弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

公務員の懲戒処分-懲戒免職処分が違法であるとして、慰謝料150万円の国家賠償請求が認められた例

1.懲戒処分が違法となる場合

 最三小判昭52,12.20労働判例288-22神戸税関事件は、公務員に対する懲戒処分が違法となる場合について、次のような判断を示しています。

「公務員に対する懲戒処分は、当該公務員に職務上の義務違反、その他、単なる労使関係の見地においてではなく、国民全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することをその本質的な内容とする勤務関係の見地において、公務員としてふさわしくない非行がある場合に、その責任を確認し、公務員関係の秩序を維持するため、科される制裁である。ところで、国公法は、同法所定の懲戒事由がある場合に、懲戒権者が、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をするときにいかなる処分を選択すべきかを決するについては、公正であるべきこと(七四条一項)を定め、平等取扱いの原則(二七条)及び不利益取扱いの禁止(九八条三項)に違反してはならないことを定めている以外に、具体的な基準を設けていない。したがつて、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきか、を決定することができるものと考えられるのであるが、その判断は、右のような広範な事情を総合的に考慮してされるものである以上、平素から庁内の事情に通暁し、都下職員の指揮監督の衝にあたる者の裁量に任せるのでなければ、とうてい適切な結果を期待することができないものといわなければならない。それ故、公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。もとより、右の裁量は、恣意にわたることを得ないものであることは当然であるが、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである。したがつて、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたつては、懲戒権者と同一の立場に立つて懲戒処分をすべきであつたかどうか又はいかなる処分を選択すべきであつたかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。

 この「裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法である」といった判決文から分かるとおり、懲戒処分が違法となることは滅多にありません。余程のことがない限り「社会観念上著しく妥当を欠(く)」処分など行われることはないからです。処分量定の適否を争っても、懲戒処分の取消請求の認容判決を得ることは容易ではありません。

 しかし、懲戒処分の効力を争うにあたっては、処分量定の問題以外にも、懲戒事由の存在そのものを争うというルートがあります。懲戒処分の効力に広範な裁量が認められるのは「法に定められた懲戒事由がある場合」に限られます。事実認定には裁量がないため、このルートでは行政裁量を気にせずに争ってゆくことができます。また、この懲戒事由の存在そのものを争うというルートをとって、懲戒処分の違法無効が認められた場合、違法な懲戒処分を行ったことを理由とする国家賠償請求まで認められることがあります。近時公刊された判例集に、懲戒免職処分を違法であるとして取消すと共に、国家賠償請求まで認められた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、岡山地判令8.2.25労働判例ジャーナル171-26 懲戒免職処分等取消請求事件です。

2.懲戒免職処分等取消請求事件

 本件で原告になったのは、消防署の消防副士長として勤務していた地方公務員の方です。

 酒気帯び運転を行ったこと等を理由に懲戒免職処分とされたことを受け、

懲戒免職処分の取消を求めると共に、

違法な懲戒免職処分を受けたことを理由とする慰謝料を請求した

事件です。

 裁判所は、

「原告に酒気帯び運転の故意があったとは認められず、原告が交通法規違反(酒気帯び運転)を犯したものではないから、本件規程上の『酒気帯び』運転をしたものとも認められない。したがって、原告は、本件規程が定める非違行為(酒気帯び)を行ったものではなく、本件処分は、懲戒事由がないにもかかわらず、原告を免職に処したものとして、・・・違法であって取消しを免れない」

と懲戒事由の存在を否定したうえ、次のとおり述べて、慰謝料請求も認めました。

(裁判所の判断)

本件処分は、懲戒事由がないにもかかわらず、原告を免職したものとして違法であり、処分行政庁においては、原告が令和4年8月26日時点で嫌疑不十分のため不起訴処分とされたこと・・・に加え、原告提出の各顛末書・・・等により本件運転行為の経過等を把握していたと認められるから、本件規程上の『酒気帯び』につき故意が認められる必要があることを踏まえ、本件運転行為が非違行為に当たらないこと、少なくともその可能性があることを容易に認識できたといえる。したがって、本件処分を違法に行った処分行政庁に過失があることは明らかであり、処分行政庁の行為は、国賠法上の違法行為にも該当する。

