弁護士 師子角允彬のブログ

一般の方に向けて、法律や判例に関する情報を提供して行きます。

「個人事業主」としてクリニックに参画した医師の労働者性

1.「個人事業主」としてクリニックに参画した医師の労働者性

 「個人事業主」としてクリニックに参画した医師の労働者性が問題になった事案が判例集に掲載されていました(東京地判平30.9.20労働経済判例速報2374-29 メディカルプロジェクト事件)。

 原告となった医師と被告となったクリニックとの間では、次のような内容の契約が交わされていました。

 

 原告が被告の運営するクリニックに関し「個人事業主」として参画するものとする。

 (勤務地)

 被告が運営する本件各院

 (報酬) 

 基本報酬月額150万円

 インセンティブとして、原告の勤務日において売上金額が日額80万円(税別)以上の場合、売上額の2%を支給

 毎月末締め、翌月25日払い、インセンティブは毎月1日から末日までんを積算して、翌月の25日の報酬支払日に含めて支給

 (勤務条件)

 月間22日

 X1(本件各院の一つ)の勤務時間 

 午前10時30分から午後7時30分

 X2(本件各院の一つ)の勤務時間

 午前10時30分から午後7時30分

 ただし、患者の予約状況により、被告の指示で勤務時間が変動する場合がある。

 (勤務開始日)

 平成25年10月1日

 (契約期間)

 5年を基本とする。

 

2.原被告間の契約に対する裁判所の評価(労働契約であることを認める)

 以上のような原告・被告間の契約について、裁判所は次のように判示し、原告の労働者性を認めました。

 「原告は、自らの危険と計算において業務を行うものというよりは、被告の危険と計算において、被告から時間的・場所的拘束を受けつつ、被告の指揮命令下において、自らの労働力を提供していたものであり、原告の受ける報酬は、かかる労務の提供に対する対価としての性格を有するということができる。したがって、本件契約は原告が被告に使用されて労働し、被告がこれに対して賃金を支払うことを内容とする雇用契約(労働契約)に当たり、原告は、労働基準法9条の『労働者』に該当すると認めるのが相当である。」

3.脱法スキームは通用しない

 クリニックを運営する被告が医師に「『個人事業主』として参画する」ことを求めたのは、労働基準法を始めとする労働者を保護するための各種法律の適用を受けないようにしようと思ったからではないかと推測されます。

 しかし、ある契約が労働契約に該当するか、ある人が労働基準法上の労働者に該当するかは、実質によって判断されるのであり、契約の表題によって判断されるわけではありません。

 厚生労働省が昭和60年12月19日付けで公表している「労働基準法研究会報告」(「労働者」の判断基準について)にも、

「『労働者性』の判断に当たっては、雇用契約、請負契約といった形式的な契約形式のいかんにかかわらず、実質的な使用従属性を、労務提供の形態や報酬の労務対償性及びこれらに関連する諸要素をも勘案して総合的に判断する必要がある場合がある」

と書かれています。

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/roudoukijun_keiyaku.html

https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/library/osaka-roudoukyoku/H23/23kantoku/roudousyasei.pdf

4.フリーランスの医師への法的保護(労働者性を争うパターン)

 フリーランスの働き方を法的にどのように保護するかを考えるにあたっては、

① 労働者であることを主張して労働基準法等の適用を主張するパターン

② 独占禁止法や下請法などの競争法の適用を主張するパターン 

の二つの手法があります。

 本件は①の手法がとられた事案です。

 医師というと、報酬が高いことや、仕事の内容の専門性から具体的な指揮命令に服して働いているというイメージが湧きにくいかも知れません。

 裁判所も

「原告の行う業務は、医師の行うべき美容整形術の施術等の医療行為であり、その内容の専門性から、被告が個々の具体的な医療行為の内容について指示をするということはなかった」

と認定しています。

 しかし、報酬の高さや、仕事の内容の専門性から、直ちに労働者であることが否定されるわけではありません。具体的な働き方によっては、「個人事業主」として契約を結んでしまっていたとしても、労働基準法などの適用を主張できる可能性は十分にあります。

 業務委託などの形式で契約を結んでしまったものの、「法律で保護されないのは、おかしいのではないか?」という疑問が出てきたら、一度弁護士に相談してみることをお勧めします。労働基準法の適用を主張できるのとできないのとでは、働き方に大きな差があるからです。

働き方改革を理由とする無理な短納期要求への対応(法専門家への相談の重要性)

