弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2023-09-01から1ヶ月間の記事一覧

概ね定額で支給されている成果給は歩合給(出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金)にあたらない

1.歩合給の割増賃金(残業代) 日給制や月給制の労働者の場合、割増賃金を計算するうえでの基礎となる「通常の労働時間・・・の賃金」は、日給や月給を所定労働時間数で除して計算されます(労働基準法施行規則19条2号、4号参照)。そして、時間外労働…

被災労働者支援事業(労働福祉事業)における特別支給金の支給決定は「処分」か?

1.被災労働者支援事業(労働福祉事業)における特別支給金 労働者災害補償保険は、保険給付を行うほか、社会復帰促進等事業を行っています(労働者災害補償保険法2条の2参照)。 社会復帰促進等事業には、 一 療養に関する施設及びリハビリテーションに…

細菌感染による死亡-素因による免疫低下状態の影響が認められながらも公務起因性があるとされた例

1.素因の影響 疾病に罹患したり死亡したりしても、それが業務災害/公務災害といえる場合、労働者災害補償保険法や国家公務員災害補償法、地方公務員災害補償法に基づいて手厚い補償を受けることができます。 ある疾病に罹患したことや、ある疾病によって…

オフィスの鍵を持たされ、ゴミ出し等の業務を行っていたことから早出残業の労働時間性が認められた例

1.早出残業の認定は厳しい タイムカードで労働時間が記録されている場合、終業時刻は基本的にはタイムカードの打刻時間によって認定されます。しかし、始業時刻の場合、所定の始業時刻前にタイムカードが打刻されていた場合であっても、打刻時刻から労働時…

収入のない状態のままでいるわけにはいかない場合、他社就労しても就労意思は否定されないとされた例

1.違法無効な解雇後の賃金請求と就労意思(労務提供の意思) 解雇されても、それが裁判所で違法無効であると判断された場合、労働者は解雇時に遡って賃金の請求をすることができます。いわゆるバックペイの請求です。 バックペイの請求ができるのは、民法…

確定的な退職の意思表示-「それでも出ろっていうなら辞めます」

1.退職の意思表示の慎重な認定 労使間でトラブルになっている時に、売り言葉に買い言葉で辞意を口にしてしまうことがあります。こうした軽率な発言によって、本意ではないにもかかわらず退職扱いされてしまった場面で労働者を保護する法律構成の一つに、 …

整理解雇の手続として民事調停が不相当とされた例

1.整理解雇の手続と民事調停 整理解雇とは「企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇」をいいます(佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕397頁)。 整理解雇の可否は、①人員削減の必要性があること、…

雇用調整助成金の受給可能性を検討していないことなどから解雇回避努力が否定された例

1.雇用調整助成金 雇用調整助成金とは、 「経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業、教育訓練、出向に要した費用を助成する制度」 をいいます。新型コロナウイルスの流行に伴い注目されてきた制度であり…

懲戒解雇の効力をめぐって係争中、予備的に行われた普通解雇の事由、効力をどう考えるのか?

1.懲戒解雇の効力をめぐって係争中に行われる普通解雇 懲戒解雇は制裁として行われる解雇です。労働者に与える不利益の大きさから、有効となるためには、それ相応の事情が必要になります。また、手続的にも刑事手続に準じた厳格さが求められます。その効力…

問題視せず、注意指導していなかった事実について、懲戒解雇事由には該当しないとされた例

1.古い行為の蒸し返し 一般に、解雇は、労働者と使用者との関係が徐々に悪化して行く中で行われます。このような経過をたどった解雇事件の相談を受けていると、解雇事由の中に、かなり昔の出来事で、当時は特に問題視されていなかったものまで含まれている…

性同一性障害者に女性トイレの自由使用の利益が認められた例

1.性同一性障害者と性自認に応じたトイレの自由利用 以前、性同一性障害を持つ方が性自認に応じたトイレを利用することの可否が問題になった裁判例を紹介しました。 性同一性障害者が自認する性別に対応するトイレを使用する利益と行政措置要求の可能性 - …

時間外勤務手当等を支払わない従業員に対して支給される手当の固定残業代としての効力(消極)

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

労基法上の労働時間把握義務を怠りつつ、事業場外みなし労働時間制の適用を受けることが許されないとされた例

1.事業場外労働のみなし労働時間制(事業場外みなし労働時間制) 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただ…

正規職員にかかる人件費を非正規職員に係る新設手当の原資にも充当する就業規則の変更

1.正規職員の労働条件の不利益変更を伴う非正規職員との格差是正 労働契約法20条に、 「有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の…

医師の看護師に対する職業差別的な言動に不法行為該当性が認められた例

1.職業差別的な言動 職業に貴賎なしという言葉があります。しかし、総合職と一般職、弁護士とパラリーガル、医師と看護師といった権威勾配のある組合せのあるチームの中では、権威の高い側から権威の低い側に対して職業差別的・侮蔑的な発言がなされること…