「原告は、本件処分により消防職員としての地位を失い、少なくとも現在までの約3年3か月の間、消防士として勤務できず、給与等を受け取ることもできなかったのであり、公務員が懲戒免職されるという事態は、社会的に極めて不名誉であるところ、本件処分が記者会見で公表されたこと・・・も含め、原告の名誉が損なわれた程度も相当に大きいといえる。それらの点については、本件処分が取り消されることにより、一定程度は回復されるものであるが、本件は、懲戒事由に該当する非違行為自体が認められないにもかかわらず、懲戒免職という極めて重い処分がされたもので、非違行為自体は存在するものの、処分内容が重きに失するとして懲戒処分が取り消されるべき事案とは異なり、原告の精神的苦痛は、相当に大きいと評価し得るというべきである。」

「以上の諸事情を考慮すれば、原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料額として、150万円を認めるのが相当である。したがって、原告は、被告に対し、国賠法1条1項の損害賠償請求権に基づき、150万円及びこれに対する令和4年11月30日(違法行為の日)から支払済みまで、民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めることができる。」

3.国家賠償請求まで認められた稀有な例

 通常懲戒事由の認定は慎重に行われること、処分量定は行政裁量が広範に認められていることから、懲戒処分の取消請求が認められることはあまりありません。まして、国家賠償請求まで認められる例はかなり珍しいのが実情です。

 本裁判例は懲戒処分の取消だけではなく、国家賠償請求まで認められた事例として、実務上参考になります。

 

公務員の懲戒処分-懲戒事由としての「酒気帯び」に該当するためには故意があったと認められることが必要と判示された例

1.主観的要件(故意)は必要なのか?

 公務員との関係で定められている懲戒処分の指針では、犯罪とされている行為と似たような文言を見ることがあります。

 例えば、国家公務員の懲戒処分の標準例を定める、人事院事務総長発 平成12年3月31日職職-68『懲戒処分の指針について』(最終改正:令和2年4月1日職審―131)は、

「酒気帯び運転をした職員は、免職、停職又は減給とする」

と規定しています。

 酒気帯び運転は、道路交通法上、

「何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。」(道路交通法65条1項)、

「次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

(略)

三 第六十五条(酒気帯び運転等の禁止)第一項の規定に違反して車両等(自転車以外の軽車両を除く。次号において同じ。)を運転した者で、その運転をした場合において身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態にあつたもの」(道路交通法117条の2の2第1項)、

犯罪とされています。

 刑法上、

「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。」

とされています(刑法38条1項)。つまり、犯罪が成立するといえるためには故意(罪を犯す意思)が必要となるのが原則で、過失で処罰されるのは例外として過失犯処罰規定が定められている場合(法律に特別の規定がある場合)に限られます。

 過失犯処罰規定がないことから、酒気帯び運転の罪が成立するためには「故意」が認められる必要があります。

 それでは、この犯罪としての「酒気帯び運転」と懲戒事由としての「酒気帯び運転」とは同様の意味に理解されるのでしょうか? それとも、犯罪は犯罪、懲戒事由は懲戒事由といったように、それぞれ独自の意義で理解されるのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。岡山地判令8.2.25労働判例ジャーナル171-26 懲戒免職処分等取消請求事件です。

2.懲戒免職処分等取消請求事件

 本件で原告になったのは、消防署の消防副士長として勤務していた地方公務員の方です。

 酒気帯び運転を行ったこと等を理由に懲戒免職処分とされたことを受け、その取消等を求めて出訴した事件です。

 本件の原告は、

「酒気帯び運転罪は故意犯であり、運転者が酒気を帯びていることを認識・認容していなければ罪に問うことはできない」

として、故意がないことを理由に、問題とされた運転行為は「酒気帯び運転」には該当しないと主張しました。

 このような主張を踏まえ、裁判所は、次のとおり述べて、故意の欠如を理由に、問題とされた行為が「高梁市職員の懲戒処分の基準に関する規程」(本件規程)上の「酒気帯び運転」に該当することを否定し、懲戒処分の取消請求を認めました。

(裁判所の判断)

「本件規程は、交通事故・交通法規違反を懲戒処分の対象となる非違行為として定め、その処分は、交通法規違反処分基準によるものとし(別表(第2条関係)・別紙)、同基準上、飲酒運転・酒気帯びが非違行為として定められ、本件運用規程により酒気帯びとは、道路交通法令と同様に、アルコール濃度呼気1リットル中0.15ミリグラム以上の場合をいうものとされている・・・。」

