弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の退職手当-辞職して減給処分を受けるに留まっても、退職手当の全額が不支給とされた例

1.公務員の退職金(退職手当) 国家公務員の場合、懲戒免職処分を受けると基本的に退職手当の全額が不支給になります。これは、 昭和60年4月30日 総人第 261号 国家公務員退職手当法の運用方針 最終改正 令和4年8月3日閣人人第501号 という…

既婚者が異性に対して持つ好意からは、性的同意までは推認できないとされた例

1.セクハラと迎合的言動 セクシュアルハラスメントの被害者心理について、最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係…

就業規則に休職制度や自然退職の定めがない中で行われた自然退職の通知は退職の効果を生じさせるか?

1.休職と自然退職 労働基準法19条1項本文は、 「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない…

会社代表者によるセクハラは適切な対応や改善が期待できないから、精神的負荷(心理的負荷)が大きいとされた例

1.セクシュアルハラスメントと精神障害との間の因果関係 セクハラを受けて精神疾患(精神障害)に罹患する方は少なくありません。 しかし、精神障害を発症したことによる慰謝料等を請求することは、実務上、必ずしも容易ではありません。セクハラと精神障…

「配偶者がいるのにアプローチをするのはおかしい」と述べた女性従業員に対し「気が変わるのを待っている」と誘い続けたことが違法とされた例

1.ポジティブな思い込み セクシュアルハラスメントの被害者心理について、最一小判平27.2.26労働判例1109-5L館事件は、 「職場におけるセクハラ行為については、被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感等を抱きながらも、職場の人間関係…

約4年半もの長期間に渡る自宅待機命令について、違法な退職勧奨であるとして慰謝料300万円の支払いが命じられた例

1.退職勧奨と自宅待機命令 退職勧奨については、 「基本的に労働者の自由な意思を尊重する態様で行われる必要があり、この点が守られている限り、使用者はこれを自由に行うことができる。・・・これに対し、使用者が労働者に対し執拗に辞職を求めるなど、…

1か月単位変形労働時間制の否定例(就業規則において、各勤務の始終業時間、各勤務の組み合わせの考え方、勤務割表の作成手続及び周知方法が定められていない)

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

「調整手当(固定残業代)」と記載のある雇用契約書に署名したものの、固定残業代としての有効性が否定された例

1.固定残業代の有効性 最二小判令5.3.10労働判例1284-5 熊本総合運輸事件は、固定残業代の有効要件について、 「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付ける…

減員を契機として不活動仮眠時間が休憩時間から労働時間になった例/少数のサンプルだけでは実作業の皆無性の反証として不十分とされた例

1.不活動仮眠時間の労働時間性 宿直等の不活動仮眠時間を労働時間としてカウントしていない会社は少なくありません。 この不活動仮眠時間は長時間に及んでいる例が多く、これが労働時間としてカウントされるのか否かにより、残業代は大きく左右されます。…

訪問介護の中抜けの時間(対象者の睡眠中、仮眠をとることができた時間)の労働時間性

1.不活動仮眠時間の労働時間性 宿直等の不活動仮眠時間を労働時間としてカウントしていない会社は少なくありません。 この不活動仮眠時間は長時間に及んでいる例が多く、これが労働時間としてカウントされるのか否かにより、残業代は大きく左右されます。…

両親に退職者の就労状況を誹謗中傷する手紙を送ったことが、不法行為(名誉感情侵害)に該当するとされた例

1.退職をめぐるトラブル 昨日、 特定の従業員等に対して不名誉な退職理由を告げたことが名誉毀損に該当するとされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で、使用者が従業員に対して退職労働者の悪口を言うことが不法行…

特定の従業員等に対して不名誉な退職理由を告げたことが名誉毀損に該当するとされた例

1.退職をめぐるトラブル(不名誉な退職事由の流布) 退職にあたり、使用者と労働者との関係が険悪になることは少なくありません。 このような場合に、使用者が、残っている従業員に対し、去っていく労働者の悪口を言うことがあります。 それでは、こうした…

有給消化後に退職する意向を示した従業員に対し、退職前に健康保険の被保険者資格を喪失させたことが不法行為に該当するとされた例

1.退職をめぐる嫌がらせ 勤務先を退職する時に、 残っている有給休暇を全部消化したうえで辞職する、 という意思表示をすることがあります。 この場合、使用者は、時季変更権を行使することができないので(昭49.1.11基収5554号、東京地判平2…

保存期間経過後のクロワッサン等を窃取した給食調理員に対する懲戒免職処分が違法とされた例

1.懲戒処分の実情 公務員には種別毎に懲戒処分の標準例が定められています。 例えば、国家公務員の場合、平成12年3月31日職職-68『懲戒処分の指針について』が標準例にあたります。 ここには、 「公金又は官物を窃取した職員は、免職とする。」 と…

