弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

労働事件

整理解雇における交渉、無理のある回答期限の設定はリスクでしかない(労働条件の切り下げに応じるか、さもなければ解雇する)

1.無理のある回答期限の設定には、害はあっても益はない 労使紛争に限らず、紛争の一方当事者が他方当事者に何等かの要求をする場合、回答期限を設定することがあります。 例えば、 「本通知の到達後、2週間以内にご回答を頂けない場合、やむを得ず法的措…

「もう来なくてもいい」系の言動への対応-働く気はないけれどもクビになるのは納得できない方へ

1.「もう来なくていい」系の言動への対応 「『もう来なくてもいい』と言われた。こんな会社で働く気はないけれども、クビになるのは納得できない。」という相談を受けることがあります。 こうした場合でも、解雇を争うことには一定の実益があります。 解雇…

導入に失敗して基本給化した固定残業代は、一方的には減らされない

1.固定残業代の導入の失敗 適法要件を満たさない固定残業代は、残業代の支払としての効力を持ちません。その結果どうなるかと言うと、労働者は固定残業代部分も含めた金額を前提に時間単価を計算し、改めて使用者に残業代を請求できることになります。 こ…

職場内不倫は危険(セクハラで訴えられた時、防御することが難しい)

1.セクハラに関する経験則 セクハラの被害者は、明示的な抵抗を示せないことが少なくありません。そのため、損害賠償を請求する訴訟を提起しても、加害者から「同意があった。」という反論が出されることがあります。 同意の有無を判断するにあたっては、…

忘年会が禁止されていたとしても、忘年会で同僚から暴力を振るわれた方には、会社に責任を追及できる可能性がある

1.使用者責任 民法715条1項本文は、 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 これは、簡単に言うと、従業員が事業活動に関連して第三者に損害を与えた…

定年後再雇用を拒否された人の地位確認請求

1.定年後再雇用を拒否された人の地位確認請求 高年齢者等の雇用の安定に関する法律9条1項により、事業主は、高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、 ① 65歳までの定年の引き上げ、 ② 継続雇用制度の導入、 ③ 定年制の廃止、 のいずれかの…

業務に起因して鬱病を発症した従業員への対応を誤り、3000万円以上の損害賠償を支払うことになった会社

1.高額の損害賠償請求の認容事例 一般論として、業務に起因して鬱病になったからといって、何千万円もの損害賠償が認められる例は稀だと思います。 そうした稀な事案が近時公刊された判例集に掲載されていました。 札幌地判平31.3.25労働経済判例速…

つながらない権利-法制化は必要か?

1.つながらない権利 ネット上に、 「会社と『つながらない権利』法制化を急げ 休日深夜対応で不眠や健康被害拡大」 との記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191109-00000502-fsi-bus_all 記事には、 「NTTデータ経営研究…

パンプス・ハイヒールの着用義務は性差別の問題だろうか?

1.パンプス・ハイヒールの強制問題 ネット上に、 「#Kutoo は労働環境だけの問題じゃない 石川優実さん『性差別でもある。なぜ1つの問題にしたがるの』」 という記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_23/n_10362/ 記事には、 「職場でヒー…

整理解雇の規制は本当に厳しいのだろうか

1.整理解雇の規制 整理解雇の可否は、①人員削減を行う経営上の必要性、②使用者による十分な回避努力、③被解雇者の選定基準及びその適用の合理性、④被解雇者や労働組合との間の十分な協議等の適正な手続、という4つの観点から判断されるとされています。 h…

過労死-理不尽な叱責をする大口取引先社長と付き合うのは、気に入られていたとしても緊張する

1.脳・心臓疾患の労災認定基準 基発第1063号 平成13年12月12日 改正基発0507第3号 平成22年5月7日「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」という文書があります。俗に、脳・心臓疾患の労災…

企業組合の組合員の労働者性

1.企業組合 企業組合という組織があります。一般の方はもちろん、法律専門職にも、それほど良く知られている仕組みではないと思います。 企業組合は、中小企業等協同組合法という法律に根拠があり、中小企業等協同組合の一類型として位置づけられています…

裁判資料の横流し? 訴訟記録と非当事者の名誉・プライバシー保護の問題

1.NGT裁判と山口真帆氏の立ち位置 ネット上に、 「『山口真帆に集団訴訟も』NGTメンバー保護者会が激怒 暴行事件裁判で”場外乱闘”勃発」 という記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191101-00015183-bunshun-ent 記…

労災の認定基準の適用・運用-裁判所の運用は行政の運用よりも緩やか?

