弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧

故意による賃金不払を理由とする慰謝料請求の可否・金額(給与1か月分が基準とされた例)

1.賃金支払義務 労働基準法24条1項本文は、 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」 と規定しています。 賃金を支払うことは労働契約上当たり前のことではありますが、労働基準法はこれを契約上の義務から法的義務へと…

警備員の待機時間の労働時間性-待機中のトラブル事案への対応について「少なくなかった」レベルの認定で突破できた例

1.不活動時間、待機時間の労働時間性 不活動仮眠時間の労働時間性について、最一小判平14.2.28労働判例822-5大星ビル管理事件は、 「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべき…

部下が嫌がって拒絶しているにもかかわらずゲイバーに行こうと執拗に誘った行為が違法とされた例

1.飲み会にまつわるセクハラ 来週から12月に入ります。 この季節になると、忘年会などの飲み会が増えてきます。飲み会の増加に比例して増えるのが、ハラスメントに関する相談です。酒食の場での緊張が緩んだり、酒が入ることで判断能力が低下したりする…

何が求められているのかを教えないPIP、実施中のフィードバックが不明なPIPが否定された例

1.解雇の予兆、PIPとは・・・ 使用者が成績不良と判断した労働者に対し、課題を与えて能力を向上させる機会を与える制度を、一般にPIP(Performance Improvement Plan)といいます(第二東京弁護士会 労働問題検討委員会…

僧侶の労働者性(肯定例)

1.労働者性の判断基準 労働基準法を始めとする労働関係法令の適用の可否は、ある働き方をしている人が「労働者」に該当するのか否かによって判断されます。そのため、ある人が「労働者」か否かという問題は、実務上、極めて重要なテーマとなています。 「…

疑惑は配転の必要性を基礎付けても、配転に伴う賃金減は正当化しない-3万5000円強の賃金減でも「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とされた例

1.配転命令権の濫用 使用者による配転命令権の行使が権利濫用となる要件について、最高裁判例(最二小判昭61.7.14労働判例477-6 東亜ペイント事件)は、 「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができる…

行政措置要求に伴う「勧告」の義務付け訴訟の可否(消極)

1.行政措置要求と「勧告」 公務員特有の制度として「行政措置要求」という仕組みがあります。 これは、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措…

管理運営事項と行政措置要求の対象としての適格性Ⅳ

1.行政措置要求 公務員特有の制度として「行政措置要求」という仕組みがあります。 これは、 「職員は、俸給、給料その他あらゆる勤務条件に関し、人事院に対して、人事院若しくは内閣総理大臣又はその職員の所轄庁の長により、適当な行政上の措置が行われ…

任期付き公務員の募集情報-「課長補佐・係長クラス」が誤記として片付けられた例

1.任期付き公務員(国家公務員の場合) 人事院規則8-12(職員の任免)42条1項は、 「任命権者は、臨時的任用及び併任の場合を除き、恒常的に置く必要がある官職に充てるべき常勤の職員を任期を定めて任命してはならない。」 と規定しています。 要…

国家公務員の残業代請求事件-超勤命令簿による上司の命令・押印がないとの主張が排斥された例

1.国家公務員の残業代 国家公務員であっても、正規の勤務時間を超えて勤務した場合、残業代(超過勤務手当)が発生します。 条文の建付けとして読みにくくはあるのですが、例えば、一般職の職員の給与に関する法律16条1項は、 「正規の勤務時間を超えて…

黙示の労働契約の成立が認められた例

1.労働者派遣等と黙示の労働契約 最二小判平21.12.18労働判例997-5 パナソニックプラズマディスプレイ(パスコ)事件は、黙示の労働契約の成否について、次のとおり判示しています。 「上告人はパスコによる被上告人の採用に関与していたとは…

労働者性を判断するための考慮要素「時間的拘束性」-報酬計算目的/代金計算目的は業務時間管理目的と併存し得るとされた例

1.労働者性の判断基準 労働基準法を始めとする労働関係法令の適用の可否は、ある働き方をしている人が「労働者」に該当するのか否かによって判断されます。そのため、ある人が「労働者」か否かという問題は、実務上、極めて重要なテーマとなています。 あ…

診断名が違っていたことから適切な治療を受けていなかったとして、症状固定には至っていないとされた例

1.症状固定 治療をしても医療効果がそれ以上期待しえない状態を「症状固定」といいます。 例えば、腕を切断した場合に、幾ら治療を継続したところで、腕が生えてくるわけではないことを想像していただくとイメージしやすいのではないかと思います。 この「…

医療職(看護師)の仮眠時間の労働時間性-私法上の労働時間であった可能性高いが、労災法上の労働時間には含めないとされた例

1.労災と労働時間 労働時間の数は、労災認定が認められるのか否かと密接に関係しています。 例えば、 令和5年9月1日 基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」は、 「極度の長時間労働、例えば数週間にわたる生理的に必要な最…