盗撮行為を理由とする懲戒解雇が無効とされた例

1.職務外での痴漢・盗撮を理由とする懲戒解雇 職場におけるセクシュアルハラスメントは、多くの企業において懲戒事由と定められています。態様や被害が酷い場合、懲戒解雇されることもあります。懲戒が企業秩序を維持するための仕組みであることを考えて頂…

協同組合グローブ事件最高裁判決以降の事業場外みなし労働時間制の適否が問題になった事例(否定例)

1.事業場外みなし労働時間制 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常…

研究という側面に乏しい大学講師職にも、任期法の適用を認めた最高裁判例

1.無期転換ルールとその例外 労働契約法18条1項本文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日…

日中手当は深夜割増賃金の算定基礎賃金になるのか?

1.時間帯毎に異なる時給 「日中手当」として支給されていた賃金項目について、深夜割増賃金を計算するうえでの算定基礎賃金に含まれないという主張は、どのように扱われるのでしょうか? 時間帯毎に異なる時給を定めることは、法律上、禁止されているわけ…

1か月単位変形労働時間制-個別合意は就業規則上のシフトパターンの欠如を補完するか?

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

1か月単位変形労働時間制-24時間365日の福祉サービスの提供は、シフトパターンを就業規則にないことを正当化するか?

1.1か月単位変形労働時間制 労働基準法32条の2第1項は、 「使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面…

配転命令権の濫用-「高度の必要性」を否定したうえ、不法行為該当性を肯定した例

1.配転命令権の濫用 配転命令権が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができるものというべきであ…

過半数代表者について「多くの従業員から人望があることに鑑み、過半数代表者となっていた」ではダメだとされた例

1.1年単位の変形労働時間制と過半数代表者 1年単位の変形労働時間制とは「業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図るこ…

定時よりも相当早い出社(1時間以上前)であることに着目して早出残業が認められた例

1.早出残業の認定 タイムカードで労働時間が記録されている場合、終業時刻は基本的にはタイムカードの打刻時間によって認定されます。しかし、始業時刻の場合、所定の始業時刻前にタイムカードが打刻されていた場合であっても、打刻時刻から労働時間のカウ…

社会的に未熟な休職者を騙して労働者を安い給料で働かせようとしたとして、賃金の消滅時効の援用が許されないとされた例

1.「求人詐欺」問題 求人票で示された労働条件と現実の労働条件が異なることを、俗に「求人詐欺」といいます(水町勇一郎 『詳解 労働法』〔東京大学出版会、第3版、令5〕1065頁参照)。 分かり易く言うと、求人票で高い労働条件を示して魅力ある人…

提出書証が二通だけでも、LINEメッセージの送信でパワハラが認定された例-「何年店長やってんだよ」「雑魚営業以下」「日本語大丈夫?」

1.LINEでのパワハラ 業務用の連絡にLINEを使っている会社は少なくありません。 LINE上のメッセージというと、記録に残ってしまうことから、ハラスメントのツールとしては不向きであるようにも思われます。 しかし、法律相談等を受けていると、…

勤務時間区分等が就業規則にない1か月単位の変形労働時間制について、争うことに合理的な理由がないとされた例

1.賃金の支払の確保等に関する法律 退職後に残業代を請求する場合、14.6%の遅延利息を請求するのが通例です。 民法上の法定利率が年3%とされていること(民法404条2項)と対比すると、かなり高い利率であることが分かると思います。 こうした高…

合理的期待の内容-同一の労働条件で更新されることへの期待でなければならないのか?-警戒すべき裁判例の出現

1.雇止め法理-合理的期待 労働契約法上、 「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」(契約更新に向けた合理的期待が認められる) 場…

1年単位の変形労働時間制の効力を争うための着眼点-公休予定日が出勤日に変更されている実態はないか?

1.1年単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制とは「業務に繁閑のある事業場において、繁忙期に長い労働時間を設定し、かつ、閑散期に短い労働時間を設定することにより効率的に労働時間を配分して、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的にした…

法の予定する出来高払制(歩合制)というためには緩やかな相関関係では不十分とされた例

1.出来高払制の賃金かは、なぜ揉める? 出来高払制(歩合制)とは、 「労働者の製造した物の量・価格や売上げの額などに一定比率を乗じて額が定まる賃金制度」 をいいます(亀田康次ほか『詳解 賃金関係法務』〔商事法務、初版、令6〕215頁参照)。 労…

被害者と引き離せないことは、軽微なセクハラを理由とする解雇を正当化するか?

1.セクシュアルハラスメントの事後措置 事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)は、事業主に対し、職場においてセクシュアルハラスメントが発生した場合、事…