弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

医療従事者は人の死に慣れなければならないのか?

1.新生児の死亡事故等に直面した看護師にかかる心理的負荷 以前、人の死に直面した医療従事者への精神的なサポートの重要性 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で、看護師の方が新生児の死亡事故やその後の遺族対応の後に…

在職中の労働者の訴訟提起に対する嫌がらせに違法性が認められた例

1.法的措置をとったことへの報復 在職しながら勤務先に対して法的措置をとることには、色々と困難が伴うことが少なくありません。そうした困難の一つに、会社からの報復があります。 ある程度順法意識のある会社であれば、法的措置をとったからといって、…

不利益性を伴わない人種差別的言動・民族差別的言動の違法性

1.差別的言動に対する一般的反応 特定の人種・民族に対する差別的な言動を耳にしたとき、眉をひそめる人はいても、言動の主に加担して迫害行為に及ぶ人は殆どいないと思います。それは職場であっても同じで、人種差別的・民族差別的な言動をとる人がいたと…

補助金の打ち切りを理由に業績を上げている研究者を簡単に雇止めにしていいのか?

1.雇止めルール 有期労働契約は期間の満了により終了するのが原則です。 しかし、更新されるものと期待することに合理的な理由があると認められる場合、雇止めをするには客観的合理的理由・社会通念上の相当性が必要になります。これが認められない場合、…

条例が存在しない場合、条件付採用期間中の職員に対する分限事由はどのように理解されるべきか?

1.条件付採用 公務員には「条件付採用」という仕組みがとられています。これは、一定期間、職務を良好な成績で遂行できたことを正式採用の条件とする仕組みであり、民間でいうところの試用期間に相当します。 条件付採用は、国家公務員の場合、国家公務員…

固定残業代の有効性-36協定の欠缺だけでは勝てない?

1.固定残業代の有効性と36協定 先月、36協定の欠缺が固定残業代の有効性を否定する事情として効いたと思われる裁判例(名古屋高判令2.2.27労働判例働判例1224-42サン・サービス事件)を紹介しました。 固定残業代の効力を争う場合の留意…

労災取消訴訟-審査請求段階と訴訟段階、異なった疾病を主張できるか

1.審査請求前置 労災の業務起因性の判断は、 ① 対象となる疾病、障害等が何なのか、 ② 対象として特定された疾病、障害等に業務起因性が認められるか、 という二重構造のもとで行われます。 こうした構造のもとでなされた労働基準監督署長の処分に不服のあ…

停職処分の枠内において処分に質的な相違は存在するか?

1.地方公務員の懲戒の種類と質的な違い 地方公務員法は、戒告、減給、停職、免職の四つの懲戒処分を規定しています(地方公務員法29条1項)。 それぞれの懲戒処分には、質的な違いがあります。この質的な違いは、懲戒処分が過度に重いものになっていな…

ハラスメントの被害者に配置転換を求める権利性を認めることができるか?

1.労働者は職場に配置転換を求めることができるのか? ハラスメントに関する相談を受けていると、勤務地や部署の変更を請求することができないかと尋ねられることがあります。 しかし、配置転換を使用者に対して権利として請求することができるかというと…

決められた総額を調整するための費目と固定残業代

1.固定残業代の有効性 固定残業代が有効であるといえるためには、 「労働契約における賃金の定めにつき、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要である・・・。そして、使用者が、労働契…

営業秘密が記載された書証を提出する時に、労働者はマスキングを行う義務を負うのか?

1.秘密保持義務と裁判を受ける権利の相克 一般論として、労働者は、会社に対し、営業秘密を漏洩しない義務を負っています。 そのことは、大抵の会社の就業規則に書かれています。例えば、厚生労働省のモデル就業規則では、労働者の遵守事項として、 「在職…

指導票への署名・押印に残業代支払債務の承認としての効力が認められるか?

1.残業代の消滅時効期間 労働基準法115条は、 「この法律の規定による賃金の請求権はこれを行使することができる時から五年間、この法律の規定による災害補償その他の請求権(賃金の請求権を除く。)はこれを行使することができる時から二年間行わない…

提訴記者会見に厳しい時代の到来か

1.提訴記者会見での言動が労働者の地位を脅かす 昨年の11月、マタハラがテーマになった事案で、社会的な耳目を集めた判決が言い渡されました。東京高判令元.11.28労働判例1215-5 ジャパンビジネスラボ事件です。 この判決には重要な判示事項…

長時間労働を理由とする慰謝料請求-精神疾患の発症なし、月30~50時間の水準の残業でも可能とされた例

1.長時間労働と慰謝料 昨年、精神疾患の発症がなかったにもかかわらず、長時間労働を理由とする慰謝料請求が認められた事案が話題になりました。 以前、このブログでもご紹介したことのある、長崎地大村支判令元.9.26労働判例ジャーナル94-68 狩…

アダルトサイトの閲覧(わいせつ情報等に接していたこと)は取締役解任の正当な理由になるか?

