弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

外資系企業の高収入労働者にも整理解雇法理は適用されるのか?

1.整理解雇法理

 使用者が経営上の必要性から人員削減を行うためにする解雇を「整理解雇」といいます。使用者側の事情に起因していること等の理由により、整理解雇については、一般の解雇と比べてより具体的で厳しい制約を課す法理が裁判例上形成されています。一般に整理解雇の四要件(四要素)と呼ばれるものです(水町勇一郎『詳解 労働法』〔東京大学出版会、初版、令元〕942頁参照)。

 この整理解雇法理は、厳格な解雇規制として機能しています。そのためか、外資系企業から「日本の一般的な企業とは異なる我々に適用されるべきではない」という趣旨の主張がなされることがあります。

 日本で事業活動を営むのに日本のルールに従わなくても良いというのは、違和感というよりも、理解し難い感があります。また、解雇理由に制限を設けていないのは、米国の連邦法など極一部であり、大抵の国は解雇理由に一定の制限を課しています。別に自由に労働者を解雇できることが国際標準であるというわけでもありません。

(参考)

https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11201250-Roudoukijunkyoku-Roudoujoukenseisakuka/0000088778.pdf

 当然のことながら、裁判所においても採用されないのですが、整理解雇法理が適用されるべきではないとする主張は一定の頻度で散見されます。近時公刊された判例集に掲載されていた東京地裁令3.12.13労働経済判例速報2478-18 バークレイズ証券事件も、そうした事案の一つです。

2.バークレイズ証券事件

 本件で被告になったのは、世界的な金融グループであるバークレイズ・グループに属する株式会社です。

 原告になったのは、被告と期間の定めのない労働契約を締結し、マネージング・ディレクター(MD)という最上位の職位にあった方です。賃金も高額で、基本給1638万円、追加固定求1680万円、住宅手当882万円の合計4200万円が支払われていました(年額)。被告から、

「会社の運営上または天変地変その他これに準ずるやむを得ない事由により、会社の縮小または部門の閉鎖等を行う必要が生じ、かつ他の職務への転換が困難なとき」

に該当することなどを理由に解雇されたことを受け、労働契約上の地位の確認や、解雇されて以降の賃金の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件の被告は、

「原告が主張する整理解雇の4要件は、典型的な大手日本企業における人員削減のための解雇の有効性を判断した裁判例の蓄積によって生まれたものであり、本件にそのまま当てはめることはできない。硬直的な整理解雇法理を適用し、本件解雇が無効であるとの判断がされれば、国際企業が日本におけるビジネスから撤退し、又は、日本において高い職位を設けないという結果を招きかねない。」

などと主張し、整理解雇法理の適用を争いました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、被告の主張を排斥しました。結論としても、解雇は無効であるとし、原告の請求を大筋において認めています。

(裁判所の判断)

「同号に基づく解雇の有効性を判断するに当たっては、人員削減の必要性、解雇回避努力、人選の合理性、手続の相当性といった諸要素を総合的に考慮した上で、本件解雇が同号所定の事由に該当し、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当とであると認められるか否か(労働契約法16条)を判断するのが相当である。」

「これに対し、被告は、外資系金融機関における雇用慣行に照らせば、本件解雇については上記諸要素に沿って判断すべきではないなどと主張するが、本件解雇の有効性の判断において、雇用慣行等を背景とした原被告間の労働契約の内容を踏まえるべきことと上記諸要素を考慮すべきことは何ら矛盾するものではなく、上記判断枠組自体を否定すべき理由はないというべきである。」

(中略)

「以上のとおり、本件解雇は、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であるとは認められないから、解雇権を濫用したものとして、無効である。」

「なお、被告は、本件解雇が無効であるとの判断がされれば、国際企業が日本におけるビジネスから撤退し、又は、日本において高い職位を設けないという結果を招きかねないなどとも主張する。しかしながら、以上の判断は、①原被告間の労働契約において、原告の担う職務や果たすべき職責、責務の遂行や職責に必要な能力、期待される評価等を限定する旨の合意があったと認めるに足りる証拠が提出されていないこと、②就業規則の内容が、整理解雇に当たって、配置転換や職位の降格等を検討することを予定したものとなっていること、③被告が、本件解雇に至るまで、原告に対し、勤務評価において職務能力や勤務成績の不良を指摘せず、高額の賞与を支給し続けてきたこと、④シンジケーション本部の収益目標や被告代表者による忠告の具体的な時期・内容を認めるに足りる証拠が提出されていないこと等、本件における事実関係及びその基礎となる証拠関係を踏まえたものである。被告が指摘する懸念については、使用者において、国際企業における人事労務管理と整合する合理的な内容の労働契約や就業規則を締結又は制定するようにしたり、解雇の有効性を基礎付ける事実を裏付ける客観的な資料を適切に作成し保存したりすること等によって対処することができるものであり、被告の上記主張を採用することはできない。」

3.外資系企業でも適用されるルールは同じ

 巷間で外資系企業は解雇されやすいという話を聞くことがあります。

 これは外資系企業で働く労働者の中には、解雇を宣告されたら、これを争うよりも、見切りをつけて転職して行くという性格の方が多く、日系企業よりも紛争になりにくいというだけです。解雇の効力を争うことは当然可能です。治外法権でもあるまいし、適用されるルールは、日系企業に適用されるものと変わりありません。

 賃金が高かろうが、客観的合理的理由・社会通念上の相当性が認められない解雇は無効です。納得できないという方は、弁護士のもとに相談に行ってみると良いと思います。もちろん、当事務所でもご相談をお受けすることは可能です。