1.精神障害の労災認定基準 精神障害の労災認定に関して、行政は、 「心理的負荷による精神障害の認定基準について(平成23年12月26日付け 基発第1226第1号)」 との名前の文書を作成・公表しています。 https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun…

新人がパワハラ上司と二人きりはきつい-協力者が確保できたことで、適応障害の発症が上司からのパワハラによる労災と認められた例

1.精神障害の労災認定 精神障害が労災になるというと、長時間労働で欝病になったような場面を想定される方が多いのではないかと思います。しかし、精神疾患で労災が認められるパターンは長時間労働の場面に限られるわけではありません。いじめや嫌がらせに…

背信性の強さは競業避止義務を定める合意の効力に影響を与えるか

1.競業禁止特約 従業員が退職するにあたり、勤務先から同業他社に雇用されないこと(競業禁止特約)を求められる場合があります。 この種の契約の有効性に関しては、横地大輔『大阪民事実務研究会 従業員等の競業避止義務等に関する諸論点について』判例タ…

手当型の固定残業代の有効性の検討のポイント-契約書等に記載がない・明確な説明がなかった・想定残業時間数と実際との乖離

1.手当型の固定残業代の有効要件 平成30年7月19日に手当型の固定残業代の有効性についての最高裁判決が言い渡されました(最一小判平30.7.19労働判例1186-5日本ケミカル事件)。 日本ケミカル事件の最高裁判決は、 「使用者は、労働者に…

人員不足で一般従業員と同様の業務に従事することが多い管理職/変形労働時間制の適用対象になっている管理職の残業代

1.管理監督者 管理監督者(労働基準法41条2号)には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません。結果、時間外勤務をしても、残業代が支払われることはありません。 行政解釈上、管理監督者とは「労働条件その他労務管理について経営者と一体的な立…

親には成人した子の疾患(てんかん)を勤務先に伝える義務があるのか/家族から労働者の疾患を伝えられた勤務先はどうすればよいのか

1.親は成人した子に対してどこまで責任を持つのか 民法712条は、 「未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。」 と規定しています。 こ…

管理監督者性と賃金上の待遇-賃金の多寡は関係ない場合もある?

1.管理監督者 労働基準法41条2号は、 「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」(管理監督者) には 「この章、第六章及び第六章の二で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定」 は適用されないと規定しています。 時間外勤務に割…

セクハラ行為を記載したメモ(手帳)の信用性が否定された事例

1.セクハラの立証活動は当事者の供述に依拠することも多い セクハラに関しては、明確な証拠、客観的な証拠がないことが珍しくありません。 明確な証拠、客観的な証拠が存在しない場合、セクハラ被害を受けたとして上司や勤務先を訴える場合も、あらぬ疑い…

ただ「辞めろ」と罵倒するのは、指導でも叱責でもない。単なるパワハラである。

1.「先はない。」「辞めろ。」「身の振り方を考えろ。」 上司・先輩から部下・後輩に対し、「先はない。」「辞めろ。」「身の振り方を考えろ。」といった罵倒が浴びせられる例があります。 部下・後輩が病んで問題になった時、罵倒した側からは、奮起や発…

「裁判すれば、ここには居れなくなる」その言動は逆に裁判を容易にする

1.裁判をためらわせる言動 法律相談をしていると「裁判をすれば、どうなるか分かっているだろうな。」という趣旨の脅しを受けている人を、定期的に目にします。 今時このような稚拙な脅かし方をする人が本当にいるのかと疑問に思う方もいるかも知れません…

専門職の勉強時間は労働時間か?

1.専門職の勉強時間の労働時間性 弁護士の場合、勉強を継続しなければ、まともな仕事はできません。法律は改正されるし、新しい裁判例も次々と出されるため、すぐに知識が陳腐化するからです。また、課題に直面してから調査したのでは事件処理・依頼人から…

保育園児を抱える親の配転命令への対抗手段-信義則上の説明義務

1.業務提供誘引販売取引に対する労働法からのアプローチ 特定商取引法に業務提供誘引販売取引という類型があります。 これは簡単に言えば、 「『仕事を提供するので収入が得られる』という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金…

ハラスメント対策と働き方改革の板挟み?

1.ハラスメント対策と働き方改革の板挟み? ネット上に、 「ハラスメント対策と働き方改革の板挟み…管理職3人の嘆き」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191014-00013860-toushin-bus_all&p=1 記事は、 「セクハラ、…

業界慣行に従っておきさえすれば労働者に対する安全配慮義務が尽くされたことになる時代ではない

1.あるべき安全対策 医療紛争の領域で、過失が認められるか否かの判断に関連し、「医療慣行」という言葉が使われることがあります。 医療慣行とは「医師の間で一般的に行われている診療行為等」(大島眞一『医療訴訟の現状と将来-最高裁判例の到達点-』…

自殺遺族と受任弁護士が行った記者会見等が共同不法行為(名誉毀損)を構成するとされた例

1.農業アイドル自殺-元所属事務所からの反訴 ネット上に、 「農業アイドル自殺『遺族側が会見やネットで事実無根の悪評を拡散した』元所属事務所が反訴」 との記事が掲載されていました。 https://www.bengo4.com/c_5/c_1234/c_1720/n_10237/ 記事には、 …

障害雇用政策の転換期・重度知的障害者の死亡逸失利益が一般就労を前提とする平均賃金に依拠すべきとされた例(障害特性は優れた稼働能力となる可能性がある)

1.逸失利益の計算方法 不法行為で生命を侵害された方には、生きていれば得られたであろう利益(逸失利益)の損害賠償を請求する権利が発生します。 これが相続人に承継されるため、相続人は相続分の割合に従って、死者の逸失利益を請求する権利を持つこと…

見たくもないイジメ・パワハラを目の当たりにさせられないことに、権利性は認められるだろうか?

1.同僚がパワハラを受けていたら 職場で同僚がいじめや嫌がらせを受けている場面を目の当たりにすることは、決して気分の良いことではないだろうと思います。 それでは、自分がターゲットになっているわけではないとしても、こうした嫌がらせを見せつけら…