弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2019-12-01から1ヶ月間の記事一覧

手当型固定残業代の有効性を判断するうえでの「実際の労働時間等の勤務状況」の位置づけ

1.手当型の固定残業代の有効要件 手当型の固定残業代の有効要件について、最一小判平30.7.19労働判例1186-5・日本ケミカル事件は、 「使用者は、労働者に対し、雇用契約に基づき、時間外労働等に対する対価として定額の手当を支払うことによ…

症状固定後も症状の改善に努力している人へ―症状固定後の症状の改善は損害賠償額に影響するか?

1.症状固定 症状固定という概念があります。これは「傷病の症状が安定し、医学上一般に認められた医療を行っても、その医療効果が期待できなくなった状態」を意味する概念です。 「医療効果が期待できなくなった状態」とは、その傷病の症状の回復・改善が…

解雇を通知されていたとしても、その後、辞職してしまっては解雇の効力は争えない

1.解雇の効力を争うためには 労働基準法20条1項1文は、 「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。」 と規定しています。 そのため、解雇の意思表示が到達する時期と、実際に解雇の効力…

職場内不倫の懲戒解雇事由への該当性/特段注意されていなかった問題行動の懲戒解雇事由への該当性

1.複数件の職場内不倫等が問題となった解雇事件 職場内不倫等を理由とする懲戒解雇の効力が問題となった事件が、近時公刊された判例集に掲載されていました。東京地判令元.6.26労働判例ジャーナル93-36・マルハン事件です。 職場内不倫の懲戒解…

非典型的な被告の行動・陳述書に基づいた事実拡散の危険性(NGT裁判)

1.被告による動画配信 ネット上に、 「元NGT山口真帆事件の被告男性『動画配信で80分独白』の衝撃」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191225-00000006-tospoweb-ent 記事はNGT裁判の被告がどのような話をし…

有効性に疑義のある訴訟活動-あまりにも古い事実を解雇理由として主張すること

1.古い事実の掘り起こし 解雇の効力を争う時、使用者側からは、しばしば大量の解雇事由が主張されます。当該従業員にどれだけ問題があったのかを主張・立証するためか、かなり昔の事実まで遡って問題にされることもあります。 しかし、そうした訴訟活動の…

担当外の職務に関する情報を「興味半分」で閲覧することが職務専念義務に反しないとされた例

1.職務専念義務 地方公務員法35条は、 「職員は、法律又は条例に特別の定がある場合を除く外、その勤務時間及び職務上の注意力のすべてをその職責遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならない。」 と規定し…

非管理職との相対的な優位性がなければ、比較的高額の年俸(700万円)が定められていても管理監督者に相応しい待遇とはいえない

1.管理監督者 管理監督者には労働基準法第4章の労働時間に関する規定の適用がありません(労働基準法41条2号)。時間外勤務に対する割増賃金の支払い義務を定める労働基準法37条1項は第4章に規定されています。そのため、使用者は、管理監督者対し…

不活動仮眠時間の労働時間性

1.不活動仮眠時間の労働時間性 不活動仮眠時間が労働時間に該当するかに関しては、既に最高裁の判例が出されています。具体的には、最一小判平14.2.28労働判例822-5大星ビル事件が、ビル管理会社の従業員の仮眠時間について、 「不活動仮眠時…

法内残業の時間単価を所定労働時間の時間単価よりも低くすることは可能なのか?

1.法外残業に対する割増賃金の支払義務 法外残業をさせた場合、 「通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない」 とされています(労働基準法37…

師子角総合法律事務所開設のお知らせ

本日、所属弁護士会に登録事項変更届出書を提出し、神田駿河台に師子角総合法律事務所を開設しました。事務所はJR水道橋駅から徒歩約5分、JR御茶ノ水駅から徒歩約7分、東京メトロ神保町駅から徒歩約10分の距離にあります。 労働事件を重点的な取り扱…

法内残業の労働時間の切捨合意は適法か?

1.労働時間の切り捨て合意 残業には二つの種類があります。法内残業と法外残業です。 法内残業とは法定労働時間の枠内に収まっている残業のことです。所定労働時間が法定労働時間よりも少ない場合に発生します。 これに対して、法外残業とは法定労働時間(…

任期付き公務員が再採用(再任用)されたと認められるには

1.任期付き公務員の雇止め 有期労働者に対しては、雇止め法理と言われるルールが適用されます。 雇止め法理というのは、有期労働契約が反復更新されて実質的に期限の定めのない雇用契約と同視できる場合や、労働者において契約の更新に合理的な期待を有し…

労働時間を適切に把握する責務の懈怠と労働時間の推計計算の可否

1.労働時間を適切に把握する責務の懈怠と労働時間の推計計算 以前、労働時間を適切に把握する責務を懈怠している会社であればあるほど、労働時間の立証するための資料がなく、残業代の請求が困難になることに言及しました。 そして、こうしたアンバランス…

パワハラの高額慰謝料事案(鬱病で5年半以上の通院・自宅療養、労災認定による補強)

1.パワハラの慰謝料 一般論として言うと、パワハラの慰謝料はそれほど高額にはなりません。 しかし、高額の慰謝料が認定された事案もないわけではありません。高額の慰謝料が認定された事案の特徴を分析することは、高額の慰謝料が認定されるべき事案を一…

