弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

執行役員(従業員)の不正行為により事業の見通しが立たなくなったことは内定取消の必要性を基礎付けるか?

1.採用内定の取消 採用内定により労働契約が成立する場合、その後の使用者による一方的な解約(内定取消)は解雇にあたると理解されています。解雇にあたる以上、内定取消にも解雇権濫用法理(労働契約法16条)が適用されます(水町勇一郎『詳解 労働法…

新型コロナウイルスの影響下での使用者による時短・休業に休業手当の支払いを要するとされた例

1.新型コロナウイルスの影響による休業 労働基準法26条は、 「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」 と規定しています。 この「使…

残業代請求-昼食をとっていた時間を含めて労働時間性が認められた例

1.残業代請求と昼食の時間 残業代(時間外勤務手当等)を請求するにあたり、休憩をとる暇もなく朝から夜まで働いていたという主張をすることがあります。 個人的な実務経験の範囲で言うと、この種の主張が通ることは、あまりありません。昼食をとることは…

早出残業の立証が認められた例-定型業務は立証が容易?

1.早出残業の認定は厳しい タイムカードで労働時間が記録されている場合、終業時刻は基本的にはタイムカードの打刻時間によって認定されます。しかし、始業時刻の場合、所定の始業時刻前にタイムカードが打刻されていた場合であっても、打刻時刻から労働時…

公務員の飲酒運転-懲戒免職処分も退職手当全部不支給処分も適法とされた例

1.公務員の飲酒運転 公務員の飲酒運転に対し、行政はかなり厳しい姿勢をとっています。例えば、国家公務員の場合、酒酔い運転をしたら、人を死傷させなくても免職か停職になるのが通例です。 懲戒処分の指針について 懲戒免職処分を受けた場合、基本的に退…

試用期間の潜脱スキームを考える(訓練契約の労働契約該当性から)

1.試用期間の潜脱スキームの展開 試用期間中または試用期間満了時の本採用拒否については、実際の就労状況等を観察して従業員の適格性を判定するという留保解約権の趣旨・目的に照らし、本採用後の解雇の場合よりも広い範囲の解雇の自由が認められます(水…

セクハラの立証-一部でも決定的な録音があれば、録音のない部分も立証できる可能性がある

1.セクシュアルハラスメントを立証するための録音の重要性 業務上の指導との境界線が曖昧なパワーハラスメント(パワハラ)とは異なり、セクシュアルハラスメント(セクハラ)が業務上必要であることは殆ど考えられません。セクハラをする側も、悪いことを…

ハラスメント(セクハラ)に関する第三者委員会の調査報告書の信用性が否定された例

1.使用者側が委託した「第三者」による調査報告書 ハラスメントを受けた労働者が被害を申告した場合、使用者は事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正な対処を行う必要があります(令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景と…

無期転換ルールの例外 大学教職員に対する説明の欠如をどう考えるか?

1.無期転換ルールの例外(大学教職員) 労働契約法18条1項本文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が…

無期転換ルール 大学講師の立場をどうみるか?

1.無期転換ルールの例外(大学教職員) 労働契約法18条1項本文は、 「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約・・・の契約期間を通算した期間・・・が五年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が…

公務員-手続上の違法(理由付記の不備等)だけで懲戒処分の取消請求が認められた例

1.手続上の違法の位置づけ 公務員の懲戒処分の効力を争う場合、手続違反を主張するだけで勝訴することは容易ではありません。敗訴判決を受けても、行政側としては正当な手続をやり直して同じ処分を行えば良いだけであるため、懲戒処分の瑕疵が手続違背に留…

労災における労働時間の意味-質的過重性

1.労災における労働時間 労働者災害補償保険法に規定されている保険給付を受けるにあたり、労働時間は重要な意味を持っています。 例えば、精神障害との関係でいうと、 「発病直前の連続した3か月間に、1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行…

ノルマが達成できなかったことによる心理的負荷の判断方法

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 平成23年12月26日 基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(最終改正:令和2年8月21日 基発0821第4号) という基準を設けています。 精神障…

シンポジウムに引き続いて行われた大学教授の退官(退職)記念祝賀会を大学経費として支出できるか?

1.退官(退職)記念祝賀会 大学教授が退官(退職)する時、記念祝賀会が開催されることがあります。 地位の特殊性が反映されるためか、大学教授の退官(退職)記念祝賀会は、学術的な性質を帯びていることが少なくありません。 それでは、シンポジウムに引…

録音にあたっては事前に弁護士に相談を-有給休暇の取得妨害をめぐる訴訟を題材に

1.録音の重要性 使用者側の違法な言動を立証するにあたり録音が重要であることは、現在では広く一般の方にも知られています。予め録音を取得したうえで法律相談に見られる方も増えているように思います。 しかし、相談者の方が取得した録音を聞いていると…

退職勧奨に応じられない場合には、退職しない意思を明確に表明することⅡ-拒絶の仕方が甘いと勧奨が止まらない

1.退職勧奨への対応 少し前に、 退職勧奨に応じられない場合には、退職しない意思を明確に表明すること - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で、退職勧奨に応じられない場合に、退職しない意思を明示的・明確に表明するこ…

