1.解雇の効力を争うためには
労働基準法20条1項1文は、
「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。」
と規定しています。
そのため、解雇の意思表示が到達する時期と、実際に解雇の効力が発生する時期との間には一定のタイムラグが生じることになります。
では、このタイムラグの期間内に辞職を申し出てしまった場合、労働者はもう解雇の効力を争うことはできなくなるのでしょうか。
この点が問題となった事例として、東京地判令元.7.3労働判例ジャーナル93-34・えびす自動車事件があります。
2.えびす自動車事件
本件で被告になったのは、タクシー業を営む株式会社です。
原告になったのは、被告でタクシー運転手として働いていた方です。
本件は、
「被告は、平成29年4月20日付けの書面で、原告に対し、度重なる交通事故や交通違反により免許停止処分となったこと、無断欠勤が10か月以上に及んでいること、商標を無断で登録し被告に対し不当な金銭要求をしたこと等が就業規則が定める解雇事由に該当するとして、同書面到達後30日の経過をもって原告を解雇する旨通知し、同通知は同月21日頃原告に到達した・・・」。
「原告は、同通知到達後30日が経過する前である同年5月18日、被告に対し退職届を提出した・・・。」
との事実関係のもと、原告が解雇の効力を争って、地位確認を求めることなどができるのかが問題となりました。
裁判所は、次のとおり述べて、この点を消極に理解し、地位確認に係る請求を棄却しました。
(裁判所の判断)
「前記認定のとおり、原告は、平成29年5月18日、被告に対し退職届を提出しており、これにより辞職の意思表示をしたといえることから、原告は、同日、被告を退職したと認められる。」
「したがって、争点2(本件解雇の有効性 筆者注)について判断するまでもなく、本件請求のうち、労働契約上の地位の確認を求める部分及び平成29年5月18日以降本判決確定の日までの賃金の支払を求める部分は理由がない。」
3.解雇の効力を争いたいのであれば、腹が立っても効力発生前に辞めたらダメ
解雇にならなければ辞職の意思表示をすることもなかったと思われることから、解雇の効力を争うことを認めるという考え方も成り立ちそうな気はします。
しかし、裁判所はそのような立場は採用しませんでした。解雇の意思表示がされていたとしても、効力発生前に辞職を申し出てしまうと、解雇の効力を争えなくなってしまうと判示しています。
解雇の効力を争うにあたり、余計な論点を生じさせないためには、幾ら腹が立ったとしても、その効力が発生するまで、辞職しないことが推奨されます。