弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2023-02-01から1ヶ月間の記事一覧

フリーランスの競業禁止契約(競業避止契約)の効力をどう考えるのか(退職後の従業員との競業禁止契約を効力を素材として)

1.労働者の競業禁止契約とフリーランスの競業禁止契約 使用者と労働者との間で交わされる競業禁止契約(同業他社に転職したり、同業を自ら営まないとする契約)は、そう簡単には有効になりません。「多くの裁判例は、①退職時の労働者の地位・役職、②禁止さ…

三士業合同・他職種連携による自死問題対策のための研修会へのオブザーバー派遣を受けて

令和5年2月26日、東京司法書士会、一般社団法人東京精神保健福祉士協会、一般社団法人東京公認心理士協会が共催する「三士業合同・他職種連携による自死問題対策のための研修会」が行われました。 東京司法書士会から第二東京弁護士会に、自死問題対策に…

刑事責任を追及される危険のある解雇理由を争うにあたり、民事訴訟で主張、供述を拒否することをどう考えるか

1.犯罪を理由とする解雇 詐欺、横領、営業秘密不正取得行為など、犯罪にも該当する行為を理由に解雇されることがあります。 こうした場合、犯罪の成立を争い、解雇の無効を主張したい労働者としては、 刑事事件において防御活動を行うとともに、 労働事件…

暴力団構成員と交友していることを理由とする解雇の可否

1.暴力団排除条項 企業が暴力団等の反社会的勢力を契約から締め出すための条項を、一般に「暴力団排除条項」といいます。暴力団排除条項には色々なパターンがありますが、 自身及びその関係者が暴力団等の反社会的勢力とは無関係であると確約すること、 相…

通勤手当の不正取得を理由とする普通解雇が否定された例

1.金銭的不正行為を理由とする解雇 労働契約法16条は、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定しています。客観的合理的理由、社会通念上の相当性の有…

マスク不着用を理由とする解雇の可否

1.新型コロナウイルスの流行によって生じた諸問題 新型コロナウイルスの流行は、労働者の働き方にも多大な影響を与えています。従前は意識されてこなかった様々な問題が議論されています。 そうした問題の一つに、会社が命じる新型コロナウイルス対策の不…

退職の意思表示の慎重な認定-口頭での発言は迅速な介入により覆せる可能性がある

1.退職の意思表示の慎重な認定 労使間でトラブルになっている時に、売り言葉に買い言葉で辞意を口にしてしまうことがあります。こうした軽率な発言によって、本意ではないにもかかわらず退職扱いされてしまった場面で労働者を保護する法律構成の一つに、 …

士業法人と法人格否認の法理-社会保険労務士が法人を解散させて従業員を解雇し、個人として社会保険労務士業を営むことは許容されるのか?

1.社会保険労務士法人の仕組みと法人格否認の法理 社会保険労務士には、法人を設立して社会保険労務士業を営むことが認められています(社会保険労務士法25条の6)。 この社会保険労務士法人の法的性質は、株式会社とは大分異なっています。 株式会社の…

法人解散に伴う整理解雇-4か月の収入保証と転職活動のための就労義務免除を提示されたら

1.法人の解散と整理解雇 整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕397頁)。 整理解雇の可否は、①人員削減の必要性があること、②使…

懲戒処分-雇入れた学生(履修生)を成績評価に関与させることの悪質性をどう考えるのか

1.懲戒権濫用の判断枠組 労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場…

履修生に得意芸を披露させたこと等が問題となって、大学准教授が懲戒解雇された例

1.大学(准)教授と学生との関係 最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、管理職からのセクハラについて、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係の悪化等…

人事担当者への暴言(カス)が解雇予告手当を支払わない理由にはならないとされた例

1.解雇予告手当 労働基準法20条1項は、 「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変そ…

始業時刻、終業時刻を特定しない労働時間立証が認められた例

1.労働時間の立証 時間外勤務手当(残業代)を請求するにあたっては、原告である労働者の側で実労働時間の主張、立証を行う必要があります。そして、 「実労働時間は、日ごとに、何時間何分かを特定して主張する必要があり、日ごとの始業時刻、終業時刻を…

ハラスメントがなくても職場環境廃配慮義務違反(職場環境調整義務違反)が認められるとされた例

1.職場環境配慮義務・職場環境調整義務 使用者は、労働者に対して「働きやすい良好な職場環境を維持する義務」を負います。これを職場環境配慮義務(職場環境調整義務)といいます(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕282頁参照…

警備業務は、現場に存すればよいだけの軽易業務か?