直接の行為者ではない複数の者の懲戒-総合調整事務に基づく責任と監督責任

1.巻き添え型の懲戒処分 官公庁や役所で不祥事が発生した場合、監督責任等の名目で、直接の行為者ではない方まで懲戒処分を受けることがあります。 上長や同僚として気を配っていれば不祥事を回避できたのではないかと言われると、概念的には理解できるの…

残業の許可制-「忙しいだろうと思うけど早く帰るように」等の言動があっても黙示の残業命令が認定された例

1.残業の許可制・事前承認制 時間外勤務手当等の発生を抑止するため、事前に上長の許可や承認を得ることを残業の要件としている会社があります。 これが実効性をもって運用されていて、許可や承認のない残業が明確に禁止されているような場合には、使用者…

事業場外労働みなし労働時間制の適用が否定された例-大まかにでも労働時間を把握できるようなら対象外

1.事業場外労働みなし労働時間制 労働基準法38条の2第1項は、 「労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには…

非公務⇒公務型の継続的不法行為における公務員の個人責任追及の可否

1.公務員の個人責任 民間の場合、従業員が事業に関連して不法行為をした場合、不法行為をした従業員個人とその使用者とが連帯して損害賠償責任を負います。この場合、被害者は、従業員個人だけを訴えることもできれば、会社だけを訴えることもできますし、…

部活動の外部指導者による暴行、「サル」呼ばわりするイジリの違法性

1.外部指導者・部活動指導員の問題 学校教育法施行規則に基づいて、 「スポーツ、文化、科学等に関する教育活動(・・・教育課程として行われるものを除く)に係る技術的な指導に従事する」 方を部活動指導員といいます(学校教育法施行規則78条の2、1…

旅費の不正受給(詐取)で懲戒解雇の効力を争うための着眼点-他の同種処分事例との均衡が鍵になる

1.金銭的な不正行為を理由とする懲戒解雇 会社の金銭の詐取・横領を理由とする懲戒解雇は、少額であったとしても効力が認められやすい傾向にあります。第二東京弁護士会労働問題検討委員会編著『2018年 労働事件ハンドブック』〔労働開発研究会、初版…

新入社員がセクハラを他の職員に相談できなかったことに合理性があると判断された例

1.長時間経過後の供述の信用性 一般論として、長時間経過した後の供述について裁判所に信用性を認めてもらうことは必ずしも容易ではありません。 時間が経過すると、事案の詳細を具体的に語ることができなくなります。記憶の減退によって勘違いが生じ、客…

ヒアリング・弁明の場面を録音するにあたっては事前に弁護士に相談を-当方の発言内容をコントロールすることの重要性

1.録音は諸刃の剣 労使紛争を事件化するにあたり、録音は極めて重要な証拠になります。暴言等のハラスメントは、録音がなければ立証が不可能であることが多々みられます。懲戒処分に先立つ弁明の場面を録音しておくことは、処分当時の使用者側の認識や、重…

セクハラのヒアリングにどのように応じるべきか

1.改善の余地(改善可能性) 規律違反行為を理由とする解雇の可否を判断するにあたり、改善の余地は重要な考慮要素になります。佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務』〔青林書院、改訂版、令3〕396頁も、規律違反行為とする普通解雇の有効…

やはり高かった、「過小な要求」類型のパワーハラスメント成立の壁

1.パワーハラスメントの類型-過小な要求 このパワーハラスメントの類型の一つに、 「過小な要求」 があります。 過小な要求とは、 「業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと」 を意味します。例えば、 …

退職勧奨の違法性-拒絶表明がない場合に用いる規範

1.退職勧奨の違法性 退職勧奨を行うことは、それ自体が違法とされているわけではありません。 しかし、 「社会的相当性を逸脱した態様での半強制的ないし執拗な退職勧奨行為が行われた場合には、労働者は使用者に対し不法行為として損害賠償を請求すること…

元の職場とは異なる職場への復職命令の有効性

1.休職からの復職をめぐる問題 厚生労働省が公表している 令和2年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況 によると、メンタルヘルス不調により連続1か月以上休業した労働者の割合は、0.4%とされています。 令和2年 労働安全衛生調査(実態調査)…

退職勧奨に応じられない場合には、退職しない意思を明確に表明すること

1.退職勧奨の限界 退職勧奨とは、 「辞職を勧める使用者の行為、あるいは、使用者による合意解約の申込みに対する承諾を勧める行為」 をいいます。 退職勧奨を行うことは、 「基本的には自由である」 と理解されています。 ただ、 「社会的相当性を逸脱し…

事業所(診療所)が閉鎖されると誤信した合意退職が無効とされた例

1.事業廃止に伴う解雇 法人の解散など事業廃止に伴う解雇は、比較的緩やかに効力が認められます。東京地裁労働部に勤務歴のある裁判官の手による佐々木宗啓ほか編著『類型別 労働関係訴訟の実務Ⅱ』〔青林書院、改訂版、令3〕399頁にも、 「会社が解散…