1.取引先からの短納期要求

 ネット上に、

「下請けは『短納期』の要求を毅然と断れるのか」

という記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16481843/

 記事には、

「4月に働き方改革関連法が施行され、長時間労働是正に向けた取り組みが動きだした。しかし、このテーマで筆者がセミナーを行うと、大抵、下請の中小企業から『単独で生産性向上や業務効率化を進めても、労働時間削減には限界がある。取引先(主に大企業)から発注があれば、残業してでも対応せざるを得ない』という悩みが聞かれる。」

「短納期受注により、7割近い企業が『従業員の平均残業時間が増加する』と回答している。大企業の働き方改革が、日本にある企業の99%以上を占める中小企業へのしわ寄せによって実現するのでは、取り組みの裾野が広がらなくて当然であろう。」

「しかも、残業の上限規制は、大企業の方が1年早く施行となっているため、中小企業が法律を理由に断るのも難しい。」

この取引関係の適正化をどう進めるか。残念ながら特効薬は見つからない。

下請側は、無理な要求には毅然(きぜん)と対応したい。それが難しければ、せめて発注者に自社の事情を知ってもらうよう、面談や事業所訪問、勉強会開催などを継続的に行う。」

「4月より、労働時間等設定改善法において、長時間労働につながる短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮することが事業主の努力義務となった。下請法や独占禁止法違反への厳正な対処と併せ、下請企業が声を上げやすい雰囲気の醸成を望む。」

などと書かれています。

2.短納期要求からの下請業者の保護

 記事には、短納期要求に対し、「特効薬は見つからない」「下請側は、無理な要求には毅然と対応」をなどと書かれています。

 しかし、下請法は短納期要求に対しても一定の歯止めを設けています。単に毅然とした対応を勧めるだけで記事を締めくくるのは、言葉が足りないのではないかと思います。立場の弱い側が強い側に対して毅然とした対応をとるためには、それなりの理由(法的根拠)が必要だと思います。

3.働き方改革による下請事業者へのしわ寄せの防止

 公正取引委員会は、平成30年11月27日付けで「下請取引の適正化について」という文書を出しています。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/nov/181127.html

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/nov/181127_1.pdf

 この中で、公正取引委員会は親事業者や関係事業者団体に対し、

「政府を挙げて働き方改革を推進しているところ、例えば、極端な短納期発注等は、取引先における長時間労働等につながる場合があり、下請代金支払遅延等防止法等の違反の背景にもなり得るため、特に留意していただきたい

と通知しています。

 働き方改革により下請事業者へのしわ寄せが発生する危険性は政府も当然織り込み済みであり、これを放置しているわけではありません。

4.残業代を考慮しない下請代金の設定は下請法上の禁止行為に該当し得る

 親事業者向けの文書において、公正取引委員会は、

「政府を挙げて働き方改革を推進しておりますが、取引の一方当事者の働き方改革に向けた取組の影響がその取引の相手方に対して負担となって押し付けられることは望ましくないと考えられます。人手不足の深刻な中小企業の経営悪化が懸念される中、極端な短納期発注等は、取引先における長時間労働等につながる場合があり、下請法等の違反の背景にもなり得ますので特に御留意いただきたいところです。」

との立場を明らかにしています。

 また、

短納期発注を行う場合に、下請事業者に発生する費用増を考慮せずに通常の対価
より低い下請代金の額を定めること。

が買い叩きの禁止(下請法第4条第1項第5号)に該当することを指摘しています。

https://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h30/nov/181127_2.pdf

 短納期発注で労務費が増加するのに対価だけはそのまま、といった中小企業に過酷な状況に対しては、これが一定の歯止めとして機能することになります。

5.下請法は個人事業主(フリーランス)にも適用される

 下請事業者には中小の会社だけではなく「個人」も該当します(下請法2条8項各号参照)。人を雇っているわけではない個人事業主であったとしても、自分がその仕事のために費やせる時間を考慮したうえで価格設定はなされているはずであり、これを無視した短納期発注に対しては下請法上の保護を求めることができるかも知れません。

6.法改正から予想される不具合への対処方法がないかは法専門家に相談して確認を

 特効薬とまで評価できるかはともかく「短納期発注をするなら、その分対価を上げて欲しい。」といった形で声を挙げるための法的根拠は存在します。公正取引委員会という守ってくれる公的機関もあります。

 法改正によって当然予想される不具合に関しては、政府は一定の手当をしていることが多いです。おかしいと思ったら、法専門家に相談をしてみてください。解決の糸口が見えることも、それなりにあるのではないかと思います。

 

業界を挙げてアイドルを干すことは法的に許されるのか?

