弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

ハラスメントの被害者に配置転換を求める権利性を認めることができるか?

1.労働者は職場に配置転換を求めることができるのか? ハラスメントに関する相談を受けていると、勤務地や部署の変更を請求することができないかと尋ねられることがあります。 しかし、配置転換を使用者に対して権利として請求することができるかというと…

決められた総額を調整するための費目と固定残業代

1.固定残業代の有効性 固定残業代が有効であるといえるためには、 「労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である・・・。そして、使用者が、労働契…

営業秘密が記載された書証を提出する時に、労働者はマスキングを行う義務を負うのか?

1.秘密保持義務と裁判を受ける権利の相克 一般論として、労働者は、会社に対し、営業秘密を漏洩しない義務を負っています。 そのことは、大抵の会社の就業規則に書かれています。例えば、厚生労働省のモデル就業規則では、労働者の遵守事項として、 「在職…

指導票への署名・押印に残業代支払債務の承認としての効力が認められるか?

1.残業代の消滅時効期間 労働基準法115条は、 「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない…

提訴記者会見に厳しい時代の到来か

1.提訴記者会見での言動が労働者の地位を脅かす 昨年の11月、マタハラがテーマになった事案で、社会的な耳目を集めた判決が言い渡されました。東京高判令元.11.28労働判例1215-5 ジャパンビジネスラボ事件です。 この判決には重要な判示事項…

長時間労働を理由とする慰謝料請求-精神疾患の発症なし、月30~50時間の水準の残業でも可能とされた例

1.長時間労働と慰謝料 昨年、精神疾患の発症がなかったにもかかわらず、長時間労働を理由とする慰謝料請求が認められた事案が話題になりました。 以前、このブログでもご紹介したことのある、長崎地大村支判令元.9.26労働判例ジャーナル94-68 狩…

アダルトサイトの閲覧(わいせつ情報等に接していたこと)は取締役解任の正当な理由になるか?

1.取締役はサボってもいい? 労働者とは異なり、株式会社の取締役は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条1項)。しかし、解任に「正当な理由」がない場合、解任された取締役は、株式会社に対して解任によって生じた…

過大な要求-私的な雑用の処理を強制的に行わせること

1.パワーハラスメントの六類型の一つ-「過大な要求」 令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 はパワハラを六個の類型に整理して…

復職の場面での有力な武器-診断書の趣旨を主治医に確認すべき注意義務/慣らし勤務を経させる義務

1.なおざりな復職要件の確認 病気休職者の復職要件は、一般に、 「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復した」 ことであるとされています(浦和地判昭40.12.16労働判例15-6 平仙レースの事件)。 ただ、従前どおりのパフォーマンスを発…

休職からの復職にあたり、配置転換を断ったら解雇/退職扱いされた方へ

1.病気や怪我をした従業員に冷たい会社は少なくない 病気や怪我をした従業員に対して冷たい対応をとる会社は少なくありません。休職まではさせてくれても、いざ復職しようとすると、何だかんだと理由をつけて会社から去らせようとしてきます。 会社が従業…

仕事で病気・怪我をしたフリーランスの方へ-労働者性を争うことにより手厚い補償を受けられる可能性がある

1.フリーランス・個人事業主の病気や怪我に対する脆弱性 フリーランス・個人事業主(以下「フリーランス等」といいます)は、病気や怪我に対して労働者よりも遥かに脆弱です。それは社会保険や労働保険が不十分だからです。 業務上の災害に対し、労働者は…

録音する時の留意点-発言の価値は、録音状況や質問の仕方とのセットで決まる

1.録音の重要性 ハラスメントを事件化する時、録音の存否は事件の見通しに大きく影響します。確たる証拠がないのに、相手方がハラスメントの存在を素直に認めることは、先ずないからです。相手方が事実の存否を争った場合、ハラスメントの事実は当方で立証…

事件報道を真に受けて事件を語ることの危険性

1.弁護士から見た事件報道 事件報道に対して冷めた見方をする弁護士は、少なくないように思います。それは何も斜に構えて格好をつけているわけではありません。ある程度の年数弁護士をしていれば、報道される事件の一つや二つ経験することは珍しくありませ…

裁判に勝つための方策-反省すべきか、反省しないべきか

1.解雇の可否と改善可能性 以前、 「懲戒解雇の効力を検討するうえでの改善可能性の位置づけ-改善可能性がなくても懲戒解雇は有効にはならない」 という記事の中で、解雇の可否を判断するにあたり、改善可能性という概念が重要な意味を持っていることを書…

他人間の運転トラブルに介入し、諭旨解雇になるとともに使用者から100%の求償を受けた例

1.使用者から労働者への求償 民法715条1項本文は、 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 この条文を根拠として、被用者の行為によって損害を受けた…

懲戒解雇の効力を検討するうえでの改善可能性の位置づけ-改善可能性がなくても懲戒解雇は有効にはならない

1.解雇の可否と改善可能性 解雇の効力を検討するにあたり、改善可能性という考え方があります。大雑把に言うと、問題となる行為があったとしても、改善する可能性があるのであれば、解雇する前にきちんと注意、指導をしなければならず、こうした事前の注意…

人事考課の理由を労働者本人に説明しないで降格することは許されるのか?

