弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

脱サラしてフランチャイズ契約を結ぶ方への情報提供義務

1.ビジネスセミナーでの起業の勧め

 サラリーマンを対象に起業を勧めるセミナーが行われることがあります。

 セミナーでは、フランチャイズ契約を結べば、簡単に高収入が得られるなどとして、独立・起業が勧められます。

 これを真に受けて会社を辞め、高額の加盟金等を払ってフランチャイズ契約を締結したものの、全然儲からないで後悔している、そのような相談が寄せられることがあります。

 こうした場合に、正確な情報を提供しなかったことを理由に、高額の加盟金の返還や、会社勤めを続けていれば得られたであろう収入の賠償を求めることはできないのでしょうか。

2.情報提供義務違反に基づく損害賠償等の請求事件

(1)事案の概要

 この問題を考えて行くにあたっては、東京地判平31.3.14LLI/DB判例秘書登載が参考になります。

 この事件で問題となったのは、放置自転車回収業でのフランチャイズ契約です。

 被告会社Y1の代表取締役Y3は、セミナーで、

「放置自転車を10億にした男 Y3のプロフィール(スライド番号2)」

「有料による自転車撤去は、ライバルが見当たらないオンリー1を確立大学の放置自転車撤去においても業界NO.1の地位を確立」

「誰もが稼ぐことが出来る仕組みを考え出した 撤去ノウハウと仕組みを使えば誰でも稼げる 仕入れ、在庫、売る苦労もない方法!」

「年収500万円→年収700万円→さらなる展開可能 毎月48万円手元に残る 年間576万円手元に残る その他年間で見込まれる年収169万円 576万円+169万円=745万円」

などと書かれた資料(本件資料)を示しました。

 原告になったのは、このセミナーに参加していた方です。原告は加盟金313万950円を支払って会社とパートナー契約を結びました。

 しかし、その後、本件事業のパートナーの大半が赤字であるとの情報に接するなどしたことから、加盟金の返金を求めました。

 また、勤務先を退職してしまったため、得られたはずの収入を喪失したとして損害賠償を請求しました。

(2)判決要旨

 裁判所は、次のように述べて、加盟金の返金と損害賠償請求(給料の10か月分)を認めました。

「本件パートナー契約は、本件事業への参加を希望する者が被告会社から本件事業のノウハウの提供を受けること等を内容とするものであるところ(前記前提事実(3))、このような契約ないし事業においては、被告会社は、本件事業に関し十分な知識と経験を有し、本件事業の現状や今後の見通しについて豊富な情報を有している一方で、本件事業に関する知識も経験もない参加希望者が被告会社と契約することで、知識や経験を補完することが想定されているのであって、そのような参加希望者が本件パートナー契約を締結するか否かを判断するに当たっては、被告会社から提供される情報に頼らざるを得ない。そして、本件事業の売上、収益に関する事項は、参加希望者が本件パートナー契約を締結して被告会社の事業に参加するか否かの意思決定をするに当たって極めて重要な意味を有するのであるから、被告会社が提供する上記事項に関する情報は、参加希望者が的確な判断ができるよう客観的かつ正確な情報でなければならない。したがって、本件において、被告会社及びその代表取締役である被告Y3は、原告に対し、本件事業の売上、収益に関する客観的かつ正確な情報を提供すべき信義則上の義務を負っていたというべきである。

被告Y3及び被告Y2は本件セミナーにおいて本件資料を用いて専業の場合に年収700万円は実現可能である旨説明しているところ(前記認定事実(2)ア)、加盟者はこのような数値に依拠してパートナー契約を締結するか否かを判断するのであるから、このような数値が裏付けを欠く不合理なものであってはならないのであって、本件資料のシミュレーションが抽象論、一般論であるとの被告らの上記②の主張によっても、被告Y3及び被告Y2の上記情報提供義務違反を免れることはできない
「原告は・・・被告Y3及び被告Y2の前記2の情報提供義務違反がなければ本件パートナー契約を締結して被告会社に加盟金を支払うことはなく、B社を退職せずに同社から給与を受領することができたと認められる。」
「そうすると、加盟金313万9500円については被告Y3及び被告Y2の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認められる。
「他方、B社からの給与については、退職後である平成26年6月から原告が英会話の教授により生計を立てるようになる前の平成27年3月まで(前記認定事実(5))の10か月分が被告Y3及び被告Y2の情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当であり、原告がB社から受領していた給与は、概ね月65万円であるから(前記前提事実(4))、これの10か月分である合計650万円が情報提供義務違反と相当因果関係のある損害であると認められる。」