「本件規程の上記定めによれば、本件規程は、交通法規に違反する行為をもって懲戒処分の対象としたものと解されるが、ここで、酒気帯び運転について規定する交通法規である道路交通法65条1項及びこれに違反したときの罰則を定める同法117条の2の2第3号は、酒気を帯びて車両等を運転し,その運転者が身体に政令で定める程度(血液1ミリリットルにつき0.3ミリグラム又は呼気1リットルにつき0.15ミリグラム)以上にアルコールを保有する状態にあったという客観的構成要件のほか、主観的構成要件として、運転時に酒気を帯び、かつ、身体に政令で定める程度以上にアルコールを保有する状態であることについての認識・認容(故意)があることを必要とするものである。そして、地方公務員法の解釈上、一般に、懲戒処分については、職員を道義的に非難する性質のものであるために、職員の主観的要件が充たされることを要すると解されることに加え、本件規程は、飲酒運転につき、極めて重い種類の懲戒処分を定めており、酒気帯び運転については、無損害(無事故)であっても停職又は減給、物損であれば免職又は停職としていることとの均衡上も、交通法規違反の類型に応じた主観的要件を充足する場合に、懲戒処分の対象となる非違行為に該当することを定めたものと解するべきである。したがって、本件運転行為が本件規程上の『酒気帯び』に該当するためには、原告に酒気帯び運転の故意があったと認められることが必要であると解される。

(中略)

「以上によれば、本件運転行為につき、原告に酒気帯び運転の故意があったとは認められず、原告が交通法規違反(酒気帯び運転)を犯したものではないから、本件規程上の『酒気帯び』運転をしたものとも認められない。したがって、原告は、本件規程が定める非違行為(酒気帯び)を行ったものではなく、本件処分は、懲戒事由がないにもかかわらず、原告を免職に処したものとして、争点・・・について検討するまでもなく、違法であって取消しを免れない。

3.同じ意味で理解された

 公務員の懲戒事由には、

「国民全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」(国家公務員法82条1項3号)、

「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあつた場合」(地方公務員法29条1項3号)

という包括規定が設けられています。

 このような規定があるため、公務員は、公務の内外や犯罪の成否を問わず、ありとあらゆる問題行動が懲戒対象行為として捕捉されるようになっています。

 故意だろうが過失だろうが、酒気帯び運転が社会的にネガティブに捉えられる行為であることに変わりはなく、懲戒事由としての「酒気帯び運転」には故意がある場合に限られないという解釈は採りえないわけではありません。

 しかし、本件の裁判所は、そうした考え方は採用しませんでした。

 裁判所の判断は、「本件規程」という自治体の懲戒処分の指針の構造を前提とした判断であり、必ずしも一般化できるわけではありません。それでも、際限なく広くなりがちな懲戒事由に制限を加えた解釈をしたことは注目に値します。裁判所の判断は、類似事件に取り組むにあたり、実務上参考になります。

 

ハラスメントと厳しい指導とを判断するにあたっての着眼点-具体的な改善方法等の指摘があるか

1.ハラスメントと厳しい指導との違い

 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、職場におけるパワーハラスメントを、

職場において行われる、

① 優越的な関係を背景とした言動であって、

② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、

③ 労働者の就業環境が害されるものであり、

①から③までの要素を全て満たすもの

と定義しています。

 指針にはハラスメントの具体例も記載されており、

「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」

はその一つとして掲げられています。

 しかし、叱責行為であれば全てハラスメントに該当するかというと、そのようなことはありません。指針は、

「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」

と規定しています。

 それではハラスメントに該当する叱責行為と、ハラスメントにならない適正な指導とは、どのような点に注目して区別して行けば良いのでしょうか?

 ここ数日ご紹介している山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件は、この問題を考えるうえでも参考になる判断を示しています。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、

■を設置、運営する法人(被告法人)、

被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、

の二名です。

 本件講座は、

被告■、講師2名、助教1名、技術補佐員1名、事務補佐員1名、

他の講座から派遣された准教授1名、講師1名、助教1名、

学生、

によって構成されていました。

 原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 原告の方はハラスメントを構成する事実として多岐に渡る行為を主張しましたが、その中の一つに、ミーティングの場での叱責がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告■は、令和3年4月30日に実施されたプログレスミーティングにおいて、

〔1〕原告が発表内容を難しく感じた旨を発言したところ、原告に対し、『これさ、じゃあ難しいと思う人この中でいる。先生、講師レベルでこれが難しいと思わないでしょう。』と発言した事実、