1.業界の忖度

 ネット上に、

「『山口真帆』のNGT48卒業後を占う 業界人が『それほど甘くない』という理由」

という記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16481259/

 記事は、

「彼女を応援したい気持ちはわかります。しかし、それだけでは芸能界は生き残れません。まず、劇場の運営会社であるAKSは、彼女の所属事務所でもある。ああした形で袂を分かった以上、事務所を離れざるを得なかったわけですが、そんな彼女を引き受けるところがあるでしょうか。AKSの設立メンバーの1人である秋元康さんは、すでに運営には携わっていないと、指原も擁護していましたが、AKSの松村匠取締役が“(秋元さんに)叱責されました”と会見で語ったように、今も厳然たる影響力を持つ実力者であることに変わりありません。当然、業界はAKSに対して忖度するでしょう。

という「民放プロデューサー」の発言を引用しています。

 しかし、業界全体で「忖度」して一人のアイドルの事務所の移籍を制限することが果たして法的に許容されるのかと思います。

2.共同の取引拒絶

 独占禁止法に「共同の取引拒絶」という規制があります。

 独占禁止法19条は

「事業者は、不公正な取引方法を用いてはならない。」

と規定しています。

 不公正な取引方法は独占禁止法2条9項で定義されています。

 また、公正取引委員会は一定の要件のもとで不公正な取引方法を指定することが可能です(独占禁止法2条9項6号)。

 これを受けて、公正取引委員会は、不公正な取引方法(昭和五十七年六月十八日公正取引委員会告示第十五号 改正 平成二十一年十月二十八日 公正取引委員会告示第十八号)という告示を出しています。

 この第1項に「共同の取引拒絶」という類型があります。

 これは、簡単に言えば、

「競争関係にある企業が共同で特定の企業との取引を拒んだり、第三者に特定の企業との取引を断わらせたりする行為」

を禁止する規制です。

https://www.jftc.go.jp/ippan/part2/act_04.html

 説明の分かりやすさから公正取引委員会のホームページでは「特定の企業」とされていますが、条文上の要件は「事業者」とされています。したがって、競争関係にある企業が共同で個人事業主をボイコットすることも、「共同の取引拒絶」との関係が問題になります。

3.人材と競争政策に関する検討会報告書-「移籍・転職」に係る取決め

 公正取引委員会は「人材と競争政策に関する検討会報告書」という資料を公表しています。

https://www.jftc.go.jp/cprc/conference/index_files/180215jinzai01.pdf

 この中に、

「複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者の移籍・転職を制限する内容の取決めを行うことは、役務提供者の役務の提供先の変更を制限することになり、人材獲得市場における発注者(使用者)間の人材獲得競争を停止・回避するものであることから、独占禁止法上問題となることがある」

と書かれています。

 芸能事務所が業界を挙げて特定のアイドルの所属を拒否するようなことをすれば、それは「共同の取引拒絶」との関係で適法性に問題が生じるものと思われます。

4.「共同」性要件の認定

 仮に、特定のアイドルがどの芸能事務所からも一様に契約を拒絶されたとして、法規制の適用にあたり問題になるとすれば、それが共同でなされたものと認められるかどうかという点だと思います。

 価格カルテルに関する事件ではありますが、東京高判平7.9.25判例タイムズ906-136は、共同性の要件について、

「複数事業者が共同して対価を引き上げたと認められるためには、『意思の連絡』が必要であるが、黙示のもので足り、事業者間に相互に拘束しあうことの合意の成立は必要でなく、相互に同内容又は同種の行為をするであろうことの認識があれば足り、他の事業者の行為を利用する意思までは必要ない。事業者が他の事業者の行動を予測し、これと歩調をそろえる意思で同一行動に出たような場合には、これらの事業者の間に意思の連絡があるものと認めるべきである。

と判示しています。

 要するに、他の業者も大方そうするだろうと予測して歩調を会わせたら、そこには共同性が認められるとするものです。

 特定のアイドルと契約を結んだらどうなるかを忖度し、他の事業者もそうするだろうと思って歩調を合わせて所属を拒否したら、それが共同行為だと認定される可能性はあると思います。

5.芸能人を含むフリーランスの法的保護

 山口さんに関していえば、

「既に内定 山口真帆 AKB不在事務所に移籍へ 多方面で評価高く」

との報道もなされています。

http://news.livedoor.com/article/detail/16480821/

 そのため、本当に業界全体で忖度して特定のアイドルをボイコットするようなことがあるのだろうかという疑問もあります。

 しかし、そういうことが仮に起きたとしても、問題を是正できる可能性はあるのではないかと思います。

 