3.仕事を辞めることには慎重になった方がいい

 常識的に考えれば分かることだと思いますが、誰でもできる仕事は新規参入が簡単なので、すぐに市場が飽和状態になります。

 そのような仕事で高収入を得ることは極めて困難です。

 セミナー等に参加して、耳障りの良い言葉で独立・企業を勧められたとしても、勤務先を退職することには、慎重になった方が良いと思います。

4.仕事を辞め、多額の加盟金を払ってしまった場合でも、救済の可能性はある

 ただ、仕事を辞め、多額の加盟金を支払ってしまったとしても、被害の回復を図れることがあります。

 本件のように、きちんとした裏付けもなく、楽観的な収益の見込みが伝えられていた場合、情報提供義務違反を根拠に、加盟金や得られたはずの一定期間分の給料の損害賠償を請求できる可能性があります。

 不正確な情報を鵜呑みにしてフランチャイズ契約を結んでしまい、後悔している方は、損害賠償請求が可能かどうか、一度、弁護士に相談してみても良いかも知れません。

 

 

飲み会の帰りの事故と会社の損害賠償責任

1.内定飲みの帰りの事故

 ネット上に、

「『内定飲み』の帰りに事故で大けが 会社の責任や労災は認められる?」

との記事が掲載されていました。

https://www.bengo4.com/c_5/n_9888/

 記事は、

「『内定飲み』のあとで大ケガをしたら、会社に責任はあるのかーー。FNNが報じたところによると、女子大生(21)が、就職が内定した会社の会合でお酒を飲み、帰宅途中だった6月15日午後6時半ごろ、列車と接触して両足を折る全治3カ月の重傷を負ったという。」

「場所は、名古屋市内の地下鉄鶴舞線「いりなか駅」。女子大生はホームでふらつき、一番後ろの車両と接触したのちに、右足がホームと列車の間に入りこんで転んだという。」

という設例のもと、

「内定先であった酒席のあとに大ケガを負うと、会社に何らか責任は生じるのだろうか。また入社後だったら考え方は変わるのだろうか。」

という問題を設定しています。

 これに対し、回答をしている弁護士の方は、

「今回のケースで、会社に賠償責任は発生しないと考えます。」

との結論を導いています。

 しかし、もう少し事情を聴かなければ、会社に損害賠償責任が発生するのかを判断するのは難しいのではないかと思います。

2.飲み会の責任者に安全配慮義務が認められることはある

 飲み会の責任者に安全配慮義務が認められることはないわけではありません。

 大学生が漕艇部の新入生歓迎コンパで飲酒し、急性アルコール中毒で死亡した事件があります(福岡高判平18.11.14判例タイムズ1254-203)。

 この事件で、裁判所は、

被控訴人一色は、漕艇部の部長として、本件歓迎会についても最高かつ最終の責任を負うべき立場にあるものであり、被控訴人四谷は、同部のキャプテンとして、学生側の最高責任者としての責任を負うものである。
「そして、同被控訴人らにおいて、早飲み競争をさせるなどして新入生を酩酊させるというような意図があったとは認められないことは、既に見たとおりであるが、二次会において現に早飲み競争が行われるなど、いささか羽目を外した飲酒の仕方がまかり通っていたことも事実である。それ故に、被控訴人四谷及び同三井らのように、そのような二次会における飲酒の在り方に危惧を抱いていた上級生もいたし、被控訴人一色においても同様の危惧を抱いていたものである。そこで、被控訴人四谷は、本件歓迎会当日に行われた練習後ミーティングの際に、新入生に対して注意を喚起し、同様に、被控訴人一色は一次会の終了時にわざわざ二次会における飲酒の在り方について注意を与えたのである(上記(1)ウ)。しかしながら、被控訴人四谷の注意は専ら新入生に向けられたものであるし、被控訴人一色のそれも主としては新入生に対するものであって、その意味において、これらの注意は不徹底なものであったといわなければならない。真に上記のような危惧を払拭したいということであれば、むしろ新入生に酒を勧める側の上級生らにこそ注意を促すべきであるし、より根本的には早飲み競争とそれに伴う一気飲みそのものを禁止すべきだったのである。然るに、被控訴人四谷及び同一色の折角の注意も上記のような不徹底なものにとどまったため、二次会においては、従前どおり、早飲み競争が当然の如くに行われ、それについて制止や格別の注意が与えられることもなかったのである。もちろん、新入生らは、このような場を通じて、自己の酒量の限界を身をもって知り、節度ある飲酒の仕方などを身に付けて行くという側面もあることが考えられるから、羽目を外した飲み方をすべからく否定したり、禁止すべきであるとも言い難いのであるが、そのような乱暴な態様の飲酒を伴う場を提供した者としては、それによってもたらされる新入生らに生じることのあるべき危険性に十二分に思いを巡らせ、およそ飲酒による事件事故が発生することのないよう万全の注意をもって臨まなければならないものというべきである。上記のとおり、本件歓迎会に最終的かつ最高の責任を負うべき被控訴人一色及び同四谷には上記のような意味における注意義務があるものといわなければならない。」

