1.パワーハラスメント等を理由とする普通解雇
解雇される理由には幾つかのパターンがありますが、その中の一つに「規律違反行為」があります。
規律違反行為を理由とする解雇は、
「その態様、程度や回数、改善の余地の有無等から、労働契約の継続が困難な状態となっているかにより、解雇の有効性を判断することになる」
「暴行等については、企業秩序や使用者に対する損害が明白であるため、1回限りの行為であっても、その重大性によっては、教育・指導による改善の機会を与える余地はなく、解雇有効とされる場合がある」
と理解されています(佐々木宗啓ほか『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕396頁)。
この「規律違反行為」型の解雇で近時増えているのが、ハラスメント(パワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等)を理由とする解雇です。
ハラスメントが労務管理上重大な問題であることの意識が深まってくる中で、ハラスメントをした方が会社から解雇されたり懲戒処分を受けたりすることが増え、それに比例する形で事件数も増えているのではないかと思います。
規律違反行為との関係で言うと、同僚や上司に対する暴力行為や、会社財産の横領や窃盗に対しては、裁判所からも労働者側に厳しい判断がされることが多いように思います。
それでは、侮辱・罵倒などの暴言型のパワハラの場合はどうなのでしょうか?
一発解雇が有り得る暴行や横領等に比べれば情状は軽そうにも思えますが、故意に同僚の精神を傷つけている点や、企業秩序に対する害悪が明白という意味では、あまり甘くは見られないようにも思われます。
近時公刊された判例集に、暴言型のパワハラを理由とする普通解雇の効力が否定された裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、東京地判令5.3.29労働判例ジャーナル145-40 ファーストブラザーズ事件です。
2.ファーストブラザーズ事件
本件で被告になったのは、ダンスホールの運営、土産品の販売等を営む株式会社です。
原告になったのは、被告との間で期間の定めのない労働契約を締結し、被告が経営するダンスホール(本件ダンスホール)の支配人を務めていた方です。部下である従業員らに対してパワハラを行ったなどとして普通解雇されたことを受け、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。
裁判所は、次のとおり、パワハラの事実を認定しつつも、普通解雇の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
「原告は、平成30年10月21日に本件ダンスホールで開かれたパーティーの際、被告従業員であるP4、P6、P7、P8の前で次のとおり発言した。なお、その内容についてはP6がLINEの録音機能を使って録音をしていた。」
「『俺が(聴取不能)トップでいる限り、あんた(判決注:P4を指す。)のやり方は認めない。あんたは適当だから。あんたは遊び人です。あんた、遊び人以外の何者でもない。それを認めないのもおかしいと思う。遊び人なら遊び人で、堂々と遊び人でいてほしい。ひきょうもんですよ。ひきょうもんでしかない。』『あんたはいつまでも同じとこにいるの。』『おめえだよ、本当に。』『いや、おまえ何にかに礼儀なんかねえ。』『礼儀もくそもねえよ、おまえ。』『おまえに礼儀とか言われる筋合いねえんだよ。』『常識ねえだろう、お前が一番よー。』『くそはげ。』『おまえが一番常識ねえんだよ。』『いや、おめえ、常識ねえから、誰も分かってっから。』『ファーストブラザーズ全社員に聞いてみろ。ここの中では常識あると思われているかもしれない。全社員が、P4は常識がない。』『P4はどうでもいいって言っているよね。』『常識ないと思われているから。』『年長者で、キャリアも長くて、何でトップになっていないの?常識がない、あいつには任せられないと思われている。』『頭おかしいから。』『水商売やってた人間が。』『何、常識語ってんだよ。』
(中略)
「被告は、本件解雇事由として、原告の従業員に対するパワハラ行為、兼業・副業等を主張するところ、認定事実・・・の原告の本件ダンスホールで勤務する従業員に対する暴言は、就業規則11条1項及び2項に違反し、就業規則57条4項に該当すると認められる。」
「原告の本件ダンスホールで勤務する従業員に対する暴言、特に平成30年10月21日のものは、本件ダンスホールの支配人である原告が部下である従業員に対し、その身体的特徴や経歴などをあげつらって侮辱したり、罵倒したりしているのであって、原告とその部下である従業員との間の信頼関係を破壊するのに十分な行為である。現に、本件ダンスホールで勤務する従業員は、原告との話合いを拒み、ダンス事業部の担当役員であった常務取締役のP3は、原告と本件ダンスホールで勤務する従業員との間で意思疎通ができておらず、本件ダンスホールの運営に支障が生じていると考え、原告に対して自宅待機命令を発している。このような点に照らすと、被告が本件解雇に及んだことについて相応の理由があるといえる。」
「しかしながら、被告が原告の問題行動を知り、指摘したのはこれが初めてであって、改善の可能性がないとまではいえないこと、懲戒処分又は人事上の措置として原告の本件ダンスホールの支配人から降格させた上、一従業員として勤務させるという選択肢もあり得ること、被告にはダンス事業部以外にも事業部が存在するにもかかわらず、配置転換の可能性について十分に検討した形跡が見られないことに照らすと、これまで懲戒処分を受けたことがない原告に対して解雇をもって臨むのはやや重きに失し、社会通念上の相当性を欠くものといわざるを得ない。」
「この点につき、被告は、プロダンサーである原告を他の職種に配置転換することは困難であると主張するが、原告が平成21年2月に被告との間で締結したアルバイトの労働契約において、契約書上は被告に配置転換する権限が認められており・・・、また、就業規則40条でも同様のことが定められているのであるから・・・、被告の上記主張は採用できない。」
「以上によれば、本件解雇は社会通念上相当とは認められないから、権利を濫用したものとして無効である。」
「したがって、原告は被告に対する労働契約上の地位にあると認められる。」
3.身体的特徴、経歴をあげつらった侮辱、罵倒には注意
結論として普通解雇は無効になっていますが、裁判所の判示からすると、決して当然に無効になるような事案でなかったことが分かります。特に、身体的特徴や経歴をあげつらっての侮辱・罵倒に対しては、かなり厳しい指摘がなされています。
身体的特徴を揶揄したり、過去の職歴・経歴を馬鹿にしたりすることは、同僚の人格を深く毀損するという点においても、企業秩序を著しく乱すという意味においても、決して楽観視できません。解雇が現実味を帯びてくる非違行為にあたるので注意が必要です。本件は暴言型のパワハラを理由とする解雇の効力を考えるにあたっての限界事例としても、実務上参考になります。