弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

パワハラの高額慰謝料事案(鬱病で5年半以上の通院・自宅療養、労災認定による補強)

1.パワハラの慰謝料

 一般論として言うと、パワハラの慰謝料はそれほど高額にはなりません。

 しかし、高額の慰謝料が認定された事案もないわけではありません。高額の慰謝料が認定された事案の特徴を分析することは、高額の慰謝料が認定されるべき事案を一般論に埋もれさせ、看過してしまわないために、実務上重要な意味があります。

 近時の公刊物に、パワハラで300万円の慰謝料を認定した裁判例が掲載されていました。大阪高判平31.1.31労働判例1210-32・松原興産事件です。この事件では、休業損害なども併せると、1116万9214円もの損害賠償請求が認容されています。

2.松原興産事件

 本件で被告になったのは、トータルアミューズメント施設(パチンコ、ボーリング、ゲームセンター)の経営を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告の元従業員で、ホールスタッフとして働いていた方です。上司であったC班長から継続的にパワーハラスメントを受け、鬱病に罹患し、退職を余儀なくされたとして、被告に対して使用者責任等に基づいて損害賠償を請求したのが本件です。

 高裁はパワハラについて、以下のとおり認定しています。黒字は一審の判断がそのまま踏襲されている部分で、赤字は高裁で改められた部分です。

「原告のうつ病発症前6か月間を検討するに、

平成24年4月に本件店舗に転入したC班長は、原告の勤務態度を問題視して降格的配置をしたり、叱責を繰り返したばかりか、とりわけ、

同年7月15日、本件店舗の経験の長い原告がC班長と対立した際には、『お前もほんまにいらんから帰れ。迷惑なんじゃ。』と発言して、パチンコ台の鍵を取り上げようとし、

同年9月6日には、『お前をやめさすために俺はやっとるんや。店もお前を必要としてないんじゃ。』と発言して、スピーカー線破損の始末書作成を強要し、

同年10月2日には些細な指示命令違反の有無を捉えて、『嘘つけ。お前いうこと聞かんし。そんなんやったらいらんから帰れや。』と発言した上、反抗に対する懲罰として、原告を勤務終了までの約1時間にわたって、カウンター横に立たせたこと(以下「本件パワハラ行為」という。)

は、業務指導の域を超えた原告に対する嫌がらせ、いじめに該当し、その発言は、原告の人格を否定するような内容であって、パワハラに該当する。」
「そして、F店長は、上記のようなC班長の原告に対する嫌がらせを把握できる状況にありながら、C班長に対して有効な指導をすることはなかった。」

 以上を前提に慰謝料については、次のとおり判示しています。

「当裁判所も、1審原告の慰謝料は、300万円をもって相当と思料する。」

「原告は、うつ病発症によって、少なくともうつ病を発症した平成24年10月から原審口頭弁論終結の日である平成30年3月27日までの5年半もの通院・自宅療養生活を余儀なくされていることから、これに対する慰謝料は300万円が相当である。」

3.精神疾患の発症と長期間の通院、労災認定による補強

 本件で慰謝料が高額化したのは、うつ病という精神疾患を発症し、5年以上にも渡る極めて長期間の通院加療を余儀なくされたからではないかと思われます。

 原告の鬱病の病状は、かなり深刻で、以下のとおり認定されています。

「原告は、平成24年10月6日、意欲減退、倦怠感、食欲不振、睡眠障害を訴えて、G病院を受診し、うつ病と診断された。原告は、同日付け診断書(1か月間の自宅安静療養・乙4)を被告に提出した。」
「原告は、さらに、同年11月2日付け診断書(1か月間の自宅安静療養・乙5)を提出した。原告は、同月頃、C班長が本件店舗から転勤したことを知り、病状回復し次第、職場復帰したいと考えていたが、症状は回復せず、被告に対し、同年12月5日付け診断書(平成25年2月末日まで自宅安静療養・乙6)を提出した。」
「原告は、自宅で寝込む生活が続き、平成24年12月からは、子供のため、妻子は近隣の妻の実家暮らしを始めた。」
「被告は、就業規則上、原告の休職期間が認められるのは3か月間のみであるとして、原告に対し、復職できないのであれば、退職届を提出するよう求めた。原告は、平成25年1月31日付け退職届を被告に提出した。」
「原告は、その後も、平成25年11月末頃までは、月1回程度、G病院に通院し、投薬(抗うつ剤、睡眠導入剤)を受けたが、倦怠感、不眠が継続していた。」
「原告は、平成26年1月頃は、未だ、気分にむらがあり、服薬で平静を保てる状態であり、意欲も低迷していた。同年5月には外出して友人と会うことができるまでに回復したが、外出先では動けなくなり、その後、再び、不眠を訴えた。それでも、同年11月頃には、体調のよい日も増えてきた。」
「原告は、症状は安定しないものの、平成27年3月になると、週の半分程度外出できるようになった。同年5月、6月には、以前の麻雀店勤務時代の知人に誘われて、麻雀大会に出場して優勝し、同月○○日には、二女も生まれて、原告は、社会復帰に意欲を持ち始めた。通院も2か月の一度のペースとなり、投薬量も減少していた。」
「ところが、平成28年に入ると、再び、体調は悪化し、家で引きこもる日が増えた。もっとも、同年1月と3月には、麻雀大会に行くことができ、入賞した。」
「主治医であるG病院J医師は、『平成29年11月の時点でも、原告の通院は継続しており、抑うつ、思考・運動抑制、気分の落ち込み、不眠、意欲減退、倦怠感、不安といった症状は、平成25年11月頃までに比べると、軽減し、外出して麻雀などの趣味もできるようになったが(精神科医としてはそのような外出を勧奨している。)、症状は不安定であり、発症以前の日常生活が支障なく行える状態が長時間持続して安定するまでは就労は困難であり、未だ、その状態までには回復していない。』との意見を述べている(原審における調査嘱託に対する平成29年11月8日付け回答)。」

 また、原告の鬱病は以下のおとり労災認定されています。

「北大阪労働基準監督署長は、平成25年10月11日、原告のうつ病発症に被告での業務起因性を認め、休業補償給付金の支給決定をし、その後も、G病院に対し、原告の療養状況照会を実施して、少なくとも、平成30年3月31日までの間の休業補償給付金を支給した。」

 鬱病の治療は長引くことがあります。治療期間と相関して慰謝料額も高額化する傾向はありますが、大抵は適当なところで通院加療の必要性・相当性が否定されるため、一定のところで頭打ちになります。

 しかし、本件では鬱病で労災認定がされており、休業の必要性・相当性について労災認定による補強がされていることが効いたのではないかと思います。労災が専門的な判断のもとで休業補償の必要性を認め、休業補償給付金を支給していることから、通院加療の必要性・相当性が否定されにくかったのではないかと思います。結果、長期間の通院加療の必要性・相当性が認められ、慰謝料額が高額化したものと推測されます。

 こうしてみると、パワハラでメンタルを病んだ時には、労災認定を得ることが重要になると思います。労災認定を受けるハードルは決して低くはありませんが、認定を受けられた時の補償の手厚さや労災民訴での意義を考えると、認定を受けられなかった方は、不服申立の可否をきちんと弁護士に相談しておくとよいと思います。