弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

任期付き公務員が再採用(再任用)されたと認められるには

1.任期付き公務員の雇止め

 有期労働者に対しては、雇止め法理と言われるルールが適用されます。

 雇止め法理というのは、有期労働契約が反復更新されて実質的に期限の定めのない雇用契約と同視できる場合や、労働者において契約の更新に合理的な期待を有している場合に、契約の更新を拒絶するにあたっては、その理由に客観的合理性・社会通念上の相当性が必要になるというルールのことです(労働契約法19条)。

 このルールによって、有期労働者の立場は、ある程度の保護が図られています。

 しかし、雇止め法理は、任期付きの公務員には適用されません。公務員の任免は、(労働)契約でなく、行政行為によって効力が生じるとされているからです。

 任期付きの公務員が任期満了後も公務員の立場を保持するためには、再採用・再任用されることが必要です。

 それでは、再採用・再任用があったと認められるためには、どのような行為があればよいのでしょうか。

 近時公刊された判例集に、この点が議論された裁判例が掲載されていました。大阪地判平31.4.24労働判例ジャーナル93-46 国・法務大臣事件です。

2.国・法務大臣事件

 この事件で原告になったのは、大阪入国管理局長から任期1年で事務補佐員に採用された方です。

 任期満了の少し前、原告の方は、留学・研修審査部門の首席審査官から次年度の再採用を希望するか否かを口頭で尋ねられた時、再採用を希望することを回答しました。

 その後、首席審査官は大阪入管総務課人事係からの伝達依頼を受け、原告に対し、次年度、再採用を行う予定であることを口頭で伝えました。

 しかし、原告が再採用に係る書面を交付するように求めたことから話がこじれ、結局、大阪入管局長は原告を採用しないことを決めてまいました。

 これに対し、原告が地位確認等を求めて国・法務大臣を訴えたのが本件です。本件では、雇止め法理の適用の可否のほか、首席審査官の口頭での伝達の時点で既に再採用されたといえるのではないかが問題になりました。

 これらの論点について、裁判所は次のとおり判示し、原告の請求を棄却しました。

(裁判所の判断)

-雇止め法理の適用の可否について-

「国家公務員の任免は、国公法及び同法の委任を受けた人事院規則に基づいて行われるところ、国公法は、国家公務員の給与、勤務時間その他の勤務条件を契約ではなく法令で定める勤務条件法定主義をとっていること(同法63条、106条等)、労働契約法もその適用対象から国家公務員を除外していること(同法22条)、国公法に任命権者等と国家公務員との合意で勤務条件等を定めることを認めた規定はないことなどに鑑みると、国家公務員の勤務関係は、私法上の労働契約関係ではなく、公法的規律に服する公法上の関係であり(最二小判昭和49年7月19日民集28巻5号897頁参照)、国家公務員の採用行為は、採用される者の同意を前提とする、任命権者による行政行為の一種であると解される。」
「そして、職員が任期を定めて採用された場合に、その任期が更新されずに満了したときは、当然退職するものとされているから(人事院規則8-12(職員の任免)52条3号)、期間業務職員の地位は、任期の満了により当然に終了するというべきである。また、同号により退職した期間業務職員を再採用することは、任命権者の行う新たな行政行為であると解される。」
「したがって、国家公務員の勤務関係においては、労働契約関係を前提とする雇止め法理の適用の余地はなく、かつ、任期終了後は、新たな行政行為としての採用や任期の更新がない限り、その勤務関係が継続することはないというべきである。」

-再採用行為の存否について-

「原告は、平成27年1月21日、首席審査官に対して同年4月1日以降の雇用継続を希望する旨伝えたこと、同年2月6日、首席審査官から、原告の雇用継続が正式決定したと伝えられたことから、再採用された旨主張する。しかしながら、前記前提事実のとおり、これらの時点で、首席審査官から原告に対する具体的な雇用条件に関する説明はなかったこと、上記再採用に係る辞令は交付されなかったことに加え、・・・期間業務職員が再採用されたといえるためには、任命権者による新たな行政行為を要することをも併せ鑑みれば、同日の時点で首席審査官から原告に伝えられたのは、飽くまでも同年4月1日以降も再採用される予定である旨が決定したということにとどまり、これによって再採用という新たな行政行為がされたと解することはできない。

3.勤務条件の説明・辞令の交付が必要

 現在の裁判例の状況に鑑みると、任期付き公務員の方の法的地位を雇止め法理によって守ることは極めて困難です。

 公務員としての地位を維持しようと思った場合、再採用・再任用行為を立証するよりほかありませんが、大阪地裁は、再採用が認められるか否かの判断要素として、雇用条件(勤務条件)に関する説明、辞令の交付、任命権者による行為を掲げました。

 どのような条件が整えば再採用(再任用)があったと認められるのかは、それほど事例の蓄積があるわけではなく、同種事案の検討に資するものと思われます。