弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

労働事件

新型コロナウイルスの流行する海外から会社代表者が帰国するにあたり、従業員が感染の可能性を指摘することは侮辱なのか?

1.感染への不安を抱える従業員 昨日、 新型コロナウイルスの流行する海外から会社代表者が帰国するにあたり、従業員が共同で在宅勤務を求めることは許されるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で紹介した、東京地…

新型コロナウイルスの流行する海外から会社代表者が帰国するにあたり、従業員が共同で在宅勤務を求めることは許されるのか?

1.感染への不安を抱える従業員 一昨日、 新型コロナウイルスが蔓延する海外への渡航を阻止するため、有給休暇の時季変更権を行使することができるのか? - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で紹介した裁判例(札幌地判令…

新型コロナウイルスが蔓延する海外への渡航を阻止するため、有給休暇の時季変更権を行使することができるのか?

1.有給休暇の時季変更権 労働基準法39条5項は、 「使用者は、・・・有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることがで…

求人情報に「賞与年2回(7月・12月/昨年度実績:2ケ月分)」「創業以来、毎年欠かさず支給中です!」と書かれていても賞与請求が否定された例

1.賞与を具体的な権利として請求するためには・・・ 「会社の業績等を勘案して定める」といったように具体的な金額が保障されていない賞与は、算定基準の決定や労働者に対する成績査定が行われて具体的な金額が明らかにならない限り請求することができない…

技術者の不足を未経験者で補おうとする配転命令について、必要性が否定された例

1.配転命令権の濫用 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであ…

従業員数が10人以上になった時、それまで存在していた就業規則は労働者過半数代表者からの意見聴取をしなくても有効になるのか?

1.就業規則の作成・変更にあたっての意見聴取義務 労働基準法89条は、 「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする(…

業務委託契約が実は労働契約であった場合、受け取った消費税は返さないといけないか?

1.業務委託契約・労働契約と消費税 消費税は 「国内において事業者が行つた資産の譲渡等」 に課税されます(消費税法4条)。 ここで言う 「資産の譲渡等」 とは、 「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供・・・をいう」 と…

債務の履行が代表者の労務の提供以外に想定し難いとして、法人ではなく代表者との労働契約が認められるとされた例

1.一人会社に対する業務委託 労働法の適用を逃れるために、業務委託契約や請負契約といった、雇用契約以外の法形式が用いられることがあります。 しかし、当然のことながら、このような手法で労働法の適用を免れることはできません。労働者性の判断は、形…

解雇前からの副業収入部分について、中間収入控除が否定された例

1.中間収入控除 民法536条2項は、 「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、…

古い解雇理由は大したことはない-闇金から金銭を借り入れる際、役員名簿のコピーを交付しても解雇理由にならないとされた例

1.古い解雇理由 これまでも何度か言及してきましたが、一般論として、古い事件を掘り起こしても、勝てることはあまりありません。 主な理由は二点あります。 一点目は、主張、立証が困難になることです。人の記憶は時間の経過と共に薄れて行きます。そのた…

「勤まらないのであれば、私物を片付けて。」が「就労を拒絶したこと」と理解された例

1.合意退職事案における使用者の労務提供の受領拒絶 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法536条…

「もう勤まらない」と発言し、貸与された携帯電話等を置いて以降出勤しなかったことが辞職ではないとされた例

1.自暴自棄的な発言 労使関係が悪化してくると、労使間で、しばしば、辞める/辞めないといった緊張した会話が交わされます。 こうした会話の中で、使用者から言葉尻を捉えられ、辞職の意思表示を行った/合意退職の申込みをしたなどとして、強引に雇用契…

同僚の女性従業員に嫌がられているのに好意を示し続けたことで雇止めとされた例

1.嫌よ嫌よも好きのうち? 「嫌よ嫌よも好きのうち」という日本語表現があります。 これは、 「主に女性が男性に誘いを掛けられた際などに、口先では嫌がっていても実は好意が無いわけではないと解釈する語。」 として使われる言葉です。 「嫌よ嫌よも好き…

執行役に就任しても、従業員(労働者)としての地位は失われないと判断された例

1.執行役と労働者 株式会社の一種に「指名委員会等設置会社」という会社があります。 これは「指名委員会、監査委員会及び報酬委員会・・・を置く株式会社をいう」と定義されています(会社法2条12号)。 指名委員会等設置会社には、1人又は2人以上の…

取締役に就任しても、従業員(労働者)としての地位は失われないと判断された例

1.取締役と労働者 取締役と労働者とでは大分立場が違います。 例えば、取締役と会社との関係は、委任の規定に従います(会社法330条)。会社は株主総会決議によって、いつでも自由に取締役を解任できます(会社法339条1項)。これに対し、取締役は…

問題行動があっても、就労に支障があったとは認められず、就労と両立するとして、自宅待機命令が業務命令権の濫用とされた例

1.自宅待機命令 使用者は、労働者に対し、自宅で待機することを業務として命じることができます。これを自宅待機命令といいます。 この意味での自宅待機命令が発令された場合、自宅で待機すること自体が業務になるため、労働者は自宅で待機しているだけで…

終期が不明確な自宅待機命令後の不就労はどのように評価すべきか?

1.自宅待機命令 使用者は、労働者に対し、自宅で待機することを業務として命じることができます。これを自宅待機命令といいます。 この意味での自宅待機命令が発令された場合、自宅で待機すること自体が業務になるため、労働者は自宅で待機しているだけで…

中途採用者であっても、事前の指導の欠如が重視されて解雇が無効とされた例

1.事前の注意・指導、改善の機会の付与 勤務態度の不良を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、 事前に注意・指導がなされているのか、 改善の機会が付与されていたのか、 が重視されるという言説があります。 これは一面において正しいのですが、必ず…

代償措置がなくても有効となり得る競業避止義務の類型-在職中に知り得た顧客と離職後1年間は取引をしてはならない

1.競業禁止 一般論として、使用者と労働者との間で交わされる競業禁止契約(同業他社に転職したり、同業を自ら営まないとする契約)は、そう簡単には有効になりません。 東京地裁労働部の裁判官らによる著作にも、「多くの裁判例は、①退職時の労働者の地位…

期間が短くても代償措置のない広範囲な競業禁止が無効になるとされた例

1.競業禁止 一般論として、使用者と労働者との間で交わされる競業禁止契約(同業他社に転職したり、同業を自ら営まないとする契約)は、そう簡単には有効になりません。 東京地裁労働部の裁判官らによる著作にも、「多くの裁判例は、①退職時の労働者の地位…

審査委員会の答申に基づく違法な懲戒処分-誰のどのような行為が「過失」になるのか?

1.違法な懲戒処分に対する救済 違法な懲戒処分への対抗手段としては、 懲戒処分の効力を争うことのほか、 慰謝料などの損害の賠償を請求すること、 が考えられます。 このうち慰謝料などの損害賠償請求は、懲戒処分の効力だけを争う場合よりも、ハードルが…

医師の資格・キャリアアップへの期待権-違法な配転によりキャリア形成が妨げられたとして400万円の慰謝料が認められた例

1.違法な配転命令への対抗手段 違法な配転命令への対抗手段としては、 配転先で勤務する労働契約上の義務を負わないことの確認請求、 損害賠償請求、 の二つがあります。 このうち損害賠償請求について、近時公刊された判例集に注目すべき裁判例が掲載され…

経営者がSNSで労働者を揶揄する動画を公開することが不法行為を構成するとされた例

1.経営者による不適切なSNSの利用 近時、従業員による不適切なSNSの利用が会社に損害を生じさせる事例が目立つようになっています。従業員のSNSの利用をどのようにコントロールするのかは、既に労務管理上の重要な問題として認知されています。 …

同性パートナーは「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」とはいえないとされた例

1.同性パートナーシップ制度 現在、法律婚は異性婚のみとされていますが、地方自治体レベルでは「同性パートナーシップ制度」の普及がみられます。 「同性パートナーシップ制度」とは「各自治体が同性同士のカップルを婚姻に相当する関係と認め証明書を発…

初期の固定残業代が無効であったことから、その後の基本給の増額が労働条件の不利益変更扱いとされた例

1.固定残業代 固定残業代とは、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 をいいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残…

基本給と同額の「残業手当」の固定残業代の効力が否定された例

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

話合いの記録化の妨害(ノートパソコンの蓋を閉める)が不法行為に該当するとされた例

1.話合いの記録化 上司や同僚との関係性が話し合われる場で、出席者の発言を記録しようとすると、強く抵抗されることがあります。録音は認めない、メモをとることなども認めない、といったようにです。酷い場合には、メモを取り上げて破り捨てるなど、物理…

自虐的に笑いをとるキャラであったことは、侮蔑的な発言を正当化する理由になるか?

1.「いじられキャラだから・・・」という弁解 被害者側からハラスメント被害を受けていたことを問題にすると、加害者側から「(被害者は)いじられキャラだったから、問題がないと思っていた」と弁解されることがあります。要するに、「自虐的なネタで笑い…

個人の努力で差がでる「デブ」は許容されるが、先天性の「ブス」は許容されないから「ブス」とは言わないとの発言に信用性が認められなかった例

1.「デブ」は許容されるのか? 小学校時代、「デブ」などと体系を揶揄され、からかわれている同級生がいました。からかっている側は、「デブ」は努力すれば痩せられるから揶揄しても良いのだと、理屈の良く分からない独自の見解を得意気に吹聴していました…

「おばさん」「(複数回の結婚歴を揶揄した)経験豊富」との発言に違法性が認められた例

1.セクシュアルハラスメント 平成18年厚生労働省告示第615号『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』【令和2年6月1日適用】は、 職場におけるセクシュアルハラスメントを、 「職場におい…