弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

休職からの復職にあたり、配置転換を断ったら解雇/退職扱いされた方へ

1.病気や怪我をした従業員に冷たい会社は少なくない

 病気や怪我をした従業員に対して冷たい対応をとる会社は少なくありません。休職まではさせてくれても、いざ復職しようとすると、何だかんだと理由をつけて会社から去らせようとしてきます。

 会社が従業員を排除する前振りとして、配置転換を打診してくることがあります。この配置転換の打診を原職復帰を望む労働者が断ったところ、解雇や自然退職扱いにされたという相談が相当数あります。

 労働者としては配置転換を断ったら退職させられるとは思ってもみないわけですが、退職させるための措置をとった会社は、

「復職できるポストがないかを検討し、本人に打診したけれども拒否されたため、やむなく退職してもらうことを選択した。」

と説明してきます。

 この一種の様式美ともいえる手法は、枚挙に暇がありません。相談を受ける度に、

「せめて配置転換の打診の時に、断ったら退職扱い・解雇されることくらい告知されて然るべきではないか。」

という思いを持っていたところ、近時公刊された判例集に、上述のような手法に対抗する手掛かりとなる裁判例が掲載されていました。札幌高判令2.4.15労働判例1226-5 東京キタイチ事件です。

2.東京キタイチ事件

 本件は労働者が解雇無効を主張して勤務先会社に地位確認等を求めて出訴した事件です。

 本件で被告(被控訴人)になったのは、水産物卸売業等を目的とする株式会社です。

 原告(控訴人)になったのは、被告との間で期限野定めのない雇用契約を締結していた方です。製造部に所属する生産加工員としてタラコのパック詰め作業等に従事していたところ、業務中に右小指をザル(ザルとはいっても、タラコを並べた状態だと1枚5~10kgにもなります)にぶつけ、手術を何回もするような怪我を負いました。

 その後、職場復帰を申し出ましたが、被告からは掃除部の補助として復職してはどうかとの提案を受けました。これを断ったところ、解雇されてしまったという経緯です。

 被告の言い分は、要約すると、

① 原職復帰すると、タラコの原料やタラコのパックの載った思いザルを毎日運ぶ必要があるし、手洗い消毒も1日に何回も行われるため、手の皮を痛め続けることになる、

② 受傷後3年が経過しても、なお後遺障害の残る状態であり、製造部での作業には再発の危険がある、

③ 就労可能な軽易な業務であり、かつ、経済的な不利益もない清掃業務への異動を拒否したのは原告であり、被告は客観的に可能な範囲で解雇を回避する努力を尽くしている、

といったものでした。

 こうした被告の主張を受け、地裁原審は地位確認を認めませんでしたが、高裁は、次のとおり述べて、被告が解雇回避努力を尽くしたことを否定し、原告の地位確認請求を認容しました。

(裁判所の判断)

「被控訴人は、控訴人に、製造部での業務が困難であることから、就労可能な軽易な業務で、かつ、経済的な不利益もない掃除業務への異動を提案したが、控訴人は自らこれを拒否したものであり、被控訴人としては客観的に可能な範囲で解雇を回避する努力を尽くしているので、本件解雇が相当性を欠くものとはいえないなどと主張する。」

「しかし、復職に向けた協議の中で、勤務時間や賃金等の具体的な条件の提示や控訴人との調整はなされていない。」

加えて、被控訴人は、控訴人に対し、清掃係への配置転換を拒否すれば解雇もあり得る旨を一切伝えておらず、製造部での業務に従事させることができない理由や、配置転換を受け入れなければならない理由等について十分な説明をしたこともうかがわれない。そうすると、上記被控訴人による提案は、被控訴人の担当者等がどのように認識していたかはともかく、客観的には、その時点での控訴人の漠然とした意向が確認されたに過ぎないものとみるべきであり、控訴人としても、自分が、配置転換を受け入れるか、解雇を受け入れるかを選択しなければならない状況におかれているとは認識していなかったものと認められる。したがって、このような提案によって被控訴人が解雇回避努力を尽くしたものとみることはできない。

「また、控訴人の右小指の後遺障害は、本件事故に起因して生じたものであるとして労災給付も支給されているところ、控訴人と被控訴人との間の協議は、被控訴人の担当者であるCが、平成29年11月7日の協議の終わりに『考えておきましょう。』と述べたところで終了しており、被控訴人としては、控訴人を解雇する可能性も視野に入れていながら、控訴人に対し、退職勧奨を行うこともなく症状固定のわずか約1か月後に本件解雇の意思表示がされたものである。そうすると、控訴人からすれば、一度も解雇を回避する選択の機会を与えられないまま、解雇されるに至ったというほかないものである。

「このように、被控訴人は、控訴人に対する十分な説明を行うことなく、解雇を回避する選択の機会を与えないまま、本件解雇に至ったといわざるを得ない。

「以上のとおり、控訴人が、本件解雇時点において、製造部における作業に耐えられなかったと認めることはできないし、被控訴人による解雇回避努力が尽くされたとも認められない。加えて、本件事故が被控訴人の業務に起因して発生し、控訴人が労災給付を受けていたものである上、症状固定の約1か月後には本件解雇の意思表示がされたことからすれば、本件解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であったとは認められず、解雇権を濫用したものとして無効というべきである。

3.受け入れなければ解雇であることが説明されない配置転換の打診は、解雇の相当性を基礎付ける事情にはならない

 本件の裁判所は、受け入れなければクビになることが説明されていないとして、配置転換の打診を、解雇回避の努力として評価しませんでした。

 説明の欠如に、ここまで強い効力を認めたことは、かなり画期的な判断ではないかと思います。この判決は、原職復帰を望んで配置転換を断ったところ、不意打ち的に解雇/退職扱いされてしまった方に対し、救済の途を開くものです。

 本件と似たようなプロセスで解雇/退職扱いされてしまった方は少なくないと思います。こうした手法に納得行かないとお考えの方は、本件のような裁判例があることを踏まえたうえ、弁護士に相談してみても良いのではないかと思います。