期限までに回答がないからクビ? 一方的に期限を設定されて、賃金減額のうえでの配転か・退職かを迫られたら(整理解雇)

1.危機的な経営状態の会社で行われる無理な整理解雇 体力のある会社が合理化のために行う整理解雇とは異なり、危機的な経営状態の会社が経営を再建するために行う整理解雇では、人員削減の必要性は比較的認められやすい傾向にあります。 しかし、危機的な…

セクハラ冤罪の発覚パターン-防犯カメラ映像

1.セクハラ冤罪 特に統計をとったわけではありませんが、私自身の職務経験に照らすと、女性が殊更虚偽のセクハラの被害申告をすることは、それほどよくあることではないと思います。 しかし、稀なケースではあっても、虚偽や誇張の混ざった被害申告がされ…

パワハラを理由とする損害賠償請求訴訟-メモでは勝てない

1.パワハラを理由とする損害賠償請求 パワハラを理由とする損害賠償請求訴訟において、個々のハラスメント行為の立証責任は労働者側が負っています。 録音・録画のような客観的な証拠があれば、立証は比較的容易です。しかし、後の訴訟提起を企図してハラ…

労働者が「納得した」と述べたところで、混ぜ物入りの「その他手当」は固定残業代にはならない?

1.固定残業代の有効要件 ある手当が残業代の支払として認められるためには、その手当に「時間外労働等に対する対価」としての性質があることが必要です(最一小判平30.7.19労判1186-5・日本ケミカル事件)。 では、時間外労働等に対する対価…

大量の解雇理由・雇止めの理由を主張する訴訟戦略に対する疑問点

1.解雇・雇止めに関する紛争の長期化要因 解雇・雇止めの効力を争うにあたっては、使用者側から、大量の解雇理由・雇止めの理由が主張されることが珍しくありません。 解雇や雇止めの効力を争う訴訟は、他の一般的な民事訴訟との比較において、審理期間が…

労働者「非常勤のままであれば更新しません」-使用者相手に駆け引きはしない方がいい

1.不安定雇用から脱却するため駆け引きしたくなる気持ち 短期間の有期雇用が繰り返されることに不安な気持ちになる非正規雇用の方は、決して少なくないと思います。 しかし、だかといって使用者に対し、駆け引きで 「非常勤のままであれば更新しません。」…

内縁関係にある夫婦を引き離すためだけに行われる配転は違法

1.職場結婚と配転 統計に触れたことはありませんが、職場結婚に伴い、夫婦の一方が別の事業所に配置転換されることは、それほど珍しいことではないと思います。しかし、こうした慣行は働く人のキャリア形成を困難にし、時として夫婦の一方に退職を決意させ…

被害者への報復が懸念されることはハラスメントの加害者に謙抑的な措置を講じる理由になるのだろうか?

1.被害者への報復の懸念を懲戒処分の量定の考慮要素とすることの可否 企業がハラスメントの加害者に対してきちんと懲戒処分をした事案においても、被害者の方が、その処分を軽すぎると感じることは少なくありません。 非違行為が確認されたとして、どのよ…

労働者に泣き寝入りを勧めるかのような記事の問題点

1.ネット上に存在する労働事件に関する不正確な情報 ネット上に、 「ウーバーイーツ問題、会社と闘うことは簡単ではない」 との記事が掲載されていました。 https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191207-00058508-jbpressz-soci&p=1 記事は、 「もし…

専任教員にしてやる-その言葉を信じて働いても報われないことがある

1.大学の非常勤講師への空手形 大学の非常勤講師には、低賃金・不安定雇用に悩んでいる方が少なくありません。 そうした非常勤講師に対し、「専任教員にしてやる。」といった趣旨の言葉を使って自分の仕事を手伝わせるなどの行為に及ぶ方がいます。 それで…

外部に露見して問題化しない限り、違法性のない不適切異性交際では懲戒できない?

1.警察職員に対する懲戒処分の指針 警察庁は警察職員に対する「懲戒処分の指針」を作成・公表しています。 https://www.npa.go.jp/laws/notification/kanbou.html#jinji http://www.npa.go.jp/laws/notification/kanbou/jinji/jinjikansatsu.shishin201903…

公務員の労災民訴-公益的法人等派遣法が関係している場合の注意点(被告選定を誤らないように注意)

1.労災民訴と公益的法人等派遣法 労災では損害の一部しかカバーされないため、労災事故の被災者には未填補の損害の賠償を求めて使用者に対して民事訴訟を提起する実益があります。この労災の被災労働者又はその遺族が使用者に対して行う損害賠償を労災民訴…

無期転換就業規則(労働契約法20条裁判)

1.有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件格差 労働契約法20条は、 「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容…

「雇用のプロ」を自称できることによる問題

1.「雇用のプロ」を自称できることによる問題 ネット上に、 「【雇用のプロ 安藤政明の一筆両断】「法」が「道徳」に優先、東須磨小事件への憂い」 という記事が掲載されています。 https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191201-00000004-san-l40 記事の…

職場の意味不明な身だしなみ基準-インターネットアンケートで打破できる可能性

1.ひげを規制する身だしなみ基準 以前、このブログで、 「職場は職員の身だしなみにどこまで介入できるのか?」 という記事を書きました。 https://sskdlawyer.hatenablog.com/entry/2019/04/22/225651 記事の中で言及してい大阪地判平31.1.16労働…