〔2〕被告■が、原告に対し、『先生は職務をちゃんと全うしていない。他の先生はみんなちゃんとやっている。■(注:本件講座の講師)、講師レベルで先生、■と先生の仕事を比べると先生は■の半分から3分の1ですよ。』『これが分からないというのは、ちょっと恥ずかしいと思うよ、先生。ちゃんと先生やってください。本当に。ちゃんと講師としてのちゃんと役目を果たしてください。いいですか。以上。他の先生を見習って、ちゃんと仕事してください。ちゃんとしてください。もう本当に困るんですよ。』などと発言した事実

が認められる。

被告■の当該発言は、被告■が想定する講師に求められる能力や仕事量と比較して、原告の能力や状況が不十分であると考え、その改善を強く求めたものと認められる。もっとも、当該発言の内容は、具体的な改善方法等を指摘するなどの指導的な文言を含むものではなく、第三者の面前において、被告■が原告に対して抱く不満を矢継ぎ早に吐露し、原告が講師として求められる能力に全く達していないことを断定的に摘示することに終始しており、もはや社会通念上許容される指導としての範囲を逸脱するものといえる。

「そうすると、当該発言がされた当時において、被告■が原告に対して指導をする意図があったとしても、被告■の当該発言は、職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える言動であり、原告の人格的利益を違法に侵害するものというべきである。」

「よって、本件行為・・・に係る上記・・・の事実は、不法行為を構成する。」

3.具体的な改善方法等の指摘が含まれているか

 適正な指導とハラスメントとの判断基準として、最近「具体的な改善方法等の指摘が伴っているのか」という指標を用いる例が散見されるようになっています。

 確かに、叱責に際して改善方法の指摘があれば業務改善に資する可能性があるのに対し、改善方法の指摘がなければ受け手は単に嫌な思いをするだけであるため、この指標はある程度有効に機能するように思われます。

 裁判所の判断は、不適切な言動をハラスメントとして構成して行くにあたり、実務上参考になります。

 

大学教授が講師の発表を第三者の面前で酷評したことがハラスメントにあたるとされた例

1.第三者の面前での叱責

 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、

「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」

をパワーハラスメントの一例(精神的な攻撃)として掲げています。

 それでは、大学教授が講師の研究を第三者の面前で酷評することは、法的にどのように扱われるのでしょうか?

 学校教育法上、教授、准教授、講師は、

「教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。」

「准教授は、専攻分野について、教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者であつて、学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。」

「講師は、教授又は准教授に準ずる職務に従事する。」

と位置付けられています(学校教育法92条参照)。

 教授、准教授、講師が「指導」するのは飽くまでも「学生」です。教授だからといって当然に准教授を指導する立場にあるわけではありませんし、准教授だからといって当然に講師を指導する立場にあるわけでもありません。基本的に研究者は対等で、准教授であるからといって教授の研究を批判してはいけないわけではありませんし、講師だからといって准教授の研究を批判してはいけないわけでもありません(少なくとも法学分野は比較的自由で、学者が自分の指導教官の学説を批判的に考察するということも珍しくないように思います)。

 それならば、教授の側にも、准教授や講師の発表を自由に論評、評価することができるという考え方も成り立ちそうにも思われます。

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。ここ数日紹介している、山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件です。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、

■を設置、運営する法人(被告法人)、

被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、

の二名です。

 本件講座は、

被告■、講師2名、助教1名、技術補佐員1名、事務補佐員1名、

他の講座から派遣された准教授1名、講師1名、助教1名、

学生、

によって構成されていました。

 原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 原告の方はハラスメントを構成する事実として多岐に渡る行為を主張しましたが、その中の一つに、発表の内容を第三者の面前で酷評されたことがありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、被告■は、令和2年8月21日に実施されたプログレスミーティングにおいて、発表を終えた原告に対し、

〔1〕この実験は他の細胞で既に報告されているので無駄だ、

〔2〕レベルが講師のレベルに達していない、

〔3〕大学院生レベルの研究だ、

〔4〕15年間、論文がないのはどうしてか、

〔5〕今年中にプロモーションして出て行くように

などと発言した事実が認められる。」

被告■の当該各発言は、いずれも、原告の発表内容が講師として要求される水準にないと考えた被告■が、その改善を求めたものとみることができる。もっとも、その発言内容は、頭ごなしに■たる原告の立場を全面的に否定する表現を含むものであるうえ、上記・・・〔5〕の発言は、改善を求めるものにとどまらず、原告が本件講座にとって不要な存在であり、本件講座との関係を切り離すことまでを意図した発言とみられるのであって、当該発言が第三者の面前で行われていることからすれば、たとえそれが指導の意味を持つものであったとしても、これは職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える言動であるといえ、原告の人格的利益を違法に侵害するものというべきである。