1.説明のない人事考課 長期雇用システムの下の労働契約においては、使用者が、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく、職業上の能力の発展に応じて様々な職務やポストに配置することが予定されているため、労働者を組織の中で位置づけ、…

就業規則の変更-従業員代表を不信任投票方式で選任することは許されるのか?

1.就業規則の変更の手続的要件-従業員代表からの意見聴取 労働基準法90条1項は、 「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合…

固定残業代の効力-実際の時間外労働等の状況との乖離Ⅱ(下方向の乖離でも効力を否定する根拠になるか?)

1.固定残業代の対価性要件 固定残業代の合意が有効といえるためには、 「時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていた」 ことが必要とされています(最一小判平30.7.19労働判例1186-5日本ケミカル事件)。 そして、固定残業代…

固定残業代として許容されない想定残業時間のライン

1.固定残業代の有効性-想定労働時間数を問題にするもの 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版…

他の従業員からの苦情を、本人に伝える時に求められる配慮義務

1.従業員間の軋轢に対する上司の対応 労働事件に関する相談を受けていての実感ですが、労働者と使用者との紛争の発端には、労働者間の軋轢が背景にあることも珍しくありません。 例えば、単なる言い掛かりにすぎない同僚からの苦情を、碌に精査もせずに鵜…

上司と一緒の出張は心身への負荷がかかるから移動時間も労働時間

1.通勤時間・出張中の移動時間の労働時間性 一般論として、通勤時間に労働時間性は認められません。労働力を使用者の下へ持参するための債務履行の準備行為に位置づけられるため業務性を欠くというのと、その内容においても通常は自由利用が保障されている…

従業員をゼロにすれば就業規則(退職金規程)を好き勝手に改廃できるのだろうか?

1.就業規則の変更の制限 労働基準法90条1項は、 「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半…

イエスマンでないことを理由にクビにできるか?

1.仕事観の違い、質問・異論・意見の提出 解雇やハラスメントに関する相談を受けていると、経営者との仕事観の違いや、質問・異論・意見の提出が、事件の端緒になっていることが珍しくありません。 解雇の効力が問題となる事件について言うと、こうした価…

退職の意思表示の認定-「慎重に検討する必要がある」とされた例

1.退職の意思表示には「自由な意思に基づいていない」との理屈が通用しにくい? 労働法の領域では、 「自由な意思に基づいていない。」 との理屈で、合意の効力を否定できる場合があります。 しかし、合意退職、退職の意思表示の場面で、こうした理屈を適…

日時を特定しない居眠りの主張・立証に意味はあるのか?

1.居眠りの主張・立証 使用者側から解雇事由の一つとして、勤務時間中の居眠りを指摘されることがあります。また、残業代を請求した時に、「居眠りをしていたから払わない。」という反論が寄せられることがあります。 しかし、大抵の場合、 「それでは、何…

固定残業代の亜種-さじ加減によって支払われていた「時間外手当」「休日手当」は有効な残業代の弁済になるのだろうか

1.ランダムに額が決められている「時間外手当」「休日手当」 固定残業代は、一般に、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 として定義されています(白石哲編著『労働関係訴…

就業規則の周知性-物理的に知ろうと思えば知れればいいのか?

1.就業規則の周知性 労働契約法7条本文は、 「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとす…

医療従事者の「休憩時間」は労働時間である場合が相当程度あるのではないだろうか

1.手待時間 使用者の指示があれば直ちに作業に従事しなければならない時間を手待時間といいます。休憩とされている時間も、手待時間であると認められれば、労働時間となります。 実務上、手待時間への該当性は、職業運転手の待機時間、事業場内における仮…

労働時間概念の相対性-労災認定の場面では厳密な労働時間「数」の立証がいらないこともある

1.労災認定の場面における「労働時間」の重要性 精神障害の発症が労災と認定されるためには、時間外労働の時間数が重要な意味を持ちます。 具体的に言うと、 「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日付け 基発1226第1号)(令和2…