弁護士 師子角允彬のブログ

師子角総合法律事務所(東京:水道橋駅徒歩5分・御茶ノ水駅徒歩7分)の所長弁護士のブログです

メンズコンカフェ(コンセプトカフェ)店員の労働者性

1.メンズコンカフェとは?

 「執事や王子様、天使や悪魔、アイドルなど特定の世界観のキャラクターにふんした男性たちが、それぞれのコンセプトにあわせてデザインされた店内で、接客を行うこと」を特徴とする店を、メンズコンカフェ(コンセプトカフェ)といいます。 

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 ホストの労働者性は、従来から度々問題になってきましたが、近時公刊された判例集に、メンズコンカフェ店員の労働者性が肯定された裁判例が掲載されていました。東京地判令5.7.20労働判例ジャーナル144-44 リラックス事件です。

2.リラックス事件

 本件で被告になったのは、飲食店等の経営を目的とする株式会社です。

 原告になったのは、被告が運営するメンズコンカフェで店員として勤務していた方です。出勤日を知らせる連絡が来なかったことを受け、被告の責任者に問い合わせたところ、突然「在籍を消します」と言われたことが解雇にあたるとして、その無効を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

 本件の被告は、原告との契約は業務委託契約であるとして、労働者性を争いました。

 しかし、裁判所は、次のとおり述べて、原告の労働者性を肯定しました。

(裁判所の判断)

「被告は、本件契約は労働契約ではなく、業務委託契約であると主張するが、何らの立証をしない。」

「甲第1、第2(枝番を含む。)及び第10号証並びに弁論の全趣旨によれば、同4項記載の各事実が認められ、これらの事実によれば、原告はキャストとして顧客を接客するに当たり、諾否の自由はなかったこと、業務遂行時は具体的な指揮命令を受けていたこと、勤務する店舗は指定され、出勤時間はシフト表により被告が指定するなど原告の勤務場所・勤務時間は拘束されていたこと、報酬は時間給を基本として歩合給を加算しており、報酬の計算方法は基本的に労務の結果ではなく労務提供の時間によっていたこと、報酬から厚生費が天引きされたり、源泉徴収もされていたこと、原告の接客する際に着用する衣類は全て被告が用意していたことなどが認められる。以上によれば、原告は、被告の指揮命令に従って労務を提供し、その対価を賃金として受け取っていたと認められるから、本件契約は労働契約であると認めるのが相当である。したがって、被告の主張を採用することはできない。」

(同第4項記載の各事実)

(1)業務従事に対して諾否の自由がなかったこと

「原告の業務内容は,キャストとして顧客と対面し、小話をしながら酒を注ぐ等の接客をすることであった。」

「業務において、キャストが、どの席につく(店舗では客の席につくことを『卓につく』と呼んでいたため、以下『卓につく』という。)か、いつ休憩をとるか、いつ退勤をするかは、店長が決めていた。」

「キャストは、店長が指示した席を拒否することは認められていなかった。実際に、原告が2回ほど卓につくのを断ろうとしたが、聞き入れてもらえず特定の卓につくように命じられた。逆に、卓につきたくても、店長の指示がなければ接客することは認められていなかった。」

(2)業務遂行時、原告が指揮命令下に置かれていたこと

「 原告は、客におしぼりを出すタイミングや、グラスにお酒を注ぐタイミング、キャストが自ら酒を飲む時間、テーブルの上の片づけの仕方等をマニュアルに基づいて店長から細かく指示されていた・・・。」

「また、衣装やキャラクターの設定なども本件店舗の求める世界観に合わせなければならなかった。これをキャストのほうから修正することは、認められていなかった。」

(3)時間的場所的拘束性が強かったこと

「原告は、勤務する店舗を被告の本部から指定されて業務を行ってきた。出勤時間は事前に提出したシフト表を基に被告が指定することになっていたほか、客が少ない日に早く帰るように指示されるなど店舗側の都合で出勤時間が決定されていた。」

(4)報酬の実態が労働の対価である給与であること報酬が労働自体の対償的性格を有していたこと

「原告に支払われていた『報酬』は、時間給にドリンク代、チェキ代が加算されているものの、大部分を時間給が占めていた。本件店舗のインターネットサイトの『求人案内』の欄にも『給与』『高時給+バック』とあり、『報酬』は時給を中心に構成されていた。」

「そもそも『求人案内』に『給与』『高時給』という記載があり、『報酬』とは書かれていないことからすると、雇用契約を前提としていることがうかがわれる。」

「報酬から10%に相当する金額が厚生費として天引きされていたが、厚生費自体が福利厚生に関するもので、労働者性を裏付けるものとなっている。」

「また、源泉徴収がなされており、労働者として税金の取扱いがなされていることも、労働者性を裏付けるものとなっている。」

「よって、名目は報酬であるが実態は労働の対価である給与である。」

(5)事業者性が乏しいこと

「本件店舗で接客する際に着用する衣類はすべて被告が用意していた。また、入店して以来、原告は本件契約が業務委託であるとの説明を受けたことはなく、原告は、本件契約が労働契約であると認識していた。」

3.立証のポイントはホストの労働者性と大差なさそう

 「メンズコンカフェ」というと耳慣れない言葉ですが、店員の管理はホストクラブの場合と大差なさそうです。ホストと同じく、業務委託契約の形をとりつつ、その実体は労働者というパターンは、それなりに多そうに思います。

 労働者性を立証するうえで注目するポイントも、ホストの労働者性を立証する場合と大差なく、ホストの労働者性を議論してきた従前の裁判例を参考に結論を出せそうです。本件のように突然解雇を告げられるなど不適切な扱いを受けた時には、労働者性の主張を検討してみても良いかも知れません。