被控訴人一色、同四谷、同二宮、同三井、同五木、同七瀬、同八代、同六田については、一郎の死という結果に対し安全配慮義務違反があったものとして、責任を負うべきこととなる。

と判示しました。

3.ポイントになるのは、「内定飲み」の実体、事業関連性、女子大生の酩酊度、酩酊の経緯、酩酊と事故の因果関係

 従来の裁判例との関係で、飲み会の主宰者に安全配慮義務違反が認められることは、有り得ないと即断して良いことではありません。

 敢えて飲ませて酔わせようという意図を持っていなかったとしても、羽目を外しすぎた飲み会が行われていたような事案では、飲酒による事件事故が発生しないように注意すべき義務があったと認定される可能性があります。

 本件で的確な判断をするためには、飲み会の実体や、女子大生の事故当時の酩酊度、酩酊に至るまでの経緯、酩酊とふらつきとの関連性などを丹念に聴き取り、調査して行く必要があるのではないかと思います。

 例えば、真昼間から午後6時ころまで一気飲みが横行しているような飲み会に参加させられ、先輩社員から勧められて足元が覚束なくなるまで酩酊し、ふらふらになったところ、付き添いも付けられずに一人帰宅させられ、その途中で事故に遭ったといったようなケースでは、飲み会の主宰者に安全配慮義務違反が認定されても、それほどの違和感はありません。

 また、飲み会だからといって、直ちに会社とは無関係だということにはなりません。

 例えば、業務途中の歓送迎会参加・帰社時の交通事故死の業務起因性が問題になった事案において、最二小判平28.7.8労働判例1145-6国・行橋労基署長(テイクロ九州)は、

「本件歓送迎会は、従業員7名の本件会社において、本件親会社の中国における子会社から本件会社の事業との関連で中国人研修生を定期的に受け入れるに当たり、本件会社の社長業務を代行していたE部長の発案により、中国人研修生と従業員との親睦を図る目的で開催されてきたものであり、E部長の意向により当時の従業員7名及び本件研修生らの全員が参加し、その費用が本件会社の経費から支払われ、特に本件研修生らについては、本件アパート及び本件飲食店間の送迎が本件会社の所有に係る自動車によって行われていたというのである。そうすると、本件歓送迎会は、研修の目的を達成するために本件会社において企画された行事の一環であると評価することができ、中国人研修生と従業員との親睦を図ることにより、本件会社及び本件親会社と上記子会社との関係の強化等に寄与するものであり、本件会社の事業活動に密接に関連して行われたものというべきである。

と判示しています。

 飲み会の性質・内容によっては、会社の事業活動に密接に関連するものと評価されることも有り得ます。

 そして、飲み会が事業活動に密接に関連している場合、会社に対して飲み会の主宰者としての安全配慮義務違反や、飲み会に参加していた社員の使用者としての責任(民法715条)を追及する余地は、それなりにあるのではないかと思います。

4.同じ事案でも法律家によって異なる見方がされることはある

 私自身の経験上、セカンド・オピニオンを求められて事案を検討していると、相談者が最初に相談・依頼した弁護士と異なる見解を持つことは、珍しくありません。

 同じ事案でも法律家によって異なる見方がされることはあります。一度消極的な回答を受けたとしても、別の専門家のもとに相談に行くと、また違った答えが返ってくるかも知れません。

 納得いかない、諦められないという場合には、セカンドオピニオン、サードオピニオンくらいまでは求めてみても良いだろうと思います(流石に3人の実務家が検討してダメだという結論になる事案は、本当にダメである可能性が高く、それ以上弁護士を渡り歩いても費用が無駄になることが懸念されます)。

細切れでの短期雇用契約と年次有給休暇

1.年次有給休暇の継続勤務要件

 年次有給休暇について、法律は、

「使用者は、その雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した十労働日の有給休暇を与えなければならない。」

と規定しています(労働基準法39条1項)

 法文の規定から分かるとおり、年次有給休暇を取得するためには、6か月間継続して勤務していることが必要になります(継続勤務要件)。

 それでは、5か月雇われた後、1か月ほど空白期間を置かれ、また4か月雇われ、2か月ほど空白期間を置かれる、このような形で、細切れでの短期雇用契約を繰り返してきた方には、年次有給休暇は取得できないのでしょうか?