患者から看護職員へのセクハラ

1.患者から看護職員へのセクハラ

 ネット上に、

「看護職員の2割がセクハラ経験 8割が『辞めたい』」

との記事が掲載されていました。

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190513-00000058-asahi-soci

 記事によると、看護職員を対象とする調査で、

「セクハラを受けた経験があるのは21%で前回と同じだった。患者から受けたのが60%で最も多く、医師の28%が続いた。」

とのことです。

 記事には、

「7割以上が仕事にやりがいを感じていると答えた一方、『十分な看護が提供できている』としたのは15%にとどまった。8割近くが『仕事を辞めたい』と答え、最も多い理由は『人員不足で仕事がきつい』だった。」

とも書かれています。

 「看護職員の2割がセクハラ経験 8割が『辞めたい』」という目を引く表題が付けられていますが、セクハラのせいで職員の8割が辞めたいと思っているというわけではなさそうです。

 ただ、職員の2割にも及ぶ人がセクハラを受けた経験があるというのは、かなり多いなと思います。

 また、気になったのは、2014年の前回調査と数値が殆ど変化していないことです。

 報道のもとになったアンケート調査は、自治労連のホームページ上に公開されていました。

https://www.jichiroren.jp/sys/wp-content/uploads/2019/05/1688a9a6667af85406625e12e54cea24.pdf

 この中には、

「『セクハラ』に関する問いに対し、前回の 2014 年の調査では 20.9%、今回の 2018 年の調査では 20.5%と、5人に 1人の看護職員がセクハラを受けた事があると答えています。また、『誰からか』については、前回・今回とも変化は見られず約 6 割が患者からと答えました。」

と書かれています。

 4年間に渡り、問題が問題として残り続けて改善のきざしが見えないことは、深刻な事態ではないかと思います。

2.男女雇用機会均等法11条

 男女雇用機会均等法11条1項は、

事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

と規定しています。

 厚生労働省は上記の必要な措置を講じるための指針を作成するとともに、その内容をパンフレットで公表しています。

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/00.pdf

 ここには

「事業主、上司、同僚に限らず、取引先、顧客、患者、学校における生徒などもセクシュアルハラスメントの行為者になり得る

ことが明記されています。

 つまり、事業主は、上司や同僚からのセクハラから労働者を守らなければならないだけではなく、取引先や顧客によるセクハラからも労働者を守らなければならないということです。

 病院には、病院職員を患者によるセクハラから守る義務があります。

3.自治体病院職員にも男女雇用機会均等法11条は適用される

 本件でアンケートの対象になっているのは、自治体病院で働いている方です。自治体病院の職員の勤務形態には、公務員型と非公務員型があります。

 男女雇用機会均等法11条は、法律の第二章第二節に規定されています。第二条第二節の規定は一般職の国家公務員等には適用されませんが、地方公務員には適用されます。したがって、自治体病院に働いている方に関していえば、公務員型だろうが非公務員型だろうが、いずれにせよ男女雇用機会均等法11条によって事業主に対し保護を求めることが可能です(男女雇用機会均等法32条参照)。

 なお、適用除外とされている一般職の国家公務員等に関しても、個別的な手当が予定されているのであり、野放しになっているわけではありません。例えば、一般職の国家公務員に関しては、人事院規則10-10(セクシュアルハラスメントの防止等)によって手当されています。

4.セクハラで退職した職員との労働問題(逸失利益の損害賠償)

(1)損害賠償請求事件

 セクハラの被害を受けた職員が退職した場合、事業主と職員との間で法的紛争が発生することがあります。典型的には、職員から事業主に対して損害賠償が請求されることがあります。

(2)環境型セクハラを防止すべき義務

 使用者にセクハラの防止義務があることは明らかです。

 例えば、広島高判平16.9.2労働判例889-29下関セクハラ(食品会社営業所)事件では、

「使用者は、従業員に対し、良好な職場環境を整備すべき法的義務を負うと解すべきであって、セクシュアル・ハラスメントの防止に関しても、職場における禁止事項を明確にし、これを周知徹底するための啓発活動を行うなど、適切な措置を講じることが要請される。したがって、使用者がこれらの義務を怠った結果、従業員に対するセクシュアル・ハラスメントという事態を招いた場合、使用者は従業員に対する不法行為責任を免れないと解すべきである。」
「しかも、平成11年4月1日、セクシュアル・ハラスメントの防止に係る事業主の責務を明示した、『雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律』の改正法が施行され、また、『事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上配慮すべき事項についての指針』(労働省告示第20号)が適用されるに至ったのであるから、同日以降、使用者としては、セクシュアル・ハラスメント防止のための適切な措置を講じることがいっそう強く要請されるというべきである。」

