弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

暴力団構成員と交友していることを理由とする解雇の可否

1.暴力団排除条項

 企業が暴力団等の反社会的勢力を契約から締め出すための条項を、一般に「暴力団排除条項」といいます。暴力団排除条項には色々なパターンがありますが、

自身及びその関係者が暴力団等の反社会的勢力とは無関係であると確約すること、

相手方が暴力団等の反社会的勢力と繋がりのあることが判明した場合には、損害賠償を行うことなく契約を解除できること、

などを要素としています。

 全国の自治体で暴力団排除条例が整備されるに従って普及が進み、現在では多くの契約書に定型文として挿入されています。

 自社の構成員が暴力団等の反社会的勢力と交友があると、社会的非難の対象になるだけではなく、暴力団排除条項により取引先から契約を解除されかねないため、企業は役員や従業員が反社会的勢力と付き合っていないのかどうかに無関心でいることはできません。

 それでは、暴力団等の反社会的勢力と交友していることは、労働者を解雇する理由になるのでしょうか?

 暴力団等の反社会的勢力との交友が、不適切であることや、各自治体が制定している暴力団排除条例の趣旨に反していることは確かです。

 しかし、元々、私生活領域で誰と付き合うのかは個人の自由に属する事柄ですし、暴力団等の反社会的勢力との交友は労働者の労働能力の評価に影響を及ぼす事情とはいえません。そうであるとすると、交友関係を足掛かりにして暴力団等の反社会的勢力が企業に干渉してくるなどの実害がある場合はともかく、交友関係だけで直ちに解雇が正当化されるのかという疑問もなくはありません。特に、交友していた従業員が、以降の交友を断つと明言している場合は猶更です。

 この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が、近時公刊された判例集に掲載されていました。大阪地判令4.9.15労働判例ジャーナル131-26 高松テクノサービス事件です。

2.高松テクノサービス事件

 本件で被告になったのは、土木建設工事の施工・請負等を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告との間で労働契約を締結し、マンション改修工事の現場監督などの業務に従事していた方です。Cらと共に自動車保険金の詐欺未遂被疑事件で逮捕、勾留された後、

「現役の反社会的勢力であるC・・・と交友していたこと」

等を理由に普通解雇されたことを受け、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です(詐欺未遂被疑事件は解雇後、嫌疑不十分で不起訴)。

 原告の方は、身体拘束を受けるまでの間、被告から懲戒処分を受けたことはなく、無断欠勤や勤務態度上の問題を報告されることもありませんでした。また、Cとの関係について「自動車を購入する時に知人から紹介されて知り合った」という以上に具体的な説明をしなかったものの、弁護士経由で、Cの掲示事件の弁護人が作成した「今後はCが原告と関わることはない」等の記載のある報告書を提出していました。

 このような事実関係のもと、裁判所は、次のとおり述べ、解雇は有効だと判示しました。

(裁判所の判断)

・解雇の必要性・合理性

「前記認定事実・・・のとおり、建設業界では、歴史的経緯から、反社会的勢力排除への取組を行っており、被告においても、被告が施主等との取引相手との間で取り交わされる覚書や契約書には、被告の使用人や従業員が反社会的勢力と不適切な関係を有しないことを約する旨の規定が置かれ、これに違反することは契約の解除事由とされていたことが認められる。」

「すると、原告が暴力団幹部と交友関係を維持していると知りながら、原告を雇用し続けることは、被告にとって、施主等の取引先との間で締結し又は締結する契約全般について、解除される危険を生じさせるものであって、被告は、原告を解雇しなければ、事業の遂行自体に支障が生ずる状況にあったと認められる。

・解雇の相当

「被告において反社会的勢力を排除する取組がされており、その従業員が反社会的勢力と関わりを持つことが許されないものであったこと・・・は、被告で働く原告も当然理解していたと考えられるところ、前記認定事実のとおり、原告は、Cのことを暴力団の幹部であると知りながら、令和2年1月まで交友関係を維持していたことが認められる・・・。」

「また、原告は、自らの自動車保険の保険金請求にCを関与させたことが認められる・・・。他人への金銭の請求である保険金請求手続を行うに当たって、暴力団幹部と相談をするなどして関与させることは、私的な飲食といった行為と比べても、反社会的勢力との関わりとして避けるべき程度の高い行為であったということができる。」

「そして、原告は、詐欺未遂罪を被疑事実としてCとの共犯として逮捕、勾留されながら、本件解雇に至るまで、被告担当者に対し、Cとの関係について具体的な説明をしなかった・・・。」

・小括

「以上のとおり、原告は、Cが暴力団幹部であることを知りながら交友関係を維持して保険金請求手続に関与させ、詐欺未遂罪を被疑事実としてCと共に逮捕及び勾留をされながら、Cとの関係について具体的な説明をしなかったのであって・・・、被告は、このような原告との間の雇用関係を維持すれば、取引先との契約全般について解除される危険を負う状況にあったと認められる・・・。」

「すると、被告に、原告を解雇する以外の選択をすることができたとはいえず、原告の本件交友等及びその後の経緯に照らして、これが社会通念上相当でないともいえないから、本件解雇は就業規則35条1項4号所定の解雇事由である『その他のやむを得ない事由』に当たり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上の相当性を欠くものとも認められない。」

3.暴力団等の反社会的勢力とは関係を持ったらダメ

 上述したとおり、裁判所は、暴力団構成員と交友していることを理由とする解雇を有効だと判示しました。

 原告の方自身の被告の調査への対応の問題もあったとはいえ、解雇までが認められたことは注目に値します。

 厳しい処分が予想されることもあり、やはり、暴力団構成員等、反社会的勢力には近づかないに越したことはありません。