弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

コロナは解雇の免罪符ではない-コロナ禍を理由とする整理解雇の効力が否定された例

1.新型コロナウイルスの影響を理由とする整理解雇

 新型コロナウイルスの流行は、経済活動に深刻なダメージを与えました。コロナ禍による収益の減少が理由で廃業・破産した事業者は少なくありません。

 何となく重大な影響が生じたであろうことが察されてしまうことから、廃業・破産の理由に新型コロナウイルスの流行の影響を挙げられると、それを聴く側の人の心情も、仕方ないという方向に流されがちです。

 しかし、働く人を解雇することは、

「新型コロナウイルスの影響で売上が減少した」

といった雑駁な理由では認められません。コロナ禍を理由とする解雇であっても、有効であるといえるためには、整理解雇法理に即した客観的合理的理由、社会通念上の相当性が必要になります。

 近時公刊された判例集にも、コロナ禍を理由とする整理解雇の効力が否定された裁判例が掲載されていました。東京地判令5.2.20労働判例ジャーナル141-34 根岸倶楽部事件です。

2.根岸倶楽部事件

 本件で被告になったのは、ホテルの経営、運営の受託及び代行等を目的とする有限会社です。予てより、ホテルの所有者や運営者からホテルの清掃・受付業務等を受託していました。

 原告になったのは、被告と雇用契約を締結し、被告が受託したホテルの清掃業務等に従事していた方々です(複数名)。被告から従業員全員に対し解雇する旨が通知されたところ、その効力を争って、地位確認等を求める訴えを提起しました。

 本件では、解雇の可否が主要な争点となりました。

 被告は、

「被告は、かねてから、ホテルの所有者ないし運営者からホテルの清掃・受付業務等を受託していたが、近時のコロナ禍の影響でホテル側の経営が悪化したことに伴って被告の売上も減少し、上記の受託業務を維持することが困難となった。そのため、被告は、上記の受託業務から撤退することとし、令和3年1月26日、前記・・・のとおり自己都合で被告を退職していた8名を除く従業員全員に対し、同年2月28日をもって解雇する旨を予告し、従業員らも同日までに私物を持ち帰るなど、上記の解雇を承諾した。したがって、本件解雇は有効であり、本件各雇用契約は本件解雇により終了したから、原告らは、被告との関係で雇用契約上の権利を有する地位を有さず、同年3月分以降の賃金債権も有しない。」

と主張し、解雇は有効だと主張しました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、解雇は無効だと判示しました。

(裁判所の判断)

「被告は、近時のコロナ禍の影響で経営が困難となったため、自己都合で被告を退職した8名を除く原告らに対し解雇予告通知をしたものであるから(本件解雇)、本件解雇は有効であり、本件各雇用契約は本件解雇により終了した旨を主張する。」

「しかるところ、前提事実のとおり、被告は就業規則を備えていなかったことが認められるから・・・,本件解雇は民法627条1項に基づく使用者による雇用契約の解約告知に当たるものと解されるが、原告らにおいては本件解雇に至るまで通常の勤務を続けていたところ、雇用契約の継続の当否に関して特段の協議等を経ないまま本件解雇に係る通知を受けたものと認められるから・・・、被告による本件解雇の主張は、専ら被告の事業停止ないし廃止という使用者側の経営上の都合をもって従業員を解雇した旨の整理解雇をいう趣旨であると解される。しかして、整理解雇についても解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されるところ、整理解雇が解雇権を濫用したものとして無効となるか否かは、整理解雇に至るまでの具体的事情を総合して解雇に至ることもやむを得ない客観的・合理的な理由が存し、社会通念上相当であるといえるか否かに帰するものであり、具体的には、人員削減の必要性、解雇回避努力の有無・内容、被解雇者選定の合理性、解雇手続の妥当性といった諸般の事情を総合考慮して判断するのが相当であって、これらの諸事情のうち人員削減の必要性、解雇回避努力の有無・内容、被解雇者選定の合理性については、整理解雇の有効性を主張する使用者側において主張立証する責任を負うものと解すべきである。

しかるに、被告は、本件解雇の有効性について、ホテルの清掃・受付業務等を受託し続けることが困難となったため、当該業務から撤退することを決めた旨を主張するのみで、前示のような個別の諸事情について特段の主張はしておらず、また、本件全証拠を子細に見ても、本件解雇に際し、人員削減の必要性があったこと、被告において解雇回避努力を講じたこと、原告らを被解雇者として選定したことに合理性があることを認めるに足りる的確な証拠はない。以上によれば、原告らに対する本件解雇は、客観的・合理性な理由が存し、社会通念上相当であったとは認め難く、被告において解雇権を濫用したものとして無効といわざるを得ない。したがって、被告の上記主張は採用することができない。

3.抽象的にコロナ禍の影響と言われても諦めなければならないわけではない

 以上のとおり、解雇は抽象的にコロナ禍の影響と言うだけで認められるわけではありません。解雇が有効となるためには、具体的な事実を積み上げることが必要になります。

 事業が廃止されていると、復帰して仕事をすることができるのかという不安はありますが、碌に説明も行われない解雇に、唯々諾々と従う必要はありません。解雇の効力に納得できない場合、弁護士に相談し、法的措置をを検討してみても良いかも知れません。