と良好な職場環境を整備すべき法的義務を懈怠してセクハラが発生するという事態を招いた場合、事業主に不法行為責任が発生することを宣明にしています。

(3)発生したセクハラに適切な事後措置(真相解明・再発防止策)をとる義務

 また、事業主には、セクハラが発生した時に適切な事後措置をとる義務があります。具体的には、事実関係を調査したうえ、再発を防止するための措置をとることが必要です。

 例えば、京都地判平9.4.17労働判例716-49 京都セクシュアル・ハラスメント(呉服屋販売会社)事件は、女子更衣室がビデオカメラで撮影されていることが発覚した事案について、

「被告会社は、何人がビデオ撮影したかなどの真相を解明する努力をして、再び同じようなことがないようにする義務があったというべきである。」

と真相解明・再発防止義務があることを明らかにしています。

 また、仙台地判平13.3.26労働判例808-13 仙台セクハラ(自動車販売会社)事件でも、男子従業員が女子トイレ内に侵入したことが発覚したという事案において、

「事業主は、雇用契約上、従業員に対し、労務の提供に関して良好な職場環境の維持確保に配慮すべき義務を負い、職場においてセクシャルハラスメントなど従業員の職場環境を侵害する事件が発生した場合、誠実かつ適切な事後措置をとり、その事案にかかる事実関係を迅速かつ正確に調査すること及び事案に誠実かつ適正に対処する義務を負っているというべきである。」

「被害回復、再発防止のための適切な対処をする義務が存在したというべきである」

などと、やはり真相解明、再発防止策を講じる義務を認めています。

(4)退職により逸失した利益まで損害賠償の対象になることもある

 上述のとおり、事業主にはセクハラを防止する義務、セクハラが発生してしまったら真相解明・再発防止策を講じる義務があります。

 これを怠って従業員が退職してしまった場合、退職していなければ得られたであろう賃金に相当する額まで損害として請求できることもあります。

 例えば、青森地判平16.12.24 労働判例889-19青森セクハラ(バス運輸業)事件は、具体的な生活実態を踏まえた事例判断ではありますが、

「被告乙田のセクハラ行為及び同S交通の前記対応と原告の退職との間には相当因果関係があるものと認められる。」

「本件原告については、被告S交通を退職した後少なくても1年間を再就職をすることの困難な期間として認めるべきであるから、その間における得べかりし給与相当額については被告らの行為と相当因果関係にある損害(逸失利益)として認められるべきである。」

と判示し、1年間分の給与額に相当する逸失利益の賠償を認めています。

5.セクハラには早急な取り組みが必要/労働者側はセクハラの防止・再発防止に取り組んでくれない使用者には見切りを付けることも選択肢に

 労働者にとって、セクハラは離職を決意させる理由になります。実際に労働者が退職すると、使用者は人手が足りなくなるだけではなく、慰謝料に加えて逸失利益まで賠償を求められるリスクを負うことになります。患者からのセクハラが多発しているという実態があるのであれば、それに取り組むのは急務だと思います。

 労働者側としては使用者がいつまで経っても適切な対応をとってくれない場合、見切りを付けて退職し、慰謝料に加えて再就職までに必要な期間に相当する逸失利益の賠償まで請求してみても良いかも知れません。

 現状を改善するためには、例え顧客(患者)であったとしても、ダメなものはダメだときちんと言い切って行くことが必要かと思います。

 

勤務成績の不良を理由とする医師への免職処分(公務員にも身分の安定していない職種はある)

1.条件付採用期間中の医師が勤務成績不良を理由に分限免職処分を受けた事案

 条件付採用期間中の医師に対し、勤務成績不良等を理由として行った分限免職処分の適法性が争われた事件が判例集に掲載されていました(札幌高判平30.8.9労働判例1197-74 雄武町・町長(国保病院医師)事件)。

2.条件付採用制度

 地方公務員法22条1項本文は、

「臨時的任用又は非常勤職員の任用の場合を除き、職員の採用は、全て条件付のものとし、その職員がその職において六月を勤務し、その間その職務を良好な成績で遂行したときに正式採用になるものとする。」

と規定しています。民間で言うところの試用期間に対応する仕組みです。

 本件で原告・控訴人となったのは、この規定に基づいて条件付きで任用された医師の方です。

3.分限免職処分

 地方公務員法には、分限処分という仕組みがあります(地方公務員法28条)。

 分限処分は公務の能率の維持及びその適正な運営の確保という目的から行われる処分をいいます。勤務実績が良くないなどの一定の事由がある場合、任命権者は職員を免職するなどの措置をとることができます。

 本件で問題になったのも、分限としての免職処分です。

4.問題の医師は何をしたのか?