 この点が問題になった事案が、公刊物に掲載されていました。

 東京地判平30.11.2労働判例1201-55 学校法人文際学園(外国人非常勤講師ら)事件です。

2.学校法人文際学園事件(外国人非常勤講師ら)事件

 この事件で原告になったのは、外国語専門学校の複数の講師の方です。

 いずれの講師も、4月中旬から9月中旬までの前期学期、10月初旬から翌年2月中旬までの後期学期ごとに、有期雇用契約を締結してきた方です。

 何年にも渡って勤務を継続した後、年次有給休暇の取得を申請したところ、年次有給休暇の取得要件(継続雇用要件)が満たされていないとして、学校側から有給休暇の取得を拒否されてしまいました。

 有給を取得したかった日に欠勤したところ、その日の分の給与が支払われませんでした。講師の方は、払われなかった分の給与の支払いを求め、訴えを提起しました。

 裁判所は、

「被告は、講師契約存続中に、次学期の講師契約を締結するか否かを判断した上、被告として次学期の講師契約を締結すると判断した者に対してアベイラビリティ・シートを交付しており、アベイラビリティ・シートの交付を受けた者のうち被告の都合で次年度の講師契約が締結されなかった者がいないことを考慮すれば、講師契約存続中に、事実上、次学期の講師契約の締結に向けた素地が整備されているものと評価でき、現に原告X1及び原告X2は、最初の講師契約以降、途切れることなく毎学期講師契約を締結してきている。また、原告X1及び原告X2は、講師契約締結以降、主としてECSという英語の講義を担当しており、同種の業務を継続的に担当しているものと評価できる。」
被告が指摘するとおり、前期と後期との間には約半月、後期と次年度の前期との間には約2か月の期間があるものの、これは日本外国語専門学校が専門学校であることから、各学期間に講義が行われない期間が存在し、講師契約の性質上、この間も契約関係を存続させておく実益が極めて乏しいことによるものであり、上記のアベイラビリティ・シートの運用を併せ考慮すると、少なくとも本件においてこれらの期間が存在することを重視することは相当でない。

と判示し、講師が年次有給休暇を取得していたことを認め、学校側に欠勤として控除した分の給与を支払うよう命じました。

 なお、判決文に出てくる、アベイラビリティ・シートとは、

「非常勤講師が次学期に授業可能な時間を記入する表が印字されており、注意事項として、要望に沿えない場合があること、記入内容を担当授業として保証するものではないこと等が記載されている」

シートのことを言います。

3.細切れでの短期雇用契約が重ねられていて有給がとれない方へ

 年次有給休暇が認められていれば控除されなかった賃金は、一般論として、それほど多額になるわけではありません。

 しかし、労働契約関係は長期間に渡って存続することが珍しくありませんし、一人が取得した判決でも職場全体に影響力を持つことがあります。

 そう考えると、請求額が少ないからといって、声を挙げることが直ちに割に合わないという評価に繋がるわけではありません。

 自分自身のこれからのことや、従業員全体のことを考え、不合理な労働条件を是正しておきたい、そうした考えのもと、年次有給休暇の取得について、声を挙げて行きたいとお考えの方がおられましたら、ご相談をお寄せ頂ければと思います。

解雇されたと思ったのに、「解雇してない」と言われたら

1.「解雇してない」の反論

 勤務先から「もう来なくていい。」などと言われたことを受け、労働者側から解雇が違法無効であることを通知すると、「あの言葉は解雇ではない。」といった反論が返ってくることがあります。

 労働者が勤務先の真意を図りかねて出勤を控えていると、「労務提供がないのだから賃金は払わない。」と言われます。

 このような争い方の可否が問題になった事件が、公刊物に掲載されていました。横浜地判平30.8.23労働判例1201-68横浜A皮膚科経営者事件です。

2.横浜A皮膚科経営者事件

(1)「解雇してない」の反論までの流れ

 本件で原告になったのは、皮膚科を個人経営する医師に雇われていた有期雇用社員の方です。被告になったのは、この皮膚科を個人経営する医師です。

 平成28年3月22日 

「被告は、原告に対し、飲み物が入ったタンブラーを原告の肩付近に押し当て、『お茶を入れて』と告げたところ、原告は、タンブラーを振り払ったため、タンブラーの中身がこぼれ、被告の衣服にかかった。」