化学物質過敏症-化学物質の曝露に関して過失が認められた例

1.化学物質過敏症 化学物質過敏症とは、 「過去にかなり大量の化学物質に一度曝露された後、または長期間慢性的に化学物質の曝露を受けた後、非常に微量の化学物質に再接触した際にみられる不快な臨床症状」 を言います。 化学物質過敏症は、空気中に微量…

化学物質過敏症と業務との因果関係が認められた事例

1.化学物質過敏症 化学物質過敏症とは、 「過去にかなり大量の化学物質に一度曝露された後、または長期間慢性的に化学物質の曝露を受けた後、非常に微量の化学物質に再接触した際にみられる不快な臨床症状」 を言います。 化学物質過敏症は、空気中に微量…

賃金の支払義務が遵守されない場合の取締役に対する損害賠償請求(積極)

1.取締役個人に対する賃金相当額の損害賠償請求 賃金を支払わない会社の中には、支払わないというよりも(資金が払底していて)支払えない会社が少なくありません。 こうした場合、賃金の支払いを受けられない労働者は、取締役の個人責任を追及することは…

労働者が濫用型の法人格否認の法理を使うにあたり必要になる使用者の違法・不当な目的は、当該労働者に対する賃金債務を免れる目的であることを要するか?

1.法人格否認の法理 法人格否認の法理とは、 「ある法人を実質的に支配している者が、法人格が異なることを理由に責任の帰属を否定することが正義・衡平の原理に反すると考えられる場合に、信義則(民法1条2項)上、そのような主張をすることを許さないも…

固定残業代の効力-大部分の従業員が異議を述べなかったことは時間外労働の対価であることを基礎づけるのか?

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

固定残業代の効力-時間外勤務手当を支給しない代わりに支給される手当の対価性(消極)

1.固定残業代の有効要件 最一小判令2.3.30労働判例1220-5 国際自動車(第二次上告審)事件は、固定残業代の有効要件について、 「通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であ…

職務遂行過程で生じた軽微/単純な過誤の懲戒事由該当性が否定された例

1.足元を掬う懲戒処分 会社が労働者を解雇するにあたっては、事前に注意・指導したり、懲戒処分を行ったりするなど、改善の機会を与えていたのかどうかが重要な意味を持つことが少なくありません。そのため、解雇対象者として使用者から目を付けられた労働…

指示した上司が懲戒されず、非違行為をした部下が懲戒されるのは不公平とされた例

1.懲戒権濫用 労働契約法15条は、 「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その…

戒告・譴責の無効の確認を求める訴えの利益(肯定例)

1.戒告・譴責の無効を確認する利益 戒告・譴責といった具体的な不利益と結びついていない軽微な懲戒処分の効力が無効であることの確認を求める事件は、「訴えの利益」が否定されることが少なくありません。 「訴えの利益」とは、裁判所に事件として取り扱…

部下への接し方に問題がある上司が原因で、部署全体の雰囲気が悪くなり、自殺者が出た例

1.パワーハラスメントに対処しなければならないのは? 職場において行われる ① 優越的な関係を背景とした言動であって、 ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、 ③ 労働者の就業環境が害されるもの をパワーハラスメントといいます(令和2年厚生…

管理監督者該当性-労働時間に裁量があることを否定するときの着目点

1.管理監督者性 管理監督者には、労働基準法上の労働時間規制が適用されません(労働基準法41条2号)。俗に、管理職に残業代が支払われないいといわれるのは、このためです。 残業代が支払われるのか/支払われないのかの分水嶺になることから、管理監…

解雇の撤回が認められた例-解雇撤回にどう対応するか

1.解雇の撤回 一昨日、昨日と、無理筋の解雇が行われた場合、労働者側からの解雇無効、地位確認の主張に対し、使用者側から解雇を撤回するという対応をとられることがあるとお話しました。 この解雇撤回は、敗訴リスクを考慮した便法であることが少なくあ…

解雇撤回後の嫌がらせ-ハラスメント加害者の部下につけたり、退職を迫ったり、懲戒処分をしたりしたことが問題視された例

1.解雇撤回後の嫌がらせ 無理筋の解雇に対し、労働者側から解雇無効、地位確認を主張すると、使用者側から解雇を撤回されることがあります。 これが真摯なものであればよいのですが、敗訴リスクを考慮して解雇を一旦撤回するものの、当該労働者を職場から…

解雇撤回後の嫌がらせ-自宅待機命令に不法行為該当性が認められた例

1.解雇撤回後の嫌がらせ 無理筋の解雇に対し、労働者側から解雇無効、地位確認を主張すると、使用者側から解雇を撤回されることがあります。 これが真摯なものであればよいのですが、敗訴リスクを考慮して解雇を一旦撤回するものの、当該労働者を職場から…

休日出勤の不承認に不法行為に該当する余地が認められた例

1.休日出勤させてもらえない 一般論として言うと、使用者から命じられた場合に時間外勤務(残業)や休日勤務(休日出勤)をすることは、飽くまでも労働契約上の義務であって権利ではないと理解されています。 そのため、残業や休日勤務をさせてもらえなか…