 本件で問題とされた医師の行為は、

「D看護師に対し、処方すべき薬剤を誤って伝えた上、当該薬剤の処方を求めた同看護師を怒鳴り付け、詰め寄るなどしたこと」

「B事務長に対し、体当たりし、詰め寄るなどしたこと」

「人工透析が必要な患者らがいるんもかかわらず、十分な対応をしなかったこと」

「レントゲン撮影をすべき部位を3回ほど誤って指示したこと」

です。

 裁判では、これらの行為から、医師の勤務成績が不良であったといえるかが争われました。

5.指導や研修を行うことなく免職することは裁量権の誤りか?

 本件の争点は多岐に渡りますが、原告・控訴人となった医師が提起した問題の一つに、事前の指導や研修が行われていないということがあります。

 医師は、事前に指導や研修が行われることなく免職処分をしたことを、自治体が裁量権の行使を誤ったといえる事情の一つとして指摘しました。

 しかし、裁判所は、

原告は医師として約14年間の経験があり、それまでにも医長や副院長といった要職に就いたことがあったのであって、これほどの経験と経歴を有する原告に対して改めて指導や研修をしなければならないとは考えにくいし、そもそも、前記(1)で認定した各事実、とりわけ合理的な理由もなく看護師を怒鳴りつけ、詰め寄るなどしたこと、医師が行うべき業務を合理的な理由もないのに行わなかったことは、それらの理由として原告が述べているところに鑑みると、社会人として、あるいは医師としての心構えの問題というべきである。原告は、医師として当然行うべきことをせず、あるいは社会人として明らかに相当性を欠く言動をしていあのであって、このようなことについて、指導や研修を受けていないなどと主張すること自体が、原告の問題の根深さを示すものであるといわなければならない。

と原告の主張を排斥し、分限免職処分は適法であると判示しました。

 上記は原審となった地裁の判示を抜き出したものですが、上記の判示は高裁でもそのまま維持されています。

6.公務員にも地位の不安定な職種はある

 公務員は安定していると言われます。

 しかし、公務員だから押しなべて地位が安定しているというわけではありません。

 民間でも高度な職務遂行能力が期待されて中途採用された専門職などに対しては、標準的な労働者との比較において緩やかに解雇が認められる傾向にありますが、公務員の場合にも似たような利益衡量が働くのだと思われます。

 特に、事前の指導や研修の機会が付与されていないことを主張したことに対し、

「主張すること自体が、原告の問題の根深さを示すものである」

とそれ自体を消極的に評価していることに関しては、民間の場合でもあまり見られないほど厳しい判示ではないかと思います。

 

就活面接での不適切な質問・男女差別(記事に法的根拠を示すことの重要性)

1.就活面接での不適切な質問・男女差別

 ネット上に、

「就職採用試験の面接で、恋愛観や外見などについて不適切な質問を受けたと答えた人の割合が14・5%にのぼったとする調査結果を15日、労働組合の中央組織・連合がまとめた。」

との記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16463476/

 具体的な内容としては、

「女性だから出産や育児で抜けるのだろう」(20歳女性)、

「恋人はいる?どれくらい恋人がいない?」(29歳男性)

「身長低いな」(23歳男性)

「太っているね」(21歳女性)

といったものがあるとのことです。

 また、記事によると、

「『就活で男女差別を感じたことがある』と回答した割合は28・3%」で、

具体的には、

「採用予定人数が男女で異なっていた」(43・8%)、

「男女で採用職種が異なっていた」(42・4%)、

「男性のみ、または女性のみの募集だった」(39・9%)

という内容が寄せられたとのことです。

 しかし、記事にはなぜこれらの問題が不適切なのか、法的根拠が全く記載されていません。本記事では所掲の問題が、どの法律のどの条文の理解との関係で問題なのかを考えて行ければと思います。

2.所掲の質問の法的問題

(1)「女性だから出産や育児で抜けるのだろう」

 男女雇用機会均等法5条は、

「事業主は、労働者の募集及び採用について、その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない。」

と規定しています。

 これに適切に対処できるよう、厚生労働省は、

「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」(平成18年厚生労働省告示第614号 最終改正 平成27年厚生労働省告示458号)

という文書を作成しています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000133471.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000209450.pdf

 この文書の中に、

募集又は採用に当たって、女性についてのみ、未婚者であること、子を有していないこと、自宅から通勤すること等を条件とし、又はこれらの条件を満たす者を優先すること。

が差別の具体例として掲げられています。

採用面接に際して、結婚の予定の有無、子供が生まれた場合の継続就労の希望の有無等一定の事項について女性に対してのみ質問すること。

も男女雇用機会均等法5条との関係で問題があるとされています。

 「女性だから出産や育児で抜けるのだろう」という質問は、男女雇用機会均等法5条との関係で違法性が認められる可能性が高いのではないかと思います。

(2)「恋人はいる? どれくらい恋人がいない?」

 女性に対してのみ聞くことは、上記のとおり、男女雇用機会均等法5条との関係で問題があると思います。

 また、職業安定法5条の4第1項本文は、

「労働者の募集を行う者・・・は、それぞれ、その業務に関し、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者の個人情報・・・を収集し、保管し、又は使用するに当たつては、その業務の目的の達成に必要な範囲内で求職者等の個人情報を収集し、並びに当該収集の目的の範囲内でこれを保管し、及び使用しなければならない。」