心停止だけれども労災の対象疾病に該当しないとされた例

1.脳・心臓疾患の労災補償 令和3年9月14日 基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(令和5年10月18日改正)は、脳・心臓疾患の労災補償について、次のとおり規定していま…

夜間時間帯は全体として労働時間に該当するわけではないという争い方が裏目に出た例

1.夜勤時間帯における賃金単価が最低賃金以下とされた例-その後 以前、 夜間時間帯における割増賃金算定のための賃金単価を最低賃金以下にすることを認めた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ という記事を書きました。 この記事の中で紹介した、千葉地判令…

廃棄食材の持ち帰りを理由とする懲戒免職処分の可否-標準例の枠内でなされた懲戒免職処分が取り消された例

1.公務員の懲戒処分の取消訴訟 公務員に対する懲戒処分が違法となる場合について、最三小判昭52.12.20労働判例288-22 神戸税関事件は、 「公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うと…

時間外職能給の固定残業代としての効力が否定された例

1.固定残業代の有効要件 最二小判令5.3.10労働判例1284-5 熊本総合運輸事件は、固定残業代の有効要件について、 「労働基準法37条は、労働基準法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務付け…

固定残業代の整理-個別同意の効力と就業規則変更の効力との関係性

1.固定残業代 固定残業代とは、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 をいいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残…

無効な固定残業代を合意に基づいて整理するためには、労働者に対してどのような説明が必要になるのか?

1.固定残業代 固定残業代とは、 「時間外労働、休日および深夜労働に対する各割増賃金(残業代)として支払われる、あらかじめ定められた一定の金額」 をいいます(白石哲編著『労働関係訴訟の実務』〔商事法務、第2版、平30〕115頁参照)。 固定残…

様々な業務を行わせていたにもかかわらず、賃金の支払を請求されるや連絡を絶った行為が不法行為に該当するとされた例

1.賃金の支払義務 労働基準法24条1項は、 「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」 と規定しています。 単純な債務不履行が犯罪とならないのに対し、賃金の不払いは労働基準法120条1号により、30万円以下の罰金に…

労働者性の考慮要素の優劣関係:時間的場所的拘束性<指揮命令関係

1.労働者性の判断基準 労働基準法を始めとする労働関係法令の適用の可否は、ある働き方をしている人が「労働者」に該当するのか否かによって判断されます。そのため、ある人が「労働者」か否かという問題は、実務上、極めて重要なテーマとなています。 あ…

雇用の提案を受けたにもかかわらず、フリーランスの形にこだわり、これを断るとは考え難いとされた例

1.当初からフリーランスの形であったと主張するパターン 令和6年11月1日、特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス・事業者間取引適正化法)が施行されました。この法律は、フリーランスの就業環境の整備等を目的とする…

同僚からの暴力の業務起因性-「けんか」か否かの判断例

1.同僚からの暴力と労災 労働者災害補償保険法7条1号は、 「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」 に関し、保険給付を行うことを定めています。 同僚から暴力を振るわれたことが「業務上の」災害といえるのか否かに関し、 平成21年7月23日 …

同僚からの暴力の業務起因性-被害者の不適切な発言が先行している場合

1.同僚からの暴力と労災 労働者災害補償保険法7条1号は、 「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」 に関し、保険給付を行うことを定めています。 同僚から暴力を振るわれたことが「業務上の」災害といえるのか否かに関し、 平成21年7月23日 …

同僚からの暴力の業務起因性-加害者が「個人的に恨んでいた」と述べていることは、どう評価されるのか?

1.同僚からの暴力と労災 労働者災害補償保険法7条1号は、 「労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡」 に関し、保険給付を行うことを定めています。 同僚から暴力を振るわれたことが「業務上の」災害といえるのか否かに関し、 平成21年7月23日 …

新人の営業用日報に誤字脱字の指摘や否定的コメントばかりすること等が、自死につながりかねない不相当かつ適切性を欠くものとされた例

1.些細な揚げ足とりばかりの指導 令和2年厚生労働省告示第5号「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」は、パワーハラスメントの一類型である「精神的な攻撃」について、次の…

法定休憩時間を超える休憩時間の設定に潜む問題点-昼休憩とは別に設けられていた1日1時間の裁量休憩の休憩時間性が否定された例

1.サービス残業(無賃労働)の隠れ蓑としての「休憩時間」 労働基準法34条1項は、 「労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。」 と規…

精神障害発病後の期間も心理的負荷の評価期間に組み入れられた例

1.精神障害の労災認定 精神障害の労災認定について、厚生労働省は、 令和5年9月1日 基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」 という基準を設けています。 精神障害の労災補償について|厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/co…

第二東京弁護士会労働問題検討委員会「ケーススタディでわかる フリーランス・事業者間取引適正化等法の実務対応」(第一法規)が発刊されました

第一法規から、 第二東京弁護士会労働問題検討員会「ケーススタディでわかる フリーランス・事業者間取引適正化等法の実務対応」 という書籍が発刊されました。 ケーススタディでわかる フリーランス・事業者間取引適正化等法の実務対応 / 第一法規ストア 以…