素養を全く有していないこと、被告Y1だけが被告大学法学部内で孤立していることという事実を少なくとも黙示的に摘示するものであり、被告Y1が社会から受ける客観的な評価を低下させるものであると認められる。」

「したがって、本件投稿②は名誉毀損に当たる。」

・小括

「以上を踏まえると、原告X1が本件各投稿を投稿したことは不法行為に当たる。」

(中略)

・慰謝料 10万円

「原告X1が本件各投稿を投稿したことは、被告Y1に対する不法行為に当たるところ、本件各投稿の内容及び態様を含む本件に現れた一切の事情を考慮して、被告Y1の精神的苦痛を慰謝するための慰謝料額は10万円と認める。」

3.フェイスブックは要注意

 本件投稿①について言うと、閲覧範囲を友達に限定していたため、問題になることはないと油断してしまったのかも知れません。

 しかし、フェイスブックの友達申請は気軽に行えるため、適当に承認していると、字義通りの意味ではない「友達」も紛れ込みます。300人以上もいれば、使用者側に情報提供する人も含まれていると考えておいた方が良いように思います。

 いずれにせよ、係争中のSNSの利用はメリットがない反面、リスクのある行為であり、

支持者に向けた情報提供、情報共有は、信書を用いたり、クローズドな会議室等で口頭で行ったりすることとしたうえ、

相手の不当性を世に訴えたい場合には、判決の取得後、判決に基づいて行う

のが無難です。