と定めています。

 この趣旨を実現するため、厚生労働省は、

「職業紹介事業者、求人者、労働者の募集を行う者、募集受託者、募集情報等提供事業を行う者、労働者供給事業者、労働者供給を受けようとする者等が均等待遇、労働条件等の明示、求職者等の個人情報の取扱い、職業紹介事業者の責務、募集内容の的確な表示、労働者の募集を行う者等の責務、労働者供給事業者の責務等に関して適切に対処するための指針(平成11年労働省告示第141号)(最終改正平成29年厚生労働省告示第232号)」

という文書を作成しています。

 ここでは、

「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項

に係る個人情報の収集が原則として禁止されています。

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/dl/160802-01.pdf

 厚生労働省は、ホームページ上で

「公正な採用選考の基本」

という考え方を示しています。

https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/topics/saiyo/saiyo1.htm

 ここで、

「生活環境・家庭環境などに関すること」

「人生観、生活信条に関すること」

のような適性と能力に関係がない事項を面接で尋ねて把握することは、就職差別につながるおそれがあると警鐘を鳴らしています。

 恋人がいるのかいないのかは、生活環境や人生観・生活信条に関連しますし、応募者の適性や能力とも基本的には関係のないことかと思います。

 熊本労働局も、

「彼氏(彼女)はいますか?」という質問を、

「本来自由であるプライバシーに関すること、本人の適性と能力以外のことに関する不適切な質問」

として位置づけています。

https://jsite.mhlw.go.jp/kumamoto-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/shokugyou_shoukai/jigyou07.html

 何等かの特殊な事情でもない限り、面接で尋ねることには、職業安定法5条の4第1項本文との関係でも問題ありだと思います。

(3)「身長低いな」「太ってるね。」

 容姿に関する情報も、

「人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項」

であり、職業安定法との関係で収集が原則禁止されている個人情報にあたります。

 このことは、熊本労働局がHP上で、

容姿、スリーサイズ等差別的評価につながる情報」

を上記事項の具体例として挙示していることからも分かります。

 したがって、面接で身長や体形に触れるのも、基本的には職業安定法5条の4第1項本文との関係で問題があるのではないかと思います。

3.就職における男女差別の問題

 先に指摘した

「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定に定める事項に関し、事業主が適切に対処するための指針」

は、

「男女別の採用予定人数を設定し、これを明示して、募集すること。又は、設定した人数に従って採用すること。」(①)

「一定の職種(いわゆる『総合職』、『一般職』等を含む。)や一定の雇用形態(いわゆる『正社員』、『パートタイム労働者』等を含む。)について、募集又は採用の対象を男女のいずれかのみとすること。」(②)

「募集又は採用に当たって、男女のいずれかを表す職種の名称を用い(対象を男女のいずれかのみとしないことが明らかである場合を除く。)、又『男性歓迎』、『女性向きの職種』等の表示を行うこと。」(③)

なども原則として男女雇用機会均等法5条によって禁止されているとしています。

 記事で指摘されている

「採用予定人数が男女で異なっていた」は①に、

「男女で採用職種が異なっていた」は②に、

「男性のみ、または女性のみの募集だった」は②ないし③に、

該当してくる可能性があります。

4.問題となる具体的な根拠条文を示すことの重要性

 マスコミでの報道に限ったことではなく、ネット上の記事には、「違法」「不適切」などの表現のみで、それが具体的にどのような法律のどのような条文との関係で問題となるのかが厳密に詰められていないものが多くみられます。

 しかし、どの法律のどの条文との関係で問題なのかを厳密に検討しておかなければ、問題に直面した方が、実際に声を挙げていくことは困難です。

 交渉しようにも、相手方から、

「違法だとか不適切だとか言うけれども、何の根拠があるの?」

と反論された時に言葉に窮するようでは話になりません。

 法的な情報は、実際に役に立つものとして提供しようとした場合、法的根拠とセットで提供でなければ、あまり意味がないのではないかと思います。

 本記事が就活面接で不適切な質問を受けた人が声を挙げていくための一助になれば幸甚です。

私立学校教員の労働時間管理の問題

1.私立学校教員の労働時間管理

 ネット上に、

「『勤務時間管理せず』6割 私立校、働き方改革遅れ」

との記事が掲載されていました。

http://news.livedoor.com/article/detail/16454488/

 記事によると、

「私立学校教員の働き方改革を巡り、公益社団法人『私学経営研究会』(大阪市)が昨年12月~今年1月、アンケートを実施した結果、回答した181校のうち6割超の115校が『勤務時間管理をしていない』と答えたことが14日、分かった。うち13校は『(時間管理を)する予定はない』としている。」