という事件がありました。

 この時、

「被告は、原告に対し、解雇する旨を告げ、原告は帰宅」

しました。

 そして、

「被告は、・・・原告の帰宅後、原告に対し、『本日の件により、本日付で解雇(懲戒解雇)にならざるを得なくなりました。長い間お疲れさまでした。』『勝手口玄関の鍵等クリニック関係物品のご返却も宜しくお願い致します。』との電子メールを送信」

しました。

 原告が懲戒解雇の効力を争って提訴したところ、被告は

「そもそも原告を懲戒解雇していない。」

「原告は就労意思を喪失していた。」

などの主張を展開しました。

(2)裁判所の判断

 裁判所は次のとおり述べて、懲戒解雇の意思表示はある、労務提供の意思は喪失されていない、と判断しました。

「被告が、同日、原告に対し、本件病院内で、口頭で解雇する旨を告げ、原告の帰宅後にも、電子メールで、同日付けで懲戒解雇になった旨と玄関の鍵等の本件病院に係る物品の返却を要請していること・・・、原告は、同月29日、上記要請に基づき、被告に対し、裏口の鍵、制服、エステの台帳等の物品を返却し、被告がこれを受領したこと・・・からすれば、被告は、同年3月22日付けで原告に対して懲戒解雇の意思表示をしたものと認めるのが相当である。」

「同日以降、原告が被告に対して労務を提供しなかったのは、被告から即時解雇である本件懲戒解雇の意思表示、すなわち労務の受領拒絶を受けたからであると認められるところ、本件懲戒解雇の有効性について、被告は何ら主張立証しない以上、本件懲戒解雇が有効であるとは認められないから、上記原告の労務不提供は、被告の帰責事由に基づくものというべきである。」

「本件懲戒解雇後にあっては、むしろ被告から原告に対し、本件懲戒解雇を撤回し、・・・労務提供を受領する旨積極的かつ明確に表示しなければ、前記認定の帰責事由は解消されないものというべきである」

「原告は、平成28年3月22日に本件懲戒解雇がされるまで、本件病院に出勤し、勤務していたのであるから・・・本件懲戒解雇後に原告が出勤しなかったとしても、それは被告が本件懲戒解雇を明示的に撤回しなかったためであり、原告が労務提供意思を喪失したとまでは認めることができない。」

3.「解雇していない」との肩透かしを避けるためには

 「解雇していない。労働者側で勝手に来なくなっただけだ。」といった主張は、解雇が無理そうな事案で使用者側から寄せられる反論パターンの一つです。

 解雇の効力で議論すると負けるから、争いの土俵をずらそうと、このような反論をしてくるのだと思います。

 しかし、懲戒解雇という文言が使われているメールが残っており、物品の返却依頼と依頼に応えての物品の返却まで行われいる事案で解雇をしていないと主張するのは、流石に無理があったのだと思います。

 いざ解雇無効を争おうと思って手続をとった時に「解雇していない」という肩透かしのような反論パターンが寄せられないようにするためには、「もう来なくていい。」などと曖昧なことを言われたら、メール等で「それは解雇という意味でしょうか。」と確認しておくと良いと思います。

 これに対し、「そうだ。」という言質がとれれば、法的措置に移行した時に使用者側から「解雇していない」との主張が出てきたとしても、これを排斥しやすくなるのではないかと思います。

 また、しばらく間を置いて、使用者側からの備品の返却要請を待ったり、相当期間に渡り労務提供を受領するとの連絡が寄せられないことを確認したりすることも、有効な対処法になり得るのではないかと思います。

 紛争は訴訟に入る前から発生しています。

 法的手続をとった時に有利な地歩を占めるためには、訴訟提起以前の段階から、どのような順序でどのような内容の交渉をするのか、交渉開始の時期を何時にするのか、代理人弁護士として交渉に介入する時期をどのように選択するのか、といったことを考えながら行動する必要があります。

