弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

労務管理上の権限があり、出退勤時間に裁量があっても、一般労働者との間で優位な待遇差がないとして、管理監督者性が否定された例

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

労務管理担当の執行役員(被用者)の存在は、代表取締役の取締役としての任務懈怠責任に影響を与えるか?

1.執行役員(被用者)に労務管理を任せていた 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 この条文に基づい…

ノルマと呼称していなかろうが、ノルマだとされた例

1.「ノルマ」と呼ばなければノルマではなくなるのか? 一般的な用語法に従うと、ノルマとは、 「一定時間内に果たすよう個人や集団に割り当てられる標準作業量」 「 各人に課せられる仕事などの量」 を言います。 ノルマとは? 意味や使い方 - コトバンク …

自殺の予見可能性-加重な業務に従事する状態についての予見可能性で足りるとされた例

1.自殺の予見可能性 不法行為であれ債務不履行であれ、損害賠償を請求するためには、故意や過失、因果関係といった要素が必要になります。 ここでいう「過失」とは結果予見義務を前提としたうえでの結果回避義務違反をいいます。また、相当因果関係とは、…

法科大学院の廃止に伴い実務家教員を整理解雇するために求められる解雇回避努力-法学部から科目確保を断られたら仕方ないとされた例

1.専門職大学院の実務家教員の整理解雇と解雇回避努力 専門職大学院で行われている教育内容は、学部教育の延長線上にあることも少なくありません。例えば、法科大学院での教育内容は、法学部での教育内容をより高度に発展させた形になっています。 そうで…

専門職大学院の廃止に伴う実務家教員の整理解雇

1.専門職大学院の実務家教員 学校教育法99条は、次のとおり規定しています。 「第九十九条 大学院は、学術の理論及び応用を教授研究し、その深奥をきわめ、又は高度の専門性が求められる職業を担うための深い学識及び卓越した能力を培い、文化の進展に寄…

キャリア形成と配転-専門職(言語聴覚士)に対する根拠のない職務の一方的な変更が不法行為を構成するとされた例

1.配転命令と損害賠償 違法な配転命令に対しては、 「〇〇(配転先)において勤務する労働契約上の義務を負わないことを確認する」 といったように義務不存在の確認を求めることのほか、 損害賠償(慰謝料)を請求すること が考えられます。 損害賠償請求…

「厚生労働省の言う通りやっていたら、病院はもうからない」などと、サービス残業か不正行為をしなければ達成できないノルマを課することが問題視された例

1.職場におけるパワーハラスメント 職場におけるパワーハラスメントとは、 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるものであり、 ①から③までの要素…

精神障害の労災認定-「左遷」か「閑職への配置転換」か

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 令和5年9月1日 基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」 という基準を設けています。 精神障害の労災補償について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/co…

求人票の「原則更新」の記載が雇用契約書上「契約を更新することがある」と書かれた有期労働契約の更新に向けた合理的期待の評価にあたり考慮された例

1.求人票の記載、雇用契約書の記載 求人票の記載と、使用者から示された雇用契約書の労働条件が異なっていることがあります。 こうした場合、雇用契約書にサインしてしまった労働者は、求人票に書かれていた労働条件を主張することができるのでしょうか? …

定年制のない会社で有期労働契約を締結している高年齢者が抱く契約更新に向けた合理的期待

1.雇止めの二段階審査 労働契約法19条2号は、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」 場合(いわゆる「合理的期待」が認められ…

交際していた女子学生の修士論文の盗用を理由とする副学部長解任処分・大学院の科目担当を当分の間認めない処分は司法審査の対象になるか?

1.論文の盗用を争点とする処分は司法審査の対象になるのか? 昨日、交際していた女子学生の修士論文を盗用した指導教授が、大学から停職3か月の懲戒処分を受けた裁判例を紹介しました(大阪地判令6.1.11労働経済判例速報2541-18 学校法人関…

指導教授の単著論文(交際関係にあった学生の修士論文と約70%の表現が同一)が「盗用」に該当するとされた例

1.指導教授等による研究業績の剽窃 労働事件におけるハラスメントと構造的に類似することや、大学教員の方の労働事件を比較的多く受けている関係で、アカデミックハラスメントは個人的な興味研究の対象になっています。 アカデミックハラスメントに関する…

親族関係が絡む解雇事件の注意点-「仕事をやらなくていい」「出勤しなくていい」「仕事を引き継いでくれ」が解雇の意思表示ではないとされた例

1.「仕事をやらなくていい」「仕事を引き継いでくれ」 使用者から労働契約の終了が告げられる時、はっきりと「解雇する」とは言われないことがあります。このブログでも以前取り上げましたが、「明日から来なくてもいい」といったような言動がその典型です…

未払賃金があることは、使用者の責めに帰すべき事由によって労務提供できない理由になるか?