とのことです。

2.労働時間管理に関する法規制

(1)現在、労働時間を管理しないことは法的に許容されていない

 労働安全衛生法66条の8の3は、

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

と規定しています。

 労働安全法施行規則52条7の3第1項は、

「法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

と規定しています。

 内容としては、要するに、高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者を除き、使用者は労働者の労働時間をタイムカード等の客観的方法によって把握しなければならないということです。 

 これは近時の法改正(平三〇・七・六 法律第七一号)で規定された条文であり、今年の4月1日から施行されています(同法律附則1条)。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html

https://www.mhlw.go.jp/content/000307766.pdf

(2)従来も使用者には労働時間管理義務があるとされていた

 近時の法改正で明確にされましたが、従来も使用者には労働時間管理義務はあると理解されてきました。

 例えば、厚生労働省は、

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」

を作成、公表しています。

 その中で、

「労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けているこ
とから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責
務を有している。」

と使用者に労働時間を管理する責務があることを明記しています。

 裁量労働制が適用される労働者などはガイドラインの対象外とはされていますが、だからといって労働時間管理が疎かにならないよう、ガイドラインには、

「本ガイドラインが適用されない労働者についても、健康確保を図る必要があることから、使用者において適正な労働時間管理を行う責務があること。」

と書かれています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/roudouzikan/070614-2.html

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000149439.pdf

3.私立学校業界の特異性

 問題のアンケートは、私学経営研究会のホームページ上に掲載されているものだと思います。

http://sikeiken.or.jp/report/report.html

http://sikeiken.or.jp/report/201901_kaikaku.pdf

 これを見ると確かに、

「時間管理はしておらず、今のところする予定はない」

の教員の区分が、

大・短4 中・高5 他4

となっており、合計13校の私立学校が法違反を宣言していることになります。

 問題のアンケートには、

「時間外手当を支給していますか」

との質問項目もあります。

 これに対しては、

大・短39 中・高2 他9

の合計50校が教員に対し、

「支給しておらず、今後も支給する予定はない」

と回答しています。

 私立学校の教員の中には、労働時間を把握されることもなければ、時間外勤務手当も支払われないという過酷な労働環境で働いている方が相当数いるのではないかと思います。

 しかも、181校のうち13校、約7%の学校は改正法成立後も労働時間管理を行わないことを宣言しているという状態にあります。

 違法行為を宣言して平気でいられる感覚は、私には分かりません。こうしたアンケートを見ると、学校というのは随分と特殊な業界なのだなという印象を受けます。

4.残業代を払ってもらえない私立学校教職員の方へ

 客観的な資料がなかったとしても、時間外労働をしていれば、残業代は発生します。

 発生した残業代が幾らなのかを計算するための資料は、タイムカードに限られるわけではありません。

 パソコンのログや、毎日つけている業務日報などを労働時間の認定のための資料として使える事案もあります。

 また、残業代の未払に対しては、付加金といって、最大で未払額と同額の金銭の支払いを命じてもらえる仕組みもあります(労働基準法114条)。

 付加金は裁判所の判断で支払いを命じることが「できる」だけであり、訴訟を提起すれば必ず支払いを命じてもらえるわけではありません。

 しかし、

「被告による原告の労働時間の管理が不十分であったこと」

「付加金の支払を命じるのが相当である」

とする根拠として用いた裁判例もあります(東京地裁平29.9.26LLM/DB判例秘書搭載)。

 法律を無視した職場で働いている方は、残業代を倍額請求できる可能性もあります。

 公立学校の教職員には時間外勤務手当が支給されません(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法3条2項)。

 公立学校で醸造された文化が、私立学校に悪い意味で影響しているのかも知れません。

 しかし、昨今では、部活動問題から公立学校に関する特別措置法の合理性にも疑義が示されています。

 残業代に関しては集団訴訟をすれば、学校側の姿勢を変えることも可能だと思います。私立学校側で労働時間に応じて適正に給与を支払うという慣行が定着すれば、それが公立学校、ひいては業界全体にいい影響を与えることに繋がってくるかも知れません。

 お困りの方がおられましたら、お気軽にご相談ください。