弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

過労死しても7割自己責任-健康診断の軽視等はそこまで責められることなのか?

1.過失相殺 民法418条は、 「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」 と規定しています。 また、民法722条2項は、 「被害者に過失…

労災民訴-取締役への責任追及の壁

1.取締役への責任追及 会社法429条1項は、 「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 そして、取締役の職務には、自らが法令を…

労使紛争の局面で、マスコミを出すのは慎重に

1.マスコミへの情報提供 勤務先と紛争状態になった時、労働者側から「マスコミにリークする」という趣旨の発言がなされたり、実際に勤務先の問題点についてマスコミに情報提供がなされたりすることがあります。 使用者とのパワーバランスの問題から、社会…

管理職はプライベートを優先して早退してはダメ?

1.管理監督者の出退勤の自由 管理監督者には時間外勤務手当を支払う必要がありません(労働基準法41条2号参照)。ただ、この管理監督者に該当するためには、①事業主の経営上の決定に参画し、労務管理上の決定権限を有していること、②自己の労働時間につ…

試用期間中の解雇-初期と終期とで解雇のしやすさに違いはあるか?

1.試用期間中の解雇 長期雇用制度の下の正規従業員の採用にあたり、一定期間を試用期間として労働者の能力、適性をみることは多くの企業において行われています(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、初版、平29〕262頁参照…

他社就労しながら解雇の効力を争う場合の留意点-黙示の合意退職を認定されないためには

1.地位確認訴訟係属中の他社就労 裁判には、どうしても、一定の時間がかかります。それは解雇の効力を争って地位確認訴訟を提起する場合も同じで、訴訟提起から一審判決の言い渡しまでには、1年以上かかることも珍しくありません。 例え解雇が違法・無効…

残業代請求でGPS移動記録に基づく労働時間の立証が認められた事例

1.GPSによる労働時間の立証 残業代を請求する時、スマートフォンを利用したGPS移動記録は、他の証拠と組み合わせて使うことにより、かなりの威力を発揮することがあります。 例えば、メールの送信時刻を労働時間の立証の柱として使う場合に、GPS…

飲み会(接待・懇親会)に労働時間性が認められた事案

1.飲み会(接待・懇親会)の労働時間性 労働基準法上の労働時間は、 「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的…

認定基準に満たない労働時間でも労災が認められた例

1.脳血管疾患及び虚血性心疾患等の労災認定基準 くも膜下出欠や心筋梗塞などの脳血管疾患・虚血性心疾患等は、業務による過重負荷も原因になることが知られています。そうした医学的知見を踏まえ、厚生労働省は脳血管疾患・虚血性心疾患等が労災と認められ…

従業員の「厳格な地域制限」の不遵守は解雇理由になるのか?

1.「厳格な地域制限」 「厳格な地域制限」という言葉があります。 日常生活の中では、あまり耳にしない言葉だと思いますが、これは、 「事業者が流通業者に対して、一定の地域を割り当て、地域外での販売を制限すること」 をいいます(平成3年7月11日 …

固定残業代における残業時間数の上限について

1.固定残業代における残業時間数の上限 あらかじめ定められた一定の金額で残業代を支払うシステムを固定残業代といいます。この固定残業代に異様な想定残業時間数が組み込まれていることがあります。例えば、80時間分の残業代として〇〇手当を支払う、1…

個別同意による労働条件の不利益変更に必要な「説明」とは?-「嫌なら辞めて」ではダメ

1.労働条件の不利益変更 労働契約法9条は、 「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。」 と規定しています…

セクハラによる精神障害-会社側に求められている被害者対応の水準は意外と高い?

1.セクハラによる精神障害と労災 セクシュアルハラスメントによる心理的負荷で精神障害を発症した場合、労災認定を受けられる可能性があります。 より具体的に言うと、 「胸や腰等への身体接触を含むセクシュアルハラスメントであって、継続して行われた場…

「頭をなでる」「匂いを嗅ぐ」「『かわいい』と言う行為」がセクハラに該当するとされた例

1.セクハラの該当例 職場における性的な言動への対応により労働条件に不利益を受けたり、性的な言動で就業環境が害されたりすることを、「職場におけるセクシュアルハラスメント」といいます(平成18年厚生労働省告示第615号 事業主が職場における性…

不更新条項付きの有期労働契約の雇止めの否定例-有期プロジェクトの期間が鍵になった例

1.有期労働契約と不更新条項 有期労働契約を締結した場合であっても、契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由がある場合、客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が認められない限り、使用者は労働者からの契約更新の申込みを拒絶する…

一定期間の労働時間から他の期間の労働時間が推計された事例

1.時間外勤務手当等の請求と推計方式 時間外勤務手当等を請求しようと思っても、タイムカードなどの客観的方法で労働時間管理がされていないことがあります。こうした場合、メールの送信履歴など、タイムカード以外の証拠に基づいて労働時間を主張、立証し…

マイナス10度下でのスキー機動訓練は危険性のない日常業務?

