弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

期限までに回答がないからクビ? 一方的に期限を設定されて、賃金減額のうえでの配転か・退職かを迫られたら(整理解雇)

1.危機的な経営状態の会社で行われる無理な整理解雇

 体力のある会社が合理化のために行う整理解雇とは異なり、危機的な経営状態の会社が経営を再建するために行う整理解雇では、人員削減の必要性は比較的認められやすい傾向にあります。

 しかし、危機的な経営状態にある会社では、一刻も早く固定費となる人件費を削減したいとの要請から、労働者側との交渉を一方的に打ち切って解雇を通知するなど、手続的に無理のある整理解雇が行われることがあります。

 近時の判例集に搭載されていた、京都地判平30.4.13労働判例1210-66・尾崎織マーク事件も、そうした事案の一つです。

2.尾崎織マーク事件

(1)事案の概要

 この事件で被告になったのは、織マーク、ワッペンほか繊維製品等の製作販売を主な業務内容とする株式会社です。

 平成25年1月1日から同年12月31日までの決算期に債務超過の状態に陥り、その後、本社ビルの売却により債務超過の状態は脱したものの、依然として厳しい財務状態にありました。

 京都府中小企業再生支援協議会から、事業規模を見極めたうえ、人員の適正化を含めた一層のスリム化を検討するようにとの助言を受け、北陸センターを閉鎖する方針を決定しました。

 本件で原告になったのは、上記の北陸センターの所長です。

 被告から、

「北陸センター廃止の為、同年4月16日をもって解雇する。」

と通知されたことを受け、解雇の効力等を争って原告が被告を訴えたのが本件です。

 本件の争点は複数に及びますが、人員削減の必要性がある中で、解雇回避努力を尽くしたといえるのか、手続の相当性が問題になりました。

 解雇回避努力の点が問題になったのは、被告が原告を解雇する一方、東京支店で営業担当社員の新規採用を行っていたからです。

 また、手続の相当性が問題になったのは、平成28年2月18日に被告が、

① 給与の25パーセントカット及び役職手当の廃止を前提とした平成28年2月25日からの京都勤務(配転)案と、

② 平成28年2月25日を退職日とし、通常の退職金(中退共の退職金)に給与2か月分を上乗せすることを前提とした早期退職案

の二つを記載した提案書を送付したうえ、労働組合と十分な協議・説明の機会を持つことなく、一方的な期限設定のもとで返事がなかったとして解雇を強行したからです。

 同年3月15日、被告は、

「メールにて変更の期限(3月10日)を送信したが、一切の返答がなかったので、新ためて今回送付させていただく。」

「今回、書面、メール等で組合、本人からも一切の返答がなかった。このままでは貴方の意思も図りかねる。よって、残念ながらX1氏(原告 筆者注)に対して解雇通知を送付させていただく。」

などと記載された通告書・解雇通知書を送付しました。

 これに対し、労働組合が同年3月17日に、

「原告は本年4月1日から京都勤務に就くので京都勤務の仕事内容を知らせて欲しい。」

「給与の25パーセントカットと役職手当の廃止は不満なので、仕事をしながら争って行く。」

「解雇通知書については承服しかねる。」

旨を記載した申入書を送付しました。

 しかし、被告は、

「返答期限(3月10日)を過ぎても一切の返答がなく、こちらからの書面及び通知を出すまで一切の返答がなかった。そのため、こちらとしては解雇通知という選択肢を採らざるを得なかった。」

として原告の申し入れを拒否しました。

 こうしたプロセスが手続としての相当性を満たすものなのかが問題になりました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は次のとおり述べて、解雇回避努力、手続の相当性のいずれも満たしていないとして、整理解雇の効力を否定しました。

-解雇回避努力-

「解雇回避のための努力を尽くしたか否かについて検討するに、被告が北陸センター閉鎖決定以前に、特別退職加算金を付した希望退職者の募集を行ったり、本社ビルを売却したり、人員削減等を進めたりして、財務状況改善に向けて諸々の施策を進めていたことは認められる・・・。」
「しかしながら、北陸センター閉鎖が決定されたことに伴う原告の処遇が平成27年9月から平成28年3月にかけて重要な課題であったところ、その最中に被告東京支店において営業担当社員の新規採用が行われていた事実が認められる。そうすると、経費削減の一環として本件解雇がなされた一方で、被告東京支店に所属する営業担当社員を2名新規採用するといった対応は、一貫性を欠くものと評価されてもやむを得ない。少なくとも原告側に対して東京支店への配転の打診は行うべきであったといえるところ、それをした形跡も窺われないから、解雇回避のための努力を尽くしたと評価するには至らない。

-手続の相当性-
「原告や労働組合に対して必要な説明・協議を誠実に行ったか否かを検討するに・・・被告は、平成27年11月には京都本社勤務の場合は賃金現状維持とする方針を明示していたと解される対応をしておきながら、平成28年2月下旬になって突如として京都本社勤務の場合は賃金が大幅に減額されるとの提案を行ったものである上、そのように提案を変更する以上、その理由を原告側に理解できるよう説明すべきであるにもかかわらず、的確な説明がなされていないというべきである。さらに、本件解雇通告に至っては、原告側としては未だ条件の摺り合わせ段階にあると認識していたにもかかわらず、被告側が一方的に設定した期限までに返答がなかったことを理由に解雇通告したと評価せざるを得ず、誠実に説明・協議を行ったとは認め難い。
「確かに、本件の原・被告間のやりとりをみると、原告側の要求水準もかなり高いものがあり、それが被告側の提案変更に影響を与えていた部分も少なからずあったと思料されるが、あくまでも原告側の要求は要求として、それを踏まえて提案変更に及んだのであれば、その理由を誠実に説明すべきである(それに原告側が納得するかは別問題である。)ところ、その義務を果たしていたとは評価できない。」
「そうすると、本件解雇は無効というべきである。」

3.人員削減の必要性があっても、強引な整理解雇は許されない

 裁判所の判決文では、

「人員削減の必要性があることについては、当事者間に争いがない。」

とされています。

 実際、経営再建中で財務状態も悪かったのだと思われます。

 しかし、幾ら必要性があるからといって、一方的に期限を設定し、賃金減額のうえでの配転か・退職かを迫り、期限までに回答がないから解雇するといった強引な措置をとることは許されません。

 当事者が一方的に付する期限になど何の法的効力もないのに、返事がないからクビという強引な手法で整理解雇を行う手法は裁判所としても看過し難かったのではないかと思います。

 幾ら人員削減の必要があったとしても、誠実な説明・協議を経ない整理解雇は無効になり得ます。だからこそ、一方的に期限を設定され、どちらを選んでも受け入れ難いような選択を迫られても、焦って決断する必要はありません。

 理不尽な選択を迫られている方、回答できないでいたところ解雇されてしまった方がおられましたら、対応を弁護士に相談してみるとよいと思います。