「被告■は、原告の発表内容からして、厳しく指導せざるを得ないものと考え、当該発言をしたとみる余地もあるが,仮にそうであったとしても、本件講座員がいる面前で発言すべき必要はないのであるから、いずれにしても、適正な業務の範囲を超えた言動であるとの判断を左右しない。」

「よって、・・・上記・・・の事実は、不法行為を構成する。 」

3.頭ごなしに否定、関係性の切断

 以上のとおり、裁判所は、大学教授の発言に違法性を認めました。

 このような判断がされたのは、

講座制という組織構造、

具体的な指摘や理由を伴う批判ではなく、頭ごなしの否定であったこと、

関係性を切り離すような発言がされていること(指導の放棄)、

がポイントになっているのではないかと思います。

 学問的批判は自由ではありますが、礼節を弁えないで良わけではありませんし、第三者の前で侮辱することまで許されるわけではありません。

 裁判所の判断は、アカデミックハラスメントに関する一例として実務上参考になります。

 

英語力の揶揄とハラスメント-大学講師に対し英語力をpoorと評したことや「あなたは研究者ではありません」と述べたことが違法とされた例

1.英語の揶揄

 外国語の習得は容易ではありません。英語にしても同様です。言語構造や発音が日本語とは大きく異なっているため、日本人が英語に習熟しようと思った場合、かなりの努力が必要になります。筆者の周りでも、英語の習得が簡単だったと言っている弁護士は見たことがありません。

 ネイティブのように自然に英語を使うことができないことは、非ネイティブにとっては当たり前のことで、それは知的専門職に従事している人でも変わりません。

 それでは、英語を揶揄することが、ハラスメントを構成することはないのでしょうか? 

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるうえで参考になる裁判例が掲載されていました。一昨日、昨日とご紹介している、山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件です。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、

■を設置、運営する法人(被告法人)、

被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、

の二名です。

 本件講座は、

被告■、講師2名、助教1名、技術補佐員1名、事務補佐員1名、

他の講座から派遣された准教授1名、講師1名、助教1名、

学生、

によって構成されていました。

 原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 原告の方はハラスメントを構成する事実として多岐に渡る行為を主張しましたが、その中の一つに、ミーティングでの英語力を揶揄する言動がありました。

 これについて、裁判所は、次のとおり述べて、不法行為の成立を認めました。

(裁判所の判断)

「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、令和2年4月9日、本件ミーティングにおいて、原告が担当する実験の内容について議論がされた際、被告■が、原告に対し、poorという表現を用いて原告の英語力を非難し、あなたは研究者ではありませんなどと発言したことが認められる。

上記被告■の発言は、原告の語学能力が不十分であることを指摘するものであるが、その表現方法には問題があるといわざるを得ないし、それに続けてあなたは研究者ではありませんと述べたことは、原告の研究者としての人格を、直接的な表現を用いて根本から否定するものである。そして、当該発言が第三者の面前で行われていることからすれば、たとえそれが指導というつもりであったとしても、これは職場内の優位性を背景として、業務の適正な範囲を超えて、精神的、身体的苦痛を与える言動であるといえ、原告の人格的利益を違法に侵害するものというべきである。

3.英語力の程度に踏み込まれることなく違法性が認められている

 本件で特徴的だと思ったのは、英語力の程度が問題とされていないことです。

 判決文のうち公表されている部分からは明確には分からないのですが、おそらく被告■は英語力が不十分なことに対する指導のつもりであったという主張を展開したのではないかと思われます。

 しかし、裁判所は、指導のつもりであったとしても、英語力をpoorと評したことは、表現方法に問題があると判示しました。

 外国人が話す日本語を揶揄する日本人はあまり見たことがありません。しかし、同胞であるがゆえの気軽さからなのか、英語を話す日本人の語学力を揶揄する日本人は(数は多くはないにしても)時々目にします。

 裁判所の判断は、非ネイティブ者に対する語学力の揶揄が人格を毀損する行為であることを明らかにした点で、実務上参考になります。

 

