弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

固定残業代の合意-合計支給額が上がっても残業代以外の賃金が下がる場合、書面を取り交わすだけではダメ

1.自由な意思の法理 最二小判平28.2.19労働判例1136-6山梨県民信用組合事件は、 「使用者が提示した労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為があるとしても、労働者が使用者に使用さ…

書面に「割増し分含む」との記載があり、固定残業代の説明をしたとの証言があっても、固定残業代の合意が否定された例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

アカデミックハラスメント-学生に対するハラスメントの懲戒事由該当性が否定された例

1.アカデミックハラスメント 大学等の教育・研究の場で生じるハラスメントを、アカデミックハラスメント(アカハラ)といいます。 セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメント、パワーハラスメントとは異なり、法令上の概念ではありませんが、近時…

部下(学科教員)から上司(学科長)に対するパワーハラスメントの否定例

1.部下から上司に対するパワーハラスメント パワーハラスメントとは、 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの要素を全…

古いハラスメント行為を懲戒事由とすることが否定された例

1.ハラスメントに対する意識の高まりの反作用 令和2年6月1日、 「事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働…

安全配慮義務違反を問題にするうえでの労働時間性-在校時間を要素として労働時間をカウントした例

1.労働時間概念の相対性 行政解釈上、労災認定の可否を判断するうえでの労働時間は、労働基準法上の労働時間と同義であるとされています(令和3年3月30日 基補発 0330 第1号 労働時間の認定に係る質疑応答・参考事例集の活用について参照)。 し…

管理職が声掛けなどをするのみで抜本的な業務負担軽減策を講じなかったとして安全配慮義務違反が認められた例

1.部下の長時間労働とSOSのサイン 労働者が長時間労働で精神障害を発症するに至るまでの間には、SOSのサインが出されていることが少なくありません。深刻な労働災害は、こうしたSOSのサインに対し、管理職が真摯に向き合わないことから発生します…

ミスをして使用者の指示通りの仕事ができなかった時間の労働時間性

1.人間の活動である以上、不可避的に発生する誤りや遅れ 一般論として、使用者から特定の業務を命じられたにも関わらず、就労を拒否したり、故意に他の業務に従事したりすれば、その時間に相当する賃金を得ることは困難です。労働契約上の本旨に従った労務…

労働者派遣:雇用禁止合意(雇用制限条項)を許容するための「正当な理由」の具体的判断例

1.労働者派遣における雇用禁止合意 労働者派遣法33条は、1項で、 「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者・・・又は派遣先となることとなる者に…

派遣労働者や派遣先会社との雇用禁止合意と「正当な理由」

1.雇用禁止合意 労働者派遣法33条は、1項で、 「派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者又は派遣労働者として雇用しようとする労働者との間で、正当な理由がなく、その者に係る派遣先である者・・・又は派遣先となることとなる者に当該派遣元事業主と…

職場で学歴や家庭内の問題を揶揄してはダメ

1.学歴や家庭内の問題の揶揄 そんなことだから妻に逃げられる、〇〇大学を出ているとは思えない-上司が部下にこのような物言いをすれば、当然問題になります。明らかなパワーハラスメントですし、不法行為責任(慰謝料を支払う責任)を生じさせるとも思い…

不適切な交渉の仕方-週刊誌に情報を売ることを示唆する

1.不適切な交渉の仕方 労働事件を自力で解決しようとして、適切ではない方法で交渉をする方がいます。例えば、週刊誌に情報を流すことを示唆するといったようにです。 個人的に見聞きする限りでは、週刊誌に情報を流すと示唆することが使用者との交渉を有…

精神障害の悪化の業務起因性の判断が緩和された例

1.精神障害の悪化事案における業務起因性 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設け…

言動がなくてもコース別人事制度における女性への差別的取扱いが認められた例

1.職種変更からの排除が問題になった事例 以前、 総合職への職種転換の機会を一般職女性から奪ったことが違法とされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事の中で、横浜地判令3.3.23労働判例1243-5 巴機械サービス事件という裁判例を紹…

賃金センサスを下回る賃金水準でも管理監督者性を認めていいのか?

