弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

セクハラ冤罪の発覚パターン-防犯カメラ映像

1.セクハラ冤罪

 特に統計をとったわけではありませんが、私自身の職務経験に照らすと、女性が殊更虚偽のセクハラの被害申告をすることは、それほどよくあることではないと思います。

 しかし、稀なケースではあっても、虚偽や誇張の混ざった被害申告がされることは、絶無ではありません。

 近時公刊された判例集に掲載されていた東京地判令元.7.18労働判例ジャーナル93-30 国・亀戸労基署長事件も、セクハラ被害を受けたとする女性の供述の信用性が問題となった事件です。

2.国・亀戸労基署長事件

 この事件は労災の休業補償給付の不支給処分に対する取消訴訟です。

 原告になったのは、株式会社日立システムズとの間で労働契約を締結し、株式会社東京証券取引所の豊洲営業所で働いていた女性です。この方は、技術者の受付、案内業務等に従事していました。

 原告女性は、夜間の巡回業務に従事中、同僚の男性職員から胸を触られるなどのセクシュアルハラスメントをされ、それを警察に110番通報をしたことなどを理由に自宅待機命令を受け、その後に雇止めされたことなどにより精神障害を発病したと主張し、亀戸労働基準監督署長に対し、休業補償給付の支給を請求しました。

 これに対し、亀戸労働基準監督署長が不支給処分をしたため、その取消訴訟を提起したという流れです。

 この事件では、胸を触られるといったセクハラ行為の存否や、医師が作成した原告女性の診断書の証拠価値などが問題になりました。

 裁判所はセクハラ行為の存在を否定したうえ、精神障害の発病には業務起因性が認められないとして、原告の請求を棄却しました。

 セクハラ行為が認められないとの裁判所の認定の根拠になったのは防犯カメラの映像です。以下、裁判所の判示を示します。P4とあるのが同僚の男性職員のことです。

(裁判所の判断)

「原告は、P4がコンピュータールームにおいて原告を怒鳴りつけた際、原告がP7課長にPHSで連絡を取ろうとしたことから、原告が胸の前辺りで持っていたPHSを奪おうとして、原告の両手ごと胸に押し付ける態様でPHSを奪い取ったため、原告の両手を握るとともにその左胸を半ば掴むなどした旨主張し、別件訴訟の尋問において同主張に沿う供述をする。」
「しかしながら、P4は、本件事件の直後のP7課長に対する電話連絡以来、原告の左胸に触れた事実を一貫して否定しているところ、原告が提出した防犯ビデオの画像(甲12から14)を子細に見ても、P4が原告の両手を握る行為や左胸を半ば掴むような行為はもとより、P4の手が原告の左胸に接触した状況も見当たらない。加えて、P4が原告からPHSを奪い取ったことやPHSの所持が原告からP4に移転したことも確認することができない。その他上記各事実を認めるに足りる証拠はなく、原告の上記供述は採用することができない。

3.本件では不思議な経過が辿られたが・・・

 本件では胸に接触した状況が見当たらない防犯ビデオの画像が、胸を触られたと主張している原告側から提出されるという不思議な経過が辿られています。

 しかし、こうした経過が辿られたのは、原告が本人訴訟で事件を進めたからではないかと思います。自分に不利な証拠を自分で出すといった自爆パターンは、それほど多くあるわけではありません。

 改めて指摘するほどのことではありませんが、冤罪なのにセクハラの嫌疑をかけられそうになったときには、先ずは防犯ビデオ画像等がどこかに残っていないのかを確認することが推奨されます。防犯カメラ映像は何時までもずっと保存されているというわけではないため、急いで確保しなければなりません。

 身に覚えのないセクハラの嫌疑をかけられたとき、初動をどのように考えるのかは優れて専門的な判断になります。こうした時には、速やかに弁護士のもとに相談に行くことが必要です。