1.公務災害の認定基準 人事院事務総局勤務条件局長 平成13年12月12日勤補-323「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務災害の認定について」という行政通達があります。 これは、心・血管疾患等が公務上災害といえるかどうかを判断するにあたっての認…

職場での録音に消極的な裁判例の流れ-自己主張を通すための手段としての秘密録音はダメ

1.録音の重要性 労働事件に限ったことではありませんが、訴訟において録音が重要な証拠として機能することは少なくありません。 しかし、近時、職場における録音に、消極的な評価を下す裁判例が続いているように思います。最近の例で言うと、執務室内での…

事後的に体裁を取り繕ったところで固定残業代は容易には有効にならない

1.固定残業代 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残業代に…

職種限定合意を覆す正当な理由

1.職種限定合意と配転 職種限定合意がある場合、使用者は労働者から個別に同意を取り付けない限り、他職種への配転を命じることができません。 しかし、一定の正当な理由が認められる場合には、職種限定合意がある場合であったとしても、他職種への配転が…

職種限定合意が認められやすい職業類型-大学准教授

1.職種限定の合意 使用者による配転命令の効力を、配転命令権の濫用という観点から争うことは、決して容易ではありません(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)。 しかし、配転命令権の効力の争い方は、濫用を主張することだけ…

裁判所は素人による逸脱した行為(弁護士の頭越しに行う直接交渉)に甘すぎではないだろうか

1.代理人の頭越しの交渉 弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規70号)52条は、 「弁護士は、相手方に法令上の資格を有する代理人が選任されたときは、正当な理由なく、その代理人の承諾を得ないで直接相手方と交渉してはならない。」 と規定…

仕事への思い入れの強さは労災認定との関係では不利になる?

1.ストレス-脆弱性理論 労災の場面で「ストレス-脆弱性理論」という言葉が使われることがあります。 これは、 「対象疾病の発病に至る原因の考え方は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうか…

退職までの出勤日を有給休暇で埋める法的根拠

1.退職妨害への対応方法 退職したいと言い出すと、ハラスメントによる報復が予想される場合、退職予定日までの出勤日を有給休暇で埋めてしまうことがあります。 有給休暇の時季指定が「事業の正常な運営を妨げる場合」、使用者には時季変更する権利が与え…

有給休暇-言い出しにくい時には弁護士を通じて言ってもよいのではないか

1.年次有給休暇と時季変更権 労働基準法上、使用者は、その雇入れの日から起算して6か月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、勤続期間に応じた有給休暇を与えなければならないとされています(労働基準法39条1項2項)。これを…

士業の就職は慎重に-ボスに連座して2000万円超の負債を背負った社会保険労務士

1.士業法人における社員の無限責任 株式会社の場合、原則として、社員(株主)が会社の負債の返済を迫られることはありません。 しかし、士業の法人に関していうと、法人に連座して社員(構成員)が責任を負う形が基本とされています。 例えば、弁護士法3…

長時間労働とウイルス性疾患による死亡との間の相当因果関係

1.対象疾患 業務による明らかな過重があったとしても、あらゆる病気が労災認定の対象とされているわけではありません。脳・血管疾患及び虚血性心疾患等に関して言うと、過重業務に起因する疾患は、行政通達上、 脳内出血(脳出血) くも膜下出血 脳梗塞 高…

マタハラ-育休取得後の原職復帰の原則と原職の消滅

1.育休取得後の原職復帰の原則 育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(以下「法」といいます)22条は、 「事業主は、育児休業申出及び介護休業申出並びに育児休業及び介護休業後における就業が円滑に行われるようにする…

整理解雇の解雇回避措置としての配転・出向

1.整理解雇の許容性の考慮要素 「整理解雇については、・・・裁判例の集積により、①人員削減の必要性、②解雇回避措置の相当性、③人選の合理性、④手続の相当性を中心にその有効性を検討するのが趨勢である」と理解されています(白石哲編著『労働関係訴訟の…

「理由は特にない」「説明はしません」「人事権に文句いうんじゃない。」-手続的な配慮を欠く配転命令の効力

1.配転命令権行使の適法性の判断枠組み 労働者の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が相当の長期間にわたって変更されるものを配転といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕220頁参照)。 配転命令権の適法…