1.解雇撤回をめぐる攻防 使用者から解雇された労働者が、解雇の無効を主張して地位確認を求めると、使用者の側から解雇を撤回するから、働くようにと指示されることがあります。 このような局面で、 解雇が撤回されるまでの間の賃金が支払われない限り働く…

人材紹介会社が提示した労働条件が変更されたかどうかは慎重に検討するべきであるとされた例

1.人材紹介会社(職業紹介事業者)が流す不正確な求人情報 人材紹介会社(職業紹介事業者)が出している求人情報を見て応募したところ、それとは異なる労働条件を使用者から提案されたとして、トラブルになる例は少なくありません。 ただ、法も、こうした…

求人票上の「3~5時間分の残業手当を固定残業代として支給する」との記載では判別可能性がないとされた例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

労働者が10分単位又は15分単位で入力していた機械的正確性のない出勤簿に基づいて労働時間が認定された例

1.業務関連性は明白であるが、機械的正確性のない証拠 残業代を請求するにあたり、労働時間の立証手段となる証拠には、 機械的正確性があり、成立に使用者が関与していて業務関連性も明白な証拠 成立に使用者が関与していて業務関連性は明白であるが、機械…

在籍出向の規定を欠く会社との間では、出向することが記載されている雇用契約書の取り交わしに応じなくても問題ないとされた例

1.出向 最二小判平15.4.18労働判例847-14 新日本製鐵(日鐵運輸第2)事件は、労働者の同意を前提としない出向命令の可否について、 「(1)本件各出向命令は、被上告人が八幡製鐵所の構内輸送業務のうち鉄道輸送部門の一定の業務を協力会社…

出向先や労働条件が不明確であるとして出向命令が無効とされた事例

1.出向を命ずることができる場合 労働契約法14条は、 「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該…

「退職するとなったときにはそれらの費用(就労準備費用)を負担してもらいますが大丈夫ですか」⇒「大丈夫です」では、費用の返還義務は生じないとされた例

1.就労準備費用の返還請求 少子高齢化ほか様々な要因により、本邦では至るところで人手不足・人材不足が進行しています。人手不足・人材不足が深刻化すると、労働者の調達コストが上昇します。労働者の調達コストが上がると、採用にあたり、使用者から、 …

退職合意書の清算条項が労働者の有利に働いた事例

1.清算条項 退職の時、清算条項付きの合意書の取り交しを求められることがあります。 清算条項とは、 「甲と乙は、本合意書に定めるほか、甲と乙との間に、何ら債権債務のないことを、相互に確認する」 といった趣旨の条項です。 会社側が労働者に清算条項…

労働者に対して行われる研修費用の本来的な負担者は誰なのか?

1.研修費用の取扱い 労働者に対して行われる研修には、二面性があります。 一つは、使用者が自分の業務を遂行するために行っているという面です。 もう一つは、労働者自身の職業能力の向上という面です。 前者の面を強調すれば、労働者に対して行われる研…

勤務時間が定められていなかったとしても元からであったとして、労働契約を合意解約して業務委託契約を締結したとの主張が排斥された例

1.労働者と業務受託者 労働者は労働基準法をはじめとする労働関係法令の保護を受けます。 これに対して、業務委託契約を交わして業務を遂行する個人事業主(フリーランス)は、労働関係法令の保護を受けることができません。昨年、「特定受託事業者に係る…

会社が倒産状態にないのに従業員に対する賃金不払いに代表取締役の個人責任(損害賠償責任)が認められた例

1.賃金の不払と取締役の個人責任 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 賃金を払ってもらえない労働者…

時間外勤務手当等の弁済として認められなかった「残業手当」(売上の10%相当額)は「出来高払制の賃金」になるのか?

1.残業代のダブルパンチ 固定残業代の有効性が否定されると、固定残業代の支払に残業代の弁済としての効力が認められなくなるほか、使用者は固定残業代部分まで基礎単価に組み込んで計算した割増賃金を改めて支払うことになります。このことが使用者側にも…

時間外勤務手当等の法定外計算(売上の10%に相当する「残業手当」の支払)に、時間外勤務手当等の弁済としての有効性が認められなかった例

1.時間外勤務手当等の法定外計算 割増賃金の計算方法は労働基準法37条やこれを受けた労働基準法施行規則19条等に規定されています。 しかし、 ①労基法37条や労規則19条等に規定された計算・支払方法によらない計算・支払方法(法定外計算) ②基本…

幼少時に父親から性暴力を受けていても、セクシュアルハラスメントと鬱病・不安障害・適応障害・PTSDとの相当因果関係が認められた例

1.セクシュアルハラスメントと精神障害との相当因果関係 この記事の表題を見た一般の方の中には、幼少時に父親から性暴力を受けていたら、セクハラを受けて鬱病等の精神障害(精神疾患)を発症しても、因果関係が否定されてしまうのかと不思議に思った方が…

セクハラの迎合的言動はどこまで覆せるか-ラブホテルに一緒に入室していても、性的同意はなかったとされた例

1.セクシュアル・ハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関…

同意を表すように見えても実はそうでない-被害を受けている被害者は、笑っていることがあるとされた例

1.セクシュアル・ハラスメントと迎合的言動 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関…