1.労災・労災民訴における労働時間 労働者災害補償保険法に規定されている保険給付を受けるにあたり、労働時間は重要な意味を持っています。 例えば、精神障害との関係でいうと、 「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間…

「夜勤」に深夜以外の時間帯も含まれる場合の「夜勤手当」の固定残業代としての有効性

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

部門閉鎖(店舗閉鎖)に伴う整理解雇-他の事業部門の財務資料等の不提出により人員削減の必要性が否定された例

1.整理解雇 整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕397頁)。 整理解雇の可否は、①人員削減の必要性があること、②使用者が解雇回…

過労死事件-上司に業務軽減を求めなかったことや、部下に業務を任せなかったことが過失相殺事由にならないとされた例

1.過失相殺 民法723条2項は、 「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」 と規定しています。 被害者の過失を考慮して損害賠償の額を定めることを、講学上、「過失相殺」といいます。判決の中で…

差し違える覚悟で自ら自死を選択しても、ハラスメント加害者に多額の損害賠償責任を負わせられるとは限らない

1.自殺の業務起因性 安全配慮義務違反を根拠にするにせよ、不法行為を根拠とするにせよ、損害賠償を請求するにあたっては、加害行為と損害との間に相当因果関係が認められることが必要です。 ハラスメントなどの職場の問題で労働者が自殺した場合、加害行…

自殺を誘引しかねない道具の携帯-精神的不調者に配慮しなければならないのは、ハラスメントの存否、診断の有無とは関係がない

1.安全配慮義務 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」 と規定しています。この条文に基づいて使用者が労働者に対して負う義務は、一般に「…

精神的不調をきたしている労働者・公務員に自殺を誘引しかねない道具を携帯させない義務

1.安全配慮義務 労働契約法5条は、 「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」 と規定しています。この条文に基づいて使用者が労働者に対して負う義務は、一般に「…

賞与の不当減額・不支給への対抗手段-慰謝料の中で考慮したと明言された例

1.賞与の不当減額・不支給にどのように対抗するか 賞与は、 「(就業規則に)『会社の業績等を勘案して定める。』旨の定めがされているのみである場合には、賞与請求権は、労働契約上、金額が保障されているわけではなく、各時期の賞与ごとに、使用者が会…

ハラスメントを理由とする損害賠償請求-加害者が処分されたことは慰謝料の減算理由になるのか?

1.慰謝料額 民法710条は、 「他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。」 と規定し…

押売りを招きかねない過酷なノルマが従業員に対する安全配慮義務違反を構成するとされた例

1.過酷なノルマから生じる諸問題 営業など一定の職種で働く人には、ノルマが課されていることが少なくありません。 ノルマを設定すること自体は問題ないのですが、量的に達成困難であったり、運用が過酷であったりする例を見ることがあります。 こうした過…

コロナ禍での整理解雇がアルバイト従業員の新規採用を行っていること等から否定された例

1.整理解雇 整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕397頁)。 整理解雇の可否は、①人員削減の必要性があること、②使用者が解雇回…

シフトに入らなくなったことを理由に合意退職扱いすることが許されるか?

1.シフト制労働者 シフト制とは、 「労働契約の締結時点では労働日や労働時間を確定的に定めず、一定期間(1週間、1か月など)ごとに作成される勤務シフトなどで、初めて具体的な労働日や労働時間が確定するような勤務形態」 をいいます。 いわゆる「シ…

解雇に言及された退職勧奨は争いやすい-合意退職の効力と解雇の有効性との結びつきについて

1.退職勧奨で解雇に言及されたら 退職勧奨を受けている時、使用者側から解雇に言及されることがあります。辞職、あるいは、合意退職しないのであれば、解雇するといったようにです。 このような言い方をされ、狼狽して辞職・合意退職してしまったものの、…

合意退職の効力を検討するにあたり、二段階での司法審査(確定的意思・自由な意思)がされた例

1.合意退職の効力を争うための法律構成 労働契約法上、 「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」 と規定されています(労働契約法16条) しかし、合意退職には…

離職理由を一身上の都合とする離職票の送付行為は解雇か?

1.退職勧奨か解雇か? 使用者側の「ある行為」がきっかけとなって労働者が出勤しなくなった場合、それが退職勧奨なのか解雇なのかが争われることがあります。 退職勧奨であれば、出勤していない事実は、退職の意思を態度によって示したものと理解されかね…