1.懲戒処分が違法となる場合
最三小判昭52,12.20労働判例288-22神戸税関事件は、公務員に対する懲戒処分が違法となる場合について、次のような判断を示しています。
「公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、都下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。」
この「裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法である」といった判決文から分かるとおり、懲戒処分が違法となることは滅多にありません。余程のことがない限り「社会観念上著しく妥当を欠(く)」処分など行われることはないからです。処分量定の適否を争っても、懲戒処分の取消請求の認容判決を得ることは容易ではありません。
しかし、懲戒処分の効力を争うにあたっては、処分量定の問題以外にも、懲戒事由の存在そのものを争うというルートがあります。懲戒処分の効力に広範な裁量が認められるのは「法に定められた懲戒事由がある場合」に限られます。事実認定には裁量がないため、このルートでは行政裁量を気にせずに争ってゆくことができます。また、この懲戒事由の存在そのものを争うというルートをとって、懲戒処分の違法無効が認められた場合、違法な懲戒処分を行ったことを理由とする国家賠償請求まで認められることがあります。近時公刊された判例集に、懲戒免職処分を違法であるとして取消すと共に、国家賠償請求まで認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、岡山地判令8.2.25労働判例ジャーナル171-26 懲戒免職処分等取消請求事件です。
2.懲戒免職処分等取消請求事件
本件で原告になったのは、消防署の消防副士長として勤務していた地方公務員の方です。
酒気帯び運転を行ったこと等を理由に懲戒免職処分とされたことを受け、
懲戒免職処分の取消を求めると共に、
違法な懲戒免職処分を受けたことを理由とする慰謝料を請求した
事件です。
裁判所は、
「原告に酒気帯び運転の故意があったとは認められず、原告が交通法規違反(酒気帯び運転)を犯したものではないから、本件規程上の『酒気帯び』運転をしたものとも認められない。したがって、原告は、本件規程が定める非違行為(酒気帯び)を行ったものではなく、本件処分は、懲戒事由がないにもかかわらず、原告を免職に処したものとして、・・・違法であって取消しを免れない」
と懲戒事由の存在を否定したうえ、次のとおり述べて、慰謝料請求も認めました。
(裁判所の判断)
「本件処分は、懲戒事由がないにもかかわらず、原告を免職したものとして違法であり、処分行政庁においては、原告が令和4年8月26日時点で嫌疑不十分のため不起訴処分とされたこと・・・に加え、原告提出の各顛末書・・・等により本件運転行為の経過等を把握していたと認められるから、本件規程上の『酒気帯び』につき故意が認められる必要があることを踏まえ、本件運転行為が非違行為に当たらないこと、少なくともその可能性があることを容易に認識できたといえる。したがって、本件処分を違法に行った処分行政庁に過失があることは明らかであり、処分行政庁の行為は、国賠法上の違法行為にも該当する。」
「原告は、本件処分により消防職員としての地位を失い、少なくとも現在までの約3年3か月の間、消防士として勤務できず、給与等を受け取ることもできなかったのであり、公務員が懲戒免職されるという事態は、社会的に極めて不名誉であるところ、本件処分が記者会見で公表されたこと・・・も含め、原告の名誉が損なわれた程度も相当に大きいといえる。それらの点については、本件処分が取り消されることにより、一定程度は回復されるものであるが、本件は、懲戒事由に該当する非違行為自体が認められないにもかかわらず、懲戒免職という極めて重い処分がされたもので、非違行為自体は存在するものの、処分内容が重きに失するとして懲戒処分が取り消されるべき事案とは異なり、原告の精神的苦痛は、相当に大きいと評価し得るというべきである。」
「以上の諸事情を考慮すれば、原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料額として、150万円を認めるのが相当である。したがって、原告は、被告に対し、国賠法1条1項の損害賠償請求権に基づき、150万円及びこれに対する令和4年11月30日(違法行為の日)から支払済みまで、民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めることができる。」
3.国家賠償請求まで認められた稀有な例
通常懲戒事由の認定は慎重に行われること、処分量定は行政裁量が広範に認められていることから、懲戒処分の取消請求が認められることはあまりありません。まして、国家賠償請求まで認められる例はかなり珍しいのが実情です。
本裁判例は懲戒処分の取消だけではなく、国家賠償請求まで認められた事例として、実務上参考になります。