使用者には、ハラスメント被害者と行為者とを職場環境の点において分離する措置を講じるべく検討し、それを実現する義務があるとされた例

1.ハラスメント事案で配置転換(配転・配置換え)を行うべき注意義務

 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、

パワーハラスメント(パワハラ)が認められた場合に事業主がとるべき事後措置について、次のような例を掲げています。

・被害者に対する配慮のための措置の例

「事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者の労働条件上の不利益の回復、管理監督者又は事業場内産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス不調への相談対応等の措置を講ずること。」

・行為者(加害者)に対する措置の例

「就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書における職場におけるパワーハラスメントに関する規定等に基づき、行為者に対して必要な懲戒その他の措置を講ずること。あわせて、事案の内容や状況に応じ、被害者と行為者の間の関係改善に向けての援助、被害者と行為者を引き離すための配置転換、行為者の謝罪等の措置を講ずること。」

 似たような定めはセクシュアルハラスメント(セクハラ)との関係でも存在し(平成18年厚生労働省告示第615号『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』【令和2年6月1日適用】参照)、配置転換はハラスメントが生じた場合の事後措置の典型例として位置付けられています。

 それでは、ハラスメントの被害者に、分離を求めることの権利性を認めることはできないのでしょうか?

 以前、セクハラとの関係で、

「管理職に対する一般的な注意喚起では原告の被害を防ぐことができないことが判明した平成30年7月4日の段階において、被害者に対する再度の被害を防ぎ、被害者である原告の支障、不利益を避けるため、被告Fに対する直接注意をできる限り速やかに行い、かつ、直接注意を行った後は、被告Fか原告のいずれかを元の職場から離す必要があったと考えられる。」

と分離措置義務を認めた裁判例を紹介しました(東京地判令5.12.25労働判例ジャーナル148-32 三菱UFJ信託銀行ほか1社事件)

職場にはセクハラ加害者に対して直接注意を行った後、被害者か加害者かを元の職場から離す必要があったとされた例 - 弁護士 師子角允彬のブログ

 近時公刊された判例集に、パワハラとの関係でも分離措置義務の存在を認めた裁判例が掲載されていました。昨日もご紹介した、山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件です。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、

■を設置、運営する法人(被告法人)、

被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、

の二名です。

 原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告法人に対する慰謝料等の請求の根拠として、原告は安全配慮義務違反を指摘しました。具体的には、

「本件調査委員会は、本件各行為に係る事実関係の調査に際し、加害者とされる被告■から事実関係の聴取を行っていない一方で、その他関係者から事実関係を聴取し、不必要に原告の名誉やプライバシーを侵害した。また、本件委員会が作成した本件勧告には、原告が主張する行為がハラスメントに該当しないと判断された理由が記載されていない。これらによれば、本件調査委員会による調査、本件委員会による判断は適切に行われていない。さらに、被告法人は、原告が本件勧告に従い、原告の配置換えを希望していたのに、異動の手続に際し、法律上不要である被告■の同意に固執するなどして、上記措置を講じるなどの原告の就労環境の整備を何ら行っていない。

「よって、被告法人が、原告が被告■からハラスメントを継続して受けない環境を整えるという安全配慮義務に違反したことは明らかであ(る)」

と主張しました。

 本日、注目したいのは、傍線部の主張に対する判断です。

 裁判所は、次のとおり述べて、被告法人の分離措置義務違反を認めました。

(裁判所の判断)

「原告は、被告法人に対し、極めて限定された空間である本件講座の内部において、複数年にわたり、職位として上位に位置し、本件講座を主宰する被告■による本件各不法行為や、不法行為とまではいえない不適切な行為を受け、これに起因してうつ病を発症した旨の診断を受けた・・・と訴えているところ、このような状況に鑑みれば、被告法人において、原告が、被告■と接触し得る環境において職務をすることにより、精神的、肉体的に苦痛を感じる状況にあったと認識し得たといえる。そして、少なくとも本件勧告においても、人材の有効活用及びトラブルの再発防止の観点から、原告の配置換え(原告が本件講座の構成から外れて他の講座に移るという意味)、もしくはそれに類する対応が望ましい旨が指摘されており、被告法人は、原告の配置換えをはじめとする、原告と被告■とを職場環境の点において分離する措置(以下『分離措置』という。)を講じるべく検討し、それを実現する義務を負っていたものと解するのが相当である。

「この点、原告の配置換えを実現するためには、人員配置や教授会との関係等における種々の調整を要し、その性質からして被告法人が主体となって差配し得る部分には一定の限界があることが窺われ、こうした実現の上での障害は現在においても除去されていないと認められる・・・。」