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

査定なしでも考課対象期間の満了日の経過をもって賞与が具体的に確定したと評価された例

1.賞与請求権と査定 賞与の多くは「毎月6月および12月に会社の業績、従業員の勤務成績等を考慮して賞与を支給する」といった規定に基づいて支給されています。このような規定のもと、具体的な支給率・額についての使用者の決定がない場合、 「裁判例の多…

賞与支給日在職要件の適用が公序良俗違反とされた例(労働者が死亡したケース)

1.賞与支給日在職要件 就業規則等で賞与の支給対象者が支給日に在職している者に限定されていることがあります。これを賞与支給日在職要件といいます。 賞与支給日在籍要件に関しては、 「判例上は、支給日在籍要件の定めも合理性を有し、支給日前に退職し…

供述の変遷を突かれるリスク-事実関係の確認は正確に

1.主張書面の確認 訴状や準備書面など、当事者の言い分を記載した書面を「主張書面」といいます。 主張書面を裁判所に提出するにあたっては、事前に依頼者に送り、記載された事実関係の正誤を確認してもらうのが普通です。 この確認作業は、かなり入念に行…

業務上の負傷・疾病の療養中であることを無視した解雇と賃金請求

1.業務上の負傷・疾病の療養のための休業期間における解雇制限 労働基準法19条1項本文は、 「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期…

解雇の撤回により心理的負荷は緩和・除去されるのか?

1.解雇による心理的負荷 解雇を通告されると、労働者はかなりの衝撃を受けます。精神的な不調をきたしてしまう人も少なくありません。 精神障害の労災認定に用いられる 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準に…

家事使用人に該当することを理由とする労災不支給処分の取消訴訟で処分行政庁が業務起因性の欠如を追加主張することは許されるのか

1.労働者災害補償保険法上の保険給付の不支給事由 労働者災害補償保険法上の保険給付おを受給するためには、幾つかの要件が充足されている必要があります。 疾病や負傷が業務に起因していることや(業務起因性)、労働基準法の家事使用人ではないことは(…

家事使用人を兼ねているという一事をもって労災を適用しないことは許されない

1.家事使用人の特殊性 家事使用人(家事一般に使用される労働者)には、労働基準法が適用されません(労働基準法116条2項)。これは「家事使用人については、その労働の態様は、各事業における労働とは相当異なったものであり、各事業に使用される場合…

配転の効力を争うための「保全の必要性」-解雇されるからでは足りないのか?

1.配転の効力を争う上での民事保全の役割 不本意な配転命令を受け、その効力を争う場合、異議を留保したうえで配転先で労務を提供しつつ法的措置をとって争うのが原則です。配転命令に従わないと、無断欠勤(正当な理由のない労務提供の拒否)を理由に解雇…

無期転換権を行使した労働者には正社員就業規則が適用されないのか?

1.無期転換ルールと無期転換行使後の労働条件 労働契約法18条1項1文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約…

契約書の交付に関する否定的な言動がハラスメントとされた例

1.契約書が作成されない問題 企業とフリーラスとの間での契約のように、当事者間の力関係に格差がある場合、敢えて契約書が作られないことがあります。契約書が作られないのは、大抵、力の強い側、企業側の意向でそうなります。 なぜ、力の強い側が契約書…

法的措置をとるなどの強硬な文言のLINEがハラスメントとされた例

1.法的措置を予告するメッセージ 法的措置をとることは国民に認められた当然の権利です(憲法32条)。法的措置を予告することも、基本的に不法行為を構成することはありません。 しかし、一般の方の受け止め方として、法的措置を示唆されると不安になる…

大学教員の公募-不合格者は団体交渉で採用選考過程や評価についての情報開示や説明を求められないか?

1.大学教員の公募は出来レースか? 大学教員の公募に関しては、採用選考が適切に行われていないのではないかという懸念を抱く方が少なくありません。例えば、公募と銘打ってはいるものの、誰を採用するのかは既に決まっていたのではないかといったようにで…

大学教員の公募-不合格者に対し採用選考過程や評価についての情報開示・説明義務を負うのか?

1.大学教員の公募は出来レースか? 大学教員の公募に関しては、採用選考が適切に行われていないのではないかという懸念を抱く方が少なくありません。例えば、公募と銘打ってはいるものの、誰を採用するのかは既に決まっていたのではないかといったようにで…

挨拶をしないことは解雇理由になるか?

1.代表者・上長との挨拶ができなくなる 勤務先会社の代表者や上長との関係性が悪化すると、職場で挨拶を交わすことがなくなりがちです。挨拶をしても無視されたり、代表者や上長の意向を忖度した同僚の態度が冷たくなったりするからです。労働者の側から何…

賃金減額の効力は結構昔のものでも争えるⅡ-6年以上前の賃金減額が無効とされた例

1.積み重なった既成事実の重み 一般論として言うと、不本意な合意を押し付けられても、時間が経つと争うことは難しくなります。不服を述べなかったという既成事実の積み重ねが、合意に納得していたという方向に、裁判所の心証を傾けさせるからです。 しか…