弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

勤怠に反映されていない不就労と残業代請求

1.勤怠に反映されていない不就労 残業代を請求する訴訟をしていると、タイムカードなどの客観証拠によって始業時刻と終業時刻をある程度特定できる事案においても、業務時間中にサボっていたという主張が使用者側から大量に出されることがあります。 別段…

寸分たがわない残業時間の申告

1.残業時間の調整 残業代の支払をしないため、偽装工作が行われることがあります。タイムカードを打刻させてから働かせる・手書きの出勤簿に適当な時刻を記入させてから働かせるといった手口が代表的です。 こうした偽装工作の一種に、月の残業時間の上限…

新型コロナ感染と安全配慮義務違反に基づく損害賠償

1.新型コロナ感染と安全配慮義務違反に基づく損害賠償 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」 と規定しています。 これはいわゆる安全配…

人を死に追いやる言葉としての「アスペ」

1.悪口としての発達障害・アスペ(アスペルガー障害) 数日前に、 「素人による発達障害というレッテル貼りは違法」 という記事で、発達障害という言葉を使って労働者を揶揄し、退職勧奨したことが、違法だと判断された裁判例を紹介しました。 https://ssk…

異動の内示は拒否していいのか?

1.日本の人事労務管理の特徴-配転の多さ 日本企業の人事労務管理の一つの大きな特徴に、配転の多さがあります。「頻繁な配転の意義は、長期雇用慣行をとる日本企業において、①多数の職場や仕事を経験させることによって幅広い技能・熟練を形成していくと…

フィーリングによる面接が否定された事例(雇止め)

1.面接・面談の恣意性 採用面接や人事考課面談では、しばしば、評価者による恣意性が問題になります。面接担当者や上司によって対象者に対する評価が全く異なったものになるという話を聞くことは、個人的な経験の範囲内でも少なくありません。 こうした問…

日時を特定しない勤務態度は懲戒事由になるのか?

1.抽象的な懲戒事由の主張 懲戒処分の効力を争っていると、使用者側から、普段から仕事がいい加減だとか、勤務態度が悪いだとか、サボっているだとか、抽象的な形で懲戒事由が主張されることがあります。 こうした主張は、具体的な懲戒事由を補強する要因…

就職妨害・大学院進学の強要がアカデミックハラスメントに該当するとされた事例

1.アカデミックハラスメント アカデミックハラスメントという和製英語があります。これは大学や大学院の構成員間で発生するハラスメントを総称する概念として用いられる言葉です。 法律用語ではないため、統一的な定義はありませんが、各大学は独自に概念…

人事管理の一環であっても本人の同意なく医師から医学所見を聴取するのは違法

1.人事管理の一環としての医学所見の取得 病歴等に係る情報は、法律上「要配慮個人情報」(個人情報保護法2条3項)として定義されており、個人情報保護法による保護が図られています。 個人情報保護法上、個人情報を第三者に提供するためには、原則とし…

素人による発達障害というレッテル貼りは違法

1.発達障害というレッテル 日常生活の中で器用でない振る舞いをする人に対し、医師でもないのに「あいつは発達障害だ。」というレッテルを貼って、辛くあたる人がいます。 本当に下らないと思いますが、弁護士業務をしていると、それなりの頻度で目にしま…

タクシー運転手の方へ 歩合給から残業代を差し引かれていたら・・・

1.歩合給から割増賃金を差し引く仕組み タクシー会社の賃金規程を見ていると、歩合給から残業代を差し引く賃金制度が少なくないように思われます。 こうした賃金制度のもとでは、同額の売上を生じさせた場合、所定労働時間内にその売上を達成した場合であ…

異動に伴う賃金減額の効力に関する相談を、東亜ペイント事件の枠組みで回答することは適切か?

1.異動に伴う賃金減額 ネット上に、 「『上司のパワハラ』報告したら“自分も異動”に…こんな配置転換、理不尽だ!」 という記事が掲載されています。 https://www.bengo4.com/c_5/n_11193/ 記事は、 「『上司のパワハラを本部に報告したところ、自分が異動…

退職勧奨の場面における再雇用の約束はあてにならない

1.再雇用の約束 新型コロナウイルスの影響を受け、「雇用保険・・・の給付を受けた方がいい」との判断のもと、多数の従業員との間で再雇用含みの退職合意を交わしたタクシー会社があります。 このタクシー会社の社長が、最近になって、 「僕が再雇用を約束…

就業規則の懲戒事由の定めは懲戒対象行為を限定する機能を果たしているのだろうか

1.懲戒処分の有効要件(懲戒事由の定め) 使用者が労働者を懲戒するためには、 「あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」 と理解されています(最二小判平15.10.10労働判例861-5フジ興産事件参照)。 しか…

パワハラ訴訟は時機を逸してはならない-事件化の選択肢を維持するためには

1.事件化するタイミング このブログ上で、何度か、古い事件は問題にしにくいと言及してきました。 パワハラの有無をめぐる損害賠償請求訴訟では、その傾向が特に顕著であるように思います。近時公刊された判例集にも、そのことを読み取れる裁判例が掲載さ…

セクハラー頭肩ポンポンもダメ、1回でもダメ。

1.セクシュアルハラスメント 職場でのセクハラについては、厚生労働省から、 「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成 18 年厚生労働省告示第 615 号)」 という文書が出されています。…

固定残業代の合意の明確性-金額と時間数の双方の明示が必要?