「しかし、被告法人は、原告が、被告■との関係性において、その職場環境を害され、精神的、肉体的苦痛を被っていることを認識し、また、本件勧告を受けたにもかかわらず、何ら主体的に対策を講じた形跡はなく、あまつさえ、P1は、原告が、被告■と接触しないことを目的として研究室とは隔離された別室での職務を開始した後には、原告に対して原告の当該行為は普通ではない旨伝え、それに否定的な態度をとっている・・・。その後に、被告法人は、原告が別室で勤務することを容認している・・・ものの、これは原告が当該勤務を開始してから約一年を経過した後であり、遅きに失した措置であったことは明白である。

「以上によれば、被告法人が、配置換え義務に含まれると解される上記の分離措置を検討し、それを講じる義務を怠り、これによって、原告が適切な職場環境で職務を行う利益が侵害されたものと認められる。

3.調査委員会はハラスメント認定をしていない/タイミングの問題の指摘

 本件で興味深く思ったことの一つに、調査委員会がハラスメントの認定をしていないことがあります。裁判所は、被告■の行為の幾つかに違法性を認めています。しかし、提訴前の被告法人での調査段階において、被告法人の調査委員会は、次のような判断をしていました。

(裁判所で認定された事実)

「本件委員会は、本件調査委員会が、原告が提出した資料の精査や関係者からの事実関係の聴取等を実施した(ただし、被告■に対する事実関係の聴取は実施されていない。)結果を踏まえ,令和4年9月22日、概要以下の内容を含む勧告(以下『本件勧告』という。)をした・・・。

a 原告が申し立てた行為についてはアカデミックハラスメントに該当しないと判断したため、被告■に対し、事実関係の聴取を実施していない。 

b 原告から提出された資料の精査に加え、原告及び参考人から事実関係の聴取等の調査をしたが、原告が主張する行為は、研究指導の範囲内であると考えられること等から、いずれもハラスメントに該当しないが、一部の被告■の発言(原告は他の者に比べて3分の1の仕事量、講師レベルではない、研究者ではない)は、それが事実かどうかにかかわらず適切なものではない。

c 人材の有効活用及びトラブルの再発防止の観点から、原告の配置換え、もしくはそれに類する対応をするのが望ましい。

 このような法人の判断を前提としたうえ、適時のタイミングで措置をとるべきことを指摘していることを考えると、裁判所は、法人内部でハラスメントが認定されることを分離措置義務を認定する要件とは理解していないように見えます。

 裁判所の判断は、ハラスメントの被害者が、行為者との迅速な分離を求めて行くにあたり、実務上参考になります。

 

ハラスメントの相談を受けた使用者が、行為者に対する事実関係の聴取をしないことが違法とされた例

1.ハラスメントの相談受けた使用者の対応

 令和2年厚生労働省告示第5号『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』は、労働者からパワハラ(パワーハラスメント)の相談を受けた使用者に対し、

「事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認すること」

を求めています。

 事案に係る事実関係を迅速かつ正確に確認している例として、

「相談窓口の担当者、人事部門又は専門の委員会等が、相談者及び行為者の双方から事実関係を確認すること。その際、相談者の心身の状況や当該言動が行われた際の受け止めなどその認識にも適切に配慮すること。」

「また、相談者と行為者との間で事実関係に関する主張に不一致があり、事実の確認が十分にできないと認められる場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講ずること。」

を規定しています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000584512.pdf

 また、これと類似した仕組みは、セクハラ(セクシュアルハラスメント)との関係でも設けられています。

https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605548.pdf

 このように、法の建前上、事実の調査は相談者及び行為者の双方から行うことが要請されています。

 しかし、行為者が組織内で有力な地位を持っているなど使用者側に強く出られない理由がある場合、相談者がハラスメントを受けたと申告しても、行為者に対する調査が行われないことがあります。ハラスメントは申告さえすれば無条件に成立するというものではありませんが、このような片面的な扱いが相談者の心理的安全性を毀損することは指摘するまでもありません。

 それでは、行為者に対する事情聴取が行われないなどの片面的な調査が行われた場合に、相談者が使用者に対して安全配慮義務違反を理由として慰謝料を請求することはできないのでしょうか?