1.取締役はサボってもいい? 労働者とは異なり、株式会社の取締役は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法339条1項)。しかし、解任に「正当な理由」がない場合、解任された取締役は、株式会社に対して解任によって生じた…

過大な要求-私的な雑用の処理を強制的に行わせること

1.パワーハラスメントの六類型の一つ-「過大な要求」 令和2年1月15日 厚生労働省告示第5号 「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 はパワハラを六個の類型に整理して…

部下に有用性のない始末書を作成・提出させることは違法

1.大量の始末書 労働者からの法律相談を受けていると、やたら大量の始末書を作らされている例を目にすることがあります。 個人的な経験の範囲から、その理由を類型化すると、 ① 解雇するための布石として、指導実績を積み重ねている場合、 ② 単純に嫌がら…

復職の場面での有力な武器-診断書の趣旨を主治医に確認すべき注意義務/慣らし勤務を経させる義務

1.なおざりな復職要件の確認 病気休職者の復職要件は、一般に、 「従前の職務を通常の程度に行える健康状態に復した」 ことであるとされています(浦和地判昭40.12.16労働判例15-6 平仙レースの事件)。 ただ、従前どおりのパフォーマンスを発…

休職からの復職にあたり、配置転換を断ったら解雇/退職扱いされた方へ

1.病気や怪我をした従業員に冷たい会社は少なくない 病気や怪我をした従業員に対して冷たい対応をとる会社は少なくありません。休職まではさせてくれても、いざ復職しようとすると、何だかんだと理由をつけて会社から去らせようとしてきます。 会社が従業…

仕事で病気・怪我をしたフリーランスの方へ-労働者性を争うことにより手厚い補償を受けられる可能性がある

1.フリーランス・個人事業主の病気や怪我に対する脆弱性 フリーランス・個人事業主(以下「フリーランス等」といいます)は、病気や怪我に対して労働者よりも遥かに脆弱です。それは社会保険や労働保険が不十分だからです。 業務上の災害に対し、労働者は…

録音する時の留意点-発言の価値は、録音状況や質問の仕方とのセットで決まる

1.録音の重要性 ハラスメントを事件化する時、録音の存否は事件の見通しに大きく影響します。確たる証拠がないのに、相手方がハラスメントの存在を素直に認めることは、先ずないからです。相手方が事実の存否を争った場合、ハラスメントの事実は当方で立証…

事件報道を真に受けて事件を語ることの危険性

1.弁護士から見た事件報道 事件報道に対して冷めた見方をする弁護士は、少なくないように思います。それは何も斜に構えて格好をつけているわけではありません。ある程度の年数弁護士をしていれば、報道される事件の一つや二つ経験することは珍しくありませ…

裁判に勝つための方策-反省すべきか、反省しないべきか

1.解雇の可否と改善可能性 以前、 「懲戒解雇の効力を検討するうえでの改善可能性の位置づけ-改善可能性がなくても懲戒解雇は有効にはならない」 という記事の中で、解雇の可否を判断するにあたり、改善可能性という概念が重要な意味を持っていることを書…

他人間の運転トラブルに介入し、諭旨解雇になるとともに使用者から100%の求償を受けた例

1.使用者から労働者への求償 民法715条1項本文は、 「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。」 と規定しています。 この条文を根拠として、被用者の行為によって損害を受けた…

懲戒解雇の効力を検討するうえでの改善可能性の位置づけ-改善可能性がなくても懲戒解雇は有効にはならない

1.解雇の可否と改善可能性 解雇の効力を検討するにあたり、改善可能性という考え方があります。大雑把に言うと、問題となる行為があったとしても、改善する可能性があるのであれば、解雇する前にきちんと注意、指導をしなければならず、こうした事前の注意…

人事考課の理由を労働者本人に説明しないで降格することは許されるのか?

1.説明のない人事考課 長期雇用システムの下の労働契約においては、使用者が、労働者を特定の職務やポストのために雇い入れるのではなく、職業上の能力の発展に応じて様々な職務やポストに配置することが予定されているため、労働者を組織の中で位置づけ、…

就業規則の変更-従業員代表を不信任投票方式で選任することは許されるのか?

1.就業規則の変更の手続的要件-従業員代表からの意見聴取 労働基準法90条1項は、 「使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合…

固定残業代の効力-実際の時間外労働等の状況との乖離Ⅱ(下方向の乖離でも効力を否定する根拠になるか?)

1.固定残業代の対価性要件 固定残業代の合意が有効といえるためには、 「時間外労働等に対する対価として支払われるものとされていた」 ことが必要とされています(最一小判平30.7.19労働判例1186-5日本ケミカル事件)。 そして、固定残業代…

固定残業代として許容されない想定残業時間のライン

1.固定残業代の有効性-想定労働時間数を問題にするもの 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」を固定残業代といいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版…

他の従業員からの苦情を、本人に伝える時に求められる配慮義務

1.従業員間の軋轢に対する上司の対応 労働事件に関する相談を受けていての実感ですが、労働者と使用者との紛争の発端には、労働者間の軋轢が背景にあることも珍しくありません。 例えば、単なる言い掛かりにすぎない同僚からの苦情を、碌に精査もせずに鵜…