1.基本給組込型の固定残業代の有効要件 基本給組込型の固定残業代の有効要件を判示した著名な最高裁判例に、最一小判平24.3.8労働判例1060-5 テックジャパン事件があります。 テックジャパン事件の最高裁判決は、基本給組込型の固定残業代の有…

解雇に納得しない場合、その場での反論が必要か?

1.時間が経つと事件化が困難になる 一般論として、時間の経過は事件化を困難にします。 その傾向は解雇事件にもあてはまり、弁護士向けの実務書にも、 「裁判例は、解雇から長期間経過した後は、信義則上、もはや無効の主張をしえなくなるとしているものが…

労働条件の利益変更を主張するにあたり、就業規則の変更が必要か?

1.就業規則による労働条件の変更 労働契約法9条本文は、 「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」 と就業規則を変更することで労働条件を不利益…

使用者から連絡を待つように指示され、そのまま放置されたら・・・

1.放置の帰責事由該当性と就労意思 民法536条2項本文は、 「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。」 と規定しています。 この条文があることにより、使用者…

均等法、育児介護休業法上の「不利益な取扱い」に該当するための量的な不利益性

1.均等法、育休法上で禁止される「不利益な取扱い」 男女雇用機会均等法9条3項は、 「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと、労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第六十五条第一項の規定による休業を請求し、又は同項若…

労働事件の仮処分-資産のある人が依頼する合理性は乏しい

1.労働事件の仮処分 (1)賃金支払の仮処分 解雇の効力を争う事件などで、係争中の労働者の生活を維持するための方法の一つとして、賃金仮払いの仮処分があります。これは使用者から生活を維持するために必要な限度での賃金を、仮に支払ってもらうための…

雇用保険の手続不履践による疑似労働者の救済手続-損害賠償請求か確認請求か?

1.雇用保険の未加入と債務不履行責任 事業主は、雇用保険の対象となる労働者を雇入れた場合、その者が被保険者になったことを公共職業安定所長に届出る義務があります(雇用保険法7条、雇用保険法施行規則6条参照)。 しかし、実体は労働契約であるにも…

懲戒処分にあたっての弁明の機会、二段階の機会付与が必要か?

1.懲戒処分の構造 懲戒処分の有効性は、二つの観点から審査されます。 一つは、懲戒事由に該当する事実を認定できるのか否かです。事実認定の問題として、使用者が懲戒事由として主張する事実自体を認定することができない場合、処分の相当性を問うまでも…

コミュニケーション能力不足が争点となる事件で噛み合わない準備書面を作成すること

1.コミュニケーション能力不足を理由とする解雇事件 コミュニケーション能力不足を理由とする解雇が争点となる事件で、使用者側の主張と噛み合わない準備書面を出し、そうした手続態度がコミュニケーション能力不足の裏付けとされた裁判例が公刊物に掲載さ…

有給休暇の買取代金の法的性質

1.有給休暇の買い取り 労働者が使用者に有給休暇の買い取りを求めたとしても、これに応じる義務が使用者に生じるわけではありません。 しかし、実務上、退職日までに使い切ることができなかった有給休暇があるなどの場面で、労使間で有給休暇の買い取りが…

取締役就任にあたっての留意点-雇用契約終了の黙示的合意

1.取締役就任 従業員(労働者)と取締役とでは、地位の安定の度合いが全く異なります。 従業員の解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効となります(労働契約法16条)。 しかし、取締役などの会社役員は、…

労働者の供述による就労意思の認定-どこまでの積極性が必要なのか?

1.就労意思の認定 解雇無効の判断を勝ち取ったとしても、就労の意思が認定されないと、バックペイ(解雇無効の判断が出た時に、解雇の意思表示がなされた時点に遡って支払ってもらえる賃金のこと)を得られないことがあります。 そのことを十分に留意した…

「自由な意思」論の拡張-一側面では利益・他の側面では不利益となる労働条件の変更への適用可能性

1.「自由な意思」論 合意の効力は、勘違いをしていた、騙された、脅かされたなどの事情がない限り、否定されないのが原則です。 しかし、労働法の領域では、勘違い、騙された、脅かされたといった事情がなかったとしても、 「労働者の自由な意思に基づいて…

依頼人を裁判期日に出頭させることの適否(出頭が裁判官の心証に消極的に響いた事例)

1.裁判の期日への当事者の出頭 訴訟事件を弁護士に依頼すれば、尋問期日などの特別な場合を除き、当事者の方は裁判期日に出頭する必要はなくなります。訴訟代理人弁護士が代わりに出頭して手続を行うからです。 大抵の人にとって裁判はストレスになるよう…