 近時公刊された判例集に、この問題を考えるにあたり参考になる裁判例が掲載されていました。山口地判令8.1.28労働判例ジャーナル171-38 損害賠償等請求事件です。

2.損害賠償等請求事件

 本件で被告になったのは、

■を設置、運営する法人(被告法人)、

被告法人の■講座(本件講座)に所属する教授(被告■)、

の二名です。

 原告になったのは、本件講座に所属する講師の方です。被告■から違法なハラスメントを受けたほか、被告法人がハラスメントに対して必要な調査を怠り適切な措置を講じなかったとして、慰謝料等の支払を求める訴えを提起したのが本件です。

 被告法人に対する慰謝料等の請求の根拠として、原告は安全配慮義務違反を指摘しました。具体的には、

「本件調査委員会は、本件各行為に係る事実関係の調査に際し、加害者とされる被告■から事実関係の聴取を行っていない一方で、その他関係者から事実関係を聴取し、不必要に原告の名誉やプライバシーを侵害した。また、本件委員会が作成した本件勧告には、原告が主張する行為がハラスメントに該当しないと判断された理由が記載されていない。これらによれば、本件調査委員会による調査、本件委員会による判断は適切に行われていない。さらに、被告法人は、原告が本件勧告に従い、原告の配置換えを希望していたのに、異動の手続に際し、法律上不要である被告■の同意に固執するなどして、上記措置を講じるなどの原告の就労環境の整備を何ら行っていない。」

「よって、被告法人が、原告が被告■からハラスメントを継続して受けない環境を整えるという安全配慮義務に違反したことは明らかであ(る)」

と主張しました。

 これに対し、裁判所は、次のとおり述べて、被告法人の安全配慮義務違反を認めました。

(裁判所の判断)

使用者が、被用者からハラスメントについて相談を受けた場合には、当該相談に係る事実関係を迅速かつ正確に把握するための調査等の措置を講じる必要があることは明らかである。そして、当該事実関係を調査するに際しては、相談者及びハラスメント行為をしたとされる者(以下、単に『行為者』という。)のプライバシーに配慮しつつ、第一に、相談者及び行為者を対象として事実関係の聴取を実施し、両者の事実関係に関する主張に不一致がある場合や当該聴取のみでは事実の確認が不十分であると判断される場合には、第三者からも事実関係を聴取する等の措置を講じることを原則とすべきであり、本件規則にも概ねこれと同様の内容を意図したものと窺われる記載がある・・・。この点、原告が申し立てた各行為がハラスメントに該当するか否かの判断に当たっては、単に当該言動の内容のみならず、当該言動の目的やその経緯、原告と被告■との関係性等の諸般の事情を総合考慮する必要があるのが通常であるところ、本件調査委員会が、正確な事実関係を把握するためには原告から提出された資料等のみで十分であると思料し、あるいはどのような事実関係であっても原告の申立てはハラスメントに該当しないと判断したのならともかく、正確な事実関係を把握する必要があると判断したうえで、行為者である被告■に対する事実関係の聴取をしないまま関係者に対する事実関係の調査のみを実施するというのは、その調査方法において理解に苦しむというべきであり、そのような調査方法をとったことについて合理的な理由は見いだせない。そうすると、本件調査委員会は、行為者である被告■に対する事実関係の聴取を実施し、第三者に対しても事実関係の聴取等の措置を講じる必要があるか否かについての判断をすべきであったといえ、このような一連の対応は、上記の調査等をすべき注意義務に違反したものというほかない。

「この点につき、被告法人は、本件委員会が被告■に対して事実関係の聴取を実施すべき法的義務はなく、また関係者に対する事実関係の聴取を実施することは正しい事実関係を把握するために必要不可欠であった旨を主張するほか、本件勧告においては、原告が申し立てた各行為についてはアカデミックハラスメントに該当しないと判断したため、被告■に対する事実関係の聴取を実施しなかったと説明している・・・。」

「この点、あらゆる場合に被告■に対して事実関係の聴取を実施すべき義務がないのは明らかであるが、事実関係を把握する必要があると判断した以上、一方当事者である被告■に聴取する義務が生じるというべきであるし、ハラスメントに該当しないとの判断は、一定の事実関係の認定を前提としているのであるから、その結論をもって被告■の聴取をしないことを正当化できるものとも解されない。」

「上記までに指摘した事情によれば、本件調査委員会が行った調査の方法は安全配慮義務に違反し、これによって、原告が適切な職場環境で職務を行う利益が侵害されたものと認められる。」

3.きちんとした調査を行ってくれない場合

 ハラスメントについて、職場に相談したけれども、きちんと調査してくれないという悩みは、比較的よく耳にします。

 裁判所の判断は、職場に適切な調査を求めて行くにあたり、実務上参考になります。