 法専門職ではない方が裁判を見据えた交渉をするのは難しいため、訴えてやると心が決まっている場合には、出来る限り早い段階で弁護士に相談してみると良いと思います。、

交代バス運転手の車内仮眠時間の労働時間性

1.交代バス運転手の車内仮眠時間の労働時間性

 交代バス運転手の車内仮眠時間の労働時間性が争われた判例が公刊物に掲載されていました(東京高判平30.8.29労働経済判例速報2380-3 K社事件)。

 裁判所は次のとおり述べて、車内仮眠時間の労働時間性を否定しました。

「運転者が一人では運行距離等に上限があるため、被控訴人は交代運転手を同乗させているのであって、不活動仮眠時間において業務を行わせるために同乗させているものとは認められない。」

「厚生労働基準局の『バス運転者の労働時間等の改善基準のポイント』(書証略)には、『拘束時間は、・・・労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む)の合計時間をいいます」、「運転者が同時に1台の自動車に2人以上乗務する場合(ただし、車両内に身体を伸ばして休息することができる設備がある場合に限る)においては、1日の最大拘束時間を20時間まで延長でき、また、休息時間を4時間まで短縮できます。』と記載されている。これによれば、交代運転手の非運転時間は拘束時間には含まれるものの、休憩時間であって労働時間ではないことが前提とされていることが明らかである。」

「被控訴人において、交代運転手はリクライニングシートで仮眠できる状態であり、飲食することも可能であることは前記認定のとおりであって、不活動仮眠時間において労働から離れることが保障されている。被控訴人が休憩や仮眠を指示したことによって、労働契約上の役務の提供が義務付けられたとはいえないから、亡A及び控訴人Dが不活動時間において被控訴人の指揮命令かに置かれていたものと評価することはできない。」

 また、裁判所は、上記以外にも、労働者側の主張を排斥する判断の中で、

「被控訴人が・・・X(運行業務の依頼者 括弧内筆者)の評価を下げるような行動をしないよう指示命令したことを認めるに足りる証拠はない」

「制服の着用は義務付けられていたものの、被控訴人は制服の上着を脱ぐことを許容して、可能な限り控訴人らが被控訴人の指揮命令下から解放されるように配慮していた」

「交代運転手が不活動仮眠時間に乗客の苦情や要望に対する対応を余儀なくされることがあったとしても、それは例外的な事態である」

「交代運転手が不活動仮眠時間において道案内その他運転手の補助をする状況が生ずることを認めるに足りる的確な証拠はない」

「交代運転手は被控訴人から非常用に携帯電話を持たされていたものの、被控訴人からの着信がほとんどないことは前記認定のとおりである」

と車内仮眠時間が労働時間に該当しないとの結論を補強しています。

2.仮眠時間が労働時間に該当するかは微妙な判断になる

 仮眠時間の労働時間性に関しては、リーディングケースとなる最高裁判例が存在します。最一小判平14.2.28労働判例822-5 大星ビル管理事件です。

 この判決はビル管理会社の従業員の仮眠時間の労働時間性を判断するにあたり、

「不活動仮眠時間であっても労働からの解放が保障されていない場合には労基法上の労働時間に当たるというべきである。そして、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

との判断枠組みを示しました。

 以降、仮眠時間の労働時間性は、当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると「評価」されるか否かによって判断されています。

 ただ、判断基準が評価概念であることから、判例は必ずしも安定していません。微妙な事実関係の違いで、仮眠時間は、労働時間に該当したり、該当しなかったりします。

3.「交代バス運転手の車内仮眠時間 イコール 非労働時間」ではない

 本件のような判例が出されると、交代バスの運転手の車内仮眠時間は労働時間ではないという論理式のような形で情報が拡散されがちです。

 しかし、労働時間性の判断は、それほど単純ではありません。

 K社事件で車内仮眠時間の労働時間性が認定されなかったのは、使用者側が労働時間性を認定されないように相当気を遣っていたからです。

 車内にリクライニングシート(身体を伸ばして休息することができる設備)がなかったり、飲食が制限されていたり、制服の上衣を脱ぐことが許容されていなかったり、苦情対応に相当時間を割かれていたり、運転手の補助作業をしていたり、電話に会社からの着信が多数回確認されていたりしたら、形式上、仮眠時間と呼称されていたとしても、それが労働時間に該当すると判断される可能性は十分にあると思います。

 労働時間への該当性は、勤務実体に左右される微妙な判断です。交代バス運転手の車内仮眠時間には労働時間性は認められないといったように、演繹的に結論が導かれるものではありません。

 勤務実体によっては、交代バス運転手の車内仮眠時間に労働時間性が認められることは十分にあり得ると思います。

 したがって、本件のような裁判例が出たからといって、残業代の請求を諦める必要はありません。残業代の請求が可能かどうかを確認するにあたっては、「自分の勤務実体を踏まえるとどうか。」という個別事案に対する見解を弁護士に尋ねていく必要があります。気になるバス運転手の方は、ぜひ、一度ご相談ください。

 

若年性認知症に罹患している人の労働問題(懲戒処分)

1.若年性認知症に罹患していた公務員の窃盗行為と懲戒処分

 窃盗行為を理由とする懲戒免職処分の有効性が争われた事件が公刊物に掲載されていました(東京地判平30.10.25労働判例1201-85国・防衛大臣(海上自衛隊厚木航空基地隊自衛官)事件)。

 この事件の特徴は、懲戒免職処分を受けた自衛官の方が若年性認知症に罹患していたことです。

 懲戒免職処分の原因となった非違行為は、コンビニエンスストアでの飲料の万引きです。

 裁判では、懲戒処分をするにあたり、若年性認知症に罹患していたことを、どのように考慮するのかがテーマになりました。

2.裁判所の判断

 裁判所は、次のように述べて、窃盗行為が懲戒事由に該当することは認めましたが、懲戒免職処分は取り消されるべきであると判示しました。

〔懲戒事由への該当性〕

「原告は、本件の窃盗行為当時、若年性認知症又は軽度認知障害等によって認知機能が低下しており、このことが原告の事理弁識能力又は行動制御能力に影響を与えていたことを否定することはできないものの、少なくとも上記各能力の減退が著しい程度に至っていたと認めることはできない。
「したがって、原告が、当時、若年性認知症又は軽度認知障害等にり患していたとの事情は、他の争点との関係は別として、少なくとも同人の窃盗行為が自衛隊法46条1項2号の懲戒事由に該当するとの限りにおいては、その判断を左右するものではないから、原告の上記主張は採用することができない。」

〔懲戒処分の相当性〕

「原告は、本件の窃盗行為の懲戒事由該当性を左右するものではないものの、本件の窃盗行為当時、若年性認知症又は軽度認知障害等によって認知機能が低下しており、原告の事理弁識能力又は行動制御能力に影響を与えていた疑いがあることは前判示のとおりであり、このことも一事情として考慮すべきである。
「以上のとおり、懲戒処分の対象となる原告の窃盗行為は、本件処分が前提とした複数回にわたって合計7441円相当の栄養ドリンク等を窃取したものではなく、2回にわたって栄養ドリンク各1本を窃取したものであり、被害の程度は軽微であり、態様も特段悪質とはいえないことに加え、前判示に係る被害弁償、過去の処分歴、若年性認知症等の事情を総合すれば、隊員としての品位を著しく傷つけ、又は自衛隊の威信を著しく損なう違反とまではいえないから、違反態様が『重い場合』として懲戒免職処分を適用することは重きに失するものであり、重くとも『軽微な場合』として停職処分が相当であったというべきである。」

3.若年性認知症患者が働くこと

 近時、若年性認知症という疾患が注目されるようになっています。

 若年性認知症に関しては、厚生労働省が、ハンドブックや、支援ガイドブックを作成、公表しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000167853.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/handbook.pdf

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/guidebook_1.pdf

 ハンドブックによると、認知症が「65歳未満で発症した場合」、若年性認知症と言われます。

 全国に約3万8700人の患者がいて(平成21年3月発表)、発症年齢は平均で51.3歳、約3割が50歳未満で発症していると書かれています。

 疾患の影響で債務の本旨に従った労務の提供に困難が生じたとしても、配偶者や子どもを養うため、簡単には仕事を辞められない人が少なくありません。

 こうした方の就労をどのように支えるのか、非違行為を起こしてしまった場合に職場としてどのように対応するかは、今後、労働法上の重要なテーマになってくる可能性があるのではないかと思います。

 若年性認知症に罹患している事実が、懲戒事由への該当性や懲戒処分の量定に、どのように影響するのかを考えるにあたり、参考になる事例だと思います。

 

体罰(傷害罪)で有罪になった教員の定年後再任用

1.体罰で有罪になった教員の定年後再任用

 ネット上に、

「体罰で傷害罪→定年→再任用→また体罰 そんな先生を教壇に立たせる、県教委の言い分は?」

という記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190711-00000012-jct-soci

 記事には、

「大分県内の中学校で体罰事件を起こした60代の男性教師が、定年後に再任用されたのちにも体罰を繰り返して、県教委に疑問の声が相次いでいる。」

「教師は、傷害罪で大分簡裁から罰金20万円の略式命令を受けた。県教委も、1か月間、減給10分の1とする懲戒処分にしている。その後、19年3月に定年退職したが、希望して県教委に再任用されていた。」

「なぜ再任用したのか、今回の処分はどうなるのか、県教委に話を聞いた。」

「大分県教委の教育人事課は11日、この教師を再任用した理由について取材にこう説明した。」

「懲戒処分を受けたり、刑事事件を起こしたりしたら、再任用できないということにはなっていません。希望があれば、勤務実績や健康状態などを見て、再任用するかを決めています。ただ、今回のことがありましたので、今後どうするかは考えないといけないと思っています」

などと書かれています。

2.定年後再任用の場面で行政に認められている裁量は広い

 確かに、懲戒処分を受けたり、刑事事件を起こしたりしたからといって、自動的に再任用できないということはないと思います。

 しかし、懲戒処分を受けたり、刑事事件を起こしたりした教員であっても、自治体は再任用しなければならないというわけではありません。

 再任用の拒否の適法性を考えるにあたっては、最一小判平30.7.19労働判例1191-16が参考になります。

 これは、在職中に卒業式又は入学式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の職務命令に従わなかった教職員に対し、東京都教育委員会が定年後再任用を行わなかったことの適否が問題になった事件です。

 この事件の教職員らは、職務命令違反を理由として、戒告や減給の懲戒処分を受けていました。

 最高裁は、次のように述べて、東京都教育委員会による再任用拒否は適法だと判断しました。

「再任用制度等は、定年等により一旦退職した職員を任期を定めて新たに採用するものであって、いずれの制度についても、任命権者は採用を希望する者を原則として採用しなければならないとする法令等の定めはなく、また、任命権者は成績に応じた平等な取扱いをすることが求められると解されるものの(地方公務員法13条、15条参照)、採用候補者選考の合否を判断するに当たり、従前の勤務成績をどのように評価するかについて規定する法令等の定めもない。これらによれば、採用候補者選考の合否の判断に際しての従前の勤務成績の評価については、基本的に任命権者の裁量に委ねられているものということができる。
「そして、少なくとも本件不合格等の当時、再任用職員等として採用されることを希望する者が原則として全員採用されるという運用が確立していたということはできない。このことに加え、再任用制度等は、定年退職者等の雇用の確保や生活の安定をその目的として含むものではあるが、定年退職者等の知識、経験等を活用することにより教育行政等の効率的な運営を図る目的をも有するものと解されることにも照らせば、再任用制度等において任命権者が有する上記の裁量権の範囲が、再任用制度等の目的や当時の運用状況等のゆえに大きく制約されるものであったと解することはできない。

「任命権者である都教委が、再任用職員等の採用候補者選考に当たり、従前の勤務成績の内容として本件職務命令に違反したことを被上告人らに不利益に考慮し、これを他の個別事情のいかんにかかわらず特に重視すべき要素であると評価し、そのような評価に基づいて本件不合格等の判断をすることが、その当時の再任用制度等の下において、著しく合理性を欠くものであったということはできない。
「以上によれば、本件不合格等は、いずれも、都教委の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものとして違法であるとはいえない。」

3.再任用の拒否は可能であったのではないか

 最高裁は再任用の可否の判断について、行政にかなり広範な裁量を認めています。

 特定の職務命令違反を、他の個別事情のいかんにかかわらず、特に重視すべき事情として位置づけることを可能としているうえ、不合格等の判断は「著しく合理性を欠く」ような場合でなければ違法にならないかのような書きぶりをしています。

 東京都と大分県とでは定年後再雇用の制度設計自体が相違している可能性もありますが、大分県も体罰で刑事処分や懲戒処分を受けたことを特に重視すべき事情として位置づけたうえ、再任用拒否の判断をすることは、可能だったのではないかと推測されます。

 最高裁は職務命令違反による

「学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用」

を問題にしましたが、体罰による生徒への身体的・精神的な被害が、式典の秩序や雰囲気に劣後するということはなさそうに思います。

 不適切なことをした教職員を機械的に再任用の枠組みから排除することが適切と考えているわけではありませんが、生徒への体罰や暴力は軽視されて良い事情ではないはずです。勤務実績をどのように評価して再任用を可としたのかに関しては、大分県教育委員会から、もう少し詳しい